[重賞回顧]名門メジロ牧場と香港競馬にまつわる不思議な縁が導いた必然の勝利~2022年・レパードS~

JRAに2つしかない世代限定のダート重賞、レパードS。2009年に創設されたため、まだ歴史は浅いものの、言うまでもなく出世レースの一つ。トランセンドやホッコータルマエなど、ダート界で一時代を築いた名馬たちが、初めてタイトルを獲得した舞台でもある。

また、敗れた馬の中からも、スーニやワンダーアキュート。ケイティブレイブ、さらにはアルクトスなどが、後にGI級のレースを勝利。勝ち馬はもちろんのこと、5着内に好走していれば将来性は十分にあり、例年レベルの高い戦いが繰り広げられている。

2022年もフルゲートの15頭が顔を揃え、単勝10倍を切ったのは、前走で高いパフォーマンスを発揮した4頭。とりわけ3頭に人気が集中し、僅かの差でタイセイドレフォンが1番人気に推された。

新馬戦こそ芝のレースで6着に敗れるも、ドレフォンの産駒らしくダートで巻き返し、そこから3戦2勝。その後、ヒヤシンスSでは大敗したものの、続く鳳雛Sでハピの2着に好走すると、自己条件に戻った弥富特別では、なんと2着に8馬身もの差をつけて圧勝。連勝での初タイトルが期待されていた。

これに続いたのがハピ。デビューから3戦はダート1800mに出走し、3連勝でオープンの鳳雛Sを勝利。続く前走のジャパンダートダービーは、前有利の流れと馬場に泣き4着に敗れるも、GI級のレースで好走実績があるのは本馬のみ。重賞初制覇が懸かっていた。

3番人気となったのがホウオウルーレット。半兄に、東京大賞典4連覇をはじめ、交流GI5勝のオメガパフュームがいる良血で、自身も期待通りに、デビューからの2戦を圧勝した。その後、伏竜Sと青竜Sは5、2着と敗れたものの、自己条件に戻った前走のいわき特別が5馬身差の圧勝。兄に次ぐ重賞ウイナーとなれるか、注目を集めていた。

そして、4番人気に推されたのがヘラルドバローズ。前走1勝クラスを完勝し、抽選を潜り抜けて出走した本馬。とはいえ、その前の2戦はオープンで3、2着と好走しており、特に2走前のヒヤシンスSは、勝ち馬からタイム差なしの2着だった。その実績は今回のメンバーでも威張れるもので、1勝クラスを勝ったばかりとはいえ、大きな期待を背負っていた。

レース概況

ゲートが開くと、タイセイドレフォンが僅かに好スタートを切ったものの、ほぼ横一線。その中から先行争いを制したのは最内枠のヘラルドバローズで、同じく内枠のメイショウユズルハが2番手。以下、インディゴブラック、シダー、ギャラクシーナイト、レッドラパルマ、タイセイドレフォンが続き、7頭が先行集団を形成した。

一方、外枠からなんとしても逃げたかったラブパイローは、出鞭を入れても前にいくことができず、結局は中団からの競馬に。このあたりには、カフジオクタゴンとバレルゾーンが位置し、スタート直後のゴチャつきに巻き込まれたハピは、徐々に挽回して9番手まで進出。ホウオウルーレットは、後ろから3番手につけていた。

1000m通過は1分0秒5のハイペースで、3コーナーに入るあたりから、ホウオウルーレットやビヨンドザファザーなどの後方待機組が進出を開始。一方で前は、厳しい流れで引っ張る2頭に、タイセイドレフォンとカフジオクタゴンが迫り、ハピも外から一気に差を詰め、レースは最後の直線勝負へと移った。

直線に入ると、ヘラルドバローズとメイショウユズルハは失速。替わって、内から順にタイセイドレフォン、カフジオクタゴン、ハピが先頭に立ち、そこからは3頭の激しい叩き合い。我慢比べが繰り広げられた。

しかし、残り100m付近でハピは苦しくなったか、徐々に外へともたれ、その隙に内の2頭が差を広げて一騎打ちとなるも、最後の最後で前に出たカフジオクタゴンが1着でゴールイン。クビ差の2着にタイセイドレフォンが続き、同じくクビ差まで盛り返したハピが3着に入った。

良馬場の勝ちタイムは1分51秒9。最後は、後続がバラバラの入線になるほどのサバイバルレースをカフジオクタゴンが制し、香港のホー騎手とともに重賞初制覇を達成した。

各馬短評

1着 カフジオクタゴン

道中は中団を追走し、勝負所でも楽な手応えのまま進出。直線入口で外へ持ち出す際、インディゴブラックの進路を塞いでしまい、他、3頭も影響を受けたが(ホー騎手に過怠金5万円)、そこからの我慢比べを制して、初のタイトルを獲得した。

短期免許を取得し、7月30日からJRAで騎乗している香港のホー騎手。ゴールデンシックスティとのコンビでもお馴染みだが、2021年のクイーンエリザベス2世Cで、ラヴズオンリーユーに騎乗し勝利したのも同騎手。

また、ラヴズオンリーユーとカフジオクタゴンは、ともに矢作調教師の管理馬で、カフジオクタゴンの父モーリスも、現役時に香港のGIを3勝。奇しくも、香港に縁のある人馬での重賞制覇となった。

