[重賞回顧]2歳牡馬のマイル王決定戦〜2020年・朝日杯フューチュリティステークス〜

中山から阪神に舞台が変わって7年目となった、朝日杯フューチュリティステークス。
ホープフルステークスが重賞、そしてGⅠに格付けされて以降は、さながら2歳牡馬のマイル王決定戦という位置づけになってきた。

今年は16頭が顔をそろえ、単勝オッズが10倍を切ったのは3頭。
その中で1番人気となったのはレッドベルオーブだった。
8月の新馬戦は2着に敗れたものの、続く未勝利戦とGⅡデイリー杯2歳ステークスを共にレコードで勝利する圧巻の走り。父ディープインパクトで、母系にUnbridled s SongとStorm Catを併せ持つ血統は、今年、無敗で牡馬三冠を達成したコントレイルと同じということもあり注目が集まった。

一方、2番人気となったのはステラヴェローチェ。
新馬戦とGⅢサウジアラビアロイヤルカップ連勝からここへというローテーションは、昨年の覇者サリオスや3年前の覇者ダノンプレミアムと同じだった。その前走は、道悪が得意なバゴ産駒とはいえ、2着に3馬身差をつける完勝で、内容が高く評価された形となった。

続く3番人気に推されたホウオウアマゾンは、前走のGⅡデイリー杯2歳ステークスで、レッドベルオーブとタイム差なしの2着に惜敗した実績が評価された。それに加え、今年、無敗の牡馬三冠トレーナーとなった矢作調教師と、無敗の牝馬三冠ジョッキーとなった松山騎手のコンビという点も大きな注目を集めた。

レース概況

全馬ほぼ揃ったスタートから、ブルースピリットが好スタートを切り、同じ勝負服のショックアクションも良いスタートを切った。それを外から交わしていったのがモントライゼで、バスラットレオンが4番手、その後にグレナディアガーズとホウオウアマゾンが続く。人気の4枠2頭は、その後のちょうど中団を追走し、レッドベルオーブは、前走のように前半はやや頭を上げ気味に追走していた。

前は、今度はモントライゼが先頭を奪い返し、前半3ハロンが33秒7、4ハロンは45秒2で通過する速めのペース。しかし、そんなことはお構いなしにと、2番手との差はおよそ5~6馬身ほどに広がり、最後方のテーオーダヴィンチまでは20馬身以上の差となっていた。依然として2番手にはブルースピリットが続き、4コーナーでそれをグレナディアガーズが交わして直線に向いた。

直線に入って後続も差を詰めにかかるが、モントライゼは終始3馬身ほどのリードを保ち逃げ込みを図る。しかし、残り200m標識で脚があがって一杯となり、今度はグレナディアガーズ先頭に立った。それを追ってきたのが4枠の人気馬2頭で、ステラヴェローチェは馬場の内から中央へ、レッドベルオーブは外に進路を取って前を捕らえようとする。しかし、前との差は最後までジリジリとしか詰まらず、4分の3馬身差をつけてグレナディアガーズが1着でゴールイン。2着はステラヴェローチェで、3着には、さらにそこから1馬身半離れてレッドベルオーブが入った。

勝ち時計の1分32秒3は、1ヶ月前にレッドベルオーブがマークしたタイムを0秒1更新する2歳コースレコードとなった。

各馬短評

1着 グレナディアガーズ

2走前の未勝利戦では、勝ったレッドベルオーブから1秒2離された4着だったが、見事にリベンジを果たした。馬場が早いと、最短距離を通れる内枠が物理的に有利になるのは当然だが、ハイペースを前目で追走して押し切っているため、単純に一番強い競馬をしたのもこの馬だった。前走未勝利戦からの勝利は、2000年のメジロベイリー以来、20年ぶりとなる快挙。距離適性に関しては、おそらく長くても2000mまでになるのではないだろうか。

また、本馬はFrankel産駒の持ち込み馬だが、レッドベルオーブ同様、母系にUnbridledを持っている。Storm CatやUnbridledなどアメリカのスピードの血を母系に入れる流れは、間違いなく今後も続き、2歳戦や3歳クラシックの前半に活躍するためには、もはやその血を持つことが必須となりそうだ。

2着 ステラヴェローチェ

よく言われていることだが、ノーザンファーム生産のバゴ産駒は、来週の有馬記念で有力視されるクロノジェネシスも該当するが、本当に安定してよく走る。しかも、折り合いに注文が付くなどの気難しさを見せることもない。今週末にホープフルステークスが行われるため断言はできないが、現状、来年のクラシックで最も隙がないのはこの馬ではないだろうか。

血統面では、父バゴの父の母Height of Fashionと、母の父ディープインパクトの母の母Burghclereは姉妹。つまり、本馬はその姉妹の母Highclereのクロスを保持している(言い換えれば、バゴの父Nashwanとディープインパクトは同じ牝系出身。他にレイデオロなど)。

3着 レッドベルオーブ

今回も、前半は少しいきたがる仕草を見せていた。
勝ち馬とは通った進路取りの差が少しはあったかもしれないが、来春のクラシックで戦っていくのであれば、気性面や乗り手とのコンタクトが課題になってきそう。持っているスピードは間違いないものだけに、なんとかその壁は乗り越えてもらいたいものである。

レース総評

昨年の阪神ジュベナイルフィリーズのレシステンシアや、今年のデイリー杯2歳ステークスのレッドベルオーブは、共に開幕2週目でのレコード勝利だった。しかし、今年は11月から阪神競馬が開催されており、既に開幕7週目という中で、これだけの早いタイムが計測されたことは、かなりの価値があるのではないだろうか。

1、2着馬が阪神ジュベナイルフィリーズでも好走した札幌2歳ステークスで3着となり、今回4着となったバスラットレオンを含む上位入線馬は、マイルのレースに出てきたときはもちろんだが、多少距離が延びても、高速馬場になれば引き続き注目できる存在になっていくだろう。

また、ステラヴェローチェの短評のところでも触れたが、血統面で、母親のクロスを持つ馬や、同じ牝系から他にどんな活躍馬が出ているかに注目するのも面白い。例えば、先週のソダシやメイケイエールは同じ牝系出身ということは周知の通りだが、ステラヴェローチェの父バゴは、実は名種牡馬ノーザンダンサーやマキャベリアン、そしてデインヒルと同じ超名牝系の出身である。

個人的な願望で、なおかつ気が早い話で恐縮だが、現状、バゴには有力な後継種牡馬がいないため、ステラヴェローチェにはこの後も大レースで結果を残してもらった上で、無事に種牡馬入りを果たし、その血を後世に遺していってほしいものだ。

写真:バン太

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