マイルチャンピオンシップってどんなレース?

日本の近代競馬は長い間、長距離の競走を重視していました。しかし、世界の競馬の潮流が「スタミナと共にスピード重視」の色合いが強くなってきました。その典型例が1981年に行われた第1回ジャパンカップです。ホウヨウボーイ、モンテプリンスと当時の日本競馬の実力馬が出走した中、必ずしも一流とは言えなかったメアシードーツが芝2400mの日本レコードをマーク。日本の競馬関係者に衝撃を与えました。

1984年にグレード制(G1、G2、G3)の導入、天皇賞・秋の距離を2000mに短縮するなど、日本競馬界が変革を行いました。同時に競馬番組の見直しが行われ、マイル(芝1600m)のG1レース創設が設置されました。
春は従来あった安田記念をG1レースに位置づけ。秋には4歳以上の古馬と3歳馬によるマイルのチャンピオンレースとしてマイルチャンピオンシップと呼ばれるG1レースを新設しました。

今年と来年は京都競馬場改修工事のため、阪神競馬場で行われます。

マイルチャンピオンシップを制した馬達

マイル(芝1600m)の王者を決めるマイルチャンピオンシップ。
歴代の勝ち馬を見ると、芝1600mを得意とする馬達が勝ってきました。第1回・第2回のマイルチャンピオンシップを制したニホンピロウイナーは芝1600m以下の距離での成績は18戦14勝・2着3回(唯一9着と大敗した阪急杯はレース中に蹄鉄が落ちたため)とパーフェクトな戦績を残しています。
芝1600m・1700mでは7戦7勝のノースフライト(1994年)や、芝1600mでは6戦6勝のトロットサンダー(1995年)など、マイルのスペシャリストがマイルチャンピオンシップを制してきました。

また、マイルチャンピオンシップを連覇した馬もいます。上述したニホンピロウイナーのほか、ダイタクヘリオス(1991年・1992年)、タイキシャトル(1997年・1998年)、デュランダル(2003年・2004年)、ダイワメジャー(2006年・2007年)の5頭がマイルチャンピオンシップを連覇しました。

今年の見どころ

グランアレグリアが短距離戦戦を席巻するのか?

安田記念、スプリンターズステークスを制したグランアレグリア(牝4 美浦・藤沢和厩舎)。ここを勝って短距離路線の主役を担います。

今年は初めての芝1200m戦となった高松宮記念でタイム差無しの2着と健闘したのち、春の安田記念に参戦。中団に待機し、直線で抜け出すと、2着のアーモンドアイに0.4秒(2馬身1/2)差を付ける圧勝劇を演じました。前日まで降った雨の影響が残る中、ラスト600mのタイムがメンバー中最速の33.7秒を披露するなど圧巻のパフォーマンスでした。

秋初戦のスプリンターズステークスは単勝1番人気に支持されました。レースのスタートはまずまずでしたが、プラス12Kgの体重増もあってか二の脚が付かず、後方15番手でレースを進めることに。短距離戦で後方からの競馬と、かなり厳しい競馬となりました。

4コーナーを回っても、後方15番手。しかし、ここからグランアレグリアのパフォーマンスが発揮されます。ルメール騎手のムチに反応したグランアレグリアは一気に加速。馬群の大外からまとめて他の馬を交わすグランアレグリア。2着のダノンスマッシュに0.3秒(2馬身)差を付ける圧勝を成し遂げました。加えて、ラスト600mのタイムがメンバー中最速の33.6秒を計測しています。

今回はスプリンターズステークスより400m長くなる芝1600mのレース。
「後方一気の競馬ができるのか」という意見はあるでしょうが、心配は無用でしょう。
元々は芝1600mのレースで結果を残していますし、今回と同じ阪神芝1600mで行われた桜花賞では4コーナーでは早めに先頭に立って、力でねじ伏せたレースも披露しています。また、安田記念のように中団に待機して、瞬発力勝負に持ち込む競馬もできます。
3歳当時は繊細な部分もありましたが、4歳の秋になって馬が完成したと見て良いはずです。
阪神コースも3戦2勝3着1回と相性の良い舞台。来年1月に行われる2020年度のJRA賞の短距離部門で満票を得るためには、ここでも圧巻のレースを披露したいところでしょう。

インディチャンプが連覇を目指し出走!

