主要4場の中でも、とりわけ乗り難しいとされる中山コース。小回りで、直線距離は310mと非常に短い。あのディープインパクトが国内唯一の敗戦を喫し、芝のGI最多勝記録を持つアーモンドアイが唯一大敗を喫したのも、中山競馬場が舞台だった。
一方で、このコースが得意な、いわゆる「中山マイスター」と呼ばれる馬がいた。中でも、マツリダゴッホはこの地で重賞を6勝。初重賞制覇を成し遂げたアメリカジョッキークラブCを皮切りに、秋はオールカマーで重賞2勝目。さらに、豪華メンバーが揃った年末の有馬記念も制し、大波乱の立役者となった。
そのマツリダゴッホが、とりわけ強さを発揮したのが中山芝2200m。3歳時に出走したセントライト記念こそ、4コーナーで躓いて落馬。競走中止となったものの、アメリカジョッキークラブCを制した際、2着につけた5馬身差は、同レースが中山芝2200mでおこなわれるようになってから最大の着差だった。
また、オールカマーでは三連覇を果たすなど、とにかく中山芝2200mでは無類の強さを発揮したマツリダゴッホ。グレード制導入後この地で重賞を6勝した馬は、マツリダゴッホと「皇帝」シンボリルドルフをおいて他にはいない。
そのマツリダゴッホが「中山マイスター」になるきっかけとなったアメリカジョッキークラブCに、2023年は14頭が出走。
そのうち4頭が単勝10倍を切り、中でもガイアフォースが抜けた1番人気に推された。
デビュー戦で、後のダービー馬ドウデュースと激突。クビ差の接戦を演じた本馬。直後に骨折が判明し休養を余儀なくされるも、復帰後3戦2勝でセントライト記念に出走すると、アスクビクターモアに競り勝って重賞初制覇を成し遂げた。続く菊花賞は8着に敗れたものの、今回はセントライト記念を制したのと同じ舞台。巻き返しが期待されていた。
やや離れた2番人気にエピファニー。未勝利脱出に3戦を要すも、そこからはとんとん拍子で勝ち上がり、一気の4連勝でオープン入りを果たした。父エピファネイアに母父ディープインパクトの組み合わせは、2年前の覇者で今回も出走していたアリストテレスと同じ。5連勝での重賞初制覇が懸かっていた。
これに続いたのがユーバーレーベンで、ここまでわずか2勝とはいえ、その2勝目がオークス。出走メンバー中、唯一のGI馬でもある。中山競馬場といえば、ステイゴールド系種牡馬の庭というイメージだが、ゴールドシップ産駒の本馬が当地のレースに出走するのは、意外にもこれが2度目。オークス以来、久々の復活勝利が期待されていた。
そして、わずかの差で4番人気となったのがノースブリッジ。全5勝中4勝を左回りであげているとはいえ、2勝目の葉牡丹賞は中山競馬場でおこなわれる出世レースで、2着に4馬身差をつける完勝だった。乗り難しいとされるこのコースで、先行力は大きな武器。9戦連続コンビを組む岩田康誠騎手とともに、2つ目のタイトル獲得なるか注目を集めていた。
レース概況
ゲートが開くと、ガイアフォースが少し外に膨れた以外は、ほぼ揃ったスタート。その中からシャムロックヒルがハナを切り、バビットが2番手。さらに1馬身半差でエピファニーが続くも、外回りコースへ入ったところでラーゴムがこれをかわし、3番手に上がった。
5番手のインにノースブリッジが位置し、半馬身差の6番手にガイアフォース。以下、中団より後ろの各馬はバラバラの追走となり、5番人気のエヒトが10番手。オークス馬ユーバーレーベンは、さらにそこから4馬身差。先頭から15馬身ほど離れた12番手に控えていた。
前半1000mは1分1秒3の遅い流れ。にもかかわらず、後方5頭はバラバラの追走で、先頭から最後方のレッドガランまではおよそ25馬身差。かなり縦に長い隊列となった。
その後、残り1000mの標識を通過したところで後方5頭が一気に差を詰め、全体が15馬身ほどに凝縮。すると、これに気付いたのか、逃げるシャムロックヒルが再び2番手以下を2馬身引き離すも、残り600m地点でバビットがこれに並びかけ、4コーナーでラーゴムとともに先頭へ。さらに、後方にいたはずのユーバーレーベンが2頭の背後にいつの間にか忍び寄り、そのままレースは直線勝負を迎えた。
直線に入るとすぐ、インから前との差を詰めていたノースブリッジがバビットに並びかけ、坂下で単独先頭に躍り出る。ラーゴム、ユーバーレーベン、エヒトの3頭が前を追ったのに対し、ガイアフォースは伸びを欠いてしまう。
