北海道シリーズのフィナーレを飾る札幌2歳Sは、近年、再び出世レースとしての地位を固めつつある。過去2年の連対馬から、ソダシ、ユーバーレーベン、ジオグリフの3頭がクラシックを勝利。また、2020年の3着馬バスラットレオンは、今年3月のゴドルフィンマイルを快勝し、その後サセックスS、ジャックルマロワ賞と欧州のGIを転戦した。
近年の傾向からも、来春のクラシックを占う意味では、最も重要なレースの一つだが、2022年は5頭が単勝10倍を切る混戦。そのうち3頭に人気が集まり、最終的にドゥーラが1番人気に推された。
デビュー戦では、今回も顔を合わせたドゥアイズに敗れたものの、上がり最速で追込み、0秒1差の4着に好走していた本馬。続く2戦目は、またしても上がり最速の末脚を繰り出し、評判馬のドゥラエレーデを差し切って快勝。ドゥラメンテ産駒の牝馬といえば、この春二冠を達成したスターズオンアースと同じで、注目を集めていた。
これに続いたのがシャンドゥレール。こちらは9月2日現在、中央2歳リーディングサイアーのエピファネイア産駒で、東京芝1800mの新馬戦を勝ち上がってきた。しかも、2番手追走から、直線はノーステッキで2着馬を0秒3差突き放す楽勝。大物感たっぷりの内容から、連勝での重賞制覇が期待されていた。
これら2頭から、僅かの差で3番人気となったのがブラストウェーブ。2歳夏にして540kgに迫ろうかという巨躯の持ち主は、2着馬との一騎打ちの末、初戦をものにしていた。しかし、この馬の魅力は、なんといっても血統面で、全兄は2018年の有馬記念を勝利したブラストワンピース。その兄は、翌19年の札幌記念を制したこともあり、ブラストウェーブにも、同じ札幌コースでの重賞制覇が期待されていた。
以下、サトノダイヤモンドの初年度産駒で、この世代最初の新馬戦を制したダイヤモンドハンズ。半姉のマイネグレヴィルと半兄のマイネルシュバリエが当レースで2着に好走しているフェアエールングの順に、人気は続いた。
レース概況
ゲートが開くと、伸び上がるような格好でシャンドゥレールが出遅れ。それ以外の13頭は、まずまずのスタートを切った。
前は、アースビート、レッドソリッド、フェアエールングが横並びで1コーナーに進入。その直後をビキニボーイが追走し、これら4頭が先行集団を形成した。
中団は、ブラストウェーブ、ドゥーラと続き、向正面に入ったところで、ドゥアイズが4番手まで進出。一方、ダイヤモンドハンズは後ろから2頭目。シャンドゥレールは最後方を追走していた。
3頭の中から最終的に逃げる格好となったフェアエールングは、前半1000mを1分1秒5で通過し、先頭から最後方までは12~3馬身。その後、勝負所の3~4コーナー中間に差しかかっても、前はスパートしなかったためペースは上がらず。対して、中団以下にいたアンテロース、シャンドゥレール、ダイヤモンドハンズが上昇を開始すると、トーセンウォルトとアースビート以外の12頭が全くの一団となり、レースは最後の直線へと入った。
直線に向くと、レッドソリッドとフェアエールングをかわしたドゥアイズが単独先頭。そこへ外からドゥーラが襲いかかって、残り200m地点で2頭の一騎打ちに。その後ろの3番手には、ダイヤモンドハンズが上がった。
残り100m。今度はドゥーラが先頭に立ち、ドゥアイズが懸命に抵抗するも徐々に差が広がり、最後は1馬身リードを取ったドゥーラが、斎藤騎手の派手なガッツポーズとともに1着でゴールイン。2着はドゥアイズで牝馬のワンツーとなり、そこから1馬身半差でダイヤモンドハンズが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分50秒0。ドゥアイズに対して初戦の借りを返したドゥーラが重賞制覇。開業9年目の高橋康之調教師は、これが嬉しい重賞初制覇となった。
各馬短評
1着 ドゥーラ
初戦は単勝50倍で、9頭中7番人気と評価されていなかった馬が、そのレースで敗れた相手に雪辱した。
