[重賞回顧]未完の大器が待望の重賞制覇〜2022年・東京ジャンプステークス〜

仁川の舞台では3歳乙女の熱演が開かれるこの日、約1時間半前の東京ではジャンパー達が舞台の開演を待ちわびていた。

東京ハイジャンプ。大竹柵と大生垣を超えるこのレースコースは、年々、中山大障害への重要なステップレースとして注目度を増している。

2020年にはメイショウダッサイ、2019年にはシングンマイケルが、ここを足掛かりに中山大障害への道を切り開いた。やや遡って2016年と2017年、オジュウチョウサンもここから中山大障害へと羽ばたいていった。

そんなオジュウチョウサンの復帰戦。御年11歳を数える同馬は昔のような連戦連勝の絶対的強さこそやや陰ってきたものの、それでも中山大障害、中山グランドジャンプと大舞台では必ずと言っていいほどその強さを見せつけてくれていた。復帰戦のここは近年の敗北もあってか1番人気は譲ったものの、差のない2番人気に推されていた。

そんな王者から1番人気の座をもぎ取ったのがホッコーメヴィウス。新潟ジャンプステークスで重賞初制覇を遂げた後、中京の阪神ジャンプステークスも連勝。それ以前に幾度も重賞戦線で好走を遂げてきた圧倒的安定感は、次代の王者としての期待も背負う。ここで王者を相手に勝利し、暮れの大一番へ自信を持って臨みたいところ。鞍上の黒岩悠騎手も、オジュウチョウサンと石神深一騎手の名コンビに負けず劣らずの名コンビ。相棒と共に王者へと挑むべく2.4倍の1番人気に推された。

人気2頭に続く3番人気にゼノヴァース。こちらも入障後は安定感を見せていて、課題の飛越が鍵を握る。鋭い末脚があるため、道中の飛越次第では一気に上位もある存在。

以上3頭のオッズ構成が抜け出しており、いわゆる3強の様相でゲートインの時を迎えていた。

レース概況

左回りの障害コースからスタートが切られると、各馬横一線の綺麗なスタートが決まった。そのままの勢いで内からメイショウウチデが先手を主張。それに競りかけるようにホッコーメヴィウスとゼノヴァース、レオビヨンドも前へ。一方でオジュウチョウサンは、中団馬群へ控える格好となった。

4コーナーを回って正面スタンド前へ入ってくるところでおおよその体勢は固まり、ホッコーメヴィウスが後続を離す単騎先頭で大生垣へと向かってゆく。やや離れた2番手にゼノヴァース、続いてメイショウウチデ。ここが障害復帰戦となるスマートアペックスもこれを見るように4番手に位置する。

そして4頭を前に置いて、王者オジュウチョウサン。スタンド前でややフラつくような飛越を見せていたが、それでもドッシリと先行集団に構える。彼を見るようにレオビヨンド、マイネルレオーネが追走。その後ろも少し空いてグローリグローリとダイシンクローバーらがつけ、モサ1頭が大きく遅れて最後方からの追走となった。

2周目の向正面に入ったところで、オジュウチョウサンがややバランスを崩す。元々跨ぐように飛越する癖があった同馬。近年鳴りを潜めていたそのジャンプがここに来て垣間見られた。それでも4番手に進出したオジュウチョウサンだったが、前を行く3頭とはこの時点でかなりの差。5.6年前は大差をひっくり返したこともあるとはいえ、厳しい状況に変わりはない。

そんな様相はいざ知らず、前を行くホッコーメヴィウスのリードは既に4馬身ほど。3.4コーナー中間の飛越でゼノヴァースが加速をつけて一気にその差を詰めていくが、あとはもう7.8馬身ほど後続とは差がついていた。

直線に向いて、先頭争いはホッコーメヴィウスとゼノヴァースのデッドヒート。大きく離れた3番手争いにメイショウウチデとダイシンクローバーがこちらも熾烈な叩き合いを繰り広げる。

そしてオジュウチョウサンは、鞍上・石神騎手が叱咤の鞭を飛ばそうとしたが、そこで手が止まり、そのまま下がっていった。

最終ハードルを超え、飛越を決めたゼノヴァースがその脚を更に伸ばす。夏の府中、飛越失敗で涙をのんだゼノヴァースはもういない。競り落とした後、尚も食い下がるホッコーメヴィウスを退けて、堂々重賞初制覇のゴールへ飛び込んでいった。

上位入線馬と注目馬短評

1着 ゼノヴァース

これで重賞初制覇。3歳時には京成杯出走、その後ダートでぶっちぎりの勝利を挙げ新星とも騒がれた同馬だが、その後はやや低迷。入障後着実にキャリアを積み上げてきたその成果が、ここで実った。

夏より明らかに飛越の技術は向上していて、障害馬として飛躍したように見受けられる。年末の大舞台へ向かうかは未定だが、もし出走するのであれば大注目の一頭だろう。

管理する小林真也調教師、オーナーのワラウカドも共に重賞初制覇。次走には京都ジャンプステークスが予定されていて、更なる活躍を期待せずにはいられない。

2着 ホッコーメヴィウス

重賞3連勝を狙った同馬は、惜しい2着。今回も悠々と逃げて押し切りを狙ったが、新潟で下したゼノヴァースに今回は逆転される結果となった。ただ、勝ち馬との実力差は少ないと見ていいだろう。東京ジャンプステークス以降抜群の安定感を誇る同馬も、もし年末の大一番に出走する際はすんなりと王座につくことも考えられる。ダイワメジャー産駒らしく競り合いにも負けない負けん気の強さは大きな武器。

3着 ダイシンクローバー

12頭中10番人気の同馬が3着に。13戦中9戦手綱を取り続けた名手・高田潤騎手は「気性的に難しいところもある馬で、今までは実力を発揮できていなかった」とレース後に語っている。

道中から勝負所にかけての推進力はかなりのもので、最後のメイショウウチデを交わす勝負根性も見せてくれた。高田騎手のコメントからも、今後障害界のダークホースになる可能性は存分に秘めているだろう。

9着 オジュウチョウサン

2番人気に推されていたオジュウチョウサンだが、ここでは9着に大敗。文中にも示した飛越の危うさ、最後の直線で石神騎手が見せたあのアクションに、全て詰まっているような感じがした。

次走の中山大障害はラストランとされている。果たしてどのような走りを見せてくれるのだろうか。

総評

王者の敗退と新星の登場──。そんな瞬間を同時に見られた、今年の東京ジャンプステークス。勝利したゼノヴァースの鞍上・森一馬騎手にとっては、昨年メイショウダッサイで制した中山グランドジャンプ以来の重賞勝利となった。障害の名手がまた1頭、勝利を呼び寄せる相棒と巡り合った。

敗れたホッコーメヴィウス、3着に突っ込んできたダイシンクローバー、4着のメイショウウチデも重賞戦線で主役級の活躍を見せている。そして復帰したスマートアペックスらも、ここから冬の陣へ向けて羽ばたいてゆく。

何より、王者オジュウチョウサンがここから巻き返すことができるかどうか、というのもある。

目指すはクリスマスイブの頂上決戦。ジャンパー達の戦いは、より一層激化していく。

写真:かぼす

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