[現役引退]さらば、プログノーシス! 夢は次世代へ。プログノーシスが輝いた2023年札幌記念を振り返る
■プログノーシスという名の「記憶に残る名馬」

猛暑が日本全国を襲う2025年7月28日、2021年のデビュー以来、国内外で息の長い活躍を見せてきたプログノーシスの現役引退と、種牡馬入りすることが発表された。

プログノーシスの競走生活は、3歳の3月にデビュー以来7歳春までの丸4年間。G1タイトルには惜しくも届かなかったものの、常にこの時代の頂点の一角を形成していた名馬だった。

2018年生まれのプログノーシスは、父ディープインパクト晩年の産駒。同期のディープインパクト産駒は、2021年の日本ダービー馬シャフリヤールや秋華賞を勝ったアカイトリノムスメ、世代が7歳になった今でも、ヨーホーレイクやシュヴァリエローズが現役でがんばっている。

5月15日の遅生まれだったプログノーシスが中内田厩舎へ入厩したのは、2歳の11月。ゲート試験合格後、更に乗り込まれ、翌年3月にようやくデビューする。既に新馬戦は終了し、既走馬相手の未勝利戦がデビュー戦となったが、初出走のハンデを感じさせること無く差し切りで初戦を飾った。更にデビュー勝ちの勢いを持ったまま、中1週で臨んだ毎日杯は、後のダービー馬シャフリヤールに迫る3着となり、早くもその非凡な末脚を見せつけた。しかし、この時点で春のクラシックチャレンジは諦めた。自己条件より再スタートしたプログノーシスは、レース間隔を取りながら順調に3連勝を重ね、4歳春にはオープンクラスに昇格する。

順調にステップアップして行くと思われたプログノーシスだったが、ここからオープンの壁に跳ね返されることとなる。夏を休養に当て、再スタートとなったカシオペアSは、1.5倍の支持を受けながら、アドマイヤビルゴの逃げ切りを許してしまう。続く中日新聞杯は、プログノーシスにとって重賞初挑戦となる記念すべきレース。もちろん1番人気に支持され、誰もが重賞初挑戦初優勝を遂げるだろうと見ていた。スローペースの展開で後方追走するプログノーシスは、直線に入ると大外最後方から追走するが、前にいた馬群をさばき切れず、クビ、クビ、ハナ差の4着に終わる。

■プログノーシス、重賞制覇と世界への挑戦

3歳、4歳時にオープンクラスまで昇格したものの、プログノーシスの名を世に知らしめるほどの活躍ではなかった。プログノーシスが頭角を現し、GⅠ戦線の中心的存在として活躍し始めたのは、5歳になってからである。

2023年の5歳春、待望の初重賞制覇を中京の金鯱賞で成し遂げる。金鯱賞の直線、プログノーシスが繰り出した末脚は才能の開花、未来への飛躍を予知させる末脚だった。金鯱賞制覇でステークスウイナーの仲間入りとなったプログノーシスは、ここから念願のGI制覇に向けてのチャレンジが始まる。国内GIだけでなく海外へも視野を広めて、GI獲りへ動き出した。

最初に向かったのは、金鯱賞優勝後の香港遠征、クイーンエリザベスⅡ世C(GⅠ)。初のGⅠ出走&海外遠征となったプログノーシスは、スタートで出遅れ、スローペースに苦しみながらも直線の壁をうまく捌き、ゴール前で急伸した。しかしその前には、ロマンチックウォリアーが立ちはだかり、2馬身差の2着に甘んじる。ロマンチックウォリアーは、この後もプログノーシスのGⅠ制覇を阻止し続けた。香港遠征でのGⅠ出走は4回を数えるが、その内の3回はロマンチックウォリアーが優勝している。プログノーシスは2023年暮れの香港カップ5着、翌年のクイーンエリザベスⅡ世Cは、ロマンチックウォリアーにクビ差まで迫るものの2着。3年連続出走となった2025年クイーンエリザベスⅡ世Cには、ロマンチックウォリアーはいない。「今度こそプログノーシス!」の期待が膨らみ、直線大外から一気に伸びるが、先頭を行く日本ダービー馬タスティエーラを捉えることはできなかった。また、6歳秋に遠征したオーストラリアのコックスプレート(GⅠ)では、レーン騎手を鞍上に迎え日豪1番人気に支持されたが、女傑ヴィアシスティーナとの直線での一騎打ちに敗れ、8馬身差の2着となっている。結局、プログノーシスの海外GⅠチャレンジは、5戦するものの2着4回を記録するに留まったが、その走りは世界に爪痕を残したはずである。

