[連載・馬主は語る]厳選された5頭(シーズン1-26)

熱狂と苦悩の中から、最終的にピックアップした5頭を以下に挙げておきます。あとから、「あの馬も良いと思っていたのに」と言い訳しないようにと、忘備録として自分のために残しておくつもりです。

20番 グリントオブライト(父ステイゴールド)8歳

受胎種牡馬 ナダル 販売希望価格700万円

価格など関係なしに買えるのであれば、この馬がいちばん良いと思いました。現役時代は420kgでデビューして、4戦目で勝ち上がり、少しずつ馬体重を増やしながら6歳まで走り、通算26戦3勝。芝の2200mで2勝、2400mで1勝を挙げているように、スパッと切れるというよりは、長く良い脚を使うスタミナが豊富でタフなタイプの馬でした。

馬体重こそ決して重くはないのですが、胸も深くて、トモの実の入りも良く、ステイゴールド産駒らしい強靭な筋力を秘めた馬でした。ステイゴールド肌は産駒が小さく出たり、気性が激しかったりするので生産者は嫌うという声もありますが、この実績とまだ8歳という年齢を考えると、相当な価格に跳ね上がるはずです。万が一、誰も手を上げないようでなければ落とせないと見込んでいますので、この馬は半ばあきらめるというのが実際のところでしょう。

25番 ノーブルワークス(父ワークフォース)5歳

受胎種牡馬 リーチザクラウン 販売希望価格300万円

途中まで見落としていて、最後に急浮上させた馬です。父ワークフォースという血統が魅力的に映らなかったのですが、この馬の戦績を調べてみると、452kgでデビューして4戦目の芝1200m戦で勝ち上がり、8戦目でこれまた芝1200戦で2勝目を挙げています。通算10戦2勝。ワークフォース産駒にもかかわらず、スプリント戦で活躍したのは、おそらく父の父キングズベスト譲りの気性の激しさゆえでしょうか。ワークフォース肌は気性難が多いので生産者が嫌うという声があることとつながっていますね。ノーブルワークス自身は、どんなレースでも渋太く伸びるレース振りで、秘めたるスタミナも感じさせていました。馬体的にも胸が深く、トモにも実が入って、力強い体躯を誇っています。産駒に気性の激しさが伝わりすぎなければ、血統的にはもちろん、府中の2400mをこなせる母系なのではないかと思います。

29番 ダートムーア(父クロフネ)13歳

受胎種牡馬 ニューイヤーズデイ 販売希望価格 400万円

高齢であることが唯一のネックですが、ダイナグルーヴの牝系であり、全兄にはフラムドパシオンがいる走る系統です。何よりもダートムーア自身がダートの1800mで4勝を挙げ、エンプレス杯でも3着したように、重賞クラスの競走馬でした。馬体を見ても当然のことながら胸が深く、トモの実の入りは素晴らしく、骨格が大きい肉体でした。かといって、牝系的にはダート馬ではなく、種牡馬次第では芝も走りそうな魅力的な繫殖牝馬ですね。5歳まで現役生活を続けてから繁殖入りしたので、まだ6頭しか産駒がおらず、いずれも期待どおりの成績を上げられていないのですが、見限るのは早すぎるかもしれません。毎年、受胎しているように、繁殖牝馬としても軌道に乗りつつある時期と考えることもできますね。とはいえ、年齢が年齢だけに、あと何頭かしか生むことはできないのは確かです。年齢以外の全ての要素はクリアしています。

50番 アメリカンウェイク(父ハーツクライ) 5歳

受胎なし 販売希望価格100万円

現役時代の馬体を見ると、圧倒されるほどのパワフルさで、胸の深さもトモの実の入りも全く問題ありません。500kg前後の馬体重で走っているように、単純な馬体の大きさで言うと今回の70頭の中でも抜けています。あえて言えば、首が短いので太く窮屈に見えるぐらいでしょうか。それ以外のパーツは力強さにあふれ、ハーツクライ産駒らしく胴部にも伸びがあります。ダービー馬の母馬としては不足はありません。芝のマイル戦で勝ち上がり、その後、脚元の怪我と戦い、好走はしつつも勝ち切れず、最後はノド鳴りで引退しました。通算16戦1勝。ハーツクライ自身がそうであったように、産駒にはノド鳴りが遺伝することもあるため、繫殖牝馬としてはそこが怖いところでしょうか。

