![[世界への挑戦]シャフリヤール 永遠に語り継がれる「歴史の扉を開いた」偉大な日本ダービー馬](https://uma-furi.com/wp-content/uploads/2026/05/202606012.png)
2021年ダービー馬シャフリヤールがドバイシーマクラシックを勝利したとき、歴史がひとつ動いた。
「日本ダービー馬による初の海外GⅠ制覇」
この記録が報じられ、「えっ、そうだったの?」と意外に感じた。それほど日本調教馬は多くの海外GⅠを制してきた。タイキシャトル、シーキングザパールの快挙に沸いた90年代の終わりが懐かしく感じるほど、躍進を遂げてきた。競馬は毎年、いや毎日ページを積み重ねていく歴史書のようなもの。日々、書き記すちょっとしたできごとのなか、海外GⅠ制覇は大きな文字で記載したくなる印象的なのひとつ。だが、これももはや大きく書くほどではないかもしれない。それだけ日本調教馬と日本のホースマンは逞しくなった。
歴史書に記す文字が小さくなるのは、誇らしい気分のあらわれであり、数が多すぎて大きく書くと必要以上にページを費やしすぎてしまうといううれしい悩みの解決方法でもある。そのうち「海外GⅠ制覇」の記録をまとめた本を作成しようものなら、分厚い鈍器になぞらえるような一冊になってしまう日がくるだろう。
それだけ日本調教馬は多くの海外GⅠタイトルを獲得してきた。日本ダービー馬による勝利がシャフリヤールまでなかったことに意外と感じるのは不思議ではない。同競走を制した馬の海外遠征の歴史は、非常に長いのだから。
1958~59年にかけてアメリカに渡ったハクチカラは、日本馬としてはじめて海外GⅠに挑戦した馬として歴史に名を残すが、彼も1956年のダービー馬。これは今から70年前のできごとであり、シャフリヤールが勝利を収める64年も前のこと。ハクチカラはワシントンバースデーハンデを勝利しているが、こちらの格付けはGⅡだった。
以後、シンボリルドルフ、シリウスシンボリ、ディープインパクト、ウオッカ、メイショウサムソン、エイシンフラッシュ、ディープブリランテ、オルフェーヴル、キズナ、ワンアンドオンリー、ドゥラメンテ、マカヒキ、レイデオロと、幾多の優駿が海外GⅠに挑んできた。
シャフリヤールの勝利はこの歴史の上にある。ここには父ディープインパクトの名も、所属した藤原英昭厩舎の先輩エイシンフラッシュもいる。歴史に偶然はない。シャフリヤールのドバイシーマクラシック制覇は歴史がもたらした経験値という土台がなければなし得なかった。

当然ながら経験値だけで勝てるほど海外GⅠは、いやそもそもGⅠ自体、甘くない。シャフリヤールの確固たる実力が勝利を引き寄せたのも事実だ。それこそ2021年の日本ダービーは、それを証明した競馬だった。
2020年10月京都の新馬戦を勝利したのち、約4カ月の休養を経て共同通信杯に挑む。その意図は明確。東京競馬場での競馬を経験させること。日本ダービーへの伏線だった。勝ち馬エフフォーリアに0秒4差をつけられ、3着。宿命のライバルであるエフフォーリアに敗れたはもちろん、賞金を加算できなかったのは誤算だったかもしれない。陣営の次なる選択は3月終わり、皐月賞まで中2週の毎日杯。ダービーしか見ていない決断だった。
一方で、シャフリヤールの消耗を考えると、ダービーまで落とすわけにはいかない。相手関係が皐月賞に挑戦する馬たちと比べ楽になる毎日杯は負けられない戦いでもあった。鞍上は川田将雅騎手。主戦の福永祐一騎手はルペルカーリアという先約があったため、乗り替わりとなった。この乗り替わりもダービー制覇へ至る伏線になっていた。
スタートはゆっくりだったが、川田騎手はシャフリヤールに自然流ではなく、ダッシュするよう指示を送り、好位にとりつかせ、その位置で流れに乗るよう促していく。ゆっくり進み、終いをいかせるというスタイルではなく、勝ちに行く競馬をさせる。落とせない一戦。川田騎手はその意図を理解した上でレースを組み立てる。
そして、最後の直線も外から伸びるグレートマジシャンに併せにいかず、あえて内を突き、先行2頭の間を切り裂くような進路を選んだ。グレートマジシャンとの着差がクビだったことを踏まえれば、これしかない進路どりだった。そして、直線では進路を迷わせず、真っ直ぐ走らせた。ゴールまで真っ直ぐ走るという経験もまたダービーへの伏線であり、川田騎手が果たした役割は大きい。
そして日本ダービー。相手は皐月賞馬であり、共同通信杯で敗れたエフフォーリアただ一頭。福永祐一騎手に迷いはなかった。スタートから目標を射程に入れられるよう位置をとり、勝負のときを待つ。ライバルたちが動いても静観を決め、鞍上の指示に従う。シャフリヤールの聡明さが3コーナーの通過順位にあらわれている。たとえ包まれても慌てない。ダービージョッキーは冷静に状況を見定めていた。そして、残り400m付近。エフフォーリアが先に抜け出し、懸命に末脚を伸ばす。目指すは単なるゴールではない。ダービーのゴールだ。苦しくともあきらめるわけにはいかない。
だが、ダービーのゴールは遠い。エフフォーリアは次第に右にモタれはじめる。これを福永祐一騎手とシャフリヤールは見逃さなかった。毎日杯で教えられた「真っ直ぐ走ること」を実践してみせ、内からその差を詰めていく。抗うエフフォーリアをとらえたとき、そこにゴール板があった。勝負はハナ差。わずかでも違う動きをしていれば、勝負はわからない。共同通信杯と毎日杯の積み重ねがなければ、ここまで鮮やかで無駄のないレースはできなかった。

