表参道から引退競走馬支援を。〜TCC JapanのBAFUNプロジェクトについて〜

人生は持ちつ持たれつ。
孤独を受け入れ、たった一人でこの世界を歩み続けるのは容易くない。孤独を感じたとき、同時に押し寄せる途方もない絶望感は一人で生きる辛さを本能的に避けるためにある。

人馬の関係もまた同じ。持ちつ持たれつだ。
日本人と馬との関係は5世紀ごろに始まったとされる。朝鮮半島を経由して馬はこの国に入ってきた。馬飼い集団がいたとされる候補地のひとつが現在の大阪府四条畷市、寝屋川市、大東市付近だという。当初の目的は農耕やモノを運ぶ輸送手段ではなく、騎馬軍団の形成、つまり軍用馬であり、日本人にとっても馬は最初から乗りものだった。これがほかの動物との決定的な違いだ。

人馬の関係における持ちつ持たれつは、乗れるかどうかで決まる。さらにサラブレッドは速く走れるか否か。サラブレッドの生の可能性は速く走れなければ、狭まり、人を乗せられなければさらに閉じていってしまう。そうして持ちつ持たれつの関係は崩れていく。

競馬場を去った競走馬がその命尽きるまで生きられるにはなにが必要か。
「馬と共に社会を豊かに」。
そんな理念を掲げるTCC Japan(以下、TCC)は引退競走馬支援に取り組み、この命題と向き合ってきた。いかに人馬が持ちつ持たれつの関係を維持しながら、共生できるのか。双方が幸せを感じながら生きていく道を探る上で、何らかの事情で人を乗せられなくなることは障壁だった。

TCCはこれまで馬とのふれあいから人が感じる癒しなど、たくさんの可能性を示してきた。
人を乗せなくても生きる道はどこか。人馬がともに幸せに暮らせるには──。

2023年4月、TCCが表参道ではじめる「BafunYasai TCC CAFE」は、人馬の持ちつ持たれつの関係性を大きく前を進めるゲームチェンジャーになり得る。

キーワードになるのは「馬ふん堆肥」だ。馬ふんを発酵させてできる馬ふん堆肥は土地改良に非常に有能な堆肥として周知されつつあるが、それによって人馬の関係が今よりもっと持続的なものになる仕組みが足りなかった。TCC Japan代表の山本高之氏は「TCCの会員さんが集える場所づくりを考えたのがきっかけでした。ただ憩いのスペースを用意するのではなく、付加価値が必要だと考えていました。その足りない部分が馬ふん堆肥でつながりました」と語り、初期構想自体は4~5年前からあったという。

馬ふんは馬事業者にとって必ずつきまとうもののひとつ。お金を支払い、産業廃棄物として処理する場合もあるほど乗馬クラブの困りごとだ。これがお金になるとなれば、サラブレッドは人を乗せなくても、のんびり青草をほおばり続ける限り、経済活動に組み込まれる。しかし、馬ふん堆肥による農業にはいくつか問題がある。馬ふんは藁などの有機物が多く、最も効果が期待できる堆肥である一方で、発酵して堆肥になるまで時間がかかるという。頭数では牛には敵わず、時間がかかり、量も少ない馬ふん堆肥を作る業者の協力は欠かせない。

そしてカフェを開き、馬ふん堆肥を使った野菜や果物を提供するには実際にそれを使う農家を探し、仕入れ先を確保しなければならない。しかし、使用する堆肥をアピールする農家はさほど多くなく、情報が乏しい。馬ふん堆肥を使用する農家にコンタクトを取り、数ヶ月にわたって全国各地へ実際に足を運び、山本氏は100軒以上と交渉を重ねた。

その中で発見もあった。山本氏は千葉県市川市、船橋市などの梨農園などではかなり昔から使っていることを知った。調べると、千葉県はかつて国内最大の馬産地だった。江戸時代に幕府直営の壮大な牧場があり、付近の農家はその頃から当たり前に取り入れていた。人馬の持ちつ持たれつはきっと、日本全国にあるにちがいない。

生きている限り、ずっと出続ける馬ふんを堆肥化し、そして生産された野菜や果物を口にする場所ができる。TCCのBAFUNプロジェクトはこれをひとつの形にした。その源には引退競走馬が最後まで人の役に立ち、人馬が持ちつ持たれつの関係を長く維持できるようになってほしいという想いがある。

