美しく、逃げる。ジャックドールが愛された理由

ジャックドールは多くのファンに愛された競走馬だ。

その証拠に、2023年の「アイドルホースオーディション2023」では現役馬部門でファン投票2位となり、ジャックドールのアイドルホースぬいぐるみが製作、販売された。19,824票もの支持を得てぬいぐるみ化されるほどの人気だが、そこにはどんな理由があるのだろうか。

■美しい馬体

ゲートが開いた瞬間、鮮やかな栗毛の馬体が弾けるように飛び出す。その顔には存在感のある流星。そして、ターフの緑を力強く蹴る四肢の白斑。

フランス語で「黄金」の意味を含むその馬名が表すように、レース中も一際目を引く華やかさをジャックドールは備えていた。その姿を見つめるとき、美術品を鑑賞するときのような感嘆の息が漏れる。

「サラブレッドは芸術品」という言葉を納得させる力がジャックドールにはある。そんな見る者を惹きつける「美しさ」もジャックドールが愛されたひとつの理由だろう。

■精巧な「逃げ」

その美しさは、彼が誰よりも前にいるからこそ一層際立って見えたのかもしれない。

精巧なラップを刻む逃げ戦法を得意としたジャックドール。1,000mを58秒台、59秒台というハイラップで通過し、そのままのスピードで押し切る。それは、後続に「ついてくれば潰れる、ついてこなければ届かない」という残酷な二択を迫る。

「逃げ」という戦法は逃亡ではなく、レースを指揮する、支配することなのだということをジャックドールは教えてくれた。

■芝2,000mのスペシャリスト

通算成績17戦8勝。

その8勝のすべてが芝2,000mという舞台で、それ以外の距離を走ったのは2023年安田記念の1,600m、ただ1レースのみ。己が輝ける舞台でとことん強さを極めたのがジャックドールの凄まじさだった。

この職人のような徹底した姿勢に心を掴まれたファンも多いはずだ。ジャックドールの適性を見極め、芝2,000mを主戦場にこだわり続けた陣営の信念にも、改めて拍手を送りたい。

■「幻影」を重ねて

ジャックドールを語る上で避けて通れないのが、サイレンススズカとの比較だろう。鮮やかな栗毛、左回りの2000mでの圧倒的な強さ、そして逃げて差すようなレースぶり。

決してジャックドールは誰かのコピーではない。しかし、オールドファンは彼の走りに、かつて見た「夢の続き」を重ねずにはいられなかった。「令和のサイレンススズカ」という異名は、単なる比較ではなく、ファンが抱く「あの日の続きを見たい」という切実な願いの表れだったのかもしれない。

そんな「夢を見せてくれる存在」であったことも、愛された大きな理由のうちの一つと言える。

■鞍上、ライバル……様々な要素が絡み合って

さらにジャックドールの物語を彩るのは、二人の騎手の存在だ。 才能を開花させ、逃げの型を作り上げた藤岡佑介騎手。そして、そのバトンを受け取り、G1勝利という最高の勲章をもたらした武豊騎手。 この「継承のドラマ」に胸を熱くしたファンも多いはずだ。騎手と馬、騎手と騎手との絆が紡いだ物語がそこにはあった。

そして、物語を彩ったのは騎手だけではない。同時代に同じ「逃げ馬」として活躍したパンサラッサの存在も忘れてはならない。

違ったタイプの逃げを得意とすることで2頭は時に比べられることも多かった。2022年の札幌記念ではジャックドールとパンサラッサの逃げ馬対決が話題となった。

この時、逃げたのはパンサラッサで、ジャックドールは4番手に控える競馬に。勝敗としてはジャックドールに軍配が上がったが、「逃げ」の姿勢を貫いたパンサラッサのプライドも感じられるレースだった。

語り出すと止まらなくなるほど魅力の多いジャックドール。彼が愛された理由を一言で言い表すのは難しい。様々な理由が絡み合って、ジャックドールはジャックドールという存在そのものとして多くのファンに愛されていたのではないだろうか。

きっとその愛は産駒たちへも向けられるのだろう。それがただの予感ではないことを確かめるためにも、私たちはこれからも競馬と共に在り続けようではないか。ジャックドールが愛されたこんなにも素敵な理由の数々を語り継いでいくためにも。

写真:水面、mosan

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