エコロテッチャンは、「Equine Vet Owners」という地方競馬共有馬主クラブ(オーナーズ)の募集馬。獣医師である上手健太郎さんが共同代表馬主として、岩手と川崎を中心として共有馬を走らせているクラブです。僕が上手さんやクラブのことを知ったのは、サラブレッドオークションを熱心に眺めていた時期でした。ネージュダムールという芦毛の牝馬が気になっていて、かなりスピードのありそうな走りを見せていたにもかかわらず、肺出血が嫌われたのか、最終的には41万円で落札されました。ずいぶん安値で買い取られたなと感じましたが、どこの誰が落札したのかと不思議に思ったものです。
しばらくして、Twitterでネージュダムールの名前を見て、そのとき上手健太郎さん率いる「Equine Vet Owners」が手に入れたことを知り、さもありなんと思いました。獣医師だからこそネージュダムールの落札に踏み切れたのです。馬主にとって、特に肺出血のようないつ再発するか分からない疾病を抱えている馬は手を出しにくいものです。ほとんどの競走馬が(表面的には現れないものの)多かれ少なかれ肺出血を起こしていることや、走る馬ほど肺出血を起こしやすいことなどは知っていても、不可逆的かつクセになりやすい厄介な疾病ということで敬遠されがちです。
走る能力は高くても疾病を抱えている馬、または脚元の治療が必要な馬たちを安価で購入し、治療を施して競走馬として再起させるというクラブのコンセプトには共感しますし、獣医師だからこそできるユニークなことだと思います。そして、せっかく地方競馬の馬主登録をしたのだから、1頭持ちではなく共有馬主でも良いかもしれない、と心のどこかで思っていました。ちょうどそんなタイミングで、永田厩舎の志村さんと他愛ない話をしている中、出てきたのが前回最後の会話です。僕が馬主になったらぜひ馬を預かってもらいたいと考えていた永田厩舎に入る馬がいるのですから、願ってもないチャンスです。
上手さんのTwitterを見てみると、たしかにエコロテッチャンが永田厩舎に預けられるとの情報が提供されていました。エコロテッチャンはメイショウボーラー産駒、母は中央で4勝、地方競馬で2勝を挙げたミュゲドボヌールです。ミュゲドボヌールは6歳になってから芝1200mの鈴鹿特別(1000万下)を勝っていますので、現4歳のエコロテッチャンももうひと花咲かすことができるかもしれません。母は440~470kg台の馬体で走っていたのに対し、エコロテッチャンは410~430kg台とやや馬格的には物足りなさは否めませんが、父と母譲りの良いスピードは持っているようで、美浦の坂路でも水準以上の時計を出していました。
過去のレースを振り返ってみると、スタートセンスが良く、テンのスピードも速いため、逃げる形に持ち込んでどこまで粘るかという競馬を繰り返しています。もう少しスタミナとパワーがついてくると、中央競馬でも勝ち上がることができていたかもしれませんね。いずれにしてもスピードタイプですので、地方の競馬場の中では、芝コースのある盛岡競馬場が最も合っているはずです。
懸念材料としては、過去のパドック映像を観る限りにおいて、やや気が弱いというか、気性面でのもろさを感じます。もっと堂々と振る舞えるようになれば、レースでも力を出し切れると思いますが、このあたりは馬の持っている性格もあるのでそう簡単には変わってこないでしょう。馬体的にはつくべきところにはふっくらと筋肉がついていますが、腹回りがどうしても寂しく映ってしまうのは、気性面の繊細さの影響もあるはずです。この先、競走馬としての経験を積み重ねることで、少しずつ気持ちが強くなってくれることを願います。
それから、牝馬であるにもかかわらず、エコロテッチャンというのも不思議な名前ですね。エコロは冠名ですが、なぜテッチャンと名付けられたのでしょうか。実は僕の悪友が哲也という名前で、母親から「てっちゃん!」と呼ばれていたのを覚えているので、どうしてもテッチャンと聞くと彼のことが頭に浮かんでしまいます(笑)。エコロテッチャンは女の子ですから、人間に当てはめてみると哲子でしょうか。哲子だからテッチャン。そう考えると、ずいぶんと哲学的で思慮深そうな女性に思えてきました。
ということで、あまり大きな期待をかけることなく、志村厩務員と上手獣医師、永田調教師を中心としたチーム永田厩舎で走るエコロテッチャンに出資することにしました。エコロテッチャンが真ん中にいて、その周りを僕たちが輪になってつながるイメージです。エコロテッチャンが僕たちをつないでくれたと考えることもできるでしょう。
地方競馬のオーナーズは最大20人で1頭の馬を共有できるため、20口募集であるクラブがほとんどです。エコロテッチャンは総額180万円を20口で割って、1口が9万円。価格的には、中央競馬の400口募集の一口馬主と同じぐらいですね。そこで今回、僕にとっての最大の問題は、何口を出資するか?でした。本音を言うと、20口全部出資してもよいと思っていました。でもそれでは共有ではなくなってしまいますし、クラブの規約を読むと以下のように書かれています。
第7条(所属馬の持分購入手続き)
募集馬の募集口数は、原則20口とします。
募集馬の持分は、安定的なクラブ運営を行うために必要な持分を共有代表馬主が所有するものとします。(以下、省略)
ややこしく思えますが、素直に読むと、代表馬主である上手さんが20口のうちの相当数(30~50%?)を所有し、それ以外の口数を他の馬主さんで共有するということでしょう。ということは、多くても10~14口が上限なのではないでしょうか。会社の株式であれば、議決権を有するために創業者は51%以上を保持するということがありますが、共有馬主もそのようなパワーバランスになるのでしょうか。ということは、もし僕が10口以上で出資申し込みをすると、まるで敵対的買収のような形になりかねません(笑)。かといって、10口ですと、僕と上手さんの2人で共有することになってしまい、他の馬主さんたちが出資することができなくなってしまいます。そんな余計なことを考えて、結局のところ5口に出資、つまりエコロテッチャンの25%を共有することに決めました。いわゆる4分の1持ちということですね。これぐらいであれば、ある程度はモノ言う株主にもなれますし、煙たがられずにも済みそうです。
(次回に続く→)