最大着差決着に、土砂降り決着に、レコード決着…… 魅力溢れる「平成菊花賞史」

牡馬三冠レースの最後にして『最も強い馬が勝つ』という格言がある菊花賞。

平成の間だけでも、30頭もの菊花賞馬が誕生している。

「自分もトシをとるわけだ……」などと顎を撫でつつ、今回はその30頭の菊花賞馬から何頭かをピックアップして『平成菊花賞史』を振り返ってみようと思う。

平成以降『最大着差』の怪物

ナリタブライアン 1994年勝ち馬

父 ブライアンズタイム
母 パシフィカス 母父 ノーザンダンサー

兄ビワハヤヒデが前年の菊花賞を勝利し、翌年も古馬大将格として成績を収めている中、弟ナリタブライアンも二冠達成──しかも、レースごとに着差を広げながら──という王道を歩んでいた。それまで圧巻のパフォーマンスをみせてきたことから「有馬記念で兄弟対決なるか!?」という、年末の話題がすでにあがるほど。

──が、しかし世の中、うまくはいかないもの。

この当時は天皇賞秋の翌週、11月初週に菊花賞が開催されていた。
そしてナリタブライアンが三冠に挑もうとする前週の天皇賞秋で、兄ビワハヤヒデが故障引退。ファンが夢見た兄弟対決は、永遠に絶たれた。

弟ナリタブライアンといえば、トライアル・京都新聞杯で、春はクラシックと無縁だったスターマンに負けるとという、驚きの結果に終わっていた。

迎えた菊花賞本番。
そこで、ナリタブライアンは前走の鬱憤を晴らす、とんでもないパフォーマンスを見せることになる。

スティールキャストが大逃げで作るペースの中、ナリタブライアンは離された中団前目の内で「いつ出そうか」といった姿勢に。
レースが動きだしたのは、2周目向こう正面。スティールキャストは相変わらず大逃げだが、馬群が詰まってくる。

ナリタブライアンは徐々に外に進路を取り3、4コーナでは大外に進路をとり仕掛ける。
直線早々に先頭集団にとりつき、さらにもうひと伸び。
後続に7馬身つけ、さらには兄のレコードを塗り替えるおまけ付きという圧倒的な強さを見せつけた。
着差を広げ続けての、三冠馬が誕生した。

シャドーロールの怪物。
「種子島の時代に機関銃を持ってきた」とさえ言われた、ナリタブライアン。
『弟は大丈夫だ』の名実況とともに、燦然と輝く菊花賞史に彩りを添えたのは間違いない。

『四天王』の意地と、兄弟の雪辱

ダンスインザダーク 1996年勝ち馬

父 サンデーサイレンス
母 ダンシングキイ 母父 ニジンスキー

早くからその素質が注目されていたものの、遅生まれということもあり、当時の『サンデー四天王』と呼ばれた他の3頭──四天王筆頭バブルガムフェロー、ダービー馬の弟・ロイヤルタッチ、馬場不問のイシノサンデー達が結果を残していく中、開花が1番遅かったのがこの馬だった。弥生賞で重賞を制覇したが、皐月賞では熱発、ダービーでは和製ラムタラことフサイチコンコルドの末脚に屈する。

飛躍を誓う秋、トライアルの京都新聞杯を制し、順調に成長したことをうががわせて、菊花賞へと向かう。

春の雪辱を果たすべく、菊花賞がスタートした。
スローペースでレースが進む中、ダンスインザダークは大外枠から内の馬群にいれてやや後方。
フサイチコンコルド、ロイヤルタッチを見ながらレースを進める。

京都は3コーナーあたりからレースが動くが、その日も同じ流れだった。
ダンスインザダークは内に入ったまま直線へ。

ぽっかり空いた内をすくって伸びるダンスインザダーク。
垂れてきた先行馬を捌いて外に持ち出すと、伸びに伸びた。
そのまま一気にフサイチコンコルド、ロイヤルタッチを飲み込んでゴールイン。

