夏競馬も晩夏を迎え、いよいよ秋の開催を目の前としてきた競馬界。それは障害界も変わることなく、年末の大一番、この中山大障害を見据えて南の大地でジャンパーたちが激突した。
毎年8月末に小倉の地で行われるこの小倉サマージャンプは、秋以降の飛躍を遂げる馬たちの勝利も数多い。直近10年でもメイショウブシドウ(2014年)、アップトゥデイト(2015年)、メイショウダッサイ(2019年)と、後にJ.G1の舞台で活躍を遂げる馬たちの勝利も数多く、さらにはこの後王者となったアップトゥデイトを下したソロル(2017年)、ヨカグラ(2018年)等、数々の活躍馬を輩出しているレースでもある。
そんな名ジャンパー達のステップレース、2022年の1番人気は前年の覇者アサクサゲンキ。前走の新潟ジャンプステークス5着、前年のこのレース以後勝ち星から遠ざかってはいるものの、このレースから中山大障害への挑戦の飛躍を遂げた。
鞍上の石神深一騎手は史上初となる障害重賞全制覇まであと"1勝"。その最後の1つとして残っていたのが、小倉サマージャンプステークスだった。
2番人気はメイショウウチデ。長期休養から明けた前走・小倉オープン2着を叩いての参戦となった。鞍上の小坂騎手とも入障以来ずっとコンビを組んでいて、ここでの重賞初制覇を狙っていた。
3番人気に推されたポルトフィーノの仔・ポルトラーノは、京都ハイジャンプ3着からの参戦。初重賞で3着に好走したその実力を発揮したいところ。続く4番人気タイに今年デビューした小牧加矢太騎手が跨るシャイニーゲールと、植野騎手跨るクライムメジャーが支持されていた。
レース概況
逆回りコースからスタートが切られ、目立った出遅れはない。外からグランスウォードが好発進を切るが、それに競りかけるような形で最内から黒い帽子のシャイニーズランが先手を取り、後続とのリードを広げていく。
シャイニーズランが抜け、後方に位置したポルトラーノとメイショウユウスイが少し離される格好。やや縦長の馬群で進んでいくが、向正面でレースは動いた。
メイショウウチデが一気にシャイニーズランへ競りかけると、その後ろからクライムメジャーも進出を開始。先頭こそ譲らなかったシャイニーズランだが、つい先程までのリードは失われ、2番手にメイショウウチデがしっかりとつける。たすきからバンケットコースにかけてマイネルプロンプトも前へと位置取りを変え、縦長だった馬群がやや一団になりつつあった。
スタンド前を過ぎ、通常回りに周回が戻ってきたところで今度はアサクサゲンキとマサハヤドリームが進出し、ここまで先頭を保ってきたシャイニーズランは後退。さらに後方に位置していたポルトラーノも押し上げ、ペースが上がる。
早くなったペースに押されるような格好で先頭集団が固まっていく中、マイネルプロンプトが生垣で落馬。続くハードル障害でクライムメジャーも落馬してしまう。
無事に飛越したアサクサゲンキ、メイショウウチデ、マサハヤドリームの3頭が3コーナーで抜け出し、2馬身程離れてポルトラーノ、テイエムタツマキ、テリオスルイが追いかける。後の馬群はかなり離れて直線へ向かった。
最終障害、逃げる前3頭を手応え良く追走したポルトラーノだが、やや立ち上がるような飛越で減速。再度、先頭集団からは距離が取られた。
前3頭の火の出るような叩き合いが展開され、メイショウウチデが僅かに前に出た。しかしその内から緑の帽子がグイッと伸び、掬うようにメイショウウチデをとらえる。
ゴールの瞬間、石神深一騎手は大きくガッツポーズ。全場制覇と重賞制覇の快挙と共に、アサクサゲンキは見事同レース連覇を成し遂げた。
上位入線馬と注目馬短評
1着 アサクサゲンキ
鞍上・石神深一騎手の障害重賞完全制覇という史上初の快挙達成に大貢献した。自身も、これで障害重賞は前年のこのレースに続く2勝目。平地での重賞制覇と合わせると3勝目となり、しかもその全てが小倉での勝利である。まさに現役随一の小倉巧者と言えよう。
3コーナーから気合をつけられ進出し、最後は競り合いにもしっかり制した。前年の同レース時より飛越にも成長が感じられる。前年は叶わなかった中山大障害制覇に向けた挑戦の足掛かりとしてほしい。
2着 メイショウウチデ
長期休養から明けて2戦目で、前走の小倉オープンに続いて2着。障害OP入り後も安定して好成績を残している。入障後は8戦中7回で馬券圏内と、かなりの安定した成績を残していて、まだまだ成長の余地も残していそうな走りっぷりだった。
父ダノンシャンティの稼ぎ頭ではあるが、これがまだ17戦目。ここから更に覚醒できるかどうか。
3着 マサハヤドリーム
昨夏の小倉サマージャンプに続いて善戦。
近走は若干成績を落としていたものの、得意舞台の小倉にて輝きを取り戻した感じがある。
メイショウウチデを負かすため徹底的にチャレンジした結果、最後は苦しくなった。しかし今後を見据えて価値のある3着だったのではないだろうか。
総評
アサクサゲンキはこれで現役7勝目。そして小倉の障害コースは4戦4勝。平地時代と合わせても無類の小倉巧者ぶりが見て取れる。前年の同時期と比べても飛越が上手くなった印象は強く、秋以降の重賞シリーズでどれだけやれるかに注目したい。
そして本レースのゴールの瞬間は、鞍上の石神深一騎手の偉業達成に沸いた瞬間でもある。オジュウチョウサンのパートナーとして長らく障害界を席巻している同騎手だが、オジュウチョウサンだけでなく、数々のパートナーとかぞえきれない経験を共にし歩んできたからこそ、この記録に繋がったのだろう。史上初の大記録達成に改めて拍手を送りたい。
勝ったアサクサゲンキは前年、ここから勝利を挙げることなくオジュウチョウサン以下に抑えられてしまった。今年はそのリベンジも兼ねて、秋の障害重賞戦線を駆け抜けていってほしい。
写真:ジャンプレース応援隊