[競馬ニュース]2022年の夏競馬、6大トピックスを振り返る。
はじめに

毎年、独特な雰囲気のある夏競馬。

難解なレースに頭を悩まさせられながらも、終わってしまうとなるとちょっと寂しくなってしまうものではないでしょうか。

2022年の夏競馬は競馬サークルの内外で様々な出来事がありました。今回、その中から6つの出来事を取り挙げました。過ぎ去っていく夏の終わりを想いながら今年の夏競馬を振り返っていきたいと思います。

1.CBC賞で今村聖奈騎手が驚異のレコードタイムで重賞制覇

2022年の夏競馬で、個人的に一番の衝撃を受けたのがCBC賞でした。

開幕週の高速馬場での開催だったとはいえ、それまでのレコードの1分06秒4を0秒6も上回る1分05秒8の日本レコードで駆け抜けたことは大きな話題となりました。若手騎手が重賞初騎乗での重賞勝利というのはこれまでJRAでは5人しかおらず、ルーキーイヤーでの重賞制覇となると三浦皇成騎手(2008年)以来。その2点を同時にクリアした騎手は前代未聞です。加えて女性騎手での達成となったことで、記録尽くしのレースになりました。

レースでは好スタートから先頭に立ち、前半600Mが31秒8という超Hペースで進みながらも最後は2着のタイセイビジョンに3馬身半差をつける勝利で完勝でした。レースの内容自体も驚いたのですが、レース後に「馬は最高の状態でしたので、あとは人間がどうアプローチするかでした。走るのは馬ですし、重賞とはいえ冷静に乗ることができましたし、馬の力を信じて乗れたのが良かったですね」という新人騎手離れしたコメントをしたことも、大きな驚きでした。

今村騎手は、このレースの後にも新人騎手離れした騎乗ぶりを披露。個人的に印象に残っているのは、8月7日の新潟8Rの騎乗です。

このレースでは1番人気が今村騎手とアルファマム、2番人気が藤田菜々子騎手とルヴェルジェでした。レースでは先行するルヴェルジェとは対照的に後方からの競馬になりましたが、レースの後半で失速したルヴェルジェを尻目に後方から豪快に差し切っての勝利。女性騎手が騎乗した人気馬で明暗が分かれる結果になりましたが、今村騎手はこの展開を狙っていたようです。その点でも新人騎手離れした騎乗と言えるのではないでしょうか。今村騎手はこの夏にG1で騎乗できる31勝をクリアしたので、今後G1での騎乗もあるかもしれません。現時点でJRA史上最高クラスの女性騎手になった夏と言っていいでしょうし、今後が非常に楽しみになったと言えるのではないでしょうか。

2.タイキシャトル、逝去

2022年の夏競馬期間に起きた出来事で、忘れることができないのがタイキシャトルの逝去。現役時代は名マイラーとして優れた成績を残しましたが、一番評価をされていた点が『海外でも結果を出した』という点でしょう。

日本馬が海外でG1を制覇するのは夢のまた夢と思われていた時代に、欧州でのマイルのビッグレースであるジャック・ル・マロワ賞を制したことは日本の競馬ファンに大きな夢を見せてくれました。帰国後のマイルチャンピオンシップも勝ってダートを含めたマイルの距離では7戦7勝と完璧な成績を残したことからも、『どんな条件でもマイルの距離なら負けない』世代を超えた最強マイラーとして競馬ファンに評価される馬だったのではないでしょうか。

引退レースになったスプリンターズSで3着に敗れてしまったことはかえって同馬のお茶目な魅力になったと思えるのは私だけでしょうか。

種牡馬としてもNHKマイルカップを勝ったウインクリューガーやフェブラリーSを勝ってその後種牡馬になるメイショウボーラーを輩出し、母父としてもヴィクトリアマイルやスプリンターズSを勝ったストレイトガールやダービーを勝ったワンアンドオンリー、桜花賞を勝ったレーヌミノルらがいるように、優れた競走能力を伝えた種牡馬と言えるでしょう。

種牡馬引退後は、鬣を切られるという事件もありましたが、その後は穏やかな余生を送り、2022年の8月17日の午前5時ごろ、老衰で死亡が確認されたようです。この日は今年のジャック・ル・マロワ賞が終わった3日後。同レースに挑戦したバスラットレオンを見届けた後に旅立ったのではないか? と思う方もいたようです。

現役時から亡くなる直前まで競馬ファンを楽しませてくれたという点でも名馬であり続けた馬と言えるのではないでしょうか。

夢をありがとう。そしてお疲れ様でした。

3.アドマイヤジャパン、YogiboのCMに出演

2022年の競馬サークルにおいて大きな話題になったのがアドマイヤジャパンのCM出演です。Yogiboは『快適すぎて動けなくなるほどのソファ』をモットーにソファやクッションを販売する会社です。過去にはディズニーとのコラボなどもあったそうなんですが、この度アドマイヤジャパンを起用したCMを全国放送することになったようです。CMの内容は横になったアドマイヤジャパンがYgiboのクッションを枕にして気持ちよくなっているというもので、製品の気持ち良さが素直に伝わる映像になっています。この映像は狙って撮影したものではなく、牧場のスタッフが偶然その光景を見かけてスマホで撮影したもののようです。スマホで撮影した動画を基にしてCMができてしまうという点には驚きましたが、アドマイヤジャパンの気持ちよさそうな姿が好印象ですし、競馬ファン以外にも注目されるCMと言えるのではないでしょうか。

