[重賞回顧]馬の成長に人あり、人の成長に馬あり~2021年・有馬記念~

ファン投票で出走馬が決まるグランプリ・有馬記念は、国内では、ダービーと並ぶ最も有名なレース。国民的行事といっても過言ではないほど人気が高く、GIの中でも、とりわけ重みや存在感を放っている。

その有馬記念は、かつて実力日本一決定戦ともいわれ、スタミナや持久力、底力が問われるようなレース。それゆえ、かつては牡馬が強さを見せていたものの、ダイワスカーレットが牝馬として37年ぶりに優勝すると、2014年にはジェンティルドンナが勝利。リスグラシュー、クロノジェネシスと、直近の2年も牝馬が勝利している。

2021年もフルゲートの16頭が出走し、単勝10倍を切ったのは3頭。中でも、2頭がやや抜けたオッズとなって「二強」の図式となり、1番人気に推されたのは3歳牡馬のエフフォーリアだった。

ここまで、6戦5勝2着1回とほぼ完璧な成績。春は無敗で皐月賞を制し、続くダービーはシャフリヤールの2着と惜敗したものの、わずか10センチの差だった。前走の天皇賞・秋は、そのダービー以来5ヶ月ぶりの実戦となったものの、古馬二強のコントレイルとグランアレグリアに完勝。この有馬記念でGI3勝目なるか、そして、現役最強馬の座につくことができるかに注目が集まっていた。

2番人気は、5歳牝馬で、今回が引退レースのクロノジェネシス。3歳時、秋華賞でGI初制覇を成し遂げると、2020年は宝塚記念と有馬記念を勝利した。迎えた今シーズンは、ドバイシーマクラシック2着を挟んで宝塚記念を連覇し、グランプリ三連覇の偉業も達成。前走の凱旋門賞は7着に敗れたものの、この有馬記念で、史上初のグランプリ四連覇と有終の美を飾ることができるか、大いに注目を集めていた。

やや離れた3番人気にステラヴェローチェ。ここまでGI勝ちはないものの、重賞を2勝し、皐月賞とダービーで3着。菊花賞でも4着と、安定した走りを見せている。クロノジェネシスと同じく、ノーザンファーム生産のバゴ産駒。この大一番で、念願のGI初制覇が懸かっていた。

以下、菊花賞馬のタイトルホルダー、天皇賞・春2着のあと、秋はフランスのフォワ賞を制したディープボンド、同じくキズナ産駒で、エリザベス女王杯を制したアカイイトの順で、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、モズベッロのダッシュがつかなかったものの、ほぼ揃ったスタート。予想どおり、パンサラッサが内枠を利して逃げ、4馬身差の2番手にタイトルホルダー。以下、ウインキートス、シャドウディーヴァ、ディープボンド、ペルシアンナイトと続き、1周目のホームストレッチに入った。

上位人気馬では、クロノジェネシスがちょうど中団7番手の内。その2馬身後ろにエフフォーリアがつけ、ステラヴェローチェが、さらにそこから2馬身差の10番手を追走していた。

1000m通過は59秒5で、平均ペース。先頭から最後方まではおよそ20馬身の隊列となり、レースは向正面に入った。

その後も隊列は変わらず、レースが動き出したのは3コーナーに入ってから。2番手のタイトルホルダーがパンサラッサとの差を詰め、後方各馬もスパートを開始して、馬群はやや凝縮。続く3~4コーナー中間で、エフフォーリアとステラヴェローチェが、クロノジェネシスよりも先に仕掛けて位置が入れ替わる。4コーナーでは、その2頭が前を3馬身ほどの射程圏に捉え、レースは最後の直線を迎えた。

直線に入ってすぐ、タイトルホルダーが単独先頭に。そこへ、エフフォーリアと、内で脚を溜めていたディープボンドが襲いかかり、残り200mで先頭が入れ替わる。ステラヴェローチェとクロノジェネシスも、必死にこの2頭を追ったものの、前との差がなかなか詰まらない。

残り50m。ここで、エフフォーリアがディープボンドを抑えて先頭に立つと、最後まで末脚は衰えず、そのまま1着でゴールイン。4分の3馬身差で、2着にディープボンドが入り、半馬身差の3着にクロノジェネシスが入った。

