[インタビュー]青森の乗馬クラブで種牡馬を! カンパニー産駒ウインテンダネスが、クラウドファンディングに挑戦中

2024年11月15日、青森ホースファームが『ウインテンダネスの血統をつなぐ』というクラウドファンディングをスタート。『トニービンからつながるウインテンダネスの血を残したい』という決意のもと始まった、ウインテンダネスに種牡馬を続けさせるためのプロジェクトに、SNSを中心に多くの賛同者が集まった。

翌日には早くも第一目標を達成するなど話題となっている『ウインテンダネスの血統をつなぐ』プロジェクト。果たしてどのような経緯で、このクラウドファンディングに至ったのだろうか──。

今回は、青森ホースファームの大森友也代表と青森ホースファームスタッフの松山愛加さんにお話を伺った。

青森市の乗馬クラブで種牡馬に挑戦 異色の道のりを辿る目黒記念勝ち馬ウインテンダネス

「クラウドファンディングの反響は、想像を大きく超えるものでした。どうやら支援者の方は県外の人が多いようで、トニービンの血統ファンなのか、ウインテンダネスのファンなのか…そのあたりは私たちにはわかりませんが、大変有難いですね。元々は『最初の1週間で20〜30%いけば嬉しいな』と思っていたのですが、まさか1日で達成するとは…。嬉しいよりも先にびっくりした感じです。本当は達成も難しいんじゃないかと思っていたくらいです」

青森ホースファームの大森代表は、クラウドファンディングの好調なスタートを驚きとともに振り返る。

今回のプロジェクトはウインテンダネスに”種牡馬を継続させる”目的のものだが、そもそもウインテンダネスが引退したのは2020年であり、2024年に種牡馬として登録されるまでには間が空いている。そこには、種牡馬登録に至るまでの様々な事情があった。

「元々、ウインテンダネスは生産者のアサヒ牧場さんが種牡馬にして所有する予定でした。まずは引退の原因になった怪我の療養をしていたのですが、その療養期間中に諸般の事情から種牡馬として繋養するのが難しくなったそうです。そこで、十和田のスプリングファームにてウインバリアシオン・オールブラッシュを所有・種付け業務をしている佐々木拓也さんに相談なさったそうですが、そちらも手一杯。さて、どうしよう…となったタイミングで佐々木さんから私に話がきました」

ウインテンダネスは芝の活躍馬で、重賞の目黒記念などで勝利。通算で6勝をあげる活躍を見せた。父は8歳で天皇賞秋を制したカンパニーであり、同馬にとっての代表産駒である。

2014年のセリで345万円で取引された馬だったが、獲得総賞金は1億4898万円。一口価格2.75万円に対して一口賞金は37.2万円(想定)であり、想定回収率は1300%を超える一口馬主孝行な名馬でもある。

「種牡馬としてもポテンシャルを秘める馬だから、できたら種牡馬ということも視野に入れながら所有してもらえないか…という打診をいただきました。ウチは馬産もやっていますが、基本は乗馬クラブなので、牝馬もいます。そのため『もし仮に牝馬に反応して暴れるようであれば去勢は避けられないですよ』とお伝えしました。それでも良いとのことでしたので受け入れたところ、暴れることなく過ごしていたのですぐに去勢はせずに、様子を見ることにしました。あそこで問題を起こしていたら、種牡馬への道は絶たれていましたね」

ウインテンダネスは、トレセンで転倒し右前脚の繋靭帯不全断裂を発症したことで競走能力喪失と診断され、引退に至った。当然、重篤な怪我である。さらに飛節も痛めていたため、青森ホースファームに到着後は怪我の様子を見ながら動かしていった。

「最初は怪我の影響があって動きもぎこちなかったんですが、時間が経つと大きくて柔らかい動きをするようになりました。馬体もパンとしてきて、到着時と比べて随分と重賞馬らしい雰囲気に戻ったと思います。性格は大人しく、牝馬が近くにいてもテンションが上がることはなかったので有り難かったですね。むしろ牝馬の方が、去勢されていない牡馬が同じ乗馬クラブ内にいるのでソワソワと気にすることはありました。やはり去勢していない牡馬ということはわかるようです」

