史上3頭目の牝馬三冠馬アパパネ~次の夢へ〜

6年前、府中競馬場に降りしきる雨の中、3歳牝馬達がゴールを駆け抜けた、オークス。そこで日本競馬史上初のG1同着優勝を、サンテミリオンと共に成し遂げた名牝が居たのを覚えているだろうか。

史上3頭目の牝馬三冠馬、アパパネである。

父はNHKマイルCと日本ダービーを制した変則二冠馬、キングカメハメハ。母はフェアリーS2着で、勝利したレース全てが1200m以下だったというスプリンターのソルティビッド。

双方から受け継いだスピードと、父からのクラシックディスタンス適正をいかしたその末脚は、観る者を驚愕させた。

G1勝利数は、何と5勝。

阪神JF制覇から牝馬三冠を達成した後、ヴィクトリアマイルで、絶対女王と呼ばれた牝馬二冠馬のブエナビスタに真っ向勝負で挑んで勝った事は、多くの競馬ファンの間では語り継がれるであろう。

牝馬限定G1完全制覇には惜しくも1つ及ばなかったが、その夢は次の世代へと託された。

今回は、アパパネの現役時代を振り返り、次世代への期待を述べていく。

日本競馬史上初のG1同着優勝

まず、オークスの主役となった2頭の女傑についておさらいをしよう。

アパパネは、デビュー勝ちではなかったものの未勝利戦・条件戦をクリアした後の阪神JFで大外から抜け出して初G1制覇を果たす。前哨戦のチューリップ賞こそは休み明けで敗れたものの、続く同じ距離の桜花賞も大外から抜け出して後続を振り切って一冠目を獲得する。陣営も馬にとっても非常にいい雰囲気で迎えた1戦だった。

対するサンテミリオンは、新馬、条件戦と連勝を重ね、フラワーCで土をつけられたものの、敢えて桜花賞を選ばずにトライアルのフローラSを快勝して臨んだ。まさにトライアル組の代表格的な存在で、アパパネと相対するには十分な馬だった。この他にも、チューリップ賞勝ち馬ショウリュウムーン、フラワーC勝ち馬で桜花賞はアパパネの後塵に喫したオウケンサクラ、クイーンC勝ち馬のアプリゴットフィズなども有力候補として名乗りを挙げていた。

雨の影響により稍重で行われたレースではニーマルオトメがハナを切り、アグネスワルツが二番手、三番手以降は集団を形成し、人気どころではショウリュウムーン、アプリゴットフィズ、オウケンサクラ、サンテミリオン、アパパネの順でレースを進める。

1000m通過タイムは60秒6、ミドルペースであった。

迎えた最後の直線。ニーマルオトメを交わし先頭に立ったのはアグネスワルツ。しかし残り400mから、自慢の末脚で飛んできた2頭の激しい叩き合いへと様相が一変する。

その2頭の名は、アパパネとサンテミリオン。

最初に前に出たのは、アパパネ。さあ二冠馬の誕生か、やはりこの馬が強いのかと誰もが感じた矢先、サンテミリオンが差し返しに襲いかかる。

まさにデッドヒート。どちらが勝つか、まだ分からない。アパパネ騎乗の蛯名正義騎手とサンテミリオン騎乗の横山典弘騎手の追い比べ。双方、全く譲らない。

皆が、固唾を飲んで見守り、そしてG1でもなかなか観ることの出来ないこの死闘に、酔いしれた。

この長い直線で繰り広げられた死闘は、首の上げ下げにてゴールインした。

「おそらく首の上げ下げで決着しただろう」

そう感じた競馬ファンも多かったに違いない。しかし12分後、電光掲示板に灯されたのは、「同」の文字だった。

普段平場のレースでもなかなか見られないこの光景、ましてG1の舞台で打ち立てたその金字塔は、漫画のような世界を超えて現実のものになったのだ。

その立役者の1頭、アパパネはこれで二冠を達成。この勝負強さは、後の秋華賞、そしてヴィクトリアマイルでも再び発揮されるのである。

三冠女王VS絶対女王

そしてアパパネは秋華賞も大外から差しきり、2003年のスティルインラブ以来、史上3頭目の三冠女王となった。続くエリザベス女王杯で牝馬G1完全制覇に王手をかけようと臨んだが、イギリス馬の世界女王スノーフェアリーに鋭い末脚を見せつけられてしまい敗戦。これが彼女にとって、G1レースで初めての敗戦となった。

