[テーマトーク]あなたの好きな芦毛馬は?~魅力溢れる、個性的な芦毛馬たち~

栗毛、鹿毛、黒鹿毛、白毛など、馬の毛色は全部で8種類あります。
その中でも色のバリエーションが豊富な毛色といえば、「芦毛」が挙げられます。
成長とともに、だんだんと毛色の変わっていく芦毛馬。

「デビュー当時と比べると全く別馬のよう!」という馬もいますよね。

そんな芦毛馬の中でも「お気に入りの馬がいる」という人も多いのではないでしょうか?

今回のテーマトークは、個性溢れる「芦毛馬」に魅了された、3名のお話をお届けします。

記憶に刻まれた、曇天のようなその毛色。

「芦毛」というと、一般にはアエロリットのような可憐なルックスか、王子様が乗るような白馬のイメージがあるのかも知れない。
私の一番好きな馬も「毛色=芦毛」なのだけど、その毛色を思い出す時、いつも脳裏に浮かぶのは、曇天のようなダークグレー……。

その馬の名前は、ヒシミラクル。

関西の秋は大体暖かい。
下手すると暑いほどだが、その日はずっと雨が降っていて、暖かかったような記憶はない。
真っ暗という訳ではないけれど、どんよりとした空模様だった。

2002年10月20日京都競馬場。
その日のメインレースは第63回菊花賞だ。
雨は降り続いていたけれど、馬場は良馬場発表だった。

断然の1番人気は、その年の皐月賞馬ノーリーズン。
秋初戦の神戸新聞杯で2着。その神戸新聞杯の勝ち馬シンボリクリスエスは、菊花賞に出走していない。

しかも、ノーリーズンの鞍上は、名手・武豊騎手。このメンバーなら主役になるだろうという信頼を受けての1番人気だった。

──その薄暗い空で、何か不穏な結末を予感していたのは、私だけだろうか?

菊花賞のゲートオープン直後、その予感は的中した。

「落馬!?え、どの馬?え…ノーリーズン!」

まさかの1番人気馬の落馬。
場内は騒然としていたが、レースは進んでいく。
薄暗い淀の直線を先頭で駆け抜けた馬は、芦毛の伏兵・ヒシミラクルだった。
ヒシミラクルのダークグレーの馬体は、すっかり曇天に溶け込んでいた。

「その日に写真を撮ったカメラマンは相当苦労したんじゃないだろうか?」
そう思わせるほど、菊花賞馬の馬体は輝くわけでもなく漆黒でもない、ただ周りに馴染んでしまう暗めのグレー。
鮮やかな白とブルーの面子と、騎手の勝負服だけが、鮮やかに映えていた。

その当時はヒシミラクルもまだ3歳で、芦毛の馬体も尻尾を除けばまだ濃いグレーだった。
これは最近知ったのだが、芦毛の馬は調子が良い時は黒っぽく見えるという説があるらしい。この日のヒシミラクルは、調子が良かったからこそ、馬体が曇天に溶け込むように見えたんだろうか。

ただ、そのあまりにしっくりと曇天に溶け込む様は、新しいヒーローの誕生というには目立たなさすぎたのかもしれない。

その年の菊花賞はどんなレースだったかと聞かれたら大半の人は『ヒシミラクルが勝ったレース』と言うよりも『1番人気のノーリーズンから武豊騎手が落馬したレース』と答える人が多かったのではないだろうか。

雨雲の色をした馬は勝ち馬だったのに、決して目立っていなかったように思う。
その後ヒシミラクルは芳しくないレースを続けた。
阪神大賞典のパドックで見たヒシミラクルはどこかもっさりしていて、天気は良かったものの、冬毛の影響なのかG1馬とは思えないような垢抜けなさだった。
冬場の芦毛は特に毛色がよく見えないと言われているけれど、それにしても……と思ってしまうほどだった。

ついにヒシミラクルがその本領を発揮、優勝した天皇賞(春)では、大分毛色も良くなっていた。
ダークグレーの馬体を晴天が照らしていたのが、記憶に焼き付いている。
そして豪華メンバーが揃う中勝利した、宝塚記念。その初夏のレースでは、馬体が晴天の下眩しく輝いていた。