昨年のマイルチャンピオンシップを制したインディチャンプ(牡5 栗東・音無厩舎)。マイルチャンピオンシップ史上6頭目の連覇を目指し出走します。

昨年のマイルチャンピオンシップを制した後は香港カップ(7着)と中山記念(4着)と今一つの戦績でしたが、マイラーズカップを快勝。
しかし連覇を狙った安田記念は、グランアレグリアの後ろに待機して内から外へ進路を変えて進みましたが、後ろから来たアーモンドアイに交わされて3着に敗れました。敗因はスタートで若干出遅れ、前日の雨で馬場が緩く、この馬に不向きなものになっていたことでしょう。

秋は初めてのスプリント戦となるスプリンターズステークスへ向かうはずでしたが、右後肢の炎症の影響で出走を断念。マイルチャンピオンシップは安田記念以来、約5ヶ月ぶりの出走となります。昨年は毎日王冠(4着)を使ってマイルチャンピオンシップを制したので、休養明け初戦がG1レースというマイナス要素は否めません。

しかし、1週前の調教では騎乗する福永祐一騎手が調教に駆けつけました。
先週の武蔵野ステークスを制したサンライズノヴァと調教しリードするなど、調整過程はここまで順調。スプリンターズステークスを回避した際、陣営が「いい状態でないと使わない」と断言するなどマイルチャンピオンシップへの出走も慎重にしていた中で調整過程が順調に進んでいる辺り、馬の調子は上がってきているはずです。

昨年に続き香港マイルの出走も検討していましたが、新型コロナウイルスの影響のため辞退。
芝1600mをベストとするこの馬にとって、出走できるレースが限られています現状からしても、ここは全力投球になるでしょう。阪神コースは5戦2勝、2着と3着が1回ずつと得意としているコース。先行力で連覇を狙います。

サリオスがデムーロ騎手との新コンビで世代交代を告げるのか?

今年の皐月賞・日本ダービーで、コントレイルの2着に入ったサリオス(牡3 美浦・堀厩舎)。
得意のマイル戦に戻り、打倒グランアレグリアに挑みます。

芝2000mの皐月賞でコントレイルと1/2馬身(0.1秒)差と健闘しましたが、元々は芝1600mの競馬を得意としている馬。事実、デビュー戦から3戦目の朝日杯フューチュリティステークスまで芝1600mのレースを使い、無傷の3連勝を飾っています。特に、2戦目のサウジアラビアロイヤルカップでは東京芝1600mの2歳レコードタイムとなる1分32秒7をマーク。ラスト600mのタイムがメンバー中最速の1位の33.1秒をマークするなど、中長距離を得意とするハーツクライの子供にしては珍しく芝1600m~芝2000mの距離が得意のようです。

秋初戦は芝1800mの毎日王冠。
単勝オッズ1.3倍の圧倒的な人気を集めました。稍重馬場とは言え、前日まで降った大雨の影響で芝生が緩い状態で前半1000mのタイムが58.0秒とハイラップを刻む中、4番手で競馬を進めたサリオス。直線では前を行くダイワキャグニーに並びかける所とゴール前でムチを使っただけでダメージの少ない競馬で快勝しました。2着のダイワキャグニーには0.5秒(3馬身)差を付けています。

毎日王冠で騎乗したルメール騎手がグランアレグリアに騎乗するため、今回はミルコ・デムーロ騎手との新コンビで挑みます。大一番での騎手の乗り替わりに不安がある声も聞こえていますが、この馬の場合はサウジアラビアロイヤルカップでは石橋脩騎手が、朝日杯フューチュリティステークスではライアン・ムーア騎手が、毎日王冠ではルメール騎手が騎乗し、それぞれで勝ち星を挙げています。乗り替わりの不安は少ないタイプでしょう。

「ベストマイラー」の称号を得て、来年にはコントレイルと再戦する──サリオスには、そんな期待感を抱かせる素質が感じられます。

ラウダシオン&レシステンシアの3歳馬の走りにも注目!

サリオス以外の3歳馬では、NHKマイルカップを制したラウダシオン(牡3 栗東・斉藤崇厩舎)と、昨年の阪神ジュベナイルフィリーズ(芝1600m)を制したレシステンシア(牝3 栗東・松下厩舎)の存在も侮れません。

ラウダシオンの今年の戦績はリステッドのクロッカスステークス(東京芝1400m)を制し、続く中日スポーツ賞ファルコンステークス(中京芝1400m)ではメンバー唯一の57Kgのハンデを背負いながら2着と健闘しました。しかし、前記のような実績にも関わらず、NHKマイルカップでは単勝9番人気の伏兵的存在。唯一芝1600mで走った朝日杯フューチュリティステークスで8着に敗れ、距離が持つのかと不安視されていたのが人気に影響したのでしょう。

迎えたNHKマイルカップ。
逃げるレシステンシアの2番手をマーク。最後の直線では向かい風となり、追い込む馬には辛い展開になりましたが、2番手追走のラウダシオンにとってはかえって好都合になりました。前を行くレシステンシアを交わしてのゴール。父のリアルインパクトにとって初のJRA重賞制覇がG1レースの勝利となりました。

