1999年に従来の1600mから2000mへと距離が延長された京成杯。以降、これまで以上に春の3歳G1へ向けた重要なステップとなった同レースは、勝ち馬だけに限らず後の活躍馬を何頭も輩出してきた。
今回は、京成杯が中山芝2000mという条件へ移って以降に出走した馬で、春の3歳G1を制した名馬を紹介していきたい。
イーグルカフェ(2000年 2着)
アメリカ生まれの外国産馬イーグルカフェ。デビュー当初はダート戦を使われていたが勝ち切れず、3戦目に芝を試すとあっさり勝ち抜け。そのまま京成杯に臨んできたが、芝での経験が少ないことなどを理由に、当時のトップジョッキーである岡部幸雄騎手が騎乗していたにもかかわらず13頭立て9番人気と、評価は低かった。
レースは1000m62秒6の通過という遅い流れで、馬群は密集。4コーナーでもまだ中団のインにいたイーグルカフェだったが、ここから岡部騎手が馬群の隙間を縫うように同馬をエスコートし、みるみるうちに各馬を交わしていく。逃げたマイネルビンテージには僅かに届かず2着に敗れたものの、上り3Fは最速の35.8秒。イーグルカフェの素質を見たと同時に、名手・岡部ここにありということを改めて見せられたレースでもあった。
そしてイーグルカフェは次走、共同通信杯4歳Sで差し切り勝ちを決めて重賞初制覇を決めると、3か月後のNHKマイルCでG1初制覇を成し遂げた。以降も芝、ダートを問わずに走り続け、2002年にはデットーリ騎手を背にジャパンカップダートを勝利。グレード制導入以降ではクロフネ以来の史上2頭目となる、芝・ダート両方でのG1制覇という偉業を達成した。
キングカメハメハ(2004年 3着)
デビューから2連勝で京成杯に臨んできたキングカメハメハは、この時点で既に相当な素質馬として注目を集めていた。新馬戦で勝利をあげた後、管理する松田国英師が「ダービーを狙いたい。本当に素晴らしい馬」とコメントしており、続くエリカ賞も完勝。無敗のまま京成杯を勝つだろうという見方をするファンも多く、1番人気に支持されていた。
レースは中団から進めたキングカメハメハだったが、向こう正面あたりから逃げたマイネルマクロスが加速し、後続に大きなリードを取った。これを見てキングカメハメハは3角あたりから進出を開始したものの差は詰まらず、逆に自身より後ろで脚を溜めたフォーカルポイントに交わされて3着。レース後、ダリオ・バルジュー騎手は「能力はあるが、自分が何をしたらいいかまだわかっていない感じ」と語り、経験の浅さを指摘した。
しかし、キングカメハメハはこの後、クロフネやタニノギムレットといった名馬でも成し得なかった、NHKマイルCと日本ダービーを制するという変則二冠を難なく達成。経験の浅さを露呈した京成杯後、さらに厳しい鍛錬を積んだというキングカメハメハは、ひと月後のすみれSで主戦の安藤勝己騎手から「全てが変わった」と言われるほど、大きな成長を遂げていた。
結果的にこれが生涯唯一となった京成杯の敗戦だが、この敗北があったからこそ、キングカメハメハは死角のない『大王』となったのではないだろうか。
エイシンフラッシュ(2010年 1着)
4か月後に世代の頂点に立つこととなるエイシンフラッシュは、この時点ではまだ500万下条件(現・1勝クラス)を脱したばかり。それでも出走メンバー中唯一、芝で2勝を挙げている馬ということで、やや抜けたオッズで1番人気の評価を受けていた。
ゲートが開くと、主戦である内田博幸騎手の代打として騎乗した横山典弘騎手はパートナーを3番手に誘導。外枠のロスを感じさせない騎乗で好位につけ、スローペースの中じっと同馬を我慢させた。直線に向くと、逃げ込みを図るアドマイヤテンクウに併せ馬で迫り、叩き合いに持ち込む。アドマイヤテンクウも食い下がるが、前半我慢させた分エイシンフラッシュの方に軍配が上がった。
この後はトライアルを挟まず皐月賞に直行し、11番人気ながら3着に入線すると、日本ダービーでは上り3F・32.7秒という驚異的な末脚で差し切り、内田博幸騎手をダービージョッキーに導いた。
近年ではすっかり『クラシック制覇への王道ローテ』として定着しつつあるこの競走だが、当時、京成杯の勝ち馬がダービーを勝利したのは、1976年のクライムカイザー以来34年ぶりのことであった。さらにエイシンフラッシュはそこから長年に渡り、競馬界を引っ張っていくことになる。
ソールオリエンス(2023年 1着)
朝日杯FSをドルチェモアが、ホープフルSをドゥラエレーデが制したとはいえ、未だ主役がはっきりと決まっていなかった当時のクラシック路線。この年の京成杯は、2頭に人気が集まっていた。1頭目はホープフルSでも人気を集めていたセブンマジシャン。2頭目は新馬戦で熾烈な叩き合いの末に勝利を収めたソールオリエンスである。
特にソールオリエンスは兄にドバイで好走したヴァンドギャルドがおり、『血統的に2000mという距離をこなせるのか』という見方や『混戦の世代に新星を』という期待も大きかったと言える。
スタート直後からグラニットが逃げるものの、それほど速くないペースに。ソールオリエンスは中団から緩いペースを我慢するように進めていくと、3コーナーでややポジションを上げ、仕掛けの合図を待っていた。だが、4コーナーで大きく外に振られ、相当なコースロスを強いられた。それでも態勢を立て直すと、まるで一陣の風のように伸び始め、一気に先頭を捉える快勝劇を見せた。
キャリア1戦でこの衝撃的な走りをしたソールオリエンスの評価は急上昇。前哨戦は挟まずに臨んだ3か月後の同じ舞台で、まるで京成杯を再現するかのように後方からの大外一気を決めてG1初勝利を飾った。
キャリア3戦目でのクラシック制覇は4頭目で、皐月賞となると戦後初である。加えて皐月賞での上り3Fは不良馬場ながら35.5秒で、レース全体の上りを1秒7も上回る末脚。何もかも規格外な若武者によるクラシック勝利の予兆は、この京成杯で既に起きていたのである。
2024年にはダノンデサイル、アーバンシックの1,2着馬がそれぞれダービー、菊花賞を制している京成杯。過去にはスズカドリームやプレイアンドリアルなど、多くの人の夢を載せた馬達が勝利するレースでもある。
今年もまた、スター候補は誕生するのだろうか。寒空の中山で、新たに輝く若駒の疾走を見届けたい。