創設から四半世紀を迎えた2021年、GⅡに昇格した東京スポーツ杯2歳S。このレースを勝利した馬はもちろんのこと、敗れた馬からも、後のGI馬が多数誕生している。とりわけ、2歳GIや牡馬クラシックと相性が良く、2019年の勝ち馬コントレイルは、無敗で牡馬クラシック三冠を達成。敗れた馬からも、サニーブライアンとメイショウサムソンが後に皐月賞とダービーを制して二冠馬となるなど、活躍馬を挙げ出せばキリがない。
そんな出世レースに今年エントリーしたのは12頭。単勝オッズ10倍を切ったのは4頭で、その中で1番人気に推されたのがイクイノックスだった。
父は新種牡馬キタサンブラック。そして、母の父は現在ブレイク中のキングヘイローという血統。前走の新馬戦を勝利した時の勝ちタイムはコース史上最速で、2着につけた着差も過去10年で最大という、素晴らしい勝ち方だった。今回は、それ以来3ヶ月ぶりの実戦となるもののルメール騎手が継続騎乗し、その点も人気を集める要因となった。
2番人気に続いたのはレッドベルアーム。こちらはハーツクライ産駒で、半兄のレッドベルジュールとレッドベルオーブは、ともに2歳の重賞を制している。藤原調教師と福永騎手のコンビといえば、今年ダービーを制したシャフリヤールと同じ。新馬戦を勝利して以来5ヶ月ぶりとなるものの、こちらも大きな注目を集めていた。
3番人気は、モーリス産駒のアルナシーム。こちらは、母がシャフリヤールとアルアインの全姉という良血で、前走は函館の新馬戦を完勝。それ以来4ヶ月半ぶりのレースとなるものの、こちらは武豊騎手が継続騎乗し、上位人気に推されていた。
4番人気は、カレンブラックヒル産駒のアサヒ。前走、3戦目で初勝利を掴んだものの、初戦で惜敗した相手は、後に札幌2歳Sを圧勝したジオグリフ。血統面でも、母があのディープインパクトの半姉という良血で、この一族からさらなる大物が誕生するか、注目されていた。
レース概況
ゲートが開くと、スカイフォールのダッシュがつかず、アルナシームも立ち後れた。
先手を切ったのは予想どおりナバロンで、デリカテスが2番手。3番手にテンダンスとテラフォーミングが並び、ややいきたがる面を見せながら、レッドベルアームが5番手を追走。その内からアサヒがポジションを上げ、イクイノックスは10番手でレースを進めた。
早くもペースは落ち着き、前半600m通過は36秒2のスロー。折り合いを欠く馬が出始め、中でもアルナシームのコントロールが利かなくなり、残り1000mの標識を前に先頭に立った。
ここで、先頭から最後方までは12~3馬身ほどの差。アルナシームは、その後も2番手との差を徐々に広げながら逃げ、それによってペースアップ。4コーナーで後続に2馬身ほどの差をつけ、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入っても、依然アルナシームが粘っていたが、内から末脚を伸ばしてきたのがテンダンス。さらに、馬場の中央からはアサヒが、そして外からイクイノックスも勢いよく追い込んできた。
残り200m地点。3頭がアルナシームをかわし、接戦が演じられるかと思われたものの、イクイノックスが余裕を持って抜け出す。その後、ダメ押しの左鞭が一発入るとさらに加速し、最後は2馬身半差をつけ1着でゴールイン。アサヒが2着に入り、テンダンスが3着に続いた。
良馬場の勝ちタイムは、1分46秒2。デビューから2連勝としたイクイノックスが、父キタサンブラックに産駒のJRA重賞初制覇をもたらした。
各馬短評
1着 イクイノックス
スタートでテンダンスに少し寄られ、後方からの競馬。それでも、道中は折り合いを欠くことなく、メンバー唯一の上がり32秒台をマークし完勝した。
ルメール騎手には、もう一頭のお手馬で同厩のジオグリフがいるが、同じレースに出走した場合どちらを選ぶのだろうか。それもまた、楽しみとなった。
