秋競馬の開幕を告げる秋華賞トライアルの紫苑S。とりわけ、重賞に昇格した2016年以降は本番との結びつきが急速に強まり、当レースの1、2着馬が回避した2018年以外は、少なくとも1頭が秋華賞で連対を果たしている。
また、紫苑Sで好走したヴィブロス、ディアドラ、ノームコアは、国内のみならず海外のGIも勝利。さらに、2014年の2着馬ショウナンパンドラも翌年のジャパンCを制するなど、紫苑Sは世界に羽ばたく名牝が誕生する舞台といっても過言ではない。
迎えた2022年は、例年に比べて少ない12頭立てとなるも混戦模様。最終的に6頭が単勝10倍を切り、スタニングローズが1番人気に推された。
2歳時には、重賞を3戦するも勝ちきれなかった本馬。しかし、強豪に揉まれたことで力をつけたか、自己条件に戻った今期初戦のこぶし賞を勝利すると、続くフラワーCも快勝し重賞初制覇。さらに、オークスでも10番人気の低評価を覆して2着と好走した。今回は、前走オークス組が5頭も出走し、再戦ともいえるレース。秋華賞に出走するための賞金は足りているが、オークス最先着馬として結果と内容が問われる一戦だった。
やや離れた2番人気に推されたのがサウンドビバーチェ。スタート直前のアクシデントでオークスは無念の除外となり、チューリップ賞以来、半年ぶりの実戦となる本馬。ただ、そのチューリップ賞で4着に好走し、その前には今回と同じ中山で行なわれた菜の花賞を勝利していることが注目されたか、上位人気に推されていた。
僅かの差でこれに続いたのがサークルオブライフ。阪神ジュベナイルフィリーズを制して2歳女王となった本馬も、今シーズンはやや歯車が噛み合わず、チューリップ賞で3着に敗れると、桜花賞は外枠に泣き4着。さらに、オークスでは発走が大幅に遅延したことと、スタート直後に挟まれたことが影響したか、12着と大敗してしまった。それだけに、前哨戦とはいえ非常に重要なレースで、ある意味、最も注目を集める存在だった。
そして、票数の差で4番人気となったのがサンカルパ。これが重賞初挑戦となるものの、2走前には、同じ中山で行われた1勝クラスを好タイムで完勝している。今回は、賞金面を考えれば、是が非でも出走権を手にしたい一戦。ノーザンファーム生産のドゥラメンテ産駒にルメール騎手が騎乗することもあってか、大きな注目を集めていた。
以下、オークスで積極的なレースを見せ、8着と健闘したニシノラブウインク。3走前に、GⅢのフェアリーSを制しているライラックが人気順で続いた。
レース概況
ゲートが開くと、サークルオブライフが伸び上がるようなスタートで出遅れ。シーグラスも、後方からの競馬となった。
拍手が沸き起こる中、サウンドビバーチェがじわっと先頭に立って1コーナーに進入。コルベイユとスタニングローズが1馬身間隔で続き、以下、エバーハンティング、ロジレット、サンカルパまでが中団。さらにその後ろをニシノラブウインクとライラックが併走し、サークルオブライフは後ろから2頭目を追走していた。
前半1000mは1分0秒8と遅い流れ。先頭から最後方のシーグラスまではおよそ7~8馬身差で、ほぼ一団となって進んでいたが、ここで早くもサークルオブライフが上昇を開始。6番手まで進出すると、それに反応するようにペースが上がり、勝負所でロジレット、エバーハンティング、コルベイユは後退してしまう。
続く4コーナーで、前は逃げるサウンドビバーチェに、スタニングローズとサンカルパが外から並びかけ3頭が横一線。その後ろの第2グループでは、ニシノラブウインクとサークルオブライフが虎視眈々と前を狙う中、レースは最後の直線勝負を迎えた。
直線に入ると、コーナリングでサウンドビバーチェとスタニングローズが抜け出し、リードは1馬身。その後ろでは、ニシノラブウインクとサークルオブライフがサンカルパに襲いかかるところ、そこへライラックとカヨウネンカも加わり、これら7頭が圏内となった。
しかし、坂を駆け上がっても前2頭の競り合いは続き、残り50mでなんとかスタニングローズが前に出るも、ようやくといった感じでライラックとサークルオブライフが急襲。最後は4頭による接戦となったが、スタニングローズが僅かに先んじて1着でゴールイン。逃げ粘ったサウンドビバーチェがクビ差で2着を確保し、同じくクビ差でライラックが続いた。
良馬場の勝ちタイムは1分59秒9。スタニングローズが、オークス2着馬の意地を見せて重賞2勝目。スターズオンアースの三冠を阻止するべく、秋の始動戦で好スタートを切った。
各馬短評
1着 スタニングローズ
サウンドビバーチェの激しい抵抗にあうも、勝負強さを発揮して勝利。中山コースで、2つ目の重賞タイトルを手にした。
近年、本番に直結している紫苑Sだが、今回に関していえば、タイム面などから強調することは出来ない。ただ、前走から馬体重が14kg増えていたものの、太く見せるようなところはほとんどなく、むしろパワーアップした印象。キングカメハメハの産駒らしく、キビキビと真面目に歩いていた。