良馬場の勝ちタイムは2分32秒0。エフフォーリアが、3つ目のGIタイトルを獲得。文句なしに、現役最強馬であることを証明した。

各馬短評

1着 エフフォーリア

横綱相撲で押し切る強い内容。コントレイル、グランアレグリア、クロノジェネシスと、国内のGIを4勝以上している馬たちにすべて勝利。文句なしに、2021年の最強馬であることを証明して見せた。

ポイントになったのは、やはり3~4コーナー中間の勝負所。横山武史騎手が、ゴール前で末脚が鈍ることはないと馬を信じ、ルメール騎手とクロノジェネシスよりも先に仕掛けて自ら勝ちにいき、そのとおり押し切った。

中山、東京と、条件が大きく異なる競馬場で古馬混合のGIを連勝。アーモンドアイですら成し遂げられなかった偉業を、3歳で達成した。年度代表馬の座に近づいたことは間違いなく、順調にいけば、2022年も日本の競馬はこの人馬を中心に回っていく可能性は高い。

2着 ディープボンド

凱旋門賞以来、2ヶ月半ぶりのレースにも関わらず、パドックでは絶好の気配。道中は、中団より少し前のインで息を潜め、直線で急に姿を現わして、あわやの場面を作った。

瞬発力で劣る分、持久力や底力が要求される3000m以上の長距離や、非根幹距離で強さを発揮する。2着に好走した実績のある天皇賞・春や、宝塚記念、有馬記念。他、海外のレース(ヨーロッパ)に参戦した際も、注目したい存在。

3着 クロノジェネシス

調教はあまり動かなかったものの、さすがのところを見せてくれた。ただ、勝負所でエフフォーリアが先に仕掛け、キセキが下がってきたために進路がなくなり、直線もステラヴェローチェにフタをされたのが痛かった。

ただ、この馬が積み重ねた実績の価値は計り知れないほど大きく、今回の敗戦で、その価値が下がることなどあろうはずがない。

初年度の種付け相手は未定とのことだが、父バゴは、ノーザンダンサーやマキャベリアンと同じ牝系の出身。また、その父ナシュワンは、ディープインパクトと同じ牝系の出身。キズナやコントレイルなど、ディープインパクト系の種牡馬を付ければ、サンデーサイレンスのクロス以外にも、ハイクレア5×5の牝馬クロスが発生。当事者でもないのに、配合を考えるだけでワクワクしてしまう。

レース総評

エフフォーリアが人気に応えて快勝。文句なしに、日本一の座に就いた。

近年は、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念の、いわゆる「古馬三冠」にすべて出走する馬は少なく、最強馬を証明するには、そこで少なくとも2勝しなければならない。しかし、エフフォーリアは3歳でそれを達成。しかも、破った相手がコントレイル、グランアレグリア、クロノジェネシスで、なおのことその価値は高い。

血統表には、ロベルト、サドラーズウェルズ、トニービンなど、ヨーロッパの大レースでも力を発揮できそうな血が多く入っている。国内最強は証明されたため、2022年は、海外の大レースに参戦することも期待される。

当のエフフォーリアは、当初、体質が弱かったそうで、調教で動くと体調を崩すことも少なくなかったそう。ところが、皐月賞のあたりからそういった面が改善されて成長し、国内最強馬へと上り詰めるまでになった。

一方の横山武史騎手も、2021年は、エフフォーリアや多くの有力馬とともに度々GIに参戦。この1年で大きく成長した。タイトルホルダーの菊花賞も含め、GIを4勝。これはルメール騎手の5勝に次ぐ2位タイで、28日のホープフルSで並ぶ可能性もある。また、年間100勝も達成し、2年連続の関東リーディングの座も確定させた。

そして、騎乗面での成長はもちろんのこと、一人の人間としても大きく成長。皐月賞での勝利騎手インタビューと、今回の勝利騎手インタビューを見比べても、話し方の違いは明らか。土曜日の新馬戦で騎乗停止処分を受けたとはいえ、先日、23歳の誕生日を迎えたばかりの若者とは思えないほど、落ち着き払っていた。

エフフォーリアと横山武史騎手。互いの存在なくして、互いの成長もあり得なかった。さらにそこへ、鹿戸厩舎のチーム力が合わさって最強の人馬が誕生した、今年の有馬記念だった。

写真:ウオッカ嬢

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