[世界への挑戦]砂の理想郷へ到達した馬 - ユートピア

 2000年代前半は、芝とダートでGⅠを制し、世界中を飛び回ったアグネスデジタルや、早くから芝で好成績を残しながら、初のダート戦、それもGⅠで3着と好走したトゥザヴィクトリーなど、条件を問わずに好走を遂げる名馬が現れた時代である。しかし、双方の馬場で好走を遂げた彼らでも世界のダート重賞という壁はあまりに高く、勝利を掴むことは叶わずにいた。

 そんな中、歴史の扉を開いたのがユートピアだ。彼もまた、アグネスデジタルらと同じように国内では芝とダートを行き来しながら結果を残していたが、6歳にして初めて遠征したドバイの地でゴドルフィンマイルを制覇。それは、当時の日本競馬にとっての試練をあっさりと突き破り、世界の関係者に衝撃を与えた、大きな1勝であった。

 今回は、ユートピアのゴドルフィンマイルでの偉業を振り返る。

■芝とダートの「二刀流」から、世界の砂へ挑戦

 芝でデビューし5着となったのち、早くもダート戦に矛先を向けたユートピア。中1週で臨んだ未勝利戦で勝利すると、そこからわずか1月足らずで全日本2歳優駿を制覇し、一気に3歳ダート路線のトップに躍り出た。

そして年明け、芝に戻した毎日杯で2着と好走すると、続くNHKマイルカップは4着。そこからはある時は芝、ある時はダートと戦場を選ばずに走り続けるようになった。

ダート戦で凡走が続き、ならばと芝に戻って好走したかと思えば次走は着外。しかし、再度ダート路線に挑んだ初戦のマイルチャンピオンシップ南部杯をあっさり制してみたりと、なんともミステリアスな馬であった。


 そして2006年、6歳となったユートピアは生涯初めて海外遠征を敢行する。向かった先はドバイ。しかし出走するのはドバイワールドカップではなく、アンダーカードのゴドルフィンマイルだ。距離適性などの兼ね合いもあったかとは思うが、このレースに出走するというのもどこかユートピアらしさを感じる。ゲートが開くと、ユートピアはあっさり先頭に立つ。それに外からウィンリバーウィン、マーブッシュらが並びかけ、先頭争いは3頭がひしめき合う展開に。これだけ競ればペースは速くなり、先行馬にはつらくなるのが必然。しかし勝負所、追い出される各馬の手綱が激しく動く中、ユートピアの鞍上、武豊騎手の手はピクリとも動かない。それどころかユートピアはさらにペースを上げ、後続を突き放して行った。

 そして長いナド・アルシバの直線に差し掛かっても、そのスピードは落ちずに加速していく。そのまま後続を突き放し、4馬身差の圧勝劇。あれほど高かった日本馬の国際ダート重賞制覇という壁を、いとも簡単に突き破ってしまった。


 このレースの約1ヶ月後、ユートピアはゴドルフィングループに購入され、UAEへの移籍が決定した。その購入金は約400万ドルと、日本円にして40億円とケタ違いの値段。けれど、ゴドルフィンマイルで見せた衝撃の勝利を考えれば、その金額すらどこか安く思えてしまうような不思議さを秘めた馬だった。

文:小早川涼風

写真:Dubai Racing Club


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