秋初戦を富士ステークスに選んだラウダシオン。逃げた2頭が前半1000mのタイムが57.4秒と超ハイペースを刻む中で3番手をマーク。ラチ(柵)に頼る面があり、直線は若干フラフラするところがありましたが、2着でゴール。NHKマイルカップの激走はフロックではないことを証明しました。

NHKマイルカップ・富士ステークスでコンビを組んだデムーロ騎手がサリオスに騎乗するため、今回は武豊騎手とのコンビで挑みます。武豊騎手とのコンビではクロッカスステークス、ファルコンステークスの2レースに騎乗していて、ラウダシオンの走り方や癖を知っているはずです。富士ステークスを使っての上積みが期待できそうなので、注目したい1頭です。

一方のレシステンシア。
昨年の阪神ジュベナイルフィリーズを1分32秒7の阪神芝1600m2歳レコード(当時)で圧勝しました(サリオスの朝日杯フューチュリティステークスは1分33秒0)。
3歳初戦のチューリップ賞では我慢をさせる競馬がマイナスとなり3着に敗れました。その後、桜花賞は2番手からの競馬を進め、デアリングタクトの豪脚に屈しましたが、2着に食い込んでいます。NHKマイルカップでは逃げる競馬にシフトしましたが、2番手追走のラウダシオンの厳しいマークに遭い2着と惜敗。
それでも、強い競馬を見せました。

NHKマイルカップ後に軽度の骨折が判明したため休養に入り、復帰戦は先週のエリザベス女王杯とマイルチャンピオンシップの両睨みという噂もありましたが、陣営はマイルチャンピオンシップ出走を決断。距離適性のこともその決断を後押ししたのかもしれません。
メンバーを見ると、単騎の逃げが期待できそうなので、自らのスピードを活かした走りを期待したいと思います。

芝1600mG1レース3勝馬アドマイヤマーズをはじめ、伏兵陣も多彩!

グランアレグリア、インディチャンプ、サリオス、ラウダシオン、レシステンシアと芝1600mのG1ホースを取り上げましたが、芝1600mのG1レースを3勝挙げているアドマイヤマーズ(牡4 栗東・友道厩舎)も注目の一頭に挙げなくてはなりません。

2歳時に朝日杯フューチュリティステークス、3歳になった昨シーズンはNHKマイルカップと香港マイル(3歳馬による香港マイル制覇は初めての事)を制しています。今年は予定していたドバイターフが新型コロナウイルスのため中止。帰国初戦となった安田記念は、香港マイル以来半年ぶりのレースの影響もあってか6着に終わりました。

マイルチャンピオンシップのステップレースとして選んだのは自身初となる芝1400mのスワンステークス。他の馬が54~57Kgで出走できる中、唯一の58Kgのハンデを背負いました。レースは逃げるカツジの2番手を追走。最後はステルヴィオ(2着)の差し脚に負けましたが、アルーシャ以下の追撃を振り切り3着に入りました。初めての芝1400m戦で、一定の適性を見せたと言えるでしょう。

今回、アドマイヤマーズにとって有利な点はベストの芝1600mに戻る事です。
芝1600mの戦績は8戦6勝とベストな条件です。敗れた2戦は稍重馬場で行われ、ベストの条件でなかった昨年の富士ステークス(9着)と、半年ぶりの出走が影響した安田記念の6着で、どちらも敗因は明確。
スワンステークスを使った事で馬に刺激を与え、本番に挑むのも好印象です。朝日杯フューチュリティステークス、NHKマイルカップでグランアレグリアを負かした実績を持っている馬ですから、良馬場前提という注文はつきますが、十分勝ち負けを意識できる馬でしょう。

さらに、マイルチャンピオンシップの前哨戦・富士ステークスを制したヴァンドギャルド(牡4 栗東・藤原英厩舎)や、スワンステークスを制したカツジ(牡5 栗東・池添兼厩舎)も存在感は十分。

さらに富士ステークス出走組からは他にも3着のケイアイノーテック(牡5 栗東・平田厩舎)と、4着のペルシアンナイト(牡6 栗東・池江厩舎)も出走します。2頭とも芝1600mのG1レースを制した実績があり、今年になって復調の気配がみられるので侮れません。引き続きケイアイノーテックは津村明秀騎手、ペルシアンナイトは大野拓弥騎手が騎乗します。

一方のスワンステークス出走組からは、10着に敗れたサウンドキアラ(牝5 栗東・安達厩舎)が出走。スワンステークスでは1番人気に支持されながらも、直線では伸びを欠きました。当日の馬体重にもよりますが、この馬も巻き返しを狙える素質はあるはずです。

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