[重賞回顧]偉大な父から受け継がれた確かな能力。産駒初の重賞勝利は父仔制覇に~2022年・京成杯~

3ヶ月後の皐月賞と同じ舞台で行われる京成杯。その皐月賞と、さほど関連戦は高くないものの、古くはクライムカイザーが。そして、2010年の覇者エイシンフラッシュが、京成杯を制した4ヶ月半後、同じ5月30日に行なわれた日本ダービーを制覇している。

また、2004年のレースで3着に敗れたキングカメハメハも、4ヶ月後にNHKマイルカップを勝利すると、やはり5月30日に行なわれたダービーも連勝。故障のため、その年の秋に引退したものの、日本を代表する大種牡馬となった。

2022年は、4年ぶりの多頭数となる16頭が出走。単勝10倍を切った馬が4頭で、やや混戦模様になったものの、1番人気に推されたアライバルのオッズは、その中でも少し抜けていた。

6月東京の新馬戦を完勝後、2ヶ月の休養を経て挑んだ新潟2歳Sは2着に惜敗。ただ、勝ったセリフォスは、続くデイリー杯2歳Sも勝利し、GIの朝日杯フューチュリティSで2着と好走した強豪。今回は、4ヶ月半ぶりの実戦ながらルメール騎手が継続騎乗し、重賞初制覇が懸っていた。

2番人気に推されたのがテンダンス。デビュー戦は2着に敗れたものの、未勝利戦を4馬身差で快勝すると、重賞の東京スポーツ杯2歳Sでも3着に好走した。その実績は明らかに上位で、アライバルと同様、重賞初制覇を狙っていた。

僅差の3番人気に続いたのがヴェールランス。デビュー戦でテンダンスを破ったのはこの馬で、その後、2ヶ月の休養を経て出走したエリカ賞でも、コースレコードとタイム差なしの2着に好走。重賞実績はないものの、実力では上位人気2頭とほぼ互角ではないかと考えられていた。

そして、4番人気となったのがホウオウプレミア。父はロードカナロアで、2代母がGI・2勝のアドマイヤグルーヴというこの超良血馬は、セレクトセール当歳市場で、税込2億9160万円という高値で取引された。8月札幌の新馬戦を勝利後、前走の百日草特別では2着に惜敗。ただ、勝ち馬とは同タイムで、こちらも今回のメンバーでは実績上位。大きな期待を集めていた。

以下、前走の未勝利戦で、着差はわずかだったものの強い勝ち方をしたロジハービン。前走のホープフルSは11着に敗れたものの、ホウオウプレミアを破って百日草特別を勝利したオニャンコポンが人気順で続いた。

レース概況

ゲートが開くと、出遅れのないほぼ揃ったスタート。その中から、わずかに好スタートを切ったオニャンコポンが一瞬いく気を見せたものの、最内枠のニシノムネヲウツが先手を奪った。

タイセイディバインが1馬身差で続き、フジマサフリーダムとテラフォーミングが並走。その後ろを、ヴェールランス、ルークスヘリオス、オニャンコポン、アライバルがそれぞれ半馬身間隔で追走し、そこから2馬身差の中団に、テンダンスとホウオウプレミアがつけていた。

前半1000mは、1分0秒9の平均ペース。先頭から最後方のトゥーサンまでは、15馬身ほどの隊列となった。

その後、先行各馬の並びに大きな変化は無かったものの、3コーナーに入る直前。後ろから3番手にいたロジハービンが中団まで上昇すると、後方各馬も3~4コーナー中間でスパートし、馬群はやや凝縮。続く4コーナーでは、前の11頭がおよそ4馬身の圏内にひしめき合い、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に入ると、タイセイディバインがニシノムネヲウツを交わそうとするところ、まくってきたロジハービンが一気に先頭へ。そこに、外からオニャンコポンと内をこじ開けるようにして伸びてきたテンダンスが襲いかかり、さらにその後ろからヴェローナシチーとアライバルが迫ってきた。

坂を上って、残り100m。今度は、勢いに勝るオニャンコポンがロジハービンをかわして先頭に立つと、そのままリードを広げ見事1着でゴールイン。1馬身4分の1差でロジハービンが2着となり、ヴェローナシチーが3着に続いた。

良馬場の勝ちタイムは2分1秒3。ホープフルSから中2週で出走したオニャンコポンが、巻き返して重賞初制覇を達成。これが、エイシンフラッシュ産駒の重賞初勝利となり、京成杯は父仔制覇となった。

