こんにちは。徳澤泰明です。
今回は、馬や競馬をモチーフにした作品で活動されている「susitore」さんと「モトイチ」さんをご紹介します。お二人は10年以上にも及ぶ旧知の仲でありながら、なんと実際にお会いするのは今回のインタビューが初めてとの事。
お二人の歴史はもちろん、お互い聞きたかった事・伝えたかった事、これから思い描いている事など、盛り沢山な内容となっております。
それでは、いってみましょう!
時は2010年に遡り…
筆者:本日は宜しくお願いします。聞きたい事も多く、どんな質問でも奥行きのある話に繋がっていきそうで、今日はもう始まる前からいくら時間があっても足りないような気がしています。
まず、お二人の出会いというか、お互いを認識し始めたのはいつ頃なのでしょうか。
susitore:2010年まで遡るのですが、イラストコミュニケーションサイトの「pixiv」にお互い馬の絵を投稿していて、モトイチさんが描いたアパパネのイラストに「10点満点」をつけたのが最初だったと思います。それから、イラストのリクエストに応えて頂いたり、コメントを送り合うようになりました。
モトイチ:アパパネのイラスト、懐かしいです。あったなぁ。
susitore:あと、モトイチさんが「ア」から「ン」までの頭文字の馬のイラストを集めて公開する企画を開催していて、そこに参加したりもしました。
モトイチ:それも懐かしい! 「競走馬あいうえお絵描き」。
susitoreさんは、「ス」のスシトレインを描いてくれましたね。
筆者:もしかして「susitore」って、スシトレインから来ているのですか?
susitore:そうです。スシトレインのレース(ヒヤシンスS)を見た時、単勝オッズ1倍台前半の1番人気だったのに最下位で負けたのが印象に残っていて。期待通りに行かない姿に何か自分の人生を重ねちゃって、「似ているところがあるかもな」と。
筆者:でも、人気は他人が決めるものですし、「期待外れ」というのは、自分のありのままを貫いた結果というか、良い意味でも捉えられますよね。
susitore:いや、ネガティヴな意味そのままに付けました(笑)
筆者:そうですか、失礼しました……(笑)
モトイチ:あ、このイラストですね。
筆者:susitoreさんが馬の絵を公開するようになったのは、pixivからですか?
susitore:最初は「お絵かき掲示板」を使って交流できるWebサイトで、ファンタジー系ゲームのキャラクターのイラストを投稿していました。競馬を始めてからは、pixivに馬のタグがあったので、そっちに移っていきました。
モトイチ:TwitterのようなSNSが今ほど普及していなくて、ネット上で馬を描く絵描き同士のコミュニティもあまり無かった時代ですよね。馬のタグは有り難かったです。
susitore: Twitterに移ってからは広範囲から反響を得られるようにもなりました。色々な方からイラストを依頼していただけるようになり、ローレルクラブの年賀状のイラスト、募集馬カタログの封筒なども描かせていただき、今では所属馬の缶バッヂ等も描かせていただいています。
筆者:私もあの封筒が欲しくてカタログの請求をしようかと思ったくらいです。
susitore:資料請求の「ご覧になった媒体」という項目で、私の名前を書いていただいた方もいたようで嬉しかったです。
筆者:モトイチさんは、絵を投稿するようになったのはpixivからですか?
モトイチ:そうですね。ただ、絵そのものは小さい頃から色々描いていました。
susitore:絵を描く人って、「その時好きなものを描く」みたいなところがありますよね。ゲームが好きな時はゲームを描くし、馬が好きな時は馬を、と。
モトイチ:そうですね。なので、私は小さい子に「プリキュア描いてー」とか言われても全然上手に描けないんですよ。物心ついた頃から動物が好きで、一緒にもいたので、動物はずっと描いていました。理由は分からないのですが、中でも特に馬が好きでした。
筆者:以前、乗馬のインストラクターもされていたんですよね。
モトイチ:はい。随分前ですが、小さい頃から「動物関係の仕事をしたい」という夢もあって。学校も、騎手過程とか厩務員過程の資料を取り寄せたりもしました。取り寄せるだけでしたが(笑)
馬の絵を描く面白さ
筆者:馬を描いていて良かったなと感じた事があれば、教えて下さい。
モトイチ:ちょうど今日みたいに、馬の絵をきっかけに競馬やイラスト、ゲームなど「好きなこと」を共有できる人との繋がりが広がっていく事ですかね。
あと、あまり多くはないのですが、私の絵を見て「ゴールドシップを好きになりました」とか、「ちょっと競馬に興味が出ました」とか、お声かけいただける時も嬉しいですね。
susitore:私は、他の描き手さんの絵を見て「この人はこんな風に描いている。自分はこう描こう」とモチベーションが上がったり、Twitterなどで多くの方に見ていただいたり、「一緒に競馬を楽しめている」のを強く感じられるところです。
あと、依頼されて描く物は別として、基本的には自分のために、自分本位の趣味で絵を描いているのですが、それを見た人が共感してくれたり、一口クラブの馬だと「出資馬を描いてくれて嬉しかったです」と言って下さったりと、そういう反響も嬉しいです。
筆者:自分が思っている以上に大きく受け止めていただける事も少なくないでしょうね。
