[対談]「馬グッズで幸せになれる馬がいるなら…」 - TCC Japan代表 山本高之氏・東映エージエンシー 矢尾板龍行氏

「一個人ができることには限界がある」

競馬場を去った競走馬の行く末について考える競馬ファンが増えているとはいえ、どこかでこの点に行き当たる。特別な成績はあげられずとも、夢中にさせてくれた馬はいる。だが、そんな馬の余生をお礼がわりに世話することも、支えることも見守りつづけることも、個人の力では簡単ではない。それでもなにかしたいが、一体なにができるのか。そうしたファンたちは、頭の隅にそういったジレンマを抱え、個人の限界を感じていたことだろう。そんな競馬ファンの思いを形にする枠組みができつつある。

そのひとつであるTCC Japanは引退競走馬ファンクラブとして、引退馬の支援活動に取り組み、競走馬のその後とファンをつなぐ架け橋を担う。そして、名馬グッズをプロデュースする東映エージエンシーが今回、TCC Japanの引退馬支援事業を支えるためのクラウドファンディングに挑戦した。名馬グッズ販売と引退馬支援の交わりと可能性についてTCC Japan代表 山本高之氏と東映エージエンシーの競馬グッズ企画・販売担当の矢尾板龍行氏に語ってもらった。

"東映"で競馬グッズ販売を

東映エージエンシー 矢尾板龍行氏(以下、矢尾板さん) 私が競馬グッズをつくるきっかけになったのは2000年の秋華賞馬ティコティコタックでした。武幸四郎騎手(現・調教師)が初めてGⅠ獲られたレースが印象的で週刊Gallopさんの優勝パネルをすぐに買いまして今も大切にしているので今日はお持ちしました(笑) それから約20年経ち、いろんな方々とのご縁があり、許諾いただいて競馬グッズの制作をはじめました。今では名馬全史色紙コレクションシリーズなどターフィーショップにも置かせてもらっています。

ターフィーショップは中山大障害や有馬記念当日、もっとも混雑していたエリアといっていい。馬券より先に競馬グッズを求めるファンの姿に時代の変化を感じる。それはつまり、馬への愛情の高まりを意味するのではなかろうか。ではなぜ、映画会社のイメージが強い"東映"が、競馬グッズを制作販売するようになったのだろうか。

矢尾板さん 弊社は東映の映画やテレビ番組を宣伝する会社ですが、それに関連してイベントなども手がけています。イベントにはグッズ事業がつきものですし、色々なキャラクターをビジネスにするノウハウが社内にありました。普段からヒーローものやタレントさんに許諾をとっていましたので、そのノウハウを活用し、ご縁を通じて騎手のみなさんや馬主さんに許可をいただけました。

TCC Japan代表 山本高之氏(以下、山本さん) 競馬グッズは許諾がなかなかクリアできないですもんね。

矢尾板さん 映画宣伝という仕事柄、スポーツ新聞社さんにもパイプがありました。そのご縁からレース写真をグッズ用に使用させていただけたのも大きかったです。そういったグッズ制作に取り組むなかで、私自身も競馬ファンとして年を重ね、競走馬の馬生が気になりはじめました。そこで直接、引退馬の活動をされている方に協力したいという気持ちが沸きましたし、競馬グッズ好きの方にも支援のきっかけになればと思っています。TCCさんは個人からの支援が中心ですが、企業からの支援などもありますか?

山本さん 私たちの業界もすごいスピードで動いています。これまで企業さんからの支援については慎重に動いてきましたが、そういったお話はいただいています。たとえば寄付つきの自動販売機の設置など異業種の方々との広がりも出てきています。

TCCの支援に繋がる自動販売機

TCCの引退馬支援活動とは

山本さん TCCでは現在、約50頭を所有し、栗東にあるTCCセラピーパークや全国の乗馬クラブさんなどと提携して引退した競走馬を直接支援しています。

矢尾板さん ホースセラピーという言葉を、不勉強ながら、TCCさんのホームページで知りました。乗馬などで必ずしも人を乗せてなにかできる競走馬ばかりではないので、そういった馬たちが人に触れられたりする場を提供できているのは、すばらしいことですね。