2着 タイセイドレフォン

1周目のゴール板を通過する直前と4コーナー入口で、2度ゴチャついた今回のレース。しかし、内枠から僅かに好スタートを切った本馬は、このトラブルに巻き込まれることなく、スムーズにレースを運ぶことが出来た。

惜敗したとはいえ、賞金を加算できたことは大きく、前走の内容からもいつ重賞を勝ってもおかしくない。ただ、東京ダート1600mのようなワンターンのコースよりも、今回のようなコーナーを4度まわるコースの方が合っているのではないだろうか。

3着 ハピ

後方からレースを進める馬だけに、小回りで勝負所のコーナーがきつい点が懸念されていた。ただ、そこは藤岡佑介騎手で、それを意識したように向正面からロングスパート。

しかし、スタートで寄られたため、序盤、中団よりも後ろのポジションになったことが、最後の最後に響いたのかもしれない。

しまいは確実に末脚を伸ばす一方で、やや器用さに欠ける面もあり、惜敗を繰り返す可能性がある。ただ、展開がはまって、不利を受けずにレースを進めることが出来れば、驚くほど強い勝ち方をするだろう。

レース総評

毎年のように、前走条件戦1着馬が多数出走してくるレパードS。ただ今年は、前走2着に0秒4以上の差をつけて完勝してきた馬が8頭も出走し、これはレース史上最多(これまでの最高は2012年の5頭)。筆者自身は、いわゆるお宝レースになるのでは……と、密かに期待していた。

そのとおり、レース序盤は速い流れで推移し、前半800m通過は47秒9。レース史上3位のハイペースだったが、そこから12秒6をはさむと、後半800mは51秒4を要し、最終的には1分51秒9で決着した。

ちなみに、前半800m通過がレース史上最速だったのは2019年。この時は47秒1で通過し、13秒0をはさんで、同後半が51秒2=1分51秒3。

2位が、第1回の2009年で、前半47秒7から12秒0をはさみ、同後半は49秒8=1分49秒5。ともに同じ良馬場で行なわれていながら、19年は本年の勝ちタイムを0秒6。09年は、2秒4も上回っていた。

馬場差などもあるため単純比較は出来ないが、タイムだけを見ると、レベルの高いレースだったとは断言できない。ただ、降級制度の有無などを踏まえても、前走条件戦、特に2勝クラスを完勝した実績がマイナスになるはずはなく、今回1、2着したカフジオクタゴンとタイセイドレフォンも、それぞれ前走2勝クラスで2着に0秒5、1秒3の差をつけ勝利していた。

一方で惜しかったのが、4着のビヨンドザファザーと5着のホウオウルーレット。前半の早い流れが、後方からレースを進めたこの2頭に味方したともいえるが、勝負所でのゴチャつきに巻き込まれたのも事実。これがなければ、ハピと5馬身も離されることはなかったはずだ。

ここまで、レースレベルやタイム面のことなどを書いてきたが、2022年のレパードSが、底力の問われるレースとなったのは間違いない。そこで、カフジオクタゴンの5代血統表を見ると、欧州の底力を象徴するサドラーズウェルズのクロス4×4があることと同じくらい、父系・母系合わせてメジロの冠号を持つ馬が12頭も入っていることが目立つ。

かつての名門メジロ牧場といえば、創設者の北野豊吉氏が「天皇賞を勝つことが一番の名誉」と遺言を残したとおり、盾獲りこそが信念。同場の生産馬や、この勝負服で走った数々の名馬は底力とスタミナに溢れ、天皇賞を7度制し、宝塚記念も3連覇を含む4勝。他、有馬記念など多くのGIを勝利している。

我慢比べとなり、底力とスタミナが問われた今年のレパードS。血統表に数多ちりばめられたメジロの血が、カフジオクタゴンを後押ししたことは間違いなく、中でも母の父メジロベイリーは6月に亡くなったばかり。そこにも不思議な力を感じずにはいられない。

メジロ牧場に話を戻すと、残念ながら2011年に解散となったものの、同場の設備と一部のスタッフを引き継ぐ形で設立されたのが、カフジオクタゴンを生産したレイクヴィラファームである。

また、勝ったカフジオクタゴンの陣営が、奇しくも香港競馬にまつわる縁で結ばれていたのは上述したとおりだが、レイクヴィラファームの生産馬で香港に縁のある馬といえば、2019年と21年の香港ヴァーズを制したグローリーヴェイズ。その3代母は、中央競馬史上初の牝馬三冠を達成したメジロラモーヌで、もちろん同馬もメジロ牧場で生産馬された。

カフジオクタゴンの父モーリスも含め、なぜか近年の香港国際GIと縁がある、かつての名門メジロ牧場。そのメジロの血を引く馬に、香港のトップジョッキーが騎乗して勝利したのも不思議な話だが、我慢比べとなった今年のレパードSで、最後にカフジオクタゴンを後押ししたのは、紛れもなく脈々と流れるメジロの血。様々な要素が不思議な縁で導かれたようにも見えるが、それは決して偶然でなく、必然の勝利だった。

写真:かずーみ

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