風立ちぬ、そして風は止む - ルヴァンスレーヴの物語/2017年・全日本2歳優駿
■ダート三冠体系の「序章」 全日本2歳優駿

フォーエバーヤングが日本競馬の夢を叶えた、BCクラッシック制覇。日本調教馬がダート競馬の頂点を極めたことで、ダート主戦場にする馬たちにとっては活気づくニュースとなった。

2024年、中央競馬と地方競馬が連携してスタートした「ダート三冠体系」は、芝中心だった日本競馬においてダート路線が本格的に整備された。新体系によりダートにおける世代最強馬を決める新たな場が提供され、アメリカ三冠や中東ダート競走など、海外ダート路線への挑戦を視野に入れた流れが更に強まっていくはずだ。そしてこの新体系は、第二第三のフォーエバーヤングを量産する舞台としても、重要な役割を果たすこととなるだろう。

ダートを主戦場とする3歳馬の舞台が整理され、3歳馬は「芝コース主体のレーシングプログラム中心」で展開するという流れは解消された。ダート三冠を目指せる体系ができたことで、2歳時から適性を見て、ダート路線を歩む馬たちも増えていく。もともと、2歳時ダートのレース体系は、従来からある程度確立されており、ダートのオープン特別戦を挟みながら、交流重賞のJBC2歳優駿(JpnⅢ)や全日本2歳優駿(JpnⅠ)に向かうという流れになっている。

2歳暮れに川崎競馬場で開催される交流重賞、全日本2歳優駿(JpnⅠ)は、3歳以降のダート界での活躍を占う通過点であり、2歳ダート戦線の頂点レースである。歴代の優勝馬には、海外で名を馳せたフォーエバーヤングやデルマソトガケはもちろんのこと、フリオーソやラブミーチャンなど、地方のレジェンドホースたちの名も刻まれている。

この全日本2歳優駿を無敗で制し、翌年の3歳ダート戦線を席巻した忘れられない馬がいる。フランス語で「風立ちぬ」の名を持ち、このレースを起点に時代を揺らす風を巻き起こした鹿毛の馬、ルヴァンスレーヴである。

■新しい風が立ち上がった! - ルヴァンスレーヴの物語

ルヴァンスレーヴの物語は、2017年の新潟競馬場からスタートする。

お盆の真っ只中の8月13日。ダート1800mの新馬戦に出走したルヴァンスレーヴは、3コーナー手前で先頭に立つと、M・デムーロ騎手がノーステッキで、後続を突き放す。上がり3F38秒5、7馬身差で駆け抜けたルヴァンスレーヴは、お盆休みで来場していた観客たちに強烈なインパクトを与えた。父シンボリクリスエス、母マエストラーレ(母の父ネオユニヴァース)という血統背景を持つルヴァンスレーヴの走りは、未来を予感させる鮮烈なプロローグだった。しかし、この勝利が才能の開花を告げる鐘の音だったことは、鞍上もルヴァンスレーヴ自身も、その時は気づいてなかったのかもしれない。

2か月の休養を挟んで出走した府中のプラタナス賞も、直線馬なりで後続を突き放しレコードタイムで優勝する。M・デムーロ騎手が語った「とにかくヤバいです!」のコメントが、ルヴァンスレーヴの強さを物語っていた。

脚元にやや不安を抱えるルヴァンスレーヴは、門別の交流重賞・北海道2歳優駿(現JBC2歳優駿)をパスし、出走間隔を空けて暮れの全日本2歳優駿に照準を定める。

2017年12月13日、川崎競馬場。冬の冷気に包まれたナイターの灯りが、馬場を幻想的に照らす中、ルヴァンスレ―ヴが本馬場に登場する。

まだ幼さを残す2歳馬たちの中で、ルヴァンスレーヴは異質な存在だった。

緑帽子、9番のゼッケンを纏った馬体は、出走する他馬とは違う輝きを放っている。M・デムーロ騎手が促すと、ゆっくりとメインスタンド前を駆けていく。白い息が目立つスタンドの観客たちは、静かにルヴァンスレーヴをバックストレッチへと見送った。

前走に続きスタートで後手を踏んだルヴァンスレーヴは、後方ポジションでスタンド前を通過する。吉原騎手のサザンヴィグラスが先頭に立ち1周目のゴール板を通過すると、2番人気に支持されたハヤブサマカオ―が、C・ルメール騎手に促され二番手に取り付く。後ろから三頭目で二コーナーを回るルヴァンスレーヴ、すぐ前を行く武豊騎乗のドンフォルティスを目標に徐々に順位を上げて行く。

