本題の前に、というか本題とも大いに関連するのですが、母父トウカイテイオーのレーベンスティール号がセントライト記念を制し、初の重賞タイトルを手にしました。ネットにはファンの皆様の喜びの声があふれていましたね。そして、クワイトファインについても言及していただける方も多いので、ますます活動の追い風にしなければなりません。
さて、今週もともと書こうと思っていた話ですが、レーベンスティールとも無関係ではないので、ぜひご一読ください。
さて、前回まで3回にわたり、引退馬活動について私の考えを述べてきましたが、そもそも野生動物と家畜の違いは、野生動物はそれこそ何千年単位の長い年月のなかで、何千万という母集団のなかから適者生存のために進化してきました。一方で家畜は、人間のニーズに合わせるために限られた母集団に対し人間が意図的に適者生存のルールを決め、それに合わない種を容赦なく排除してきました。しかし、人工授精で大量生産される肉牛・乳牛・肉豚はまだしも、自然交配、自然分娩のルールを自ら課しているサラブレッド生産において、母集団を意図的に著しく狭めることが適者生存が出来ると思いますか?。以前にも触れましたが、そのことは「国際血統書委員会」つまりサラブレッド生産者がもっとも危惧していることなのです。
といっても説明だけではピンと来ないと思いますので、近い将来の世界中の競馬ファンの話題を独占するであろう、ある馬(まだ生まれていませんが)を例にとります。
2022年凱旋門賞勝ち馬アルピニスタ。オーナーサイドは、2024年の配合相手としてディープインパクト産駒スタディオブマンを予定しているとの報道があります。オーナーの考え方は、その時点で最高の種牡馬を配合したいとのことで、資金に余力があれば世界中の馬主(生産者)がそう望むことでしょう。日本のファンにとっても、世界一の牝馬とディープ後継種牡馬の配合ですから大いに期待されることかと思います。
一方で、この配合の仮想血統表を作ってみると、あることに気が付きます。
上から順に、
父父父父ヘイロー(ロイヤルチャージャー系)
父父母父アルザオ(ノーザンダンサー系)
父母父父ストームバード(ノーザンダンサー系)
父母母父ヌレイエフ(ノーザンダンサー系)
母父父父サドラーズウェルズ(ノーザンダンサー系)
母父母父ディンヒル(ノーザンダンサー系)
母母父父ニニスキ(ノーザンダンサー系)
母母母父アルザオ(前出、ノーザンダンサー系)
4代血統表の種牡馬の8分の7がノーザンダンサー系です。しかも、ノーザンダンサー系独り勝ちの欧州ではそんなに珍しいことではないのでしょう。
こんな配合ばかり続けていて、サラブレッドの未来は本当に薔薇色なのでしょうか。
そして、日頃から引退馬支援にご尽力されている皆様にもぜひご意見を伺いたいのですが、このように適者生存の権利すら人間に奪われているサラブレッドにとって、本当の幸せって何でしょうか。生まれ落ちた個体だけ幸せな余生を送れれば、多様な血統がどんなに淘汰されても問題ないって言い切れますか?
そう考えると、レーベンスティール号は母父トウカイテイオーということで、血統のバランスは比較的保たれています。そして、多様なサイヤーラインを人為的に維持し、配合の多様性を確保することは、サラブレッドの血統の永続性に必ずやプラスになります。
あとは、現実のビジネスとどう折り合いを付けるか。たったそれだけのことなのです。
競馬界に影響力を保持する人が、一人でも、「サラブレッドの血統の持続可能性」に関心を持ってくれればいいのですが。そして、真っ当な議論を闘わせることが出来るホースマンは、きっといるはずです。私はそう信じ、発信を通じていつかそういう人と出会えるよう精進します。