一方、坂の途中でリードを3馬身に広げたノースブリッジが逃げ込みを図り、最後はやや脚色が鈍るも、3頭の争いから抜け出してきたエヒトの追撃を抑え込み1着でゴールイン。
4分の3馬身差2着にエヒトが入り、同じく4分の3馬身差でユーバーレーベンが続いた。
良馬場の勝ちタイムは2分13秒5。岩田康誠騎手得意のイン突きを炸裂させたノースブリッジが坂の上りで勝負を決め、価値ある2つ目の重賞タイトルを手にした。
各馬短評
1着 ノースブリッジ
いつもどおりややいきたがるのを、岩田康誠騎手がなだめながら4番手のインで我慢。とはいえ、著しく折り合いを欠くということはなく、前走の天皇賞・秋に比べれば、はるかにマシだった。
その後も内ラチ沿いを追走し、距離ロスを最小限に抑えて、4コーナーではマツリダゴッホが有馬記念を制したときのような進路取りで上昇。直線に入るとすぐ先頭に立ち、勝負を決めた。
父モーリスの2代母メジロモントレーは、牝馬で唯一アメリカジョッキークラブCを制覇している。また、今開催の1回中山芝はモーリス産駒の活躍が目立っており、来年以降の当レースはもちろん、セントライト記念やオールカマーでも、出走馬がいたらチェックしておきたい。
2着 エヒト
序盤は、ややいきっぷりが良くなかったものの、4コーナー手前から勢いがつくと、この馬らしい息の長い末脚を発揮。坂の途中で決定的な差をつけられたが、最後まで勝ち馬に食らいついた。
七夕賞勝利や、前走のチャレンジC3着など、瞬発力がさほど求められない小回りコースが得意。また、父ルーラーシップに母父ディープインパクトの組み合わせは、12月以降だけでも、ドルチェモアが朝日杯フューチュリティSを制し、ドゥアイズとキングズレインが、同じく2歳GIで3着と活躍している。
3着 ユーバーレーベン
こちらも、序盤のいきっぷりはそれほどでもなかったが、オークスで見せたようなロングスパートを披露し、勝負所で一気に進出。最後はやや脚色が鈍ったものの、久々の好走を果たした。
ステイゴールド系種牡馬の産駒が得意とする中山コースだが、ユーバーレーベン自身は、意外にもこれが2戦目(2021年フラワーC)。ともに3着で苦手ということはなく、なによりコンビを組むM・デムーロ騎手は、2021年以降の中山外回り(1200m、1600m、2200m)の重賞で[4-2-2-4/12]と、無類の強さを発揮している。
今後、中山記念や日経賞に出走してきた際も注目だが、オールカマーに出走してきた際は、上位に評価すべき存在。
レース総評
前半1000mは1分1秒3で、12秒0をはさみ、同後半は1分0秒2=2分13秒5。やや後傾ラップとなったが、冬の中山らしくやや時計がかかり、レース上がりも35秒2を要した。
勝ったノースブリッジ。昨秋は天皇賞を目標に定めていたため、東京競馬場以外のレースは、今回がおよそ1年半ぶり。その前回は3歳時に出走したセントライト記念で10着に敗れたものの、このときはタイトルホルダーなどと一緒にインで詰まってしまい、完全に行き場をなくしたレース。ノーカウントといってもよい内容だった。
次走は大阪杯に直行とのことだが、ここはディープインパクト産駒の好走が目立つレース。もし、その後の宝塚記念に出走し外枠を引けば、積極的に狙いたい。
また、オールカマーに出走してきた際も上位の評価が必要となるが、管理する奥村武調教師は、助手時代に三冠牝馬アパパネや、冒頭のマツリダゴッホを担当。ノースブリッジ自身は気性面が課題で自分との戦いになるが、そこで好勝負をするようなら、有馬記念でも楽しみな存在となる。
一方、同馬を生産した村田牧場は、エプソムCの回顧でも触れたとおり、決して多くない生産馬が重賞で驚異的な成績。現8歳のソリストサンダーから、7歳モズベッロ、6歳ディープボンドとフルデプスリーダー。そして5歳ノースブリッジと4世代連続で重賞を制し、弥生賞ディープインパクト記念7着後に骨折が判明、休養中のロジハービンも、京成杯で2着の実績がある。
また、ノースブリッジの半弟でドゥラメンテを父に持つタッチウッドは、11月の新馬戦を6馬身差で圧勝。同じく明け3歳馬では、朝日杯フューチュリティS5着のバグラダスも村田牧場の生産馬で、6世代連続重賞ウイナーを送り出しても、なんら不思議ではない。
写真:shin 1