ファンの後押しで種牡馬に 費用面では想像以上の難しさも…

一般のお客さんを乗せることなくスタッフの練習相手などをしながら過ごすうち、2年が経っていた。大森代表がいよいよウインテンダネスを種牡馬として登録しようと動いた背景には、熱心なファンの存在があった。

「東京や愛知からファンの方が来て『種牡馬にしてくれたら嬉しいです!』『絶対いけますよ!』『ダートも使っていないですし未知数です!』と熱く語ってくれた。そのあと押しはありましたね。あとは、私が馬術部時代に初めて担当した馬がトニービン産駒なので、トニービンの血を受け継ぐこの馬に縁を感じていたのもあります。乗馬クラブで種牡馬事業をやるというのはレアケースでしょうから、自分でも『大丈夫かな、やれるものなのかな?』という不安はありました。ただ、2023年からオールザベストという馬を種牡馬として預託を受けたこともあり、事業の幅だしと思ってチャレンジしてみました」

ウインテンダネスを種牡馬とすると決めたのは2023年のこと。まずは種付けの練習として高齢の繁殖と組ませてみたが、オールザベストはすぐにうまくいったのに対して、ウインテンダネスは最初のうち戸惑っていたという。

「興奮はしているようなんですが、何をすればよいかわからないといった感じでした。乗馬クラブではずっと『牝馬に乗ってはいけないよ』と教え込まれてきたのに、急に『やっぱり乗って良いよ』と方針転換されたので、混乱したのでしょう。最初はどうすればよいかわからず、興奮したまま人間の方に突っ込んできたくらいです。3度目の練習でようやく乗れるようになって、今では1分もあれば問題なく乗れるようになりました」

初めて迎えた種付けシーズンだったが、土地柄から想定外の事象に見舞われたこともあった。種牡馬として活動を開始するための種畜検査も、そのひとつだ。

「七戸や八戸は馬産をしている牧場が多く役所も手慣れたものなんですが、我々のクラブは青森市にあるため、種畜登録も青森市にて申請を出す必要がありました。青森市の方々も驚いたことでしょうが、慣れない申請を受けてもらうことで登録完了までにすごく時間がかかり…。結局、種付けができるようになったのは5月と、種付けシーズンの終盤でした。そこから募集をかけるには遅すぎましたし、ウインテンダネスを生産したアサヒ牧場さんも種付けしたいと仰ってくれていたのですが、その時期まではさすがに待ってもらうことができず、我々も高齢の繁殖を用意するので精一杯でした」

そのためウインテンダネスの初年度種付けは、結果、受胎数0で終わった。ただし受胎しなかった原因は、相手の繁殖牝馬が高齢だったことの影響が大いにあるはずで、種付け能力に問題はないと考えている。そのため、種付けを覚えた2025年シーズンが本番とも言える。一方で、実際に種付けシーズンを1度過ごしたことで分かった難しさも多かった。

「最初からお金になると思ってやっていたわけではないですが、それでも実際に請求書を見るとびっくりするような金額で…。試験種付けでも実際の種付けでも、ウチのスタッフだけでやりきれるわけではありません。私たちはあくまで牝馬を押さえる役目で、種牡馬を支える役は十和田からお呼びした佐々木さんたち3名にお願いしています。さらに獣医さんを呼んだりしているうちに費用がかさむんです。現状では一切お金をうまない馬に馬房を使わせて…となると、負担が大きく、翌年以降も続けるのは難しいかなと思っていました。すると見学に来てくださっていた熱心なファンの方々が『クラウドファンディングをやってみよう』と提案してくださったんです。私も続けられるなら嬉しいので、ダメ元でやってみようか、と」

そして翌年の種付けシーズンに向けて挑戦したクラウドファンディングで、上述のような大反響。想定していなかったスピードで支援が集まり、ウインテンダネスの種牡馬継続が決まった。

