[重賞回顧]長欠明けもなんのその 偉大な父と兄に続く大物へ、刻は来た! ~2022年・鳴尾記念~

6月に時期が移行され、宝塚記念の前哨戦のような立ち位置となって11年目を迎えた鳴尾記念。その間、このレースから本番を制したのは、2015年のラブリーデイのみ。とはいえ、2021年のユニコーンライオンをはじめ、3頭が2着。1頭が3着に好走するなど、しっかりと役目を果たしている。

10頭立てとやや寂しい頭数にはなったものの、いわゆる渋いメンバーが顔を揃えた2022年の鳴尾記念。それだけに人気は大きく割れ、半数以上の6頭が単勝10倍を切る大混戦となった。

その中で、1番人気に推されたのが4歳馬のカイザーバローズ。父ディープインパクト、母の父ストームキャットという、活躍馬が続出している血統構成を持つ本馬は、重賞に初挑戦した前走の新潟大賞典で2着に好走。これまでの全4勝中3勝と相性抜群の川田騎手に手綱が戻り、重賞初制覇が期待されていた。

これに続いたのが、5歳馬のヴェルトライゼンデ。ホープフルS2着、ダービー3着とGIでの実績は十分ながら、ここまで重賞は未勝利に終わっている。昨春に屈腱炎を発症し休養していたため、今回は1年4ヶ月ぶりの実戦。それでも鞍上にはレーン騎手を迎え、復帰初戦から、念願の重賞タイトルを狙っていた。

僅差の3番人気に推されたのが、7歳馬のサンレイポケット。昨年の新潟大賞典で初めて重賞を制した晩成タイプで、その後、天皇賞・秋、ジャパンCという、GIの中でも特に格式の高いGIで連続して4着に好走した。前走の金鯱賞は7着に敗れたものの、全5勝中4勝を左回りであげているサウスポー。2つ目のタイトル獲得なるか、注目を集めていた。

そして、4番人気となったのがジェラルディーナ。父モーリス、母ジェンティルドンナとも年度代表馬に輝いた実績を持つ現役屈指の良血馬は、ここまで重賞で3戦し、4、4、6着とあと一歩のレースが続いている。それでも、近2走は上がり最速をマークするなど見せ場は十分。上位人気2頭と同様に、この馬もまた重賞初制覇を目論んでいた。

以下、前走の阪神大賞典で6着に逃げ粘ったキングオブドラゴン。2021年のこのレースで2着となり、同じコースで重賞を制した実績を持つショウナンバルディの順に、人気は続いた。

レース概況

ゲートが開くと、10頭ほぼ揃ったスタートから、キングオブドラゴンとショウナンバルディが先手争い。その中から、枠なりでキングオブドラゴンがハナを切った。

ショウナンバルディから2馬身離れた位置にギベオンがつけ、馬体を併せるようにヤシャマルが4番手。そこからまた2馬身開いて、カイザーバローズ、ヴェルトライゼンデ、ジェラルディーナ、サンレイポケットの上位人気馬が中団を形成し、アドマイヤジャスタが後ろから2頭目。さらにそこから5馬身離れた最後方を、パトリックが進んでいた。

1000m通過は、1分0秒1のスロー。中間点を過ぎたところで、パトリックが前との差を少し詰め、先頭から最後方までは10馬身以内となって3コーナーに進入。その後、勝負所を迎える直前でペースは上がったものの、前4頭、中団4頭、後方2頭の隊形は大きく変わることなく、全馬がほぼ一団となって、レースは最後の直線勝負へと移った。

直線に入ると、キングオブドラゴンがリードを再び広げにかかって、坂を駆け上がる。ショウナンバルディは失速し、代わりに追ってきたのがギベオンとヴェルトライゼンデ。その後、残り100m地点でヴェルトライゼンデが単独先頭に立ち、後続をジリジリと引き離しにかかる。

2番手争いは、ギベオンが粘ろうとするところへ、サンレイポケットとジェラルディーナが襲いかかり、中でもジェラルディーナの末脚が鋭く、先頭にまで迫る勢い。それでも、最後はその追撃を僅かに凌いだヴェルトライゼンデが粘り切って1着でゴールイン。2分の1馬身差の2着に、同じ勝負服のジェラルディーナが続き、アタマ差の3着にサンレイポケットが入った。

良馬場の勝ちタイムは1分57秒7。長期休養明けを克服したヴェルトライゼンデが待望の重賞制覇を飾り、前走から中495日での平地重賞勝利は、これまでの最長記録を更新。

また、管理馬がこの日3戦3勝。土日で計4勝とリーディングを独走する池江泰寿調教師は、実に6度目の鳴尾記念制覇となった。

各馬短評

1着 ヴェルトライゼンデ

道中はちょうど中団のインでじっと待機し、折り合いも問題なし。

その後、直線に入って馬場の中央に持ち出され加速すると、減速要素に強いステイゴールド系らしく坂の途中で末脚は衰えることなく、坂上で先頭に立つとそのまま押し切った。

半兄に、重賞2勝のワールドエースやGI2勝のワールドプレミア(ともに種牡馬)がいる良血。

今後は、脚元の状態を確認してからと慎重ではあるものの、5歳馬ながらこれがまだ10戦目。
大舞台で再び活躍する日がやって来ても、なんらおかしくない。

2着 ジェラルディーナ

古馬混合の重賞4戦目にして、ついに連対。しかも、勝ち馬に僅かのところまで迫る惜敗だった。

3勝目をあげた西宮Sがあまりにも鮮やかな差し切り勝ちだっただけに、瞬発力タイプの見方もあったが、おそらくは父モーリスに似た持久力タイプ。賞金が足りない可能性、そして距離も長い可能性はあるものの、阪神の内回りで行なわれるエリザベス女王杯に出走が叶えば、相手には付け加えたい存在。

3着 サンレイポケット

またしても相手なりに好走し、しっかりと3着を確保。勝ちきれない反面、常に安定して能力を発揮できるのが、この馬の強みではないだろうか。

そういった意味で、宝塚記念に出走してきた際は、勝ち切るまでは難しくても、2、3着はあってなんらおかしくない。

レース総評

前半1000mは1分0秒1。最初の2ハロン目以外は、すべて12秒台と遅い流れだった。

しかし、後半1000mは一転してすべて11秒台のラップで57秒6。早い脚を長続きさせなければならない、厳しい展開だった。

これを見て思い出したのが、2月の京都記念。前半スローで逃げたアフリカンゴールドがロングスパートをかけ、後半1000mを57秒5でまとめたレースである。

さすがに、最後の200mは12秒1を要したものの、ステイゴールド産駒のアフリカンゴールドは、坂でそれほど大きく減速することなく逃げ切り勝ち。2着にも、同じくステイゴールド系のオルフェーヴル産駒タガノディアマンテが入り、3、4着が今回の2、3着馬。サンレイポケットとジェラルディーナだった。

そして今回。奇しくもこの2頭に先着したのは、オルフェーヴルの全兄ドリームジャーニーを父に持つヴェルトライゼンデ。もちろん、これまでのヴェルトライゼンデの実績を思えば、この日の結果は京都記念と偶然一致したわけではなく、必然だったのかもしれない。しかし、坂のあるコースでロングスパート合戦になりそうなレースに今回の上位3頭が出走してきた際は、常にマークしておいた方が良いのかもしれない。

写真:俺ん家゛

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