[連載・片目のサラブレッド福ちゃんのPERFECT DAYS]育てるが基本(シーズン2-4)

「馬運車の都合で急遽、ルリモハリモを明日ブルーグラスに移動することになりました」とNO,9ホーストレーニングメソドの木村さんから夜にLINEが入っていました。明日?ずいぶん急だなあと思いつつも、福ちゃんの馬運車の件があったので、「長旅になりますが、無事に到着することを願っています。ここまで大切に育ててくださって、ありがとうございました」と返しました。

福ちゃんがエクワインレーシングに移動して、この先、毎月50万円近い預託料がかかることが現実的になった今、ルリモハリモをこの約10カ月間、預かってくれて、半持ちという条件ではあれ、無料で育成してくれたことに対する感謝をひしひしと抱くようになりました。とにかく競走馬は買うのも高いのですが、デビューするまでの育成費用も高く、そして競馬場で走らせ始めてからの預託料も高いのです。とてもとても僕の甲斐性だけでは、ルリモハリモと福ちゃんの姉妹を育てることはできません。NO,9ホーストレーニングメソドの木村さんが助け舟を出してくれたおかげで、ルリモハリモは僕の手を離れることなく、デビュー目前まで来られたのです。

翌日に電話をかけ、改めて感謝の意を伝え、今後のお金のやり取りについて相談しました。出費も入ってくるお金も折半するのが基本ですが、出費はどちらに請求してもらい、どちらにお金が入ってくるようにするかを確認するタイミングだと思ったからです。馬運車の輸送費を初めとして、ブルーグラスでの育成費用、そして張田京厩舎からの預託料は僕に請求してもらうことにして、その半分をNO,9ホーストレーニングメソドの木村さんに請求する。ルリモハリモはしばらくNO,9ホーストレーニングメソド名義で走らせるため、賞金等はNO,9ホーストレーニングメソドに入ってきて、それを半分にして僕に振り込んでもらう。この出費と入金の折半を月ごとに行うことにしました。僕にとっては初めての手続きなので、どこに問題や難しさが発生するのか分かりませんが、まずはやってみるしかありませんね。

なぜこのタイミングなのかと冷静に考えてみると、能力試験に合格すると100万円を助成するという制度が2歳の8月末までという理由が大きいのだと思います。千葉県の馬主会に入っていると、以下の特典があります。

♣ 特典2「2歳馬確保対策事業助成」2歳馬入厩促進事業

会員が8月末まで(8/13の能力試験までは能力試験の5日前まで)に2歳馬血統登録証明書(写)を提出し、船橋競馬場に入厩(未出走馬も該当)させ、船橋競馬主催者の行う能力試験に合格した時(諸要件を満たした場合)、予算の範囲内(1頭100万円×180頭)で助成します。
【2024年度は1頭100万円を152頭に、1人上限2頭を助成しました】

180頭までという制限はありますが、昨年は152頭にしか使われていませんので、頭数というよりも期間的な制限を気にしなければならないということです。8月中に船橋競馬場に入厩させ、能力試験に合格することを考えて逆算した場合、もちろん張田厩舎の馬房の空き状況や馬運車(1頭貸し切りではなく2頭積み)の都合にも合わせるとすると、今回のタイミングだったということでしょう。

現時点での馬体重をLINEで教えてもらうと、「退厩時の馬体重456kgです。いよいよです。あと20kgのせたかった!スピードはあるから、どこまで我慢できるかです!」と返ってきました。僕も全く同じ気持ちでした。地方競馬で走ることを考えると、馬体の大きさは必須であり、大きければ大きいほど良いと言っても過言ではありません。