51番 エトワール(父ハービンジャー)5歳

受胎なし 販売希望価格100万円

未供用馬の中では、この馬が最も良いと考えています。現役時代は450kgでデビューして、4戦目の芝2000m戦で勝ち上がり、それからさらに4戦目で1勝クラスを卒業しました。晩年は馬体が絞り切れずに馬体重が増えすぎた面もあるかもしれませんが、引退レースは498kgで走ったように、ハービンジャー産駒らしく成長力のある頑丈な馬体を誇る馬でした。もちろん、胸は深く、トモにもきっちりと実が入った立派な馬体。スパッと切れるタイプではなく、ジワジワと伸びて渋太いレースをしました。通算17戦2勝。母系は近藤オーナーゆかりの血統であり、ご存命であればセリには出てこなかったかもしれません。血統的にも馬体的にも、戦績的にも文句なしの1頭です。

あなただったら、どの繫殖牝馬を狙いますか?

繫殖牝馬の年齢に関して言うと、やはり若い方が良いです。今の時代、子どもをつくるならば若い方がいいよなんて言うと怒られてしまいますが、繫殖牝馬を買うならば若い馬が良いはずです。なぜならば、生物的にどうしても妊娠・出産可能年齢というものがあり、若い馬に比べて高齢の繫殖牝馬は今後生むことができる頭数が少ないからです。初仔は小さく出るから、2、3番目の仔が良いとか、高齢の繁殖牝馬の産駒は走る仔が統計的に少ないとか、そういう走る走らない議論の前に、単純に生産者にとって高齢の馬からは取り上げられる頭数が少ないというデメリットがあるのです。もし素晴らしい産駒が出たとしても、年齢のために受胎できなければ市場価値を失ってしまいます。一発屋で終わってしまうのであれば、牧場を支える基幹繁殖牝馬にはなれません。長い目で見れば見るほど、せっかくならば若い繁殖を手に入れたいと思うのは生産者ならば当然のことではないでしょうか。だからこそ、高齢の馬は比較的安価で手に入れやすいということでもあるのですが。

翌々年のセリで売ることを考えれば、人気の種牡馬が配合されていることが望ましいでしょう。生産者にとって、馬が売れないことは死活問題になりますので、2年後にトレンドになっているような種牡馬が配合されていれば、高く売れそうだということで飛びつきたくなるはずです。たとえば、2021年で言うと、レイデオロやサートゥルナーリアを受胎している繁殖牝馬は高くなるでしょうし、早世したドゥラメンテをお腹に宿している繫殖牝馬は価値が上がるはずです。僕にとっては、セリで馬を高く売るということよりも、生産馬がダービーを勝つことの方が重要なので、目先の利益を求める争いには参加することはありません。それが悪いということではなく、目的が少し違うということであり、そもそもその争いに挑むには僕の予算では少なすぎます。

そういえば、今回の予算について書いていませんでした。何の根拠があるわけではありませんが、大体500万、頑張って600万円ぐらいで予定しています。繁殖牝馬にも消費税がかかりますので、500万円の馬を買っても550万円を支払わなければいけませんし、各種保険をかけたりするとすぐ600万円になってしまいます。特に高齢の繁殖牝馬は、環境が変わることで、お腹に宿っていた仔が流れてしまうことは多々あるそうなので、保険をかけておくことは必須になります。その繫殖牝馬自身の生命保険もそうですし、仔が生まれたらその当歳も保険に入れなければならず、お金がかかるのです。

繁殖牝馬は買ってしまえば終わりですし、保険もかければ終わりですが、実は繁殖牝馬を買ってから掛かり始めるランニングコストの方が負担になります。牧場に預託するための預託料として、牧場によって多少の違いはありますが、およそ10万円以上/月を払い、子どもが生まれると当歳の間はおよそ3万円以上、1歳になるとおよそ7万円以上/月になりますから、今年は月10万円以上でも、来年は月13万円以上になり、再来年にまた子どもが生まれたら月20万円以上になります。年間240万円以上。それに加えて、怪我をすれば獣医師の診療費や治療費など、その他もろもろ。買っておしまいという訳にはいかず、かといってもうやーめたと言ってリセットボタンを押すわけにもいかないのが責任重大なところ。これを書いている時点で気が重くなってきました。

(次回に続く→)

あなたにおすすめの記事