もうダークホースではない、立派なG1ホースだった。
『シンデレラ』という童話があるけれど、その『シンデレラ』とは『灰被り娘』という意味らしい。
灰色の目立たない馬が、次第に垢抜けていく様が『シンデレラ』みたいだな、と少し思えたりする。

輝いているヒシミラクルも勿論思い出せるのだが、ヒシミラクルの毛色がどんな色かと聞かれると曇天に溶け込んでいた若き日の菊花賞を思い出してしまう。

文:吉平くるみ

運命の芦毛馬に、恋をして。

2017年5月7日、東京競馬場。

競馬好きだった母に連れられて来た私は、馬券の買い方もどれが人気馬なのかもわからない状態で、運命的な出会いをする。

東京10R、ブリリアントステークス。

新聞を開いてラニの名前を見つけた時「可愛い名前だなぁ、買ってみようかな」と何の気なしに馬券を買った。ただ、周りのおじさん達が「ラニは買う!」なんて話すのが聞こえたものだから、あぁ、ラニは人気なんだなぁなんて思ったりしていた。

母に「気になるなら、見てくれば?」と言われパドックに向かう。

1番のゼッケンを背負った、グレーがかった綺麗な馬体をしたラニは、私の目にはキラキラと輝いて見えた。

レースの結果は、4着。
しかし後ろからの追い込みは凄まじく、その力強い走りに大声で叫んでしまった。
そこから夢中になり、家に帰ってからもラニの今までのレースを見たり、武勇伝を調べたりと、ラニづくしの生活を送る事になった。

その後も運良く東京で走ってくれたおかげで、ラニに会うため東京競馬場に足を運んだ。

結果としては、惨敗だったけれども。
ブラジルカップ後引退が発表された時は、走る姿が見れなくなるショックと同時に、無事に走り終えた事に安堵した。
初年度種付け頭数は100を超え、ラニの血を引き継いだ子供たちがたくさん走る姿を毎日想像した。

「一口馬主」という存在を知ってからは猛勉強して一口馬主になる方法を探したし、もし名付け親になるとしたらどんな名前がいいかと様々な言語を調べたりもした。

北海道にあるアロースタッドという牧場に行けば会えると知ったのは、それから暫くしてからだった。
正直言って、最初は「え!会えるの!?」と驚いた。私にとって競走馬は、有名人レベルのとてつもなく高い地位に立っていたからだ。

仕事や金銭面でなかなか都合がつかない日々が続いた中、2019年10月、遂に私は新ひだかに降り立った。
レンタカーを用意して慣れない道を走りながら、ドキドキが止まらなかった。

「ラニに会える」

プレゼントに箱いっぱいの人参と、神社で悩みに悩んで購入した長寿祈願のお守りを持って。
アロースタッドに着いて、馬房から顔を覗かせる馬達の中からラニを探す。
ワールドエース・トーホウジャッカル・バトルプラン ・ロジャーバローズ……そして、いた。ラニだ。

あの東京競馬場で出会った頃より白くなった彼が、そこにいた。
ゴジラだ凶暴だと競馬ファンから愛されていたラニは、競走馬時代よりおっとりしたように感じた。思わず大人しいね、いい子だねだなんて呟いたら、牧場の方は「まだまだ全然大人しくないですよ」だなんて言っていたけれど。

北海道牧場見学の旅は、とても嬉しく楽しい旅となった。
きっとあの時、私は恋をしたんだと思う。
走る姿は輝いて見えて、暴れ馬な性格はむしろありのままの自分をさらけ出してるように見えて、憧れた。
応援していた馬が亡くなった時は辛く悲しくなり「もう競馬辞めよう、こんなに辛いのなら知らない方がマシだ」と思うこともあった。

しかしそれでも、ラニの写真や動画を見ると心が癒された。
馬が亡くなるのは悲しいことだけれど、あなたがいるなら耐えられる。それに、競馬をしていなかったらあなたに会えなかったのだ。

これからあなたの子供がデビューする時は競馬場で応援したい。

だったら、辞められない。

ラニのデビュー前から好きな人は勿論いるだろうし、ドバイにまで足を運んだ人も勿論いるだろう。
その人たちに比べたらきっと、引退までの3レースしか見ていない私は、ファンと呼ぶのに相応しくないかもしれない。

でもあの東京競馬場で見つけてしまった、恋をしてしまったからには止まれない。

誰よりも何よりも愛してると叫べるくらいに、ラニのことを愛してる!