持ちつ持たれつという言葉は一方的では成り立たない。相互関係であり、いわばウインウインでないと続かない。支援はどうしても一方的になりがちだ。無報酬の愛は尊いものだが、それは広くみんなが抱けるわけではない。だが、カフェに行き、楽しい食事のひとときを過ごせば、引退競走馬支援になる。ここまで敷居が低く、相互関係の支援を私は知らない。

それにしても、表参道にカフェを開くのは大きなインパクトだ。表参道になったのはあくまで土地のご縁としながらも、山本氏は今回のカフェ出店の意味をこう語る。「引退競走馬支援を広める中で、東京に出てきて、まだまだ知られていないと感じました。引退競走馬の支援から入ってしまうと、どうしても競馬ファンのなかでもコアな層にしか届きません。それを変えるには人の生活行動のなかにある食に紐づけられないかと。それを扱うアンテナショップのようなものがあれば、競馬ファン以外でも多くの人に知ってもらえますから」

TCC CAFEができる意義は大きい。なぜなら、そこで馬ふん堆肥でできた野菜や果物を提供するということは、馬たちが住む牧場の出口が表参道に生まれることでもある。東京に生活拠点がある人は地下鉄に乗れば、牧場のすぐ近くまで行かれるような感覚だ。

これは私の個人的な夢の話で、さらに諸問題もあるが、表参道に限らず、日本全国あらゆるところで馬ふん堆肥が安心な食を提供できれば、馬はもっともっと身近な存在になれる。そのとき、人馬の持ちつ持たれつは人にとって欠かせない関係になるにちがいない。これほどまで裾野の広い人馬の結びつきは我々の歴史上、類を見ない。

さて、こうした壮大な可能性をも秘めるBafunYasai TCC CAFEの運営は当然ながら莫大な費用を要する。そこでTCCではクラウドファンディングに挑戦中だ。その返礼にモザイクアートがある。支援者からお気に入り写真を募り、それらを元に一枚のモザイクアートを制作し、モニュメントとして店内に飾るという。

滋賀県栗東市にあるTCCセラピーパークにもモザイクアートは飾られている。横4m×縦2mの巨大アートは美しさもさることながら、近づくと、写真1枚1枚で描かれていることに驚く。巨大な絵としても鑑賞でき、近くで色々な写真を見ても楽しめる。角度を変えると見え方が変わる。これからの世界で我々にとって忘れてはいけない感性だ。

一見すると優雅な光景が、じつは大勢の人が持ち寄った小さな善意に支えられている。このモザイクアートはTCCの活動そのものであり、象徴だ。だからこそ、BafunYasai TCC CAFEにもモザイクアートを掲げたい。その原画は「農園から表参道を通り、荷馬車で野菜や果物を運ぶ様子」「競走馬引退後も人の社会活動を通じた馬の幸福感」を表現する。目標枚数は5000枚。お気に入りの写真が馬のアートになるまたとない機会なので、クラウドファンディングに参加し、表参道へ遊びに行ってほしい。

毎年、サラブレッドは国内で約7000頭も生産される。その向こうで毎年約5000頭が登録抹消され、行き場のない馬は廃用となる。これが競馬の現実であり、簡単には変えられない世界だ。しかし、競馬を愛する者はどうにもならないと諦めて終わってはいけない。小さなことでいい。表参道に行き、カフェでのんびり時間を過ごすだけでもいい。それも引退競走馬支援だ。TCCはこれまでも、そしてこれからも我々がやれることを示してくれる。一気に現実を変えようと思わなくていい。

雨だれ石を穿つ。
小さなことも続ければ、世界は少しずつでも変わる。
連綿と続く人馬の持ちつ持たれつの関係こそ、競馬ファンの理想ではないか。

TCCのクラウドファンディングは2023年3月15日午後11時まで行われる。その想いや詳細はこちらから読んでいただきたい。

3000円から参加できる。競走馬の現実を変える小さな一歩を踏み出そう。

クラウドファンディングはこちら:BAFUN×食。引退競走馬とのサスティナブルな共生社会の実現へ!

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