かくしてダービー馬となったシャフリヤールは翌年、ドバイシーマクラシックへ進む。2400m路線こそが歩む道。年上の三冠馬コントレイルに0秒5差まで食い下がったジャパンCが決断の背景にあった。日本ダービー馬として世界の舞台に立ち、そこで勝利を収める。いや、収めなければならない。陣営の覚悟を感じる。日本からはほかにオーソリティ、ユーバーレーベン、グローリーヴェイズ、ステラヴェローチェも参戦。海外勢は前年のブリーダーズCターフを勝ったユビアーが筆頭格だった。
スタートを決めたシャフリヤールは最初の正面スタンド前でハナに立つかの如く勢いで主張する。そこに外からオーソリティがやってくると、素早くその背後をとり、主導権を譲るというクレバーさをみせた。オーソリティなら易々とバテはしない。勝負所までついていけば、無理なくベストポジションをキープできる上に進路もつくりやすい。C.デムーロ騎手にはそんな確信があった。
実際、レースはその通りになった。オーソリティーは直線でも先頭のまま、馬群を引っ張り、抜け出しを計ると、シャフリヤールの前に道ができた。即座にオーソリティをとらえに動く。だが、マイペースを守ってきたオーソリティも体力を残していた。
しかし、シャフリヤールにはダービー馬としてプライドがある。ここまで来て逃すわけにはいかない。猛烈な競り合いを制したところに死角からユビアーが飛んできた。まるで日本馬2頭による争いを読み切っていたかのように直線勝負を挑んできた。こちらにもブリーダーズCターフを制した矜持があり、この一瞬にかけていた。内外離れた2頭はゴール板で並ぶも、クビだけシャフリヤールが前に出ていた。

このレースもどこかで違う動きをしていればどうなっていたかわからない。勝つべくして勝つ。確実に勝ち筋を踏む。これもまたシャフリヤールの聡明さゆえのこと。日本ダービー馬の実力と高い知性を世界に証明した瞬間だった。
シャフリヤールのドバイシーマクラシックは長い歴史の扉をひとつ開けた。そして、これを契機にタスティエーラ、ダノンデサイルと日本ダービー馬の後輩たちが続いていった。近い未来、日本ダービー馬の海外GⅠ勝利もまた記載する文字の大きさが小さくなるだろう。だが、初勝利の文字は大きいまま。その価値は永遠に語り継がれる。
文:勝木淳
写真:Dubai Racing Club、s1nihs
日本調教馬の海外挑戦の歴史は長い。
その長い歴史の中で、近年、日本競馬史に燦然と輝く勝利がいくつも挙げられてきた。
フォーエバーヤングが参戦した26年のドバイワールドカップ・サウジカップの最新レポートから、フジヤマケンザン・タイキシャトル・エルコンドルパサーなど90年代の激闘までまとめられた『名馬コレクション 世界への挑戦』が、4月17日に発売開始となった。
日本調教馬による挑戦の歴史を一冊にまとめた完全保存版としてお楽しみいただきたい。

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主な掲載馬は以下の通り。
- フォーエバーヤング
- パンサラッサ
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- デルタブルース
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本書の企画・特集は以下の通り。
- 特集 フォーエバーヤング
- 特集 衝撃の初勝利
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- 角居勝彦元調教師インタビュー
- イグナイター挑戦の舞台裏
- タワーオブロンドンと青野調教助手の挑戦
- ブリーダーズカップ挑戦史
- 輸出入検疫の舞台裏
- 海外から日本に挑んだ名馬たち
- 世界に広がる日本馬の血
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「特集 衝撃の初勝利」では、海外の様々なレースの「初勝利」にフォーカスをあてていく。

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目次は以下の通り。

| 書籍名 | 名馬コレクション 世界への挑戦 |
|---|---|
| 発売日 | 2026年04月17日 |
| 価格 | 定価:2,980円(税込) |
| ページ数 | 96ページ |
| 出版社 | ガイドワークス |

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