[連載・馬主は語る]競馬は皆で楽しむもの(シーズン3-23)

来年度に配合したい種牡馬が明確になってくると、気になるのは種付け料です。「ダービースタリオン」などのゲームと違って、自腹を切らなければならないのですから、たとえ50万円の値上がりでも大きいのです。生産の世界に足を踏み入れる前は、どの種牡馬の種付け料がいくらかなんて、ほとんど気にしていませんでした。サンデーサイレンスやディープインパクトの種付け料が3000万円とか4000万円とか聞くと、高いなとは思っていましたが、他の種牡馬の種付け料が何百万円だろうと、さしたる違いがあるとは感じられなかったのが正直なところ。むしろ3桁万円であれば安く、4桁万円だと高いぐらいのざっくりとした感覚でした。それが今となっては50万円値上がりしただけで頭を抱えるのですから、おかしな話です。

11月22日、いい夫婦の日に、社台スタリオンステーションの2024年度の種付け料が発表されました。僕は真っ先にリアルスティールの名を探しました。レーベンスティールが出たことや勝ち上がり率を見ても、種付け料が上がることはあっても下がることはないと考えていました。それでも、頼むから昨年度と同じであってくれ!と心の中で願いながら。

同じでした。昨年度から引き続き300万円の種付け料でした。胸を撫でおろしつつ、やや拍子抜けした感もありました。種付け料が上がったら上がったで頭を抱えるのに、上がらなかったら上がらなかったで、もしかするとあまり評価されていないのかもと不安になったりするのです。

それよりも驚いたのは、ブリーダーズスタリオンステーション繋養と記されていたことです。つまり、社台スタリオンステーションからの移籍という意味です。毎年、新しい種牡馬が次々と導入されてくることを考えると、誰かが玉突き的に去って行かねばならないのは仕方ないのですが、まさかこれだけ実績を出したリアルスティールが押し出されるとは。ミッキーアイルやサトノダイヤモンドも同様に移籍が決まったということは、ディープインパクト直系の種牡馬が整理されたということでしょう。特にディープインパクト×母父ストームキャットという血統構成は、キズナとダノンキングリーが社台SSにはいるため、重複してしまうとも考えられます。まあ、決まったことは仕方ありませんから、ブリーダーズスタリオンステーションに種付けに行くことにします(ブリーダーズも良いスタリオンです)。

その他、個人的にはニューイヤーズデイの種付け料が50万円ダウンしたのは少し残念に感じましたし、逆にルーラーシップが据え置きかつ社台スタリオンステーションに残留してくれたことは嬉しかったです。レイデオロが500万円に下がって、手の届きそうなところまで来た感もありますし、サトノクラウンも50万円アップの200万円にとどまり、スパツィアーレの花婿候補として再浮上しました。そんなことで一喜一憂するのですから、社台スタリオンステーションは生産者にとって大きな影響力のある存在なのです。

一般的には、キタサンブラックの種付け料が2000万円にアップしたことや、何と言ってもスワーヴリチャードが1300万円アップの1500万円になったことの衝撃があったようです。スワーヴリチャードに関しては、噂は聞いていましたので、まあそうなるよねと全く驚きはありませんでした。囲い込みと言ってしまえばそうかもしれませんし、それは社台スタリオンステーションが決めたことではなく、オーナーサイドの意向でしょうか。種牡馬はオーナーの馬ですし、スワーヴリチャードを種牡馬として成功させようとお金と時間を惜しまずに費やして尽力したのですから、そのような選択はあって然るべきです。1頭でも多くの繁殖牝馬に配合し、将来性を拡げたいと思いながらも、急に人気が出すぎて相手を絞らなければならず、またもちろん少しでも利益を出すために種付け料を上げようとするのは当然です。大幅に値上げをしても、実際に満口になるでしょうから、ニーズと価格は釣り合っているとも言えます。

ただ、思っているようには行かないんじゃないかな、というのが僕の感想です。サラブレッドの生産や配合というのは人知を超えているもので、良血の繁殖牝馬ばかりに配合したからといって名馬が出るとは限らず、思ってもいないところから活躍馬が出たりするものです。たとえば、先ほどのリアルスティール産駒のレーベンスティールなどは、日高の広富牧場という小さな牧場の生産馬。希少なトウカイテイオーの血を引く、今となっては珍しい母系から誕生した名馬です。自分たちの手の届く範囲で何もかもをコントロールしようと思うと、どうしても多様性が失われますし、思い通りにはいかないのが世の常です。良い種ができたなら、周りの皆にも分け与えるぐらいの方が、長い目で見ればその種が繁栄していく可能性は高いのではないかと僕は思います。競馬は皆で楽しむものなのです。

(次回へ続く→)

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