秋の女王決定戦・エリザベス女王杯は、京都競馬場の改修工事により、2020年は阪神競馬場の内回り2200mで行われることとなった。いわゆる『非根幹距離』の2200mで行われるGⅠは、他に宝塚記念しかなく、共にリピーターが多いレースとして知られている。
しかし、2020年は競馬場だけでなく、外回りから内回りに変わることもあり、過去に好走を果たした上位人気馬が、再び好走できるかが大きなポイントとなった。
エントリーしたのはGⅠ馬3頭を含む18頭。
単勝オッズが10倍を切ったのは4頭となったが、その中で1番人気に推されたのは前年の覇者・ラッキーライラックだった。4月の大阪杯では、強豪牡馬相手に3つ目のGⅠタイトルを獲得し、阪神競馬場の内・外回り両方のGⅠを制覇。父オルフェーヴルも、現役時に同じコースの宝塚記念を制した実績があり、そういった血統背景も人気を後押しする要素になったのだろうか。
2番人気に続いたのは、2019年のヴィクトリアマイルを当時のJRAレコードで勝ったノームコアだった。
前走の札幌記念では、ラッキーライラックを鮮やかに差しきり4つ目の重賞タイトルを獲得。それ以来3ヶ月ぶりの実戦となったが、中間も順調に調整されていたようで、2つ目のGⅠタイトルを手にするべくここに臨んできていた。
3番人気となったのは、2019年のオークス馬で前年3着のラヴズオンリーユー。意外にも、そのオークス以来1年半勝ち星から遠ざかっているが、2000m以上では全て3着以内に入っていたことからも、改めて今回2200mの長丁場で注目が集まった。
4番人気に推されたのはセンテリュオ。血統面でも早くから注目されていた逸材だったが、オープンに昇級して以降もどかしい結果が続いていた。しかし、2走前のマーメイドステークスで2着に入ると、続くGⅡオールカマーでは、GⅠ2着3回の実力馬カレンブーケドールを差しきって重賞初制覇を達成。2200mは5戦2勝2着2回と得意にしており、唯一4着となったのは昨年のエリザベス女王杯。遅れてきた逸材が、一気のGⅠ取りを成し遂げるべく、ここに乗り込んできた。
レース概況
明確な逃げ馬や逃げ宣言をした馬がおらず、ある意味ではスタート後の各馬の動きに注目が集まった。
ゲートが開いてハナを切ったのは、意外にもノームコアだった。
その後ろに、3歳馬のウインマリリンとリアアメリアが続き、ノームコア以外の人気上位馬は、揃って中団より後ろを追走し向正面に入った。
前半の1000m通過は59秒3と、平均より少し早めのペースが刻まれ、ノームコアと2番手リアアメリアの差はおよそ5馬身ほどに開いていた。隊列に動きがあったのは、3コーナーを回って残り800mの標識を通過したあたり。まず1番人気のラッキーライラックがほぼ馬なりで上がっていき、一気に先団に取り付く。ラヴズオンリーユーがそれに続き、少し遅れてサラキアとセンテリュオもポジションを上げ、4コーナーから直線に入った。
直線に入ると、絶好の手応えで3番手までとりついていたラッキーライラックが、ほぼ馬なりで先頭に立ち、そこでルメール騎手がようやく追い始め、後続との差を広げようとする。
それに迫ってきたのは、ラヴズオンリーユーとサラキアの2頭だが、2馬身ほどの差がなかなか詰まらない。
坂を登り切ったところでようやく差が詰まり始め、とりわけサラキアの末脚が際立っていたが、それでも最後はラッキーライラックがクビ差しのいで、見事に連覇達成のゴールイン。
2着サラキア、さらにクビ差の3着にラヴズオンリーユーが入った。
各馬短評
1着 ラッキーライラック
ゴール寸前で逃げ馬を捉えた昨年とは打って変わって、今年は早めスパートから押し切る横綱相撲で連覇を達成した。大外枠からのスタートは決して有利ではなかったはずだが、道中淀みないペースで推移した結果、馬群が縦長になり、3~4コーナーで外を回されすぎなかったことが最後に活きた。
ルメール騎手にとって、阪神2200mで出走頭数が12頭以上の場合、過去5年で7戦して3着以内なしと、珍しく鬼門といえるコース。しかし今回、序盤は中団やや後方に控え、3コーナー過ぎからまくり気味に先団に取り付くと、直線早め先頭でそのまま押し切った。
「これぞ阪神2200mの必勝パターン」といえるレースを、いとも簡単に、しかもテン乗りでやってしまうところが、現役ナンバーワンジョッキーの面目躍如たるところだろうか。
2着 サラキア
上位入線馬の中では、最後にスパートを開始。
それがラストの末脚に繋がった。3歳時は、芝1700mのJRAレコードを記録したほどのスピードの持ち主で、そのためか前走は道悪を嫌われて人気を落としていたが、結果は完勝。
来週、大一番に挑む半弟サリオスは、2歳時からその豊かなスピードを発揮し続けているが、姉は5歳夏を越えてついに本格化。とりわけ、北村友一騎手とはこれで5戦3勝2着2回と非常に相性がよい。
アーモンドアイ同様、クラブの規定で引退までおそらくあと数戦しかできないのは惜しまれるが、果たして次走はどこになるのだろうか。
3着 ラヴズオンリーユー
今回も突き抜けるところまではいかなかったが、相変わらず2000m以上では安定した成績を残している。
昨年のオークスをレースレコードで制したように、高速馬場は得意なはずだが、逆に内回りコースやゴール前の急坂はそこまで得意ではないはずで、今後のレース選択がなんとも難しいところ。
次走、どのレースが選ばれるかが注目される。
レース総評
阪神競馬場での開催となりこれまでと条件がいくつか変わったが、結果は1、3着が昨年と同じという、やはりリピーターが強いレースだった。また、同コースで行われる宝塚記念は、8枠から勝ち馬がでることが多いが、エリザベス女王杯でも8枠の馬が勝利。
2021年も、同レースは阪神競馬場の2200mで行われることが決定しているため、この結果は参考になるだろう。
勝ちタイムの2分10秒3は、条件が変わっているため単純な比較はできないものの、2001年にトゥザヴィクトリーが記録した2分11秒2(JRAで行われるGⅠのレースレコードでは最も古いタイム)を0秒9更新するレースレコード。
今年は、特に前半3ハロンとラスト3ハロンが速く、かといって中だるみしたわけでもなく、終始よどみなく流れたため、先行馬にはかなり厳しい展開となった。
上位3頭の古馬は文句なしに強いが、先行して4着に入った3歳馬ウインマリリンと、6、7着のソフトフルート、リアアメリアの今後にも注目していきたい。
写真:半熟 一口馬主