[重賞回顧]キタサン祭り!淀に響いた産駒ワンツー~2026年・天皇賞(春)~

今年のゴールデンウィークは、日ごとに季節が移ろうかのような気候となった。ある日は冬に戻ったような寒さに身を縮め、またある日は初夏を思わせる暖かさまで気温が上がる。春から夏へ、季節の変わり目にいることを実感する時期である。

競馬界では、今週の天皇賞(春)から宝塚記念まで、7週連続のG1開催が始まる。
その幕開けを飾るのは、古馬長距離路線の頂点を競う伝統の一戦、天皇賞(春)だ。

人気を分けたのは3頭。まずは昨年のダービー馬、クロワデュノール。2歳時にホープフルステークスを制し、3歳では日本ダービーを勝利。秋にはフランスへ渡って凱旋門賞に挑戦し、帰国後のジャパンカップでも4着に好走した。4歳初戦の大阪杯も鮮やかに差し切り、G1競走3年連続勝利を達成。2400mを超える距離への出走は初めてとなるが、デビューから手綱を取る北村友一騎手がこの大きな挑戦をどう導くか。

続いて、春の天皇賞8勝を誇るレジェンド、武豊騎手とのコンビで挑むアドマイヤテラ。昨秋はジャパンカップでスタート直後の落馬競走中止、有馬記念でも結果が出ずに終わったが、春初戦の阪神大賞典では中団から悠々と抜け出し、3分2秒0のレコード勝利を飾った。菊花賞3着の長距離実績を持ち、4歳春にオープン入りしてから成長を待った馬が、満を持してこの舞台に駒を進める。目指すは悲願のG1タイトルだ。

昨年の覇者ヘデントールも主役候補の一頭である。天皇賞(春)での熱戦の後、英インターナショナルステークスを目指していたが、7月に右後肢の大腿骨剥離骨折が判明。休養明け初戦の京都記念は後方から差して届かずの内容だったが、今年は連覇達成と復活を懸けて淀へ戻ってきた。

また、長距離を得意とする牝馬アクアヴァーナルとホーエリートも参戦。グレード制が導入された1984年以降、牝馬による天皇賞(春)制覇はまだない。万葉ステークス勝利、阪神大賞典2着と勢いに乗るアクアヴァーナルに、中山3600mのステイヤーズステークスを制したホーエリート。2頭の牝馬が歴史の扉を開けるかにも注目が集まった。

そして今年も、レースの誘導馬としてディープボンドが登場した。2021年から2024年まで現役馬としてこのレースを駆け抜け、昨年の天皇賞(春)でG1誘導デビューを果たした名ステイヤー。今年も15頭を先導し、元気な姿をファンの前に見せていた。

天候はレース本番まで持たず、雨が降り出した京都競馬場。最後にヴェルテンベルクが15番ゲートに収まると、約5万4千人のファンが見守るスタンド前へ、15頭の長距離ランナーが駆け出していった。

レース概況

抜群のスタートを決めたのは逃げ馬ミステリーウェイ。松本騎手とともに迷わずハナを目指して駆け出した。有力どころではクロワデュノールがスタートの上手さを見せて先行策を選んだ。
アドマイヤテラは出たなりに追走し、ヘデントールはスタートが決まらず、最序盤からルメール騎手が押して位置をリカバリーする様子が見えた。

スタートを決めたミステリーウェイに、マイネルカンパーナ、エヒト、ホーエリートが続いて先行馬群を形成。その後ろの2列目にはクロワデュノール、アクアヴァーナル、サンライズソレイユが続く。

先行馬群が切れたちょうど中団にシンエンペラー。その後ろにはヴェルミセル、アドマイヤテラ、ヘデントール、プレシャスデイ、ケイアイサンデラが続き、さらに後方に末脚勝負のタガノデュード。最後方では大外枠のヴェルテンベルクが、追い込み勝負に懸けるようにゆったりと進んでいく。

長距離戦らしく、最序盤から馬群は縦長。ミステリーウェイはマイペースでレースを作り、最初の1000mは59.9秒で通過した。ファンの歓声を受けながら、隊列は向こう正面へ向かう。

クロワデュノールは前を走るエヒトの後ろで折り合いを保ち、ヘデントールとアドマイヤテラは後方からクロワデュノールを追いかける形になった。

展開が動き始めたのは向こう正面から。サンライズソレイユが先行ポジションから位置を上げ、ミステリーウェイに並びかける。13秒台のラップを2つ並べていたミステリーウェイも残り1000mから応戦し、前のペースが上がって終盤戦へ入った。