たとえば、ニューイヤーズデイ産駒の牝馬であるミリアッドラヴ(全日本2歳優駿)は470kg台、プラウドフレール(桜花賞)は480kg台で走っています。大きな舞台で勝利するためには、たとえ牝馬であっても、そのぐらいのサイズ感は必要なのです。ルリモハリモはこの先、長距離輸送で馬体重が減ったり、再び環境の変化で飼い葉食いが落ちたりすることも考えると、果たしてどのぐらいの馬体重で走ることができるのか心配です。木村さんの言うように、どこまで我慢できるかが勝負です。

「上手に使っていきましょう!育てる、が基本です」

木村さんはやり取りの最後にそう返してくれました。僕はハッとしました。なるほど、レースを使いながらも、育てるべきなのだと気づかされたのです。馬を育てるのは育成牧場までで、それからはレースで走ることが基本になると考えていましたが、そうではないのです。レースを使いながらも、馬を鍛えたり、休ませたりして育てるのです。ルリモハリモもそれに応えるように、肉体的にも精神的にも少しずつ成長してくれるはず。最初は450kg台でデビューしたとしても、馬を育てることができれば、来年のこの時期には470~480kg台で走っているかもしれません。レースを使って馬を消耗させながら賞金を稼ぐのではなく、馬を育てるが基本なのですね。

福ちゃんが競走馬としてデビューする前に、お姉さんのルリモハリモでひと通りの育てる経験をさせてもらえるのは良いことです。ルリモハリモを育てる中で得た知見を福ちゃんに生かすことができるのではないでしょうか。僕は馬主として競走馬を育てるのは初体験であり、手探り状態の中、成功も失敗もあるはずです。ルリモハリモには申し訳ないのですが、姉として先導役になり、活躍の道を切り拓いてもらえると嬉しいです。こうして考えると、ルリモハリモがセールで売れずに僕の手元に残ったことにも何か意味があったのかもしれませんね。

ルリモハリモの競走馬デビューが近づいてきた今、改めてデータを調べてみた中で、ニューイヤーズデイ産駒の競馬場別の傾向が見えてきました。「南関東4競馬場公式ウェブサイト」のデータBOXによると、ニューイヤーズデイ産駒の2025年度競馬場別の成績(勝率・勝ち馬率)は以下のとおりです。

勝率 勝ち馬率

船橋

11.1% 17.5%

浦和

18.2% 23.1%

大井

14.8% 21.6%

川崎

15.7% 19.5%

他の種牡馬の産駒と比べると、そもそも勝ち馬率が20%前後を保っていることは素晴らしいのですが、あくまでもニューイヤーズデイ産駒同士で比較してみると、船橋競馬場における成績が他の競馬場に比べて低いことが分かります。大井と川崎はほぼ同じ率であり、浦和は最も合うコースのようです。船橋競馬場は2022年11月からオーストラリアの砂を使っており、砂厚も12㎝と厚く、よりパワーを問われる馬場になっているのでしょうか。ダート種牡馬の中ではスピード勝負に強い、ニューイヤーズデイの産駒たちにとっては厳しい馬場なのかもしれません。逆に浦和競馬場を得意とするのは、砂厚が10㎝と薄いことに加え、最後の直線がゴールまで220mと短い、小回りコースであることも関係あるのかもしれません。先行力のあるニューイヤーズデイ産駒は、スピードを生かして押し切る競馬がしやすいのです。

出走頭数も50頭前後とサンプル数が少ないため、あまり参考になるデータではなく、僕の杞憂に終わるかもしれませんが、ルリモハリモにとっては船橋競馬場で走るよりも浦和競馬場の方がより力を出せる可能性があります。船橋競馬場がダメということではなく、船橋で結果が出なくても、競馬場を変えてみると結果が出るという見方ができるのです。さらに言うと、ユングフラウ賞や桜花賞といった3歳牝馬の重賞は浦和競馬場で行われるので、2歳時はゆっくりと育てつつ、3歳になったらそのような大きなレースを狙ってみても良いかもしれません。得意の浦和競馬場でまさかの好走を見せてくれるかもしれません。

(次回へ続く→)

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