文:しき

可愛いだけじゃない!魅了された、その強さ。

芦毛といえば……個性的でファンがいる馬が多い、そんなイメージがある。
最たる例としては、オグリキャップ、ゴールドシップ、ラニ、メジロマックイーン、ビワハヤヒデ……。

どれも時代時代で強烈な個性を放ち、熱狂的ともいえるファンを獲得していたように思う。

個性も強いが、特筆すべきは容姿の面。
芦毛であるだけで目をひき、そして何だか顔も可愛い子が多くいる……ような気がする。
そんな可愛い芦毛たちの中でも、私のイチオシは大井競馬を主戦場とするクリスタルシルバーである。

2015年生まれの彼と私の出会いは、2017年8月11日。
たまたまその日、大井競馬場で相馬野馬追のイベントが行われることもあり、それを主目的に競馬場へと向かった。大ファンである坂井元騎手を応援することも、楽しみにしていた。

その日、坂井元騎手が騎乗していたのがクリスタルシルバーだった。
大きな瞳に少しグレーがかった馬体。
まだ2歳なのにも関わらず落ち着き払ったパドックを見て「これは……強くなるのでは?」と思った記憶がある。

レースは3と1/2馬身引き離して、余裕の勝利。
口取りが終わったオーナーさんに、おめでとうございます!と声掛けした所、本当に嬉しそうに「強かったですよね!! 」と返事を頂いたことも覚えている。

さてそんなクリスタルシルバーのその後の戦績は、東京ダービー2着、ジャパンダートダービー4着とマイルグランプリ1着と、期待に応える好成績を残している。
残念ながら、騎手は坂井元騎手ではなくなっていたのだが、もうそんなことはそっちのけでクリスタルシルバー自身を応援していた。

クリスタルシルバーは可愛いだけの馬じゃなく、強かったのだ。
いつも一生懸命で、馬場に入った瞬間に首を上下させ、やる気に溢れるクリスタルシルバー。
この時ばかりは可愛い顔も引っ込めて、とにかくやる気を前面に出し、キリッとした顔になる。そこもまた大好きな1面である。

私個人としては、クリスタルシルバーは『走る時』がわかりやすいように思う。
ここから先は少しオカルトじみた話になるので、話半分で読んでいただきたいのだが……。

パドックでの目線の配り方が、違うのである。

彼の大きな目が若干しょんぼりしている時は、イマイチな時。好走するのは「俺今日出来るもんね!見ててね!」と言わんばかりに目をキラキラさせている時、という印象である。
完全にファン目線の見方ではあるが、それがまた可愛くて可愛くて、パドックで会う度にファンになっていった。

今日のクリスタルシルバーはどんな感じで来るのかな?やる気モードかな、しょんぼりモードかな?

もはや自分の子供を見るような気持ちで、パドックでクリスタルシルバーを見るのを楽しみにしている。

そんなクリスタルシルバーは、現在骨折で休養中。

キラキラした目でパドックを周回する日が再び訪れるのを心待ちにしている私がいる。

きっとまた馬体も白くなり、あれ、こんな子だったっけ?と面食らうと思う。

それもまた、芦毛馬たちの魅力であると思う。

応援する年月とともに毛色が変わっていくのは、芦毛ならではの特徴だと思うし、変化を楽しめるのも醍醐味であるのだ。

文:s.taka


さて、いかがだったでしょうか?

みんな個性的で、その愛らしい外見のみならず、性格やレースでの走りにも惹かれてしまいますよね!

「芦毛馬」と言っても、十人十色ならぬ、十馬十色。

あなたの好きな芦毛馬は、どんな馬ですか?

編集:ウマフリ編集部
写真:しき、s.taka

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