また国内GⅠ出走では、5歳時に天皇賞(秋)へ出走するが、ここでもイクイノックスが王者の貫禄でたちはだかり、プログノーシスは3着に迫るまでで終わる。

プログノーシスの生涯成績は、19戦7勝。GⅠ制覇こそ達成できなかったが、金鯱賞(2023年、2024年)札幌記念(2023年)の3つの重賞を制覇している。その中でも2023年の札幌記念は、プログノーシスの強さを100%発揮したベストレースだと、私は思う。

■“GⅠ級”の走りを見せた、2023年札幌記念

札幌記念でのプログノーシスは、ほぼ完璧なレースを披露した。1番人気は連覇を目指すGⅠ馬ジャックドールに譲ったものの、シャフリヤール、ダノンベルーガなどを抑え、2番人気に支持された。前年はジャックドールとパンサラッサの逃げくらべ、その前の年はソダシの華麗なる逃げ切りと、ここ数年先行する馬にスポットが当たる札幌記念。スタートと同時に、ユニコーンライオンとアフリカンゴールドが先頭争いを繰り広げる中、プログノーシスは後方待機で様子を伺う。

           

激しい先頭争いは、向正面に入っても続き、ウインマリリンも加わった3頭のすぐ後ろにジャックドールがつけている。内を進んでいたプログノーシスは、1000mを過ぎたあたりから順位を上げ、馬群の外へ進路変更していく。3コーナーを回ると隊列が崩れ始め、内を進んでいたトップナイフが先頭に躍り出る。ジャックドールがそれを追い、その外からプログノーシスが二番手に上がって来る。

直線は内で先頭に立つトップナイフ。残り200mを過ぎると、ダノンベルーガとジャックドールが伸びようとする中、大外からプログノーシスが内の馬群を交わして先頭に立つ。そこからは、プログノーシスの独壇場。3馬身、4馬身と差が開き、ただ一頭でゴール板を通過した。

計算し尽くしたような川田騎手の騎乗は、プログノーシスの強さを更に際立たせた。陽が陰り、涼しい風が吹き抜ける検量室前に、ゆっくりとプログノーシスが戻って来る。GⅠ級の走りを披露したプログノーシスと川田騎手。この時は誰もが、プログノーシスがGⅠ馬の称号を得ることは間違いないと思ったはずだ。

■プログノーシスの引退に寄せて

結局、GⅠ制覇の夢は叶わなかったプログノーシスだったが、海外GⅠを見据え、強豪たちと鎬を削った蹄跡は名馬の域に達するものである。ロマンチックウォリアー、ヴィアシスティーナ、イクイノックス…戦った相手が異なっていれば、間違いなくGⅠ馬になっていたはずだ。クイーンエリザベスⅡ世C3年連続2着、コックスプレート2着、天皇賞(秋)3着。プログノーシスの馬名、「予知(Prognosis)」という名にふさわしい未来を暗示していた。G1タイトルには惜しくも届かなかったものの、世界の舞台で堂々と渡り合い、常に上位争いを演じたその姿は、多くのファンの記憶に刻まれ、いつまでも語られていくだろう。

良血を活かし、今後は種牡馬として新たなステージへ旅立ったプログノーシス。中内田調教師の「どんな場所でも善戦してくれた。子供たちに自身の良さを伝えてくれると信じている」というコメントは、プログノーシスが成し遂げられなかった夢を次世代に託すはなむけの言葉である。

品格と闘志を備えたプログノーシスの子供たちが、父を超えていくシーン。それが、彼の名に託された、未来への「予知(Prognosis)」かもしれない。

Photo by I.Natsume

あなたにおすすめの記事