susitore:はい。絵を見た時に抱く印象は人それぞれ違って、全部その人の物になると思っています。
以前、有馬記念に出走する全頭を描いた事があって、バビットが「食べ物を皆に取り分けている」シチュエーションを描いたんですよ。そしたら、そこに理由を追加して「一番年下だから皆に取り分けているんだ」と思ってくれた人もいれば、「逃げ馬だから最初に食べようとしている」と感じた人もいたようで。それはその人の解釈で、見た人の感性やどういうものに触れてきたかで変わってくるのが当然で、どれも間違っていないというか、だから面白くて。描いたこちらも勉強になっています。
筆者:受け取る方の諸々も、ある意味、描くのと同じく「創造」ですもんね。描き手が分かりやすくヒントや記号のようなものを置いて、受け取る人と通じ合う「対話」のような楽しみもあれば、思いがけない受け取り方が生まれて、逆に描き手の方に刺激的な形で返ってきたり。私は絵を描けないのですが、面白そうだなと、羨ましい気持ちがあります。
モトイチ:狙って描いたところがバチッと伝わる嬉しさも、確かにありますね。例えば私はゴールドシップって腹黒い馬だと思っていて。芦毛なのですが、あえて真っ黒に描いてこそ「ゴールドシップだ」と伝わるというか。正直、受け取り方の感性まで責任を持ちきれないところもありますが、面白いなと思いますね。
お互いの絵の魅力
筆者:お互いの絵の魅力、好きなところってどういうところですか。
susitore:モトイチさんの絵は、力強くて勢いがあります。大胆な遠近法で、飛び出してきそうな絵。また、馬の個性がハッキリ描き分けられているので見ていて楽しいです。
筆者:「大胆な遠近法」という言葉がまた、描き手ならではというか、良い表現ですね。言ってみたいです。
susitore:表現、どんどん使ってください。笑
モトイチ:susitoreさんの絵は、優しいタッチが素敵で、可愛らしさとユーモアが詰まっています。
前にうかがった事があるのですが、馬を描く際に念入りに下調べをしているそうなんです。絵に賭けるその情熱がアイデアのバリエーションに繋がっている事はもちろん、多くの人の目に触れる上での配慮も欠かさないからこそ、あの可愛らしさとユーモアが同居した優しい絵になるんだなぁと、いつも感心しています。
susitore:有り難うございます、嬉しいです。馬名の意味や血統表はまず見ますし、競馬雑誌も買ってきて読みます。知らない事を知るのが面白くて、調べる事は沢山しています。
そんなに調べているのに、思い入ればかり強まっちゃって、馬券は全然当たらないんですけどね。
お互い聞いてみたかった事、今後やりたい事
筆者:お互い、この際聞いてみたい事があれば、是非どうぞ。
susitore:幼い頃から馬や動物が身近な存在というのは、絵を描く時にどう活かしていますか。
モトイチ:これはあくまで個人的な感性ですが、馬って冷静にみるとブサイクな生き物だと思っています。鼻の穴は大きいし、黒目は横についてるし、何といっても馬面ですし……。なので、自分のフィルターで変に美化というか、カッコ良さを付与しないようにしています。
私は、「マキバオー」のつの丸先生のタッチが凄く好きで。汗も鼻水もビャーって出てるし、モブは素っ裸だし、でも、それでカッコ良く見える。ストーリーとかキャラ付けで魅せるというか、泥臭い絵の中にカッコ良さが詰まっているというか。ああいう風に描きたいと思っています。
筆者:あと、モトイチさんは馬具なども細かく、リアルに描いていますよね。
モトイチ:省略して描く事も多いですが、知っているからこそボヤっと描けないというか、忠実に描きたいなとは思います。
susitore:前にpixivに載せていた「頭絡の構造」も分かりやすかったです。これまで、写真などで見ても分かりにくいものだったのですが。
モトイチ:頭絡については、馬の絵を描く方は、北海道などで買ってみるのも有りかなと思います。ビニール製、フェイクレザーのものなら1万円くらいで買えます。
susitore:影響を受けた作家さんはいますか。
モトイチ:まずは先ほどの、つの丸先生ですね。あと、ディズニーが描く動物は好きです。自分の絵柄には出ていませんが、影響は受けています。リアルすぎず、キャラクター化されすぎず。デフォルメのバランスというか。
あとは、アニメやゲームを色々見る中で、「これはいいな」と思ったのを真似てみたりしています。
モトイチ:susitoreさんは、どんなゲームがお好きなんですか?
susitore:アクションとかレースは苦手なのですが、RPGが好きです。待ってもらえるというか、自分のペースで進められるので。ゼノギアス、クロノ・クロス、クロノ・トリガー、ファイナルファンタジーなどが好きです。でも最近は時間的な制約もあってなかなか腰を据えて出来ないので、スマートフォンアプリの「すみっコぐらし 農園つくるんです」をやっています。
モトイチ:susitoreさんのグッズが欲しいんですが、今後出す予定はありますか。
susitore:実は、マスコットをハンドメイド・手縫いで作ろうかなと思っていて。フェルトや綿など、材料は買ってきていて家にあるのですが、一年以上放置している状態です。えんぴつキャップのような小物だったら、自分の技量でもできそうだなと。
モトイチ:業者に委託などはしないのですか?
