ダービー2着、菊花賞2着、有馬記念2着──。
三冠馬オルフェーヴルのライバルとして、G1の大舞台で何度も好走した名馬、ウインバリアシオン。青葉賞・日経賞を制し、G1での好走歴も多い実力派は、引退後に青森で種牡馬となり、現在は東北町・(有)荒谷牧場に繋養されている。今回は、ウインバリアシオンを所有するスプリングファーム代表の佐々木拓也さんにお話を伺った。
種付け前でも"オン"と"オフ"がハッキリしているタイプ
「ウインバリアシオンは種付けが上手です。種付け時に暴れる牝馬が来ても、それに対応する能力に優れています。逆に、ウインバリアシオンで種付けできないような繁殖は、もうちょっと他所でも相手(の種牡馬)が見つからないんじゃないかな、と思うくらいですね」
そう語るのは、スプリングファーム代表の佐々木さん。ウインバリアシオンが引退してからこれまで、共に歩んできたパートナーである。
15歳から馬に乗ってきたという佐々木さん。
それでも、種付けをする直前のウインバリアシオンが放つパワフルさやプレッシャーには恐怖を覚える瞬間があるという。その時に『やはりG1級を戦ってきた名馬だけあるなぁ』と再認識させられる。ただし、種付け時に、ウインバリアシオンが冷静さを失うというわけではない。むしろ、種付け前でも"オン"と"オフ"がハッキリしているタイプだという。
「頭が本当に良いので、相手をよく見るんですよ。何も考えていないタイプの種馬であれば真っ直ぐ牝馬のところに向かって蹴られたりするものですが、ウインバリアシオンの場合、種付けの段階になってもすぐに牝馬に近づかないことがあるんです。例えば、暴れるような牝馬の時はオフの状態のまま遠くからゆっくり観察して、おおよその雰囲気を理解してからオンに切り替え、種付けを開始します。逆におとなしい牝馬が相手だと1分半くらいでササッと終わらせることもあります(笑)」
今では理想的な種付けができるようになったウインバリアシオン。
ただ、青森で新種牡馬を始めた頃はそうした状態ではなかったという。
「当時は、繋養は出来るものの設備もなく当て馬もいない、という状況でした。種付けについてのノウハウはありましたが、結局、物理的な部分についてはゼロから自分たちで作り上げていく必要がありました。周囲にいる生産関係者の方々が"友達"として仕事のあとに付き合ってくれるようになり、次第に"チーム・バリアシオン"のような連帯感が芽生えていきました」
青森の馬産を盛り上げるために、手探りのスタートから現在に至るまでは、多くの苦労があったことだろう。元気よく過ごすウインバリアシオンを見て、周囲がいかに彼を大切に扱ってきたかも伝わってくる。
「ウインバリアシオンは、青森の馬産復興を目指して連れてきた馬です。現在では後輩としてオールブラッシュも繋養されるようになり、我々のノウハウもさらに蓄積されてきたように感じます。オールブラッシュは性格的にクセが強いタイプですが、まず先にウインバリアシオンのような優等生が来てくれたことは幸運でしたね」
「(ウインバリアシオンは)まるで仔馬のような柔らかさがありますね」
ウインバリアシオン産駒は2024年2月現在、中央でも9勝を挙げている。中でもドスハーツは中央4勝をあげ、地方に移籍後は東京大賞典や帝王賞にも出走する活躍を見せた。現3歳馬のハヤテノフクノスケは新馬戦2着から2戦目を勝ち上がると、3戦目の京成杯では4着に粘り、今後の活躍も期待されている。さらに荒谷牧場の生産馬としても、門別で4勝をあげ道営記念でも2着に食い込んだオタクインパクトが活躍。オタクインパクトは中央の芝レースでも掲示板にのるなど、適性の幅広さも魅力の1頭だ。
「ハーツクライ産駒の面白い傾向のひとつに、"いかにもゴツくて走りそう、というタイプは却って走らない"というのがあると思っています。1歳の時には一見すると"ちょっと華奢だなぁ"という感じの、綺麗な馬が成功するパターンが多いです。ウインバリアシオン産駒もその傾向を引き継いでいて、セリの時にはまだちょっと華奢な印象があるタイプが後々になって走ったりしますね」
佐々木さんはその要因を「ハーツクライの血には、成長力があるから」と分析する。
幼い頃から完成されているタイプよりも、その時点でまだ成長途上くらいの馬の方が、より"ハーツクライらしさ"のある成長曲線を描いているのだろう。それはつまり、ウインバリアシオンやハーツクライの血を濃く受け継いでいる証拠でもある。
「ウインバリアシオンは身体の柔軟性とバネがすごいんです。もう、ぐにゃぐにゃしている感じで(笑) まるで仔馬のような柔らかさがありますね。やっぱり他の馬とは違うんだな…という印象を受けます。セリでは筋肉質な馬が好まれるものですから、スラッとしているウインバリアシオンの産駒はあまり値がつかないこともあって、そこは悔しさもありますね」
セリでは、ある程度の活躍が"計算できる"ような、筋肉質で完成が近いタイプが評価されるケースも多い。成長を見越して購入するというのは、その段階ではまだ物足りないとも言える馬の中から正解を引き当てるという難しさがある。そのリスクを避ける判断は真っ当なものかもしれないが、成長力のあるウインバリアシオン産駒の売れ行きを見守る立場としては悔しさがあるのも当然だろう。しかし活躍したウインバリアシオン産駒たちのデータが揃ってくれば、その流れも変わっていくに違いない。
「今こうして活動を続けているのは"夢とロマン"に尽きますね。もちろん利益がでないとやっていけないのですが、根底には常に"夢とロマン"が詰まっています。フジキセキがカネヒキリを輩出したのだって、7世代目のこと。イスラボニータを輩出したのなんて、16世代目ですからね。ウインバリアシオンのバネを受け継いだ馬がGⅠを制してくれるのを、楽しみにしていますよ!」
青森県、ひいては東北の馬産を盛り上げるカギを握るウインバリアシオン。
オルフェーヴルという強大なライバルに挑み続けた根性と強さで、これからも新たな道を切り拓いていくことだろう。
写真:出越 茂毅