春競馬の開幕を告げる伝統の中山記念は、勝ち馬に大阪杯の優先出走権が与えられる。しかしそれだけでなく、ドバイや香港へ遠征を控える馬にとっても、重要な前哨戦となっている。
今年は、GⅠ馬の出走こそなかったものの、久々に多頭数となり、春の大レースに向けて弾みをつけたい馬が数多く出走していた。
最終的に単勝オッズ10倍を切ったのは4頭で、1番人気に推されたのは5歳馬のヒシイグアスだった。条件戦連勝から挑んだ前走の中山金杯では1番人気に応えて快勝し、見事に3連勝を達成。4歳秋以降に急成長し、一躍トップホースの仲間入りを果たした父のハーツクライ同様、成長著しいこの馬にかかる期待は大きかった。
一方で、2番人気に推されたのがバビット。近2走は、GⅠで大きな着順を拾っているが、それまでは4連勝していた実績馬である。中山の芝1800mはいかにもこの馬の先行脚質にあいそうな小回りコースで、重賞2勝の実績は今回のメンバーでは上位のため、高い支持を受けていた。
続く3番人気となったのは、前走の日経新春杯で3着に健闘したクラージュゲリエ。過去には、皐月賞5着、ダービー6着の実績があるものの、そこから爪の不安で長期休養を余儀なくされてしまった。ただ、昨秋に復帰してからは順調で、これまで4着以下になった3戦は、GⅠか長期休養明けのレース。今回は鞍上にルメール騎手を配し、2年半ぶりの重賞制覇へ向けて必勝を期していた。
そして、4番人気となったのは、昨年の新潟大賞典を勝ったトーセンスーリヤだった。今回は、札幌記念以来、およそ半年ぶりのレースとなるが、2走前のGⅠ宝塚記念で7着に入った実績は、今回のメンバーでは上位だった。
また、このレースでゴーフォザサミットに騎乗する蛯名騎手は調教師に転身するため、これが現役最後の騎乗となった。
レース概況
ゲートが開くと、ほぼ揃ったスタートから予想通りバビットが逃げ、それにウインイクシードが外から並びかけて1コーナーへ進入。2馬身差の3番手にトーセンスーリヤが続き、人気のヒシイグアスは、そこから早くも4馬身ほど差が開いた4番手にポジションをとった。
他の上位人気馬では、前走、京都金杯を制したケイデンスコールと、ゴーフォザサミットが直後の5、6番手、クラージュゲリエは、中団より少し後ろの10番手あたりを追走していた。
向正面に入っても前の2頭は依然として勢いよく飛ばしており、11秒台のラップが連続よどみのない流れとなった。この時点で、先頭から最後方まではおよそ20馬身の差となっており、1000mの通過は57秒8と、平均よりやや速いペースでレースは進んでいた。
3コーナーに入っても前3頭の並びは変わらなかったが、3~4コーナー中間で、トーセンスーリヤが前2頭との差を少し詰め、続く4コーナーでは、ヒシイグアスをはじめとする後続馬達も一気に押し寄せて、バビットは後退。変わって、ウインイクシードが単独先頭に立ち、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、粘るウインイクシードに対して、外からヒシイグアス、さらにその間からケイデンスコールが襲いかかり、残り100m地点でトーセンスーリヤは後退。上位争いは3頭に絞られた。
そこからは、我慢比べのようなかたちになったが、ゴール30m手前でヒシイグアスとケイデンスコールが抜け出し、最後は、クビ差だけぐいっと前に出たヒシイグアスが1着でゴールイン。2着にケイデンスコール、さらに半馬身差の3着にウインイクシードが入り、蛯名騎手騎乗のゴーフォザサミットも4着に健闘した。
良馬場の勝ちタイムは1分44秒9で、これは、2004年の中山記念でサクラプレジデントがマークしたコースレコードと同じタイムだった。
各馬短評
1着 ヒシイグアス
これで4連勝、重賞も2連勝となった。通算成績は11戦6勝2着3回となり、3着以下に敗れたのは、3歳春~夏にかけて出走した重賞の2走のみという成績で、今回で6戦連続連対となった。
本馬は、1800m未満のレースに出走した経験こそないが、2~3歳時にマイル戦の速い流れで揉まれてきたハーツクライ産駒は、それまでに勝ちきれないレースが続いても、4歳秋から5歳春にかけて急成長し、ジャスタウェイやリスグラシューのように、一気に天下を取ってしまうことがある。
また、こういった馬は、今回のような締まった流れに強く、本格化すると良い意味で「手がつけられない」馬になる。本馬もそうなる可能性は十分にあり、次走がGⅠでも引き続き楽しみだ。特に、速いペースで逃げる馬が出走してきた場合は、いきなり勝ち負けになってもおかしくない。
2着 ケイデンスコール
これまでの実績から、1800m以上は少し長い気がしたが、道中はインぴったりを立ち回り、最後も内からスルスルと抜け出してあわやの場面を作るなど、岩田騎手が最高の騎乗を見せた。
ただ、岩田騎手はレース後に、最後の100mで止まってしまったと言っていたそうで、やはり1600mがベストになるだろうか。
また、この馬も母の父はハーツクライ。
母のインダクティは、このレースを連覇したバランスオブゲームの半妹にあたるという、中山記念に縁のある血統の持ち主でもある。
3着 ウインイクシード
道中は、逃げるバビットと終始併走していたものの、直線でも最後の最後まで粘り、見せ場たっぷりの3着に健闘した。既に7歳だが元気いっぱいで、小回りコースやローカルでは、まだまだ見せ場がありそうだ。
また、マンハッタンカフェ産駒は、現役馬はかなり数が減ってきたものの、中山の芝1800mから2200mを得意としていて、今後も出走機会があれば狙ってみたい。
総評
近年は、少頭数だったものの、GⅠ馬が3頭以上出走していた中山記念。
今年は頭数こそ揃ったもののGⅠ馬は不在で、やや小粒なメンバーかと思われたが、時計が出やすい馬場とはいえ、勝ちタイムはコースレコードと同タイムの決着。上位馬には、それぞれ見所のあるレースとなった。
28年ぶりに、東西の金杯を制した馬が揃って出走し、その2頭による競り合いを制したヒシイグアス。もちろん、この先の重賞やGⅠでも注目が必要で、年末の有馬記念でも面白い存在となる可能性がある。
また血統面では、本馬のように、母系にStorm Catやその父のStorm Birdを持っているハーツクライ産駒には活躍馬が多く、今回4着に入ったゴーフォザサミット以外にも、ウインバリアシオン、アドマイヤアルバ、クラヴァシュドール、シュリ、ウーマンズハートなどが重賞で連対、もしくはオープンを勝利している。
一方、惜しくも2着に敗れたケイデンスコールは、距離の限界こそありそうだが、依然としてマイル前後では注目の存在。3着のウインイクシードも、この先の小回りコースやローカルのレース、また秋のオールカマーに出走してきた際は、一発を狙ってみたい存在だ。