[連載・馬主は語る]一心同体(シーズン2-32)

嬉しいニュースが飛び込んできました。12月の日曜日、碧雲牧場の慈さんから、「おしい!でも良いレースでしたね!次で順番が回ってきますね!これは名牝の予感」というLINEが突然届いたのです。最初はどの牝馬のどのレースのことを言っているのか全く理解できず、他の牧場の人に送る内容を間違って僕に送ってしまったなと思い、そのまま放置していました。ところが、ふとした瞬間に、もしかするとあの馬のことかと思い浮かび、前日の中山競馬場から阪神、中京の新馬戦の結果をもれなくチェックしてみました。

すると、いました、グシチャンノソラが。先日のジェイエス繁殖馬セールで購入したスパツィアーレの初仔です。スパツィアーレは第一仔(父ロードカナロア)と第二仔(父パドトロワ)は流産と不受胎であったようで、実質的にはラブリーデイとの間に生まれたグシチャンノソラが初仔になります。セレクトセールにて1650万円で購買されていますが、社台ファームの関係者によると売るのに苦労したとの話でしたので、もしかすると初仔の牝馬ゆえに馬体が小さかったのかなと想像していました。個人馬主の方が購入されているので、どのような育成状況なのか全く不明でしたから、デビューできるのかさえも分からないまま、生き別れた兄弟姉妹を想うような気持ちでいたところでした。

2歳の12月にデビューできたことに安心しましたし、レース振りを見てもスピードがありそうで、2番手を追走して最後は2頭に差されてしまいましたが、3着に粘り込んでいます。しかも驚いたのが、牝馬ながらにして馬体重が520kgもあることです。父ラブリーデイはそれほど大型馬ではありませんでしたから、母スパツィアーレの馬格の良さが伝わっているようです。慈さんが「ダートムーアは背が高くてスラっとしたタイプですが、スパツィアーレも背は同じぐらい高くて、さらに横幅があるので大きいですね。スパツィアーレの方が種牡馬を選ばないと思います」と言っていたとおりですね。

父ラブリーデイ、母父シンボリクリスエス、母父父ハーツクライという字ヅラだけを見ると、ダート1400m戦でデビューして3着するような血統ではないように思えますが、やはり母系のステラマドリッドのスピードが生きているのでしょうか。サンデーサイレンスの4×4、トニービンの4×5というクロスがあり、後者が引っ掛かっていたのですが、もしかするとそれぐらい遠いと気にしなくて良い、もしくは時代を経てダート適性を強めている可能性もあります。リアルシャダイの血が代を重ねるごとにダート適性を強化したように、ヨーロッパのスタミナの血も変化するのです。

とにかく、スパツィアーレの初仔が520kgの馬格を誇り、ダート1400m戦で2番手を追走するスピードを見せて、しかも3着してくれたのは希望でしかありません。レース後のジョッキーのコメント「良いフットワークでした。先々走りそうです」を見ても、次走以降も期待できそうですし、トントンと勝ってくれたら母スパツィアーレの評価も上がります。ましてや重賞で好走してくれたら、ブラックタイプ(セリ名簿の血統表において馬名が太くなること)がついてきます。ノーザンファームの繁殖牝馬セールで買うと、勝手に兄弟姉妹や子どもたちが走って血統表が濃くなると生産者が言うのはそういう意味ですね。

スパツィアーレを繁殖牝馬として購入するまでは、まさかグシチャンノソラのデビューを心待ちにして、その結果をこんなにも喜ぶとは夢にも思いませんでした。グシチャンノソラは僕たちの生産馬でもありませんし、たとえ走っても1円も入ってこないのですが、母の評価が高まるという点において一心同体なのです。この感覚は生産者にしか分からない楽しみ方かもしれませんし、繁殖牝馬を買った醍醐味のひとつでもあると思います。

実はダートムーアの仔の1頭であるオークハンプトンは追いかけていました。気づいたころにはもう4歳馬であり、大井と船橋競馬場で計5勝を挙げていましたが、あくまでも地方競馬であり、血統表においては中央競馬の勝利数の方が圧倒的に価値は高いのが実状です。たとえば、ダート―ムーアの産駒が将来セリに出るとして、その血統表には母ダートムーアの仔の名前が並び、その1頭であるオークハンプトンの横には5勝(大井・船橋)と記載されるはずです。そうすると、馬を買う側からすると5勝しているのは良いけれど、あくまでも地方競馬だからねと低く見積もられがちということです。それぐらい、中央競馬における1勝の価値は高いのです。

ダートムーアの第1仔と第2仔はすでに引退しており、オークハンプトンの姉にあたる第4仔は岩手競馬に移籍し1勝、そして第5仔のグレイウェザーズは中央2戦目で3着しましたが、馬体重が420kg台とやや心もとない馬体です。ダートムーアの血統背景や現役時代の成績を考えると、現状、物足りない繁殖成績であることはたしかです。だからこそ僕の手にやってきてくれたとも考えられますので、何とか頭を使って、ダートムーアから走る仔を出して名誉を回復してあげたいと切に思います。このような感情も、生産の世界に片足を踏み入れて初めて味わうことができました。競馬の世界はほんとうに奥が深いです。

Photo by Kouichi Miura

(次回へ続く→)

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