その後は休養をし、マイラーズカップを叩いた後にヴィクトリアマイルへ参戦。

このレースには、1世代上の二冠馬で、一流の牡馬と互角のレースを繰り広げてきた「絶対女王」ブエナビスタが立ちはだかっていた。

他にも、同世代のオウケンサクラ・レディアルバローザ・ショウリュウムーンなど、3歳ではアパパネの後塵を拝した牝馬たちや、年上である歴戦の牝馬たちも虎視眈々とタイトルを狙っていた。

レースはオウケンサクラがハナを主張し、アパパネやブエナビスタを振り切るためにハイペースで飛ばしていく。

しかし1000m通過タイムは55秒9と、オーバーペースであった。後続は適度なペースを刻んでいたが、逃げたオウケンサクラを捕らえにかかる事により脱落する馬も出ていた。

最後の直線、逃げたオウケンサクラを一気に捕らえたのは、後に中山牝馬Sを連覇するレディアルバローザ。その外からジリジリと三冠女王アパパネが差を詰めて先に抜け出しを測るレディアルバローザを交わしにかかる。しかしレディアルバローザもあっさりと交わされるわけには行かない。また府中でのこの長い直線で死闘が繰り広げられた。

頭一つ抜け出したのはアパパネ。このまま三冠女王が牝馬G1完全制覇に王手をかけるのか一一一

試練は再び訪れた。絶対女王ブエナビスタが自慢の切れ味を武器に、レディアルバローザとの接戦の末抜け出したアパパネを一気に襲いかかる。普通の馬なら、もうここであっさりと交わされる。だが三冠女王アパパネは、絶対女王ブエナビスタにはない勝負根性を見せつけた。

そう、まるでオークスの時のように。

最後は並びかけたられたが、クビ差振り切った。このレースぶりに誰もが驚愕し、多くの賞賛の言葉が述べられた。

「あのブエナビスタを負かす三冠女王は凄い」

「歴代の三冠牝馬史上最強だろう」

アパパネを追いかけきた多くのファンからは、この2011年ヴィクトリアマイルを現役史上ベストレースだと位置づけている声が多い。私もその一人だ。

引退から次の世代へ託された夢

これで牝馬G1完全制覇に王手をかけたアパパネは、続くエリザベス女王杯でもこの年の牝馬クラシックを沸かせた秋華賞馬アヴェンチュラと翌年のヴィクトリアマイル勝ち馬ホエールキャプチャと激しい叩き合いを演じたが、それらを横目に究極の切れ味でスノーフェアリーにあっさりと交わされてしまい、世界との差を痛感させられた。

この後アパパネは成績不振に陥り、翌年の夏、屈腱炎により引退。

夢は次世代へと受け継がれる事になった。

現在、アパパネはディープインパクトとの交配による若駒を2頭産んでいる。

その2頭の若駒のうち、最初に産んだのは今年デビューが決まっているモクレレだ。

当然、かかる期待は相当なものだろう。

ウマフリPOG部という企画でも、モクレレは指名馬10頭に入っている。

ディープインパクトから受け継がれる切れ味と、アパパネから受け継がれる勝負根性を兼ね備えれば、新たな名馬が誕生してもおかしくない。

そしてそれは、日本競馬の発展をさらに強めることにもなるだろう。

日本の生産界を救うアウトブリード

ここまではディープインパクトを配合されてきたアパパネだが、個人的にはもっと試してもらいたい配合が、いくつかある。

一つ目は、スクリーンヒーロー×アパパネだ。

現在の日本競馬にとって、あまり見受けられない配合である。それは両親の間にインブリードが発生していないことである。この場合はスクリーンヒーローにノーザンダンサーとヘイルトゥリーズンの5×5のクロスがあるが、アパパネには何のインブリードもないのだ。一説によればアウトブリードと呼ばれてもおかしくない(一般的には両親にクロスが全く無いことをアウトブリードと定義付けている)ため、是非試してもらいたい配合ではある。

しかしこんな事まで考えるのかと思う人もいるだろう。そのモヤモヤ感を払拭出来る配合がある。

それは先に述べたスクリーンヒーローの代表産駒、モーリスとの配合だ。

モーリス自身は5代に渡って受け継がれているメジロ牧場の血もあるため、恐らく往年の競馬ファンにとっては絶対にやっておくべき配合だろう。

そして距離適性でも、クラシックディスタンスやスプリントやマイルにも融通が効きそうであることも注目だ。

相性次第ではあるが、私にとっても、日本競馬の発展においても、絶対にやっておくべき配合である事は間違いない。

ここまで列挙していくと、アパパネにかける期待や夢はますます大きくなっていくのである。産駒の誕生による更なる日本競馬の発展、そして何れはアパパネ自身が追いつけなかった世界の頂に立つ事を祈り、まずは無事にデビューを迎えてくれることを期待したい。

写真:ラクト

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