"拝啓、オルフェーヴルさま" - 競馬ライター・勝木淳からの手紙

拝啓、オルフェーヴルさま

先日、あなたがかつてのパートナー池添謙一騎手と再会する動画を目にしました。現役時代、17回も背中に乗せた池添騎手に前蹴りに行こうとしていましたね。今年で15歳だというのに、いたずらっ気の強いやんちゃなところはまだまだ収まっていませんか? いくつになっても自分らしくあり続けるあなたが少し羨ましく、同時に元気な姿に安心しました。思えば、あなたの現役時代は、まさに型破り。制御不能なカリスマとはあなたのことではないかと私は密かに思っています。

2歳夏のデビュー戦では、抜け出すと内ラチに突っ込むように切れ込んでいき、ゴール後は池添騎手を振り落とし、ケガをさせてしまいました。結果的に三冠馬でデビュー戦の口取り写真がないのはあなたぐらいですよ。ま、あなたには関係ないですよね。ウイナーズサークルに行ったら行ったでなにをするかわかりませんからね。さすがは制御不能のカリスマです。その後はレース前に寂しくて嘶いたり、出遅れたかと思えば、強烈に引っかかったりと、池添騎手を手こずらせ続けましたね。

それでいて、皐月賞ではとてつもない走りを披露するなど、底知れなさにワクワクしたのを覚えています。走りすぎた皐月賞はさすがに疲れたようでしたが、ダービーに向けて超回復。人知を超えるとはまさにこのことです。それもあなたの十八番でしたね。季節外れの台風が影響したダービー当日。馬場は不良。これ以上ない悪条件があなたの奥底に眠っていた力を引き出したかのようでした。逆境とは、火事場のクソ力ではないですが、これまで見せなかった真の力を導くものだと知りました。新潟デビューのダービー馬はシンボリルドルフ以来、皐月賞、ダービーともに東京競馬場で勝ったのはシンザン以来でした。この時点で、三冠は宿命だったんですね。

そして、神戸新聞杯を迎えました。馬体重は16キロ増えて460キロ。お父さんの面影はすっかりなくなり、逞しくなった馬体に少しの寂しさと大きな頼もしさを感じたのを覚えています。皐月賞まで減らし続けた馬体をダービーで増やし、神戸新聞杯へ。こんなに目に見えて成長具合を表現してくれたことで、馬の成長期というものを学べました。

そういえば、神戸新聞杯はどうしたんですか? スタートからさっと好位につけ、スマートロビンが飛ばしているようで13秒台が2回も続く超スローペースのなか、中団前で少し行きたがりながらも、行儀よく追走していました。あなたのライバル・ウインバリアシオンが外から来ると、すっと加速して離していきました。最後は内ラチに行かないように少しだけステッキによる扶助はありましたが、完璧な競馬でしたよ。あなたのレースはすべて見てきましたが、神戸新聞杯はベストレースなのではと思います。三冠を確信できたレースでしたね。夏を越し、心もすっかり成長したと思わせながらも、菊花賞ではあなたらしくレース後に池添騎手を振り落としました。三冠馬のウイニングランがカラ馬になるところでしたよ。やっぱり、あなたは制御不能のカリスマです。そんなあなたの伝説はここまでが実は序章でした。まだまだ続けたいところですが、長くなるので、今日はこの辺にしようと思います。あんまり長いお手紙だと、きっとあなたは最後まで読んでくれないでしょうから。またいつか書きますので、それまで元気でいてくださいね。

写真:Horse Memorys

あなたにおすすめの記事