[ウマ娘]メジロマックイーン、13本目の主演作。

1.主人公への抜擢

Cygamesのメディアミックスコンテンツ『ウマ娘 プリティーダービー』。2021年2月にリリースされたアプリゲームには、モデルとなった競走馬の史実に基づいた物語を読み進めていく「メインストーリー」というモードが用意されている。この「メインストーリー」では章ごとに主人公が交代していく形をとっているが、その第1章、つまり最初の主人公に選ばれたのはメジロマックイーンであった。

このコンテンツを初期から追いかけてきた私は、この選出をやや意外に思った。というのも、『ウマ娘』というコンテンツにおいてそれまで中心的な役割を担っていたのは、スペシャルウィーク・サイレンススズカ・トウカイテイオーだったからだ。

初期にリリースされていたCDシリーズ「STARTING GATE」の第1弾の歌唱メンバーはこの3人であり、コンテンツの情報を伝えるラジオのパーソナリティも3人のキャストが務めていた。アニメにおいてもseason1はスペシャルウィーク、season2はトウカイテイオーが主人公である。ゴールドシップが活躍するYou Tubeチャンネル「ぱかチューブっ!」や、オグリキャップの物語が描かれる漫画『シンデレラグレイ』など、他のウマ娘をメインに据えた展開が行われることはあったが、公式サイトのキービジュアルがこの3人をセンターに据えていたことからも、コンテンツを代表するウマ娘と言えばスペシャルウィーク・サイレンススズカ・トウカイテイオーである、というのが大方の認識だったのではないだろうか。

メジロマックイーンは、「STARTING GATE」での登場は第5弾と遅く、アニメseason1に於いてはスペシャルウィークらが所属する「チームスピカ」の一員として描かれるものの、物語の中心になることはなかった。アニメのseason2ではトウカイテイオーのライバルとして準主役級の立ち位置となってはいたものの、私個人はコンテンツの本丸であるゲームにおけるメインストーリーの最初の主人公として、スペシャルウィークやトウカイテイオーではなくメジロマックイーンが抜擢されたことを少し意外なことに感じたのである。

2.13本目の主演作

しかし、改めて考えると、メジロマックイーンは「主人公」に相応しいウマ娘とも言える。

何故なら、JRAのポスターシリーズ「ヒーロー列伝」において、競走馬・メジロマックイーンに与えられたキャッチコピーは、「主演作、12本」。

米国の名優スティーヴ・マックイーンに由来するその名に違わぬ活躍で、ターフを沸かせた。ウマ娘となって主演作が新たに1本加わったとしても、驚きはないだろう。

 ただ、スティーヴ・マックイーンが映画の主演に抜擢されたのが28歳と遅咲きだったように、メジロマックイーンもはじめから主演級の活躍をした訳ではなかった。ゲームのストーリーはメジロマックイーンがシニア級(古馬)となって天皇賞(春)を目指すところから始まり、クラシックにおけるメジロマックイーンの戦歴については詳しく語られない。本稿ではメジロマックイーンが「主人公」として脚光を浴びるまでの過程について振り返ってみたい。

3.ターフの主人公へ

父に天皇賞馬メジロティターン、兄に菊花賞馬メジロデュレンを持つメジロマックイーンは、兄と同じ池江泰郎厩舎に入厩。デビューは4歳(現3歳)の2月と遅く、同期のメジロライアンやメジロパーマーはこの時期既にオープン戦を使っている。ダート1700mの新馬戦を快勝したマックイーンだが、芝転向初戦のゆきやなぎ賞を2着に敗れると、その後も勝ちきれずに2勝目は再びダート1700m。すると陣営は、ここから菊花賞を目指してローテーションを組んだ。

連闘で芝のレースを使って3勝目を挙げたマックイーンは、兄デュレンも制した京都芝3000mの前哨戦・嵐山ステークスに駒を進める。しかし、後方でレースを進めたものの、直線で前が壁になって差し届かず、まさかの2着に敗れる。賞金加算が出来ず、直前まで出走さえ危ぶまれたマックイーンであったが、回避馬が出たことで菊花賞に挑むこととなった。

重賞初出走、前走でも2着に敗れている3勝馬でありながら、当日4番人気に推されたのは、父が天皇賞馬・兄が菊花賞馬というステイヤーの血もその理由であろう。しかしこれは、この時の菊花賞が「主役不在」であったことも影響している。皐月賞馬ハクタイセイとダービー馬アイネスフウジンが共に屈腱炎によって出走できず、「どの馬が今後この世代を牽引していく存在になるのか」を占う一戦になっていた。その中でも断然の主役候補は、マックイーンと同じく「メジロ」の冠を持つメジロライアン。ゲーム『ウマ娘』におけるメジロマックイーンの育成シナリオでは、菊花賞が「幼馴染であるメジロライアンと雌雄を決する場」として描かれているが、このときのライアンは単勝2.2倍で堂々の1番人気。皐月賞3着、日本ダービー2着の実績は断然で、前走の京都新聞杯をレコードで勝利して菊花賞に臨んでいた。重賞未勝利で単勝7.8倍の4番人気に留まったマックイーンとは、実際のところ評価に差があったように思う。

──ところが、レースが始まってみるとメジロマックイーンの強さが際立った。

好位につけてレースを進めると、最終コーナーに差し掛かるタイミングで早々に先頭に立ち、後続を突き放す。外から追い上げるメジロライアンや内から差を詰めようとする2番人気のホワイトストーンを完封し、快勝。関西テレビで実況を務めた杉本清アナウンサーの「メジロでもマックイーンの方だ」という名文句は有名である。出走の可否が直前までわからなかった菊花賞で、メジロマックイーンは堂々主役の座を手にした。

4.記憶に刻まれる名優

 菊花賞で見せた名演の後の活躍は、『ウマ娘』のゲームやアニメでも描かれた通りである。天皇賞(春)の連覇や宝塚記念の勝利など、左前脚の繋靭帯炎により引退するまで一線級の競走馬であり続けた。また、その血はゴールドシップやオルフェーヴルなどに受け継がれ、現在も活躍馬を送り出し続けている。

その一方で、2021年は「13本目の主演作」である、ゲーム『ウマ娘』のメインストーリー第1章を経て、幅広い層に改めて「メジロマックイーン」の名前が記憶された年となった。インターネット上で流行した単語を表彰する企画「ネット流行語100 2021」において、「メジロマックイーン(ウマ娘)」が33位、メジロマックイーンが関係するネットミームが89位と91位に入っていることは、その証と言える。「メジロマックイーン」は若い世代にも馴染みある名前として記憶されていくことだろう。

しかし、すべての始まりは出走さえ危ぶまれた菊花賞であった。そのことも、「名優」メジロマックイーンが持つドラマ性を更に色濃くしているように思える。

開発:Cygames
ジャンル:育成シミュレーション
プラットフォーム:iOS/Android/PC
配信:日本
利用料金:無料(一部有料コンテンツあり)
URL:
・AppStore
https://apps.apple.com/jp/app/id1325457827
・GooglePlay
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.cygames.umamusume
・DMM GAMES
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