普段は「甘えん坊の可愛い男の子」 SNSでも反響が

ウインテンダネスに多くの支援が集まったきっかけのひとつが、SNSでの発信だ。青森ホースファームスタッフの松山さんは、X(旧Twitter)の『ウインテンダネスの日常(@wintenderness)』というアカウントで、これまでウインテンダネス情報を発信してきた。2021年10月から運用されてきたアカウントは、2024年12月には2000人を超えるフォロワーを獲得している。

「X(旧Twitter)での反響は嬉しかったですね! 元々、乗馬になるか種牡馬になるか注目してくれている人は多かったです。それでも、反響の大きさにはとても驚きました。それまでのフォロワーさんには『種牡馬になれなくても応援しているよ!』というスタンスの人が多かったので、種牡馬を継続するというプロジェクトは第一目標をギリギリ達成できたらラッキーだなという気持ちでしたから…。こうして多くの方からご支援いただいたことで『愛されている馬なんだな』とウルっときました」

松山さんは、SNSでのファンとの交流を通じて感じたウインテンダネス人気に声を弾ませる。クラウドファンディングの告知ポストは11万を超えるインプレッションがあった。

──そんなウインテンダネスは、普段、どのように過ごしているのだろうか。

「基本的には良い子ですね。たまにわんぱくなところもあり、甘えん坊の可愛い男の子みたいなイメージで接しています。人間が好きで、人懐っこいタイプです。大事にされてきた馬という感じですね。服を引っ張ってきたりして遊ぼうと誘ってくれるので、スタッフからも可愛がられていますよ! 種牡馬になって種付けを覚えることで性格や態度に影響が出るかなと思っていたのですが、今のところ大きな変化も見られず、可愛らしいままです。体調も良く、脚もしっかりしているので、外で跳ね回って遊んで過ごしています」


第一目標を達成した『ウインテンダネスの血統をつなぐ』プロジェクトは、現在、第二目標の達成に向けて挑戦を続けている。第二目標は、『配合する繁殖牝馬の準備』のための資金だ。種牡馬を継続したとしても、募集に対して繁殖牝馬が集まらなかった場合は産駒が見られなくなってしまう。この第二目標を達成することで、ウインテンダネスの配合相手として青森ホースファーム内にて若い繁殖牝馬を繋養することができる。

上述した『トニービンからつながるウインテンダネスの血を残したい』というフレーズからもわかるように、ウインテンダネスは父系にトニービンの血を持つ希少な種牡馬である。トニービンは2001年の年度代表馬ジャングルポケットや、ベガ・エアグルーヴといった名牝、ダービー馬ウイニングチケットなどを輩出した日本競馬史に残る名種牡馬だ。母父としてもハーツクライやアドマイヤベガ、アドマイヤグルーヴらを輩出し、その血はイクイノックスやドウデュース、タイトルホルダーといった近年の活躍馬にも流れている。しかし父系としては現在、その血を受け継ぐ種牡馬はトーセンジョーダンとウインテンダネスのみという状況だ。

3戦1勝という戦績ながら良血ぶりを評価されて種牡馬となったトニービン産駒のミラクルアドマイヤ。ミラクルアドマイヤは、その数少ない産駒から天皇賞・秋を制したカンパニーを輩出した。そのカンパニーの送り出した重賞馬がウインテンダネスである。

血統的な価値も高いウインテンダネスが、その血を繋いでくれるだろうか。そして、青森県における従来の馬産地域ではない青森市で種牡馬となるという異色のキャリアから、東北の馬産を盛り上げることができるだろうか。クラウドファンディングを通じたその先に広がる未来が今から楽しみでならない。ウインテンダネス自身のファン、そしてトニービンの血を愛する血統ファンや父系のバリエーションを維持したい血統ファンなど、多くの人々が、このプロジェクトの成功に注目していることだろう。

このプロジェクトはCAMPFIRE(キャンプファイヤー)の『ウインテンダネスの血統をつなぐ』(https://camp-fire.jp/projects/793065/view)から支援可能。3000円から支援が可能で、支援金額によりプロジェクトピンバッチやウインテンダネスカレンダーなどのリターンが用意されている。

写真:山中博喜、青森ホースファーム

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