2着 アサヒ
初勝利を挙げるのに3戦を要したものの内容が良かっただけに注目していたが、4番人気に支持されるとは思わなかった。果たして、そのファンの期待に十二分に応える好走。これで、デビュー以来4戦すべてで上がり2位以内をマークしたことになる。
持久力で勝負した父とは異なり、伯父のディープインパクトに近いタイプか。それでも、キレッキレの脚を使うというよりは、非常に長く良い脚を使えるタイプのように思う。
3着 テンダンス
未勝利戦を完勝後の今回も、引き続き好走した。次走、1勝クラスに出てくれば、好勝負は間違いなさそうな内容だった。
この馬も、スズカコーズウェイとカデナという2頭の重賞ウイナーを兄に持つ良血。父はジャスタウェイで、昨年このレースを制したのも、同産駒のダノンザキッドだった。ただ、同馬を含め、ジャスタウェイ産駒は気難しさを見せる馬も少なくない。
今回は、レースでややいきたがったものの、著しく折り合いを欠くようなことはなく、パドックでイレ込みもいなかった。今後そういった点が出てこないか、出てきたときに上手くコントロールできるか。そのあたりが課題になるだろうか。
レース総評
前半800m通過が48秒6で、11秒7を挟み、後半800mは45秒9と後傾ラップ。出遅れたアルナシームが途中から逃げたため、5ハロン目から3ハロン連続でペースアップ。その後一度ペースが落ち、最後の1ハロンで再加速するという、やや特殊なラップ構成だった。
勝ちタイムは、レース史上4番目のタイム。過去最速は、2年前にコントレイルがマークした衝撃の1分44秒5(2歳JRAレコード)で、2位は、2013年にイスラボニータがマークした1分45秒9。
この2013年もかなりの好メンバーで、翌年ダービーを勝つワンアンドオンリーや、後に安田記念を制するサトノアラジンも出走。出走馬15頭のうち、4頭が後に種牡馬となった。
今年は、特筆するタイムではなかったものの、前述のとおり、名牝系出身の馬や兄弟に重賞勝ち馬がいる良血馬が多数出走。イクイノックスはもちろん、2着以下に敗れた馬の今後にも注目したい。そして、まだかなり先の話にはなるが、引退後、種牡馬になるような馬も、この中から数頭出てくる可能性がある。
勝ったイクイノックスに話を戻すと、今年、特に夏以降ブレイクしているのが母の父にキングヘイローを持つ馬。今年だけで7頭が重賞を制し、ディープボンドのフォア賞も含め、これが重賞9勝目。イクイノックスの半兄ヴァイスメテオール(父キングカメハメハ)はラジオニッケイ賞を勝利し、半姉のミスビアンカ(父ロードカナロア)も、日曜日の東京12レースを勝利。2連勝とした。
今年産駒がデビューしたキタサンブラックは、初年度の種付け頭数が130頭と意外と少なく、血統登録されているのは83頭。11月14日時点で、中央の2歳種牡馬リーディングは16位、ファーストシーズンサイアーランキングは4位となっている。
ただ、これまでデビューした35頭中、なんと12頭が勝利。3頭に1頭が勝ち上がるというハイアベレージで、これを上回るのはディープインパクト産駒のみ。種付け料、種付け頭数ともに初年度から下がっている種牡馬キタサンブラックだが、2歳世代の活躍により、来年アップすることは間違いなさそうだ。
また、イクイノックスは前述のとおり母の父がキングヘイローで、その父がダンシングブレーヴという血統構成。他に、9月の新馬戦を勝利したビジュノワールも、母系にダンシングブレーヴを持っている。
一方、父の父であるブラックタイドの弟ディープインパクトも、同じく、ダンシングブレーヴを持つ繁殖と相性が良い。そのため、イクイノックスやビジュノワール以外にも、ダンシングブレーヴを持つ母から産まれたキタサンブラック産駒には、今後も注目していきたい。
写真:かぼす