淀の坂を越えて3コーナー。前で競り合う2頭に、後続が徐々に追いつき始める。残り800mを過ぎてクロワデュノールに北村友一騎手がゴーサインを出すと、それを見逃さずルメール騎手もヘデントールとともにスパート。アドマイヤテラは武豊騎手とともに、直線大外を目指して進路を取った。

迎えた最後の直線。早々にクロワデュノールが前の2頭を捉えて先頭に立ち、後続の追撃を迎え撃つ形になる。

先行馬たちが苦しくなる中、外へ回したアドマイヤテラが一頭ずつ交わしながらストライドを伸ばし、先頭へ迫っていく。内ではアクアヴァーナル、ヘデントールもクロワデュノールを追いかける姿が見える。

残り200m、クロワデュノールが単騎先頭に立ち、後続を引き離す。アドマイヤテラが2番手に上がり、視界の先にはクロワデュノールだけが見える。そう思われた次の瞬間、馬群の最後方からヴェルテンベルクが一気に追い込んできた。残り600m過ぎからアドマイヤテラを追いかけてスパートしていたのだ。

先頭を行くクロワデュノールに、ヴェルテンベルクが外から並んだところがゴール。2頭の間にアドマイヤテラが3着、アクアヴァーナルが4着、ヘデントールが5着に入線した。

3200mを駆け抜けた末の写真判定。人馬もファンも固唾を飲んで結果を待つ中、電光掲示板の一番上には「7」の数字が灯り、クロワデュノールの勝利が確定した。

キタサンブラックが天皇賞(春)連覇を果たした2017年から9年。その産駒2頭が大接戦を繰り広げた今年の天皇賞(春)は、クロワデュノールに軍配が上がった。中団以降から差してきた馬たちを相手に、先行ポジションからただ一頭押し切った走りは、王者と呼ぶにふさわしいものだった。

各馬短評

1着 クロワデュノール 北村友一騎手

前走の大阪杯では、逃げるメイショウタバルと武豊騎手を中団から差し切る競馬。そして今回は、後方から迫るアドマイヤテラと武豊騎手を前で受け止め、粘り込む競馬。初めての3200m戦でありながら、先行ポジションから抜け出す“いつものクロワデュノール”の形で勝ち切ったことに、この馬の強さを感じる一戦だった。

2400mを超える長距離戦の経験はなく、キタサンブラック産駒としても長距離G1での実績はまだ十分とは言えなかった。それでも単勝1.8倍の1番人気に応え、淀の長丁場を堂々と押し切った内容は、王者の走りと呼ぶにふさわしい。

春のG1開催の締めくくりとなる宝塚記念を勝てば、春古馬三冠達成となる。父キタサンブラックが宝塚記念で敗れているだけに、春3戦目へ挑むのか、それとも秋へ備えるのか、その判断にも注目が集まる。できることなら、父が成し遂げられなかった偉業へ、北村友一騎手とのコンビで挑む姿を見てみたい。

2着 ヴェルテンベルク 松若風馬騎手

1勝クラス卒業まで2年を要し、オープン入りは5歳6月。5歳秋から重賞を4戦して着順こそ目立たなかったが、京都大賞典7着、ステイヤーズステークス6着、ダイヤモンドステークス4着と、長距離路線で末脚を繰り出しながら勝ち馬との着差を1秒以内にまとめ、少しずつ内容を良くしてきた。

その積み重ねが、この大舞台で結実した。最後方から脚を溜め、直線ではアドマイヤテラの後ろを追いかけるように伸びると、最後はこれを交わしてクロワデュノールに迫った。着差はわずか2cm。2歳時からGⅠ戦線で活躍してきたクロワデュノールに対し、こちらは6歳の今がまさに充実期と言える。

ミステリーウェイに対してサンライズソレイユが早めに仕掛け、前が崩れた展開も味方したとはいえ、淀の3200mであれだけの末脚を繰り出した内容は見事だった。追い込み馬だけに展開の助けが必要な場面はあるが、この脚を再び使えるなら、重賞勝利の日もそう遠くないはずだ。

3着 アドマイヤテラ 武豊騎手

4歳時に大阪-ハンブルクカップを勝利した後、5歳時の天皇賞(春)を目標に据えて目黒記念へ向かい、重賞初制覇を達成。そして前走の阪神大賞典では、3分2秒0のレコードで重賞2勝目を挙げたアドマイヤテラ。切れ味で勝負するタイプではないが、操縦性の良さと豊富なスタミナを生かしてのびのびと走った阪神大賞典の内容から、GⅠ未勝利ながらクロワデュノールに次ぐ2番人気に支持された。

