[重賞回顧]難病を克服した逸材が、夏のマイル王へ価値ある重賞初制覇~2022年・関屋記念~

新潟競馬場の外回りコースを舞台に行われる、サマーマイルシリーズ第3戦の関屋記念。ワンターンで直線の長いコース形態からか、東京競馬場や京都競馬場で行なわれるGIと関連性が深い。

それを裏付けるように、当レースで連対を果たしたダイワメジャーやカンパニー、ジャスタウェイ、ダノンシャークは、後に安田記念、天皇賞・秋、マイルCSなどのビッグレースを勝利。また、2021年の勝ち馬ロータスランドは、高松宮記念で僅差の2着に惜敗したものの、このレースの新たな進路を示し、同馬の3着に敗れたソングラインは安田記念を勝利。見事、マイル王の座に就いた。

後のGI馬を多数輩出してきたとはいえ、例年、混戦模様の関屋記念。2022年は、4年ぶりのフルゲート割れで14頭立てとなったが、やはり混戦で、単勝10倍を切ったのは4頭。いずれも5倍前後のオッズとなり、卍巴の様相を呈していた。

その中で、1番人気に推されたのがウインカーネリアン。皐月賞で4着に好走し、早くから才能の一端を示していた本馬。その後、4歳春に3勝クラスを卒業したものの、ダービー卿CTを挫石で取り消すと、難病の蹄葉炎を発症。1年の休養を余儀なくされてしまった。それでも3走前に復帰すると、前々走の谷川岳Sと前走の米子Sを連勝して完全復活。今回は、3連勝と重賞初制覇。そして、サマーマイルシリーズの2勝目を狙っていた。

票数の差で2番人気となったのがダノンザキッド。2歳時にはホープフルSを無敗で制し、クラシックでの活躍が期待されるも、皐月賞は15着に大敗。さらにその後、骨折が判明し、ダービーに出走することは叶わなかった。それでも、復帰2戦目のマイルCSで3着に好走すると、前走の安田記念は、勝ち馬から0秒2差の6着に惜敗。今回は、ホープフルS以来となる、1年半ぶりの勝利が期待されていた。

これに続いたのがイルーシヴパンサー。初戦を勝利後、2勝目を挙げるまでに5戦を要したものの、そこから一気の4連勝で東京新聞杯を制覇。重賞ウイナーの仲間入りを果たした。前走の安田記念こそ人気を裏切ってしまったが、遅い流れを後方から追走したためで、敗因は明白。その安田記念を含め、5戦連続で上がり最速をマークしており、巻き返しが期待されていた(岩田望来騎手から木幡巧也騎手に乗り替わり)。

そして、4番人気となったのが牝馬のスカイグルーヴ。母の母アドマイヤグルーヴ。さらにその母エアグルーヴという超良血で、デビュー2戦目の京成杯で2着に好走。クラシックでも期待されたが、フローラSと紫苑Sで敗れ、GI出走は叶わなかった。しかし、1400m以下のレースに照準を絞ると、再び結果が出はじめ、近2走はともに重賞で2着。1ヶ月半ぶりに復帰したルメール騎手とともに、重賞初制覇を狙っていた。

レース概況

ゲートが開くと、リアアメリアがやや出遅れ。他、エアファンディタ、ゴールデンシロップ、ディヴィーナが立ち後れるも、決定的な出遅れとはならなかった。

二の脚の速いウインカーネリアンがいきかけようとするところ、やや押してシュリが先頭へ。ウインカーネリアンを挟んでスカイグルーヴが続き、ピースワンパラディ、ゴールデンシロップまでが先団。ダノンザキッドは、ちょうど中団7番手。イルーシヴパンサーは、後ろから5頭目を追走していた。

前半600m通過は36秒2と遅く、シュリから最後方のエンデュミオンまでは、およそ12~3馬身。しかし、その後の2ハロンも12秒2-11秒9と、ペースは上がらないまま(1000m通過は1分0秒3)、レースは最後の直線勝負を迎えた。