競馬ファンからも菊花賞でディープインパクトの2着だった馬がCMに出ているという事で懐かしさを感じる方も多いことでしょう。第2弾、第3弾のCMを期待するとともに、引退競走馬の新たな活躍の場ができたという点で大きなトピックスと言えるのではないでしょうか。引退馬の支援をする方達が地道に活動されていたことがあったからこそ、こういう形で評価されたのではないかとも思っています。今後も引退馬の新たな活躍の場を楽しみに待ちたいです。

4.白毛馬が大活躍

今年の夏競馬の話題の一つとして、白毛馬の活躍も忘れることができません。

函館記念では白毛馬のハヤヤッコが泥んこ馬場の中でしぶとく伸びて重賞制覇を果たし、その後の札幌記念でソダシとの『白毛馬対決』が話題になりました。

そもそも白毛馬は数が非常に少なく、競馬ゲームでも白毛馬はなかなか目にすることができない存在でした。ましてや重賞を勝てるような競走能力のある馬が出てくることが非常に難しいとされていましたが、『重賞を勝った白毛馬同士の対決』になった札幌記念は大きな盛り上がりを見せました。

レースでは、1番人気に支持されたソダシが5着、ハヤヤッコは10着という結果になりました。結果は残念でしたが、この白毛馬対決は夏競馬を大いに盛り上げたといっていいのではないでしょうか。

5.C・ホー騎手が初来日、重賞制覇

この夏注目だったのが香港から参戦した、C・ホー騎手。同騎手は2シーズン連続年度代表馬になったゴールデンシックスティの主戦騎手で、2021/22年シーズンの香港・騎手リーディングでは50勝で第5位。同シーズンでもゴールデンシックスティとの活躍がありましたが、日本のG1の安田記念に参戦予定だったプランもあったそうです。コロナ禍での制限やチャンピオンズマイルの後に軽い熱中症の様な症状が出て回避したようですが、もし参戦していたら大きな話題になったでしょう。

また、日本馬との関係で言えば2021年のクイーンエリザベス2世カップをラヴズオンリーユーで制したことでも有名でしょうか。その縁かどうかは分かりませんが、レパードSではラヴズオンリーユーが所属する矢作厩舎のカフジオクタゴンに騎乗して日本の重賞を制覇。来日した当初はダートのレースに苦戦していたようですが、参戦2週目での重賞制覇は修正能力の高さを示したと言えます。

その後は小倉記念でヒンドゥタイムスに騎乗し2着と好走。8月27、28日のWASJシリーズにも参戦しました。この週で日本への騎乗は終了となりましたが5勝、2着4回、3着4回という結果を残しました。ダート1勝、芝が4勝と芝の方が好成績でその1勝が重賞制覇なのですから勝負強さを見せたと言えるでしょう。再度の来日もあるかもしれませんし、ゴールデンシックスティの遠征含めた今後の飛躍に注目したい騎手ではないでしょうか。

6.伊藤雄二調教師、逝去

今年の夏競馬で忘れてはいけないのが伊藤雄二元調教師の逝去です。エアグルーヴ、ファインモーション、ウイニングチケット、ダイイチルビー、シャダイカグラ、マックスビューティーなどの名馬を育ててきた方であり、『名伯楽』と呼ぶにふさわしい方でした。

また、G1勝ち馬以外にもスカーレットブーケ、マチカネタンホイザ、ロイヤルタッチ、エアダブリンなど現在でも人気のある競走馬を育てましたが、個人的な印象としては血統的にも筋が通った馬が成長し、それぞれの馬たちが名伯楽の指導の下で固有のエピソードを残していくのが印象的な調教師でした。例えばシャダイカグラの桜花賞の話、ウイニングチケットのダービー話、ファインモーションの有馬記念の話など……馬と騎手と調教師が織りなす印象深いエピソードになっています。どこか古き良き競馬の雰囲気を出していたのが、伊藤雄二調教師であったのではないでしょうか。

また、伊藤雄二調教師には『先人から受け継ぎ、後進につないでいく』という点においても素晴らしかったと言えるのではないでしょうか。競走馬ではエアグルーヴ、スカーレットブーケは素晴らしい繁殖成績を残しましたし、競馬関係者では娘婿の笹田調教師が厩舎を引き継ぎました。藤岡調教師も、伊藤雄厩舎の出身です。千田調教師もかつては伊藤雄厩舎所属の騎手であり、馬も人も育てたという点で名伯楽に相応しい人物だったように思います。

調教師引退後は各メディアで解説などをされていたようですが、8月17日に老衰で亡くなったようです。かつてエアグルーヴで制した札幌記念の週に亡くなられるといった点も印象深かったです。本当にお疲れさまでした。

終わりに

いかがだったでしょうか?

今年の夏競馬は競馬サークルの外でも大きな話題があったということで印象的な夏競馬になったのではないでしょうか。少しづつ涼しくなるとともにちょっぴり寂しさもある時期ではありますが、競馬においては秋の大レースに向けての期待感もある時期とも言えます。

夏競馬の思い出として心のアルバムに様々な出来事を収めておいて秋競馬に向かうことができればよいのではないでしょうか。

皆さんの心に素晴らしい思い出が追加されるお手伝いができれば幸いです。

写真:よぴ@UMAYOPI、あす、かずーみ、@pfmpspsm、@ryo_photo0215

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