今回は馬のペースを大切にする武豊騎手らしく、無理にクロワデュノールの後ろへつけず、後方からじっくりと追走。前の各馬を1頭ずつ外から追い抜いていく姿は頼もしく見えた。

誤算があったとすれば、クロワデュノールに3200mも走り切れる能力があったこと、そして最後方で一発を狙っていたヴェルテンベルクの末脚が見事にはまったことだろう。それでも菊花賞に続く長距離GⅠでの3着好走で、この舞台への適性の高さを改めて示した。

ロングスパートで相手を完封する形が理想の馬だけに、究極の末脚勝負になると分が悪い面はある。それでも今回は上がり3位の34.7秒でまとめており、悲願のGⅠ制覇へ向けて、力は十分に示した一戦だった。

6着 タガノデュード レーン騎手

レース回顧では大きく触れなかったが、タガノデュードにとっては鞍上面でも巡り合わせのある一戦だった。スティンガーグラスが出走を回避したことで空いていたレーン騎手と、主戦の古川吉洋騎手が負傷により乗り替わりとなったタガノデュード。この急造コンビでの参戦となった。

マイルから中距離で活躍したヤマカツエースの産駒として、クロワデュノールと同じく大阪杯からのローテーションで挑んだ今回の天皇賞(春)。小倉大賞典で重賞初制覇を果たし、続く大阪杯でも末脚を生かしてクロワデュノールから0.3秒差の4着に好走。初の長距離戦ながら、5番人気で本番を迎えた。

末脚を生かすタイプだけに、序盤は慌てず後方のインコースを追走。
追い込みを狙ったヴェルテンベルクとともに仕掛けどころを待ち、終盤戦へ向かった。

迎えた直線では、前にアドマイヤテラ、外にヴェルテンベルクがいたため外へは出せず、内にはヘデントールがいたことで、各馬と同じタイミングで思い切って追い出すことは難しかった。それでもアクアヴァーナル、ヘデントールに食らいつくように脚を伸ばし、6着まで追い上げた内容は、新境地を開いた走りと言える。

急造コンビながら脚を溜め、最後まで伸びていた点を踏まえると、2000m以上の距離でも持ち味は十分に発揮できそうだ。経験のある阪神2200m、宝塚記念の舞台で激走があっても驚けない。

レース総評

今年の天皇賞(春)は、長距離G1らしい我慢比べでありながら、最後は一瞬の判断と仕掛けどころが勝敗を分ける熱戦となった。

序盤からミステリーウェイが主導権を握り、最初の1000mは59.9秒。長距離戦としては決して緩い入りではなかったが、その後に13秒台のラップを挟み、息を入れようとした向こう正面から再びレースが動き出す。
淀の坂を越えてから各馬が勝負に出る中で、先行ポジションから早めに抜け出したクロワデュノールの底力が際立った。

初めての3200m、初めての春の天皇賞。それでもクロワデュノールは、これまで通り前で流れに乗り、自ら勝ちに行く競馬で押し切った。外からアドマイヤテラ、さらに最後方からヴェルテンベルクが迫る中、わずか2cm差で先頭を守り切った走りは、単なる距離克服にとどまらない。ダービー馬として、そして現役古馬王道路線の中心として、その地位をさらに確かなものにした勝利だった。

一方で、ヴェルテンベルクの末脚も強烈だった。少しずつ長距離重賞で経験を積み、最後方から勝ち馬に並びかけるところまで迫った内容は、敗れてなお大きなインパクトを残した。
アドマイヤテラもまた、ロングスパートで前を追いかける形から3着に入り、阪神大賞典のレコード勝利が本物だったことを示したと言える。

4着アクアヴァーナルは牝馬ながら長距離の舞台で粘り強く脚を使い、5着ヘデントールも復調途上ながら掲示板を確保。そして6着タガノデュードは初の長距離戦で新たな可能性を示した。着順以上に、それぞれが次へ向けた収獲を得た一戦でもあった。

キタサンブラックが連覇を果たした2017年から9年。その産駒2頭が淀の3200mで写真判定にもつれ込む接戦を演じたことも、このレースの記憶をより鮮やかにする。雨の京都で繰り広げられた長距離決戦は、父から継がれた強さ、新たな王者の誕生を同時に感じさせるものだった。

春の古馬王道路線は、宝塚記念へ向かう。クロワデュノールが父の成し得なかった春古馬三冠へ挑むのか、あるいは秋へ備えるのか。各陣営の選択を待ちながら、天皇賞(春)が残した余韻はしばらく続きそうだ。

写真:@gomashiophoto、@QZygbdf8L1kEB9U、mosan

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