M・デムーロ騎手がルヴァンスレーヴにGOサインを出したのは、3コーナーを回ったあたり。大外から瞬く間に先頭集団に取り付き、馬なりで先頭に並びかける。そして、直線にはいると、外から先行する馬群を飲み込んで先頭に立つ。そこからはルヴァンスレーヴの独壇場。冬の闇を切り裂くように走り抜け、最後は追走するドンフォルティスを突き放した。

全日本2歳優駿で見せたルヴァンスレーヴの走りは、完成度の高さと力強さを兼ね備え、「未来を告げる風」が立ち上がったと誰もが感じた瞬間だった。

観客たちは直線で抜け出す姿に、ただ驚きと期待を重ねた。そして、その「風」は翌年、ダート界を席巻する嵐となり、やがて「時代の象徴」として記憶される名馬へと誘っていく。

ルヴァンスレーヴの物語は、ここを序章として始まった。

■「風立ちぬ」から「風を巻き起こす」へ

3歳になった2018年、ルヴァンスレーヴは次々と頂点を極めていく。

全日本2歳優駿後はソエの影響で回復に手間取ったが、3か月の休養を挟んで4月の伏竜ステークスに登場する。鞍上が内田騎手に替わり、ソエによる休養明け、初めての右回りということもあったのか、先に仕掛けたドンフォルティスを捕まえ切れず、2着に敗れた。しかしこの敗戦は、彼が無敵ではないことを示すと同時に、ルヴァンスレーヴの物語に陰影を与える。「敗北があるからこそ強さが際立つ」という、その後の快進撃をさらに強烈なものへと変えていった

M・デムーロ騎手に鞍上が戻ったユニコーンステークスでは、重馬場をものともせず快勝。続くジャパンダートダービーでは、熱気に包まれた大井競馬場で地方3歳馬も交えた戦い。夜空に浮かぶ照明が灼けるような馬場を照らす中、ルヴァンスレーヴは、伏竜ステークスで敗れたドンフォルティスやオメガパフュームら強豪を退け、世代王者の座を確立した。汗と熱気の中で、彼の走りは涼風のように鮮やかだった。

そして、秋。盛岡の交流重賞、マイルCS南部杯に出走したルヴァンスレーヴは、古馬の王者ゴールドドリームを撃破する。直線で先に仕掛けたルヴァンスレーヴをゴールドドリームが追うが、1馬身1/2の差が縮まることはなかった。

2018年冬、中京のチャンピオンズカップで、ついに中央GⅠを制覇。3歳馬ながら単勝1.9倍の圧倒的な支持を受け、終始三番手から抜け出すという完璧な走りでフィニッシュした。ルヴァンスレーヴが頂点に立ったその姿は、冬の川崎での序章から始まった、物語の完結編だった。

■「永遠の風」としての記憶へ

頂点に立った翌年、故障により長期休養を余儀なくされる。当初は、フェブラリーステークスからの始動を予定していたルヴァンスレーヴだったが、繋靱帯部分の不安により出走を断念する。長い休養の後、再び競馬場に戻ってきたのはチャンピオンズカップの優勝から1年半後、2020年の初夏だった。船橋のかしわ記念(5着)、大井の帝王賞(10着)を戦ったが、3歳時の輝きを取り戻すことなく馬群に沈んでいく。

そして、2020年8月。ルヴァンスレーヴは二世たちに夢を託すため、現役引退が発表された。

「休養すれば再び活気を取り戻すのではないか」「もっと見たかった」という余白は、ファンの心に未完の伝説として彼を記憶することとなった。

もし彼が元気に走り続けていたなら、どれほどの伝説を築いたのだろうか。その未完の物語こそが、ルヴァンスレーヴを「永遠の風」として語り継いでいくのである。

風は立ち、そして止む──。

ルヴァンスレーヴの現役時代は、序章から頂点へ、そして余白を残して終わる詩的な物語である。全日本2歳優駿で立ち上がった風は、ダート界を揺らし、やがて静かに止んだ。

だがその風は、止んだ後も人々の心に吹き続けている。

「風立ちぬ、いざ生きめやも(Le vent se lève, il faut tenter de vivre.)」

──彼の名が示す通り、ルヴァンスレーヴの記憶は、今もファンたちの心の中で生き続ける。

Photo by I.Natsume

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