[重賞回顧]三強を撃破し、無敗のシンデレラが誕生。~2021年・大阪杯~

春の中距離王決定戦の大阪杯は、GⅠに昇格して、今年が5度目の開催となった。フルゲートとなったのは2018年のみではあるものの、中距離王決定戦らしく、毎年のように豪華なメンバーが集結している。

今年も出走馬は13頭に落ち着いたが、GⅠ4勝馬が2頭も出走し、前評判では"二強"もしくは"三強"対決といわれ、人気もその3頭に集中した。

1番人気に推されたのはコントレイル。昨年、父のディープインパクトに続き、史上二頭目の無敗の牡馬三冠を達成したスーパーホースである。前走は、世紀の一戦といわれたジャパンカップで初黒星を喫し2着。しかし、勝ったアーモンドアイは既に現役を退いている。そのときの着順と実績でいえば、最強馬の系譜を継ぐ筆頭候補は、この馬だとする見方が大勢だった。

一方、僅差の2番人気となったのはグランアレグリア。
こちらがもう一頭のGⅠ4勝馬で、現在GⅠを3連勝中。既に、1200mのスプリンターズステークスと、1600mのGⅠを3つ勝っていて、今回2000mの大阪杯を勝てば、史上初の『GⅠ・3階級制覇』を達成することになる。

ジャパンカップと距離は異なるものの、3走前の安田記念ではアーモンドアイに完勝。そのレースを物差しとして、この馬こそ現役最強とする見方もあった。

そして、3番人気に推されたのはサリオス。
GⅠタイトルこそ、一昨年の朝日杯フューチュリティステークスのみだが、皐月賞とダービーはコントレイルの2着。ただ、今回と同じ距離の皐月賞では半馬身差の惜敗だったため、この2000mであれば、再度チャンスがあるのではと目されていた。

以下、5戦5勝のレイパパレが単勝オッズ12.2倍の4番人気で続いたが、5番人気のワグネリアンは49.8倍と大きく離れ、3頭ないしは、レイパパレも含めた4頭に人気は集中した。

レース概況

雨が降ることは事前に予想されていたが、予報より降り始めが遅くなったものの、いざ降り始めるとかなりの降水量。馬場は一気に重まで悪化して、スタートの時間を迎えた。

ゲートが開くと、ペルシアンナイトとレイパパレがほんの少しあおったものの、ほぼ影響のない範囲。

サリオスとワグネリアンが先手を主張したが、それらを制して馬なりに近いかたちでレイパパレが先頭に立ち、ハッピーグリンがそれを追って1コーナーへと進入した。グランアレグリアは、先行集団の後ろ5番手につけ、コントレイルは9番手で向正面へと入った。

前半の1000m通過は59秒8と、この馬場を考えればやや早めのペース。
先頭から最後方までは、およそ15馬身の縦長の隊列となった。

レースはそこから内回りコースへと入り、残り800m標識を通過したあたりで後続が差を詰め、徐々に馬群が固まりはじめる。さらに、3~4コーナーの中間で、コントレイルとグランアレグリアが仕掛けて前に取り付き、レイパパレとサリオスを合わせた上位人気馬4頭が2馬身以内に固まって、一気に名勝負の予感が高まり、最後の直線へと向いた。

迎えた直線勝負。

川田騎手は、それまで内ラチ沿いぴったりを走っていたレイパパレを、一気に状態の良い馬場の中央まで持ち出してスパートを開始。すると、三強との差がジリジリと広がりはじめ、坂を駆け上がるところでリードは2馬身半。

一方で"三強"は悪化した馬場に苦労しているせいか、思うように末脚を伸ばせない。さらにそこへ、道中は後方に構えていたモズベッロが大外から襲いかかる。そのモズベッロも、残り100mで2番手に浮上したがレイパパレまでは届かず。

結局、後続に4馬身差をつけ、レイパパレが1着でゴールイン。2着にモズベッロ、3着コントレイルの順で入線。三強では、グランアレグリアが4着、サリオスは5着に終わった。

重馬場の勝ちタイムは2分1秒6。勝ったレイパパレは6戦6勝となり、豪華メンバーが揃った一戦で、初のGⅠタイトルを獲得する快挙を成し遂げた。

各馬短評

1着 レイパパレ

無敗での古馬GⅠ制覇は史上3頭目となったが、4歳以上のGⅠとしては初の快挙。しかも、牝馬限定のGⅠではなく、牡馬混合のGⅠで達成したことに、さらに大きな価値がある。

もちろん、悪化した馬場を味方にしたことは大きかったが、このメンバー相手にここまでの圧勝を演じるとは、誰が予想しただろうか。

また、スタートで少しあおるもすぐに先手をとり、4コーナーで一気に馬場の中央へと誘導して、上がり最速タイでまとめた川田騎手の好騎乗も光った。これで、直近のGⅠの騎乗機会6度で4勝と、手が付けられない勢いにある。

次走、どこに出走するか楽しみだが、反動が心配なため、間隔の詰まるヴィクトリアマイルよりは、安田記念が向いているのではないだろうか。

2着 モズベッロ

阪神の内回りコースと道悪という、昨年の宝塚記念と同じ条件で、再び好走した。

一戦挟んでかあらの距離短縮で宝塚記念に出走してきた際は、積極的に狙ってみたい。もちろん、道悪で小回りコースの2000m~2200mに出走してきた際は、常にマークが必要となる。

3着 コントレイル

おそらく序盤は、もう1つ2つ前にポジションを取りたかったはずだが、道悪への適性と、ダービー以降2200m以上のレースを連続して使っていたためか、前にいくことができなかった。

今回は、能力でなんとか3着を死守したものの、次走に出走が予定されている宝塚記念も、毎年のように道悪で行われるレース。果たして、どうなるだろうか。

レース総評

確かに、悪化した馬場がレースに与えた影響は非常に大きかった。しかし、ここまで差が開かなかったとは思うが──たとえ良馬場でも、レイパパレは好勝負していたのではないだろうか。

というのも、2走前の芝1800mの大原ステークスで、直線まったく追われることなく1分46秒3という好タイムをたたき出し、十分に素晴らしいスピードを持っていることを証明している。ちなみに、この大原ステークスは、秋華賞に登録していたものの除外となったために出走したレースで、秋華賞前の第10レースに行われたレース。

一方、その40分後に秋華賞でデアリングタクトがマークした勝ちタイムは、2000mで2分0秒6。大原ステークスのほうが200m短いものの、それでもこのタイムを下回っていたとは思えない。

また、レイパパレはこの日の馬体重が422キロと非常に小柄。この馬体重だからこその圧勝だったのか、ここから成長した時に、さらなる強さを見せてくれるのか……。現時点では分からないが、この小さな体には無限の可能性が宿っている。

果たして、次走はどのレースに出走し、どういったレースをしてくれるのか。楽しみは尽きない。

最後に、やや話は逸れるが、勢いに乗って連勝中のディープインパクト産駒は本当に強く、昇級や、初重賞、初GⅠといった壁も軽々と越えていく。前日のダービー卿チャレンジトロフィーでも、テルツェットが同じパターンで勝利した。そして、この強みが毎年のように発揮されるのが、春のクラシックである。そういった意味で、道悪にならなければという条件はつくが、桜花賞はアカイトリノムスメに期待している。

写真:バン太

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