2022年夏の小倉競馬を振り返ると、CBC賞でテイエムスパーダに騎乗した今村聖奈騎手の重賞初騎乗初勝利と、日本レコードの樹立で幕を開けた。
その後2週間の中断期間をはさみ、小倉記念では、牝馬のマリアエレーナが5馬身差の圧勝。また、圧勝といえばヤマニンウルスが勝った2歳新馬戦で、このとき2着につけた4秒3もの大差は、グレード制導入以降、最大となった。同馬に騎乗していたのも、やはり今村騎手だった。
そして、忘れてはならないのが、小倉サマージャンプをアサクサゲンキで制した石神騎手の快挙だろう。この勝利で、史上初の障害重賞完全制覇を達成した石神騎手は、同時に、障害重賞全6場制覇だけでなく、イレギュラー開催となった中京をあわせて、7場での重賞制覇も達成。2ヶ月に及んだ「夏コク」は、話題に事欠かない開催となった。
そんな小倉競馬の1年を締めくくる小倉2歳S。レーヌミノルのように、クラシックの大舞台を制した馬もいるが、近年の勝ち馬は、後に古馬混合の短距離重賞で活躍する傾向にある。また、17年のレースで7着に敗れたモズスーパーフレアは、5歳時に高松宮記念を制覇。春のスプリント王に輝いた。
22年の小倉2歳Sは、前走を完勝して初勝利を挙げた馬が複数出走。高いレベルでの混戦と見られ、単勝10倍を切ったのは5頭。その中で、プロトポロスがやや抜けた1番人気に推された。
6月中京の新馬戦で、上がり33秒8の末脚を繰り出し完勝した本馬。父のウォーフロントは、近年の米国を代表する種牡馬で、プロトポロスも、短距離路線の主役になり得る逸材として注目を集めた。
2番人気に推されたのがクリダーム。プロトポロスのデビュー戦と同じ日に、函館の新馬戦を快勝した本馬。前走の函館2歳Sでは、道悪馬場をハイペースで逃げ、最後は勝ったブトンドールに差し切られたものの、2着に粘る強い内容だった。メンバー中、唯一の重賞出走馬で、連対実績もあり。また、武豊騎手が北海道から駆けつけて騎乗することもあってか、大きな注目を集めていた。
僅かの差でこれに続いたのがミカッテヨンデイイで、こちらは、デビューから2戦連続3着と勝ちきれなかった。しかし、格上挑戦で出走した前走のフェニックス賞で待望の初勝利。この日、小倉ターフ賞を受賞してますます勢いに乗る今村聖奈騎手が継続騎乗し、連勝での重賞制覇を狙っていた。
以下、新種牡馬グレーターロンドンの産駒ロンドンプラン。初戦で2着に6馬身差をつけて圧勝したメイショウコギクが人気順で続いた。
レース概況
スタート直前にロンドンプランが落鉄。蹄鉄を打ち替えた後にスタートが切られると、そのロンドンプランが3馬身ほど出遅れ。後方からの競馬を余儀なくされた。
一方、前はゴールデンウィンドがいく構えを見せたところ、予想どおりクリダームも先頭へ。さらに、2頭の間からニシノトキメキも顔を覗かせたが、最終的にクリダームがレースを引っ張った。
これら3頭の後ろに、バレリーナ、メイショウコギク、プロトポロス、アウクソー、ウメムスビが集団を形成。一方、後方にはミカッテヨンデイイなど4頭が固まり、出遅れたロンドンプランは、さらにそこから5馬身ほど離れた最後方を追走していた。
前半の600m通過は33秒2。最終週、そして2歳戦ということを考えると、平均よりやや速めのペースで、先頭から最後方まではおよそ15馬身。続く4コーナーでは、逃げるクリダームにニシノトキメキとゴールデンウィンドが早くも並びかけ、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、すぐに5~6頭が横一線に。その中から、まず抜け出したのがゴールデンウィンドで、クリダームは失速。替わって内からプロトポロス、外からバレリーナが差を詰めて、ゴールデンウィンドに襲いかかる。