時にハイペースとなって、差し追込みが決まることもある秋華賞だが、阪神の内回りでこの先行力は大きな武器。差し脚質のスターズオンアースに対して、アドバンテージとなるだろう。
2着 サウンドビバーチェ
賞金面の理由から、秋華賞に向けて3着内は必須だったが、主導権を握って最後まで抵抗。秋華賞の出走権はもちろんのこと、賞金加算にも成功した。
オークスでは、スタート直前に無念の除外。私の周りにも穴馬に挙げていた人が数名いたが、今回、GI馬のサークルオブライフを僅かに人気で上回っていたのは驚きだった。
実質、半年ぶりの実戦ながら、こちらも14gの馬体増。ただ、勝ち馬と同じく大半が成長分といえるような見た目で、この馬も同様にキビキビと歩いていた。
騎乗した横山武史騎手によると、2000mは長く、マイルがベストとのこと。本番に出走すれば展開のカギを握りそうだが、果たして次走はどこになるのだろうか。
3着 ライラック
こちらもパドックでキビキビと歩いていたが、この馬に関しては毎度のこと。桜花賞では出遅れた上に、前有利の展開となって大敗。オークスも、瞬発力勝負が得意でないこの馬には向かず、11着と敗れてしまった。
デビュー戦は東京で勝利しているが、本質的には持久力勝負が望ましいはず。今回もスローペースを後方から追走したが、最後は上位2頭と差のないところまできていた。本番が淀みないペースで流れて差し有利の展開になれば、一発があってもなんら不思議ではない。
レース総評
前半1000mが1分0秒8で、同後半が59秒1=1分59秒9。後傾ラップで前にいた有力馬のワンツーとなり、タイム面など内容に関しては、秋華賞に直結するようなレベルの高いレースとはいえなかった。
アクシデントで発走が10分以上も遅れ、やや物議を醸した2022年のオークス。今回は、そのオークスから5頭。オークスで除外になってしまった馬が1頭出走し、再戦ムードともいえるメンバー構成で、結果はオークス最先着馬のスタニングローズが勝利。除外となったサウンドビバーチェが2着だった。
また、上位3頭には中山の3歳限定重賞、もしくは3歳限定1勝クラスを勝利した実績があり、この傾向は来年以降も覚えておきたい。
一方、4着以下に敗れた馬の中で気になるのは、やはりサークルオブライフだろう。
オークスでは、1番人気に推されながら12着と大敗してしまった本馬。その前走から22kgも馬体重を減らし出走してきた。
今回もスタートで出遅れ。後方からの競馬を余儀なくされたが、レース中盤で一気に上昇し、先行する上位人気馬を突っつくような動き。これは、M・デムーロ騎手が得意な戦法で、思い出すのが2017年の宝塚記念。圧倒的人気を背負ったキタサンブラックに、デムーロ騎手騎乗のサトノクラウンが向正面でプレッシャーをかけ、見事に撃破したレースだった。
今回も、直線入口で手応えは抜群。前を一気に飲み込むかと思われたが、ゴール前で差を詰めたものの、2歳時のように突き抜けられなかったところを見ると、まだ本調子ではなかったのかもしれない。
逆をいえば、そのデキでもここまでのレースを見せたということで、馬体が回復して状態が上向けば、巻き返しがあってもなんら不思議ではない。
一方、勝利したスタニングローズに話を戻すと、名門バラ一族の出身。このファミリーからは、ロサード、ローズバド、ローズキングダムなど、多くの重賞ウイナーが誕生したが、ローズキングダムが2011年の京都大賞典を制してからは一転、重賞ウイナーが誕生していなかった。そんな中、3月のフラワーCでスタニングローズが11年ぶりの重賞制覇。一族2頭目のGI制覇が懸かる。
また、バラ一族という意味では、10日土曜日の2歳未勝利戦を勝ち上がったチャンスザローゼズも注目の存在。新馬戦は2着に惜敗したが、その時に先着したゴッドファーザー、アンテロース、ドゥラエレーデは既に勝ち上がっており、チャンスザローゼズも、この一族出身の大物になる可能性を十分に秘めている。
話が逸れてしまったが、スタニングローズの父はキングカメハメハで、ローズキングダムとは4分の3同血(父が同じで、2代母がローズキングダムの母ローズバド)。そのキングカメハメハは、この世代がラストクロップだが、かつての大種牡馬も、現6歳世代から4世代続けてGI馬が誕生しておらず、バラ一族2頭目の快挙は、すなわちキングカメハメハ最後の悲願になるといっても過言ではない。
とはいえ、キングカメハメハ産駒は、これがJRAの平地重賞6勝目。全種牡馬の中で、ディープインパクト、ハーツクライに並ぶ第3位だが、10勝で1位のロードカナロアと、7勝で2位のドゥラメンテは、ご存知キングカメハメハの後継種牡馬。これら2頭の産駒が挙げた計17勝のうち5勝がGIで、キングカメハメハを母の父に持つ馬もGIを2勝している。
他にも、リオンディーズ、ルーラーシップ、トゥザグローリーといった後継種牡馬の産駒が、重賞を各2勝。現段階では、リーディングサイアー争いで長年ライバルだったディープインパクトを凌ぐほどの後継種牡馬を送り出している。
写真:水面