ドゥラメンテ産駒は、2022年だけでJRAの重賞7勝目。それだけに、1年前の早世があまりにも惜しまれる。また、これまでにJRAの重賞を勝利した同馬の産駒、タイトルホルダー、アリーヴォ、スターズオンアースの母の父は、すべて海外で繋養されている種牡馬。
これは、ドゥラメンテ自身がキングカメハメハ、サンデーサイレンス、トニービン、ノーザンテーストと、日本の歴代のチャンピオンサイアーが掛け合わされた結果生まれてきた馬で、母の父が内国産馬のドゥラメンテ産駒がJRAの重賞を勝ったのは、これが初めてだった。
一方、その母の父キングヘイローも、内国産馬とはいえ世界的な良血。昨夏から、母の父としての活躍は周知のとおりで、また新たな重賞ウイナーを送り出したことになる。
2着 ドゥアイズ
序盤はやや行きたがったものの4番手で落ち着き、先行馬の中では最初にスパート。普通なら苦しい展開となるが、豊富なスタミナを活かして最後まで見せ場を作るも、目標にされた分、ドゥーラに先着を許してしまった。
こちらは、父ルーラシップに母の父ディープインパクトという同産駒の成功パターンで、この組み合わせでは、キセキ、エヒト、ワンダフルタウンなどが重賞を勝利。また、アンティシペイトもオープンの福島民報杯を圧勝。七夕賞では、エヒトの3着に好走した。
今回のレースを見る限り、桜花賞よりはスタミナが活かせるオークス向きのように思ったが、レース後、吉田隼人騎手のコメントでは、現状は1600mくらいが良さそうとのこと。今後の成長に期待したい。
3着 ダイヤモンドハンズ
上位入線馬の半数以上は先行馬で、後ろから2番手を追走していたこの馬には厳しい展開。また、最終週で内側がやや荒れており、1枠からのスタートもハンデとなったが、これらを考慮すれば、大健闘といえる内容だった。
福永騎手によると、トビが大きく小回りは合わないとのこと。ただ、中京で勝ち上がってきた点からして、瞬発力勝負よりは長く良い脚を使えるタイプのようにも思える。
おそらく9、10月の中京や中山のレースに出走する可能性は低く、そう考えると、次走は東京か阪神のレースだろうか。そこで、この馬の得意条件が、ある程度みえてくるかもしれない。
レース総評
前半800mが49秒3。12秒2をはさんで、同後半が48秒5。勝ちタイムも特筆するものではなかったが、最後の5ハロンはすべて12秒前後のラップ。上がりは36秒3を要する底力勝負となり、決してレベルの低い一戦ではなかった。
上述したように、勝ったドゥーラはドゥラメンテ産駒の牝馬。この世代でドゥラメンテ産駒の牝馬といえば、史上最速タイの上がり3ハロン31秒4で新馬戦を制したリバティアイランドがいる。おそらくドゥーラとタイプは全く異なるが、順調にいけば、ドゥアイズも含め、この先の大舞台で何度も激突するかもしれない。
一方、2番人気に推されたシャンドゥレールは、出遅れが響いて7着。大物が多い一方で、ヒリヒリしやすいのもエピファネイア産駒の特徴だが、そこで思い出すのがオークスのサークルオブライフ。あそこまで発走が遅れるのは異例中の異例だが、あの時も、観衆が集まるスタンド前からのスタートだった。
そして、今回のシャンドゥレールも早目にゲートインし、待たされたことも影響したか出遅れてしまった。ただ、次走以降ワンターンのコースで外枠に入ることができれば、再びの好走は十分に可能ではないだろうか。
また、1、2着の牝馬に話を戻すと、2020年のソダシとユーバーレーベンが思い出される。この2頭もライバル関係となり、2歳時はソダシがユーバーレーベンに3連勝したが、オークスでは見事にユーバーレーベンが雪辱。純白の女王に、6戦目にして初黒星をつけた。
今回のドゥーラとドゥアイズも、リバティアイランドなどの大物候補を含め、ライバル関係になっていくのか。来春のクラシックに向けて、早くも楽しみは尽きない。
写真:安全お兄さん