しかし、その刹那。最後方を追走していたはずのロンドンプランが、馬の間をこじ開けるようにして進路確保すると豪脚一閃。これら3頭をまとめて差し切ると、逆に4分の3馬身にリードして1着でゴールイン。混戦の2着争いはバレリーナが制し、さらにそこから半馬身差の3着に、こちらも後方に位置していたシルフィードレーヴが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分8秒1。大きく出遅れたロンドンプランが、直線だけで全馬を差し切るド派手なパフォーマンスで重賞制覇。父グレーターロンドンは、今年産駒がデビューした新種牡馬の中で、JRAの重賞勝利一番乗りとなった。
各馬短評
1着 ロンドンプラン
落鉄、蹄鉄の打ち替え、大出遅れ、離れた最後方を追走……。そして、最後はレース上がりを1秒8も上回る豪脚を繰り出し、全馬を差し切って優勝と、まさにこの馬の一人舞台ともいえるレースで、ファンの度肝を抜いた。
最終週の外伸び馬場と、ハイペースに助けられた部分は確かにあった。しかし、近年の当レースを追込んで勝った馬は少なく、4コーナー10番手以下で勝利したのは、2014年のオーミアリス以来だった。
距離に関しては、少なくともマイルまでは対応できそうだが、本質的には1400mが最適ではないだろうか。
2着 バレリーナ
1週間前の新馬戦を3馬身半差で完勝していたが、連闘と平凡な勝ちタイムが嫌われたか、9番人気に甘んじていた。
しかし、道中はハイペースを先行。それでいてゴール前では一瞬先頭に立ち、あわやの場面を作った。展開などを考えると、最も強いレースをしたのは、この馬で間違いないだろう。
ダイワメジャー産駒は、小倉の芝1200mが得意で、当レースにも、今回を含めた10年で9頭が出走。そのうち5頭が3着内に好走している。
3着 シルフィードレーヴ
前走10番人気で勝利しあっといわせたが、今回も低評価を覆して好走。4コーナー9番手から末脚を伸ばし、サンデーサイレンスの血を持たないためか、勝ち馬にはキレ味で劣ったものの、十分に見せ場を作った。
ロンドンプランと同様、展開に恵まれた点は否めないが、距離に関していえば、1400mまでは十分こなすだろう。
レース総評
前半600m通過が33秒2で、同後半が34秒9と、小倉のスプリント戦らしい前傾ラップ。このハイペースと最終週の外伸び馬場がアシストした部分もあったが、ロンドンプランのレースぶりはあまりにもド派手。その破天荒さから、今後、同馬の人気はどんどんと出てくるのではないだろうか。
そのロンドンプランの血統に目を向けて母系を7代遡ると、ヘイロー(サンデーサイレンスの父)の母コスマー(その半妹ナタルマは大種牡馬ノーザンダンサーの母)にいきつく名牝系。また、4代母ロイヤルコスマーは85年の桜花賞2着馬で、繁殖としても多くの産駒を輩出し、名門・下河辺牧場を代表する牝馬となった。
一方、父のグレーターロンドンも下河辺牧場の生産。その母ロンドンブリッジも、98年の桜花賞で2着に好走しており、半姉ダイワエルシエーロは04年のオークスを制覇。さらに、全姉のブリッツフィナーレからは、17年の菊花賞馬キセキが誕生するなど、ロンドンプランは、まさに下河辺牧場の粋を集めた結晶のような存在ともいえる。
一方、この小倉2歳Sをもって、夏に行なわれる各地の2歳重賞も終了した。
それら4レースを振り返ると、この日のロンドンプランに代表されるような後方一気や、先行馬をゴール前でまとめて差し切るなど、派手な勝ち方が多かった。
また、函館2歳Sで掲示板を確保したオマツリオトコやゴキゲンサン、ミスヨコハマ。そして、新潟2歳Sを制したキタウイングのように、一度覚えるとなかなか忘れないような印象的な名前を持つ馬の健闘も目立った。
ロンドンプランももちろんのこと、馬名やレースぶりから人気が出そうなスター候補が続々と登場した2022年夏の2歳重賞。人気、実力ともに真のスターとなる馬が、この中から現われるのか。今後展開されるドラマを、温かい目で見守っていきたい。
写真:ベガライフ