各馬短評

1着 オニャンコポン

ホープフルSでの11着から見事に巻き返したが、その裏にあった菅原明良騎手の好騎乗は見逃せない。

わずかに好スタートを切ったことで、好位を確保することに成功。勝負所で有力馬を先に行かせ、一時は10番手まで下がったものの、そこで溜めを利かせたことで、メンバー唯一となる34秒台の末脚を引き出した。

父エイシンフラッシュは、レース史上最速の上がり32秒7でダービーを制したが、本来は非常に前向きな気性の持ち主。馬術経験者が多数揃う藤原厩舎で我慢を覚える調教が施された結果、驚異的な瞬発力が発揮された。

ほとんどのエイシンフラッシュ産駒に驚異の瞬発力というイメージは当てはまらないが、オニャンコポンは、2走前の百日草特別でも上がり33秒7の末脚で勝利している。これでダービーの有力候補になったとはいえないまでも、2020年の同レースの勝ち馬はエフフォーリア。展開が向けば、まず皐月賞での一発があってもおかしくない。

2着 ロジハービン

外枠からのスタートで、序盤は後方からの競馬。早目に仕掛けた分、最後オニャンコポンに掴まってしまったが、決して止まったわけではなく、最も強い競馬を見せたのはこの馬だったかもしれない。

コーナーでも長続きする末脚が武器で、やはり中山コースが向くタイプ。皐月賞以外にも、弥生賞やセントライト記念。そして先にはなってしまうが、1年後のアメリカジョッキークラブカップなどに出走してきた際は注目したい。

3着 ヴェローナシチー

直線、内を突こうとして進路がなくなったものの、馬場の真ん中に持ち出されると、アライバルとの追い比べを僅かに制して3着を確保した。こちらも、おそらくロジハービンと同様、息の長い末脚が持ち味。東京よりも、中山や阪神の内回りが向くタイプではないだろうか。

また、気難しい面を持つエピファネイアの産駒でありながら、中2週での関東遠征をクリアした点は大きい。ただ、ここからさらに続戦となると、次走1勝クラスのレースに出走したとしても、確勝とは言い切れない。

レース総評

前半1000m通過は1分0秒9で、同後半は1分0秒4。5ハロン目こそ13秒0とかなり遅くなったものの、そこから残り1ハロン(1800m)までは加速し続けるラップだった。

その中で、唯一34秒台の末脚を発揮したオニャンコポンと、ロングスパートで勝ちにいった2着ロジハービンは、強いレースを見せたといえるのではないだろうか。

前述したとおり、これがエイシンフラッシュ産駒の重賞初勝利。そして、京成杯父仔制覇となったが、12月以降、この系統から重賞勝ち馬が続々誕生している。

まず、ステイヤーズSを制したのは、エイシンフラッシュと同じキングズベストを父に持つワークフォース産駒のディバインフォース。その翌週、キングズベスト産駒のショウナンバルディが中日新聞杯を制し、さらにその翌週に、同産駒のミスニューヨークがターコイズSを勝利。そこから3週間は重賞勝ちが無かったものの、キングズベストを父に持つエイシンフラッシュ産駒のオニャンコポンが、京成杯を制した。

一方、オニャンコポンの母の父は、3歳で皐月賞と有馬記念を制し、その後日本調教馬として初めてドバイワールドカップを制したヴィクトワールピサ。母の父にヴィクトワールピサを持つ馬は、現4歳世代に10数頭いるものの、本格的に多くなったのは現3歳世代から。

阪神ジュベナイルフィリーズで2着に好走したラブリイユアアイズや、ホープフルSにも出走したクラウンドマジック。さらに、エリカ賞は6着に敗れたものの、1番人気に推されたアートハウスや、そのときの2着で京成杯にも出走していたヴェールランスなど。オニャンコポン以外にも、これからの活躍が見込めそうな3歳馬が多数いる。

父と母の父。そして2021年に75勝を挙げた主戦の菅原明良騎手など。オニャンコポンを取り巻くのは、まさに今、非常に勢いのあるファミリーと若手のホープ。アカン語で「偉大な者」という馬名の由来どおり、その勢いに乗って偉大な父に並び、超えていけるか。オニャンコポンの今後の活躍から、目が離せない。

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