susitore:はい。業者の委託では出来るのかも分からないので、自分でやっちゃった方が早いかなと。最近やっていませんが手芸は好きな方で、実は横断幕も手縫いで作っています。
筆者:手縫い!? 凄いですね!
susitore:「もう明日出走だ~!」って徹夜で作ったり、大変ではあるんですが。なので、自分の出資馬が短い名前になるとちょっとだけ嬉しかったりします(笑)
モトイチ:susitoreさんの絵はフォルムも作りやすそうで、立体にすると更に可愛くなる・立体にするべきだと密かに思っていました。
筆者:モトイチさんは、今後何かやりたい事などありますか。昨年開催されていたWEBイベント「ウマーケット」の次回予定などがあれば、聞かせていただきたいです。
モトイチ:直近の予定として、夏の終わりか秋の初め頃に二回目の「ウマーケット」を開催したいと考えています。秋のGⅠシーズンに入っちゃうと、馬の民達は色々ドタバタしちゃうので(笑)
筆者:昨年のウマーケット、素晴らしかったです。susitoteさんも含めて、多くの馬の絵描きさんが出展されていて、お客さんも、目当てのお店以外にも自然と立ち寄って、それまで知らなかった絵描きさんを新たに好きになったり。WEBという事もあり、絵描きさんにとっても見る人にとっても、斬新な交流の場だったと思います。
表現として合っているのか自信ありませんが、「コミケを好きな人が実現させた企画」という感じがしました。私自身はコミケに行った事ないのに恐縮ですが、「コミケってこんな感じなのかな。行ってみたいな」とまで思いました。
モトイチ:それは主旨と一致した感想なので、嬉しいですね。元々私はコミケに参加していて、馬のブース等で出展していたんです。でも、コロナ渦でイベントが開けなくなって。別ジャンルのものをWEBでやっていた経験もあったので、「馬でも出来るかな」とやってみた感じです。「皆で絵を描こう」みたいな小さいところからの延長線ではあるのですが。
筆者:馬がカタカタ走るアナログのオモチャを使って、マーケット開催中に架空の馬名を募集してWEBで擬似競馬を行ったり、アイデアや仕掛けの一つ一つからも主催者の意思のようなものが感じられて好感を持てました。
モトイチ:特にそういう仕掛けを設けず、それぞれが好きな時間に出入りするだけでも成立しますし、やるかやらないかは好みの話なのですが、「何かあった方が楽しいだろうな」と。
筆者:あの疑似競馬があったから、「出展者とお客さんが概ね同じ時間に同じものを見る」という連帯感や、企画全体のメリハリが生まれたような気がしています。
夏祭りの盆踊りみたいに、「焼きそば食べに来た人も、ナンパしに来た人も、絶対ここでは全員集まる!」というか。
モトイチ:実はあのオモチャ、もう一台あると18頭立てのフルゲートになるんですよね。でも、頭数が増えると結構やるのが大変で。動かなくなったり、倒れちゃったり。
筆者:リアルというか、競走中止の馬まで出ちゃうんですね……(苦笑)
モトイチ:実際やると大変な事も色々あって、一人だと煮詰まってしまうので、またsusitoreさんにも色々お手伝いいただけると助かります。
susitore:是非! 何でも仰って下さい。
モトイチ:あとは、ウマーケットの準備を進めつつ、また大きなレースに出走する全馬のイラストを募集するとか、皆でワイワイお絵描きをするような企画もしていき、自身の創作品も増やしていきたいです。
また、これはいつになるかは分かりませんが、いつかアナログで馬のゲームを作りたいとも思っています。カードゲームとか、サイコロで駒を進めたりとか、何でもいいのですが。これだけゲームが好きなので。
susitore:モトイチさんが作るゲーム、やってみたいです。
モトイチ:私も、susitoreさんのグッズ化、凄く楽しみです。
筆者:楽しい予定や想像を沢山聞けて、私までワクワクしています。
モトイチさんは日頃から私の妻が週3〜7日とか、キセキもビックリなハイペースでオンラインゲーム等で遊んでもらっていて。susitoreさんも、徒歩7〜8分で行けちゃうくらい家が近い事が最近分かって。これからもお二人の一ファンである事はもちろん、一緒に何か楽しい事をしていけそうな予感もしています。だからこそ今日、こうして改めてお二人のこれまでの活動や今後の展望などについて伺う事ができ、とても楽しい時間になりました。
本日は貴重なお時間、有り難うございました。
モトイチ・susitore:有り難うございました。
お二人の作品や活動
モトイチさん
・Twitter
https://twitter.com/motoichi561
・pixiv
https://www.pixiv.net/users/679243
susitoreさん
・Twitter
https://twitter.com/susitore
・susitore online shop
https://susitore.booth.pm/