直線に向いても前2頭の手応えは楽で、シュリのリードはおよそ1馬身半。ウインカーネリアンが内回りとの合流点から追いはじめ、さらにそれをピースワンパラディ、スカイグルーヴ、ダノンザキッドが追う展開に。しかし、前2頭が直線半ばで抜け出して叩き合いを演じると、3番手以下は、逆に2馬身ほど突き放されてしまう。

その後もゴールに向かって2頭のマッチレースが続いたものの、残り50mでウインカーネリアンがシュリを競り落とすと、最後は4分の3馬身差をつけ1着でゴールイン。シュリが2着を確保し、ゴール前で猛追したダノンザキッドがクビ差の3着に続いた。

稍重馬場の勝ちタイムは1分33秒3。ウインカーネリアンが3連勝で初のタイトルを獲得し、重賞での1番人気馬の連敗を18でストップ。また、米子Sに続いてシリーズ2勝目となり、サマーマイルチャンピオンに大きく前進した。

各馬短評

1着 ウインカーネリアン

二の脚が早く、いつもどおり積極的なレース運び。2着とは小差で、なおかつ展開にも恵まれたが、着差以上の強さだった。

皐月賞では、単勝360倍の低評価を覆してコントレイルの4着に好走。ファンを驚かせるとともに将来を嘱望されたが、難病の蹄葉炎を発症し、出世が遅れてしまった。

しかし、その遅れを取り戻すように、復帰後はこれで4戦3勝。念願の重賞タイトルを獲得し、今後のさらなる飛躍が期待される。

2着 シュリ

ウインカーネリアンは、2走前に同じ新潟芝1600mの谷川岳Sを勝利しているが、シュリは2021年の同レース勝ち馬。そのときは逃げ切って勝利しており、なおかつそのレースまですべて掲示板を確保するほど安定していた。

ところが、続くエプソムCで立ち後れて14着に大敗すると、以後も、10、12、9着と、一転してスランプに。特に、近2走は五分のスタートを決めながら結果が伴っておらず、今回は大きく人気を落としていたが、久々に主導権を握って好走。勝ち馬に前に出られてからも抵抗し、最後まで見せ場を作った。

6歳とはいえ、まだこれが15戦目。積極的なレースができれば、今後も好走する可能性は十二分にある。

3着 ダノンザキッド

展開を考えれば好走といえる内容だが、いかんせん、前2頭があまりにも楽なペース。これが精一杯の競馬だった。

コーナー4つのホープフルSを勝っているものの、おそらくワンターンで直線の長いコースが得意。前走の安田記念も、6着とはいえ勝ち馬から0秒2差で、GI馬にこういう言い方は失礼かもしれないが、相手なりに走れる馬。

ラヴズオンリーユーを復活させた川田騎手が騎乗している点は大きく、この馬が完全復活する日も、そう遠くないのかもしれない。

レース総評

スタートしてから3コーナーまで、さらに最後の直線も長い新潟芝1600m。ハイペースになることはまれで、リニューアルされた2001年以降、関屋記念で前半3ハロンが34秒を切ったことは一度もない。

しかし、馬場状態が稍重だったとはいえ、今回の前半600m通過36秒2は、2010年と並んで過去2番目に遅く(最も遅かったのは2015年)、1000m通過1分0秒3は、最も遅いペースだった。

そのスローペースを、上がり600m32秒9の末脚で制したのはウインカーネリアン。これで3連勝となったが、実は2走前の谷川岳Sを勝利した際も、600m通過は36秒2で、1000m通過が1分0秒2。さらに、自身の上がりは33秒0で、勝ちタイムは今回と0秒3しか変わらない1分33秒6。また、2番手から抜け出して勝利した点や、逃げたベレヌスが2着に粘るという展開も、今回と酷似していた。

今回もスローからの上がり勝負で、その内容を高く評価することはできないが、次走、よほど人気にならない限り、大きく評価を下げる必要もない。むしろ、現在のウインカーネリアンであれば、秋の大舞台で活躍しても不思議ではなく、デビュー15年目の三浦皇成騎手とともに、悲願のGI制覇が期待される。

また、関屋記念の特徴といえるのが、外枠に入った馬の強さ。7、8枠のいずれか、もしくはその両方が連対したのは今回で19年連続となり、この傾向は来年も覚えておきたい。

写真:かずーみ

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