[重賞回顧]道悪を苦にしなかったマテンロウスカイが、そつのない競馬で抜け出し重賞初制覇~2024年・中山記念~

春の中距離GⅠを見据える古馬が集う中山記念。近年は、1ヶ月後の大阪杯をはじめ、ドバイターフやドバイシーマクラシック。さらには、4月末におこなわれる香港のクイーンエリザベス2世Cに至るまで、国内外問わず、様々なビッグレースの前哨戦として機能している。

いわゆる「少数精鋭」で争われることが多かったこのレースも近年は頭数が揃い、2024年もフルゲートの16頭が参戦。過去2年の皐月賞馬を筆頭に、半数以上の10頭が重賞ウイナーという豪華メンバーで最終的に3頭が単勝10倍を切り、ソールオリエンスが1番人気に推された。

史上初めて京成杯と皐月賞を連勝し、クラシックの第1弾を制したソールオリエンスは、ダービーでも2着に好走。一転して、秋はセントライト記念2着、菊花賞も3着と勝ちきれないレースが続いたものの、この世代を代表する1頭といって間違いない。

1800mは、デビュー戦以来久々とはいえ、今回と同じ中山でおこなわれた京成杯と皐月賞でのパフォーマンスは圧巻。3度目のタイトル獲得が期待されていた。

わずかの差で2番人気となったのが、同じく4歳馬のエルトンバローズ。3戦3勝でクラシックを制したソールオリエンスとは対照的に初勝利まで5戦を要すも、一気の4連勝で重賞も2連勝。とりわけ、2走前の毎日王冠は、ソングラインとシュネルマイスターのGⅠ馬2頭を破る大金星だった。

その後、マイルチャンピオンシップで連勝は止まったものの、勝ち馬から0秒2差の4着と好走。1800mの実績は文句なしで、こちらも3度目の重賞制覇が懸かっていた。

これら2頭からやや離れた3番人気にヒシイグアス。こちらもGⅠ勝ちこそないものの、当レースを2度制するなど中山の重賞を3勝。また、宝塚記念や香港Cなど、国内外のビッグレースで2着と好走した実績がある。

今回が8歳シーズンの初戦とはいえ、前走の香港Cでも勝ち馬とタイム差なしの3着に激走するなど、まだまだ元気。レース史上初となる3度目の中山記念制覇が懸かっていた。

レース概況

ゲートが開くと、わずかに出遅れたマイネルクリソーラ以外はほぼ揃ったスタート。その中からドーブネがハナを切り、1馬身半差の2番手にエエヤンがつけた。

そこから1馬身間隔でマテンロウスカイ、テーオーシリウス、エルトンバローズの3頭が隊列をなし、6番手にジオグリフが位置。その直後の中団にボーンディスウェイとヒシイグアスがつけ、1番人気のソールオリエンスは、イルーシヴパンサーやソーヴァリアントらをはさんだ後ろから4頭目を追走していた。

800m通過は47秒2、1000m通過も58秒6とペースは速く、大きく離れた最後方を追走していたレッドモンレーヴと先頭までの差は、およそ30馬身。かなり縦長の隊列となり、その一つ前に位置していたマイネルクリソーラまでも20馬身以上の差があった。

その後、3、4コーナー中間でエエヤンがドーブネとの差を詰め、マテンロウスカイは馬なりで3番手をキープ。良い手応えでジオグリフがこれに並びかけ、エルトンバローズと合わせた5頭が集団を形成する中、レースは直線勝負を迎えた。

直線に入ると、エエヤンがコーナリングでわずかに外に膨れてできたスペースをマテンロウスカイとジオグリフが突き、先頭との差は1馬身。エエヤンとエルトンバローズは後退し、替わって後方待機組が台頭するかと思われたものの、大外から追い込んできたソールオリエンス以外は伸びを欠き、坂下で、上位争いはドーブネ、マテンロウスカイ、ジオグリフの5歳馬3頭に絞られた。

その争いから抜け出したのはマテンロウスカイ。残り100m地点で、粘るドーブネを競り落とすと徐々に差が開き、最後は2馬身差をつけ1着でゴールイン。逃げ粘ったドーブネが2着を確保し、クビ差3着にジオグリフが続いた。

稍重の勝ち時計は1分48秒1。3番手から抜け出したマテンロウスカイが重賞初制覇を成し遂げ、大阪杯の優先出走権を獲得。また、騎乗した横山典弘騎手は、歴代最多勝利記録を更新する6度目の中山記念制覇で、同じく自身が持つJRA最年長重賞勝利記録を56歳0ヶ月3日に更新した。

各馬短評

1着 マテンロウスカイ

五分のスタートからスムーズに好位3番手のインを確保し、終始その位置をキープ。その後、坂の途中で先頭に立つと、徐々に後続を突き放し、最終的には2馬身差の完勝で初タイトルを獲得した。