山本さん 10年ぐらい前からホースセラピーの準備をはじめましたが、いまも業界内では治療的乗馬など、色々な言い方をされています。どれが正しいということはありませんが、私はあえてホースセラピーとつけました。最初は業界の方からホースセラピーは馬に対する治療だよと指摘されました。しかし、TCCでは馬を介在した人へのセラピー活動や馬へのセラピーも含めて人馬の福祉と定義しました。あえて対象を広くし、乗馬だけではなく、会員さん含めみなさんに癒しの部分でも価値を作れれば、馬の生きる道も仕事の幅も広がりますから。うちには大ケガをして、乗用馬になれない馬もいます。そして実際に栗東のセラピーパークにいらっしゃる方はそこで馬に乗れなくても、毎週来られて、ニンジンをあげたり、馬と触れあって満足されています。馬の存在が人を癒す一つの形ですね。

TCCの施設①

支援の幅を広げたい

確かにファンは現役競走馬に触れられない。かつて柵の向こうにいた元競走馬との触れ合いはある種のあこがれに似たものがある。かといって乗馬クラブで元競走馬と触れあえるかというとそれはそれで乗馬クラブが対応しなければならず、難しい面がある。競馬ファンにとって存在するだけで癒されるサラブレッドとの触れ合いの場を提供する意義は大きい。では今回のクラウドファンディングの意義はどんなことなのか。山本さんは競馬グッズが引きつけるファン層の広さにあるという。

山本さん 支援の幅を広げたいですね。うちの会員さんはコアな支援者さんが多いですが、ライトな層の人たちの立場でもできることはあります。支援の多様性を作ることも必要なことで、そう考えると、競馬グッズが好きな方はライト層にもたくさんいらっしゃいます。競馬グッズから支援への意識を持っていただくことは私たちにとって裾野を広げる意味で価値があることです。とはいえ、私たちは権利許諾などグッズ制作を進める余裕がないので、自分たちでは手が届かない層にも東映エージエンシーさんを通じて引退馬の支援を広げていければありたいですし、必要な取り組みだと考えています。

矢尾板さん 私がグッズを制作する上で心がけているのは、超がつく有名馬でなくても、ファンがいる馬はなるべくトレーディング色紙のような形でグッズ化することです。たとえば写真入りの色紙にすれば形になって残りますから。残すことでファンに記憶され、それが支援の入り口にもなります。ここ3年でクラウドファンディングが世間的にも広まり、敷居も下がってきましたので、TCCさんを含め定期的に実施したいですし、それがお店でグッズを買う以外にも支援のきっかけになると思います。

ではクラウドファンディングで集めた支援金はどういった目的で使われるのか。競馬グッズ事業の継続や商品開発のほかにTCCではどのような形で支援金を活用するのか。また、リターンはどんなものがあるのだろうか。

TCCの施設②

山本さん 支援金は馬の飼育管理代の一部として使わせていただきます。実際、昨年は馬の飼料や敷料も物価高騰と同じくかなり値上がりしました。うちでも昨年の秋に会費を一部改訂させていただきました。基本会費は据え置きにし、預託料となる部分はあげさせてもらいましたが、蹄鉄や治療費などをあわせれば、それでは正直、間に合わないほどです。乗馬クラブさんも会費を値上げできればいいですが……。馬を管理する費用は3割以上あがっていますから、大変苦労されていると思います。そういった意味でもみなさんのご支援は大変助かるというのが本心です。

矢尾板さん リターンについては現在ターフィーショップなどで販売している商品もありますが、これから発売する新商品も含まれていますので、競馬グッズ愛好家のみなさんにぜひ参加していただきたいです。

C.ルメール騎手の直筆サイン入りアーモンドアイ号ミニ色紙
本プロジェクトに賛同している石神騎手。
オジュウチョウサンやアサクサゲンキのミニ色紙への直筆サインでも支援。

今回のクラウドファンディングは馬グッズが手に入り、かつTCCを通して引退競走馬を支援できる枠組みになっている。TCCが設置を呼びかけている寄付型自動販売機と同じく、こちらが欲しいものを手に入れる向こう側で馬の支援につながるのであれば、それこそ満足度は増す。馬グッズで幸せになれる馬がいるなら、競馬ファンは張り切ってグッズを入手してくれるだろう。なぜなら、これこそまさに一個人の範囲内でできることだからだ。


【競走馬と引退馬の架け橋になる】東映エージエンシー×TCC

https://readyfor.jp/projects/toeikeiba2023

■募集期日:2022年12月24日(土)17:00~2023年1月22日(日)23:00

■目標金額:500万円

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