持久力に秀でた点が、いかにもモーリス産駒。開幕週で先行有利とはいえ、ペースもそれなりに流れており、恵まれた勝利というわけでもない。

次走がGⅠだと、そこまで人気にはならないはずで、時計がかかる馬場になれば、再びの激走があってもなんら不思議ではない。

2着 ドーブネ

小回りかつ4で割り切れない非根幹距離のレースは、リピーターが出やすい条件。前年の連対馬、ヒシイグアスとラーグルフは11、9着と振るわなかったものの、3着だったこの馬が再び激走し、波乱を演出した。

先行してこそ持ち味が出る馬で、瞬発力を武器に活躍するディープインパクト産駒らしからぬタイプ。前走の大敗はやや不可解だったが、今回57kgで好走したところをみると、やはり58.5kgの斤量が響いたのだろうか。いずれにせよ、今後も小回りの1800mでは常に警戒すべき存在といえる。

3着 ジオグリフ

5レースに出走した2023年は、宝塚記念以外すべてダート戦。しかし、初戦のサウジCこそ4着と健闘したものの、以後は結果が出ていなかった。

ただ、中山で渋った馬場といえば、後の最強馬イクイノックスを撃破した舞台(2022年の皐月賞)。近走は大敗続きだったため、その実績があっても人気を落としていたが、久々の芝のレースで躍動し、復活の兆しを見せた。

前述した2頭と同じく、小回りや時計のかかる馬場。さらには、洋芝などの条件下で再び好走する可能性は十分にあるだろう。

レース総評

前半800m通過は47秒2。11秒4をはさんで、同後半は49秒5の前傾ラップ=1分48秒1。上がり3ハロンも37秒6と、かなり時計を要した。

上位3頭は、4コーナーを4番手以内で回った馬たち。ただ、逃げたドーブネはもちろん、1、3着馬も先頭から大きく離れた位置につけていたわけではなく、開幕週で先行有利な馬場とはいえ、ペースも速かった。中団、後方待機組の凡走に助けられた部分もあったが、展開面での恩恵はさほどなく、道悪の巧拙が結果を左右した。

勝ったマテンロウスカイはモーリスの産駒。前年2着のラーグルフ(今回は9着)も同産駒で、2年連続の好走となった。

レース後、マテンロウスカイを管理する松永幹夫調教師は「阪神で1度暴走したことがあるので、ゆっくり考えたい」とコメントしており、大阪杯出走に関してはやや慎重な様子。ただ、松永幹夫調教師が過去に管理していたラッキーライラックは、中山記念2着から大阪杯を制した実績がある。

また、2023年の大阪杯を制したジャックドールもモーリスの産駒。マテンロウスカイの次走が大阪杯だとしても、おそらくそこまで人気にはならないはずで、今回と同様、時計がかかる馬場になれば、少なくとも相手に加えたほうが良いだろう。

一方、母の父はスペシャルウィークで、名牝シーザリオの仔、エピファネイア、サートゥルナーリア、リオンディーズの兄弟らと同じ。他にも、ディアドラやジュンライトボルトなど、芝・ダート双方でGⅠ馬を輩出。そのうち、エピファネイアとディアドラは、重ないし不良でおこなわれたGⅠを勝利した実績がある。

対して、4着以下でまず触れたいのが、1番人気のソールオリエンスである。

今回、初めてコンビを組んだ田辺裕信騎手によると、追走にやや苦労したとのこと。そこでレース映像を見返すと、中間点付近で早くも手綱を押す田辺騎手の姿がみてとれる。

これが、皐月賞のように3歳限定戦であれば、上位争いが可能だったかもしれないが、そこは古馬の強豪が集う中山記念。よく差を詰めたものの4着が精一杯で、距離不足の感も否めない。

一方、2番人気のエルトンバローズは7着敗戦。

決して良いスタートではなかったものの、すぐに挽回し、勝ち馬から1馬身半差の6番手を確保。その後、勝負所で前との差を詰めたが、いざ直線に入ると伸びを欠いた。

鞍上の西村淳也騎手によると、終始のめっていたそう。ただ、父ディープブリランテは不良馬場の東京スポーツ杯2歳Sを制し、代表産駒のモズベッロも重馬場の大阪杯で2着に激走。さらに同馬は、稍重発表でも直前のスコールで極悪馬場となった2020年の宝塚記念で3着に好走した実績もある。

そのため、道悪が良くなかったというのは少し意外だが、個体差といってしまえばそれまでか。2走前、瞬発力勝負の毎日王冠を制しているように、ディープブリランテ産駒の中では異色ともいえ、次走が良馬場であれば、見直す価値は十分にあるだろう。

そして最後に、前年の覇者でありながら11着に大敗した3番人気ヒシイグアスも、馬場に泣いた1頭。前述したように、総じて道悪の巧拙が結果に反映されたようなレースだった。

それとは逆に、勝ち馬をはじめとする上位3着内馬の次走が良馬場だとしても、今回は展開面での恩恵がなかったため、評価を下げる必要はないとみている。

写真:shin 1

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