エアダブリン・ダンスパートナーと、兄弟の雪辱も果たした結果になった。
当時としては破格の3F33.8秒という鬼脚を繰り出したダンスインザダーク。
優等生というイメージをもっていたが、クラシック戦線の「最後の最後」で荒ぶる魂を見た気がしてならない。

亡き父への大きなプレゼント

ソングオブウインド 2006年勝ち馬

父 エルコンドルパサー
母 メモリアルサマー 母父 トニービン

父は3歳でジャパンカップを制し、翌年の凱旋門賞では当時の欧州最強馬モンジューと激しい戦いを演じた、名馬エルコンドルパサー。
母は社台ゆかりの血統で、近親にはアドマイヤマックスもいる良血だ。

デビューに時間を要したこと、さらにはなかなかダートで勝ち上がれなかったことから、初勝利は4月と遅かった。しかし芝適性を見せ5月に2勝目をあげると、7月のラジオNIKKEI賞で2着に入り本賞金を加算。ここまで使い詰めてきたレース間隔を開けるために一旦放牧を経て、秋の神戸新聞杯で菊花賞の権利を得た。

菊花賞本番、「上がり馬」のソングオブウインドは、クラシックを戦ってきた猛者たちと、初めての大舞台で相対することになる。

3歳筆頭の二冠馬メイショウサムソン、ドリームパスポートたちを相手に、どういったレースをみせるのか。
「メイショウサムソン、三冠達成なるか」と注目が集まっているなか、ファンファーレが鳴った。

ゲートが開くや否やアドマイヤメインが飛び出して早いペースでレースを作り、後続を突き放していく。
二冠馬メイショウサムソンは先行、それを見るようにしてドリームパスポートが続く展開に。
一方ソングオブウインドは、マイペースに最後方からレースを進める。

アドマイヤメインが1人旅をしたまま直線に入るも、中々その差が縮まらない。
大本命メイショウサムソンも伸びを欠く中、真ん中からドリームパスポート、さらに外からソングオブウインドが並走する形で猛然と襲いかかる。

ゴール前直前で2頭がアドマイヤメインを交わし、ゴール板手前えでドリームパスポートをクビ差とらえたソングオブウインドが勝利。

レースレコード、騎手兄弟制覇。
天国のエルコンドルパサーに、はじめての芝G1勝ちというビッグプレゼントを捧げたソングオブウインド。
父とはレースぶりも違ったが、菊花賞では名前の通り「気分良く歌いながら」父へ勝利を誓っていたのかなと思える末脚だった。

綺麗なレコードホルダー

トーホウジャッカル 2014年勝ち馬

父 スペシャルウイーク
母 トーホウガイア 母父アンブライドルズソング

デビュー前に大病を患い、デビューも危ぶまれるほどだったというトーホウジャッカル。
入厩したのは、3歳3月──同期たちはクラシックに行くための熾烈な戦いに身を投じている頃だった。

デビューは、ダービー前日。
初勝利はデビューから3戦目の7月。
2勝目は8月と、コンスタントに使われていく。

菊花賞トライアル・神戸新聞杯の抽選に通り、重賞出走にこぎつける。
その神戸新聞杯では中団内でレースを進め、直線で進路を蓋される不利を跳ね除けタイム差無しの3着に。優先出走権を獲得し、いざ本番へ。

神戸新聞杯の内容から、トーホウジャッカルは3番人気に推されていた。

トーホウジャッカルは前走よりも前目のポジションを取り、人気馬を後ろに従える形でレースが進める。
中団前目で内のトーホウジャッカル、外にゴールドアクター、ワンアンドオンリー、その3頭の内の後ろで虎視眈々とタイミングをはかるサウンズオブアースという隊列で、馬群もほぼ一塊でレースは進んでいいく。

3コーナーを回ってシャンパーニュが動いたところで、レースが一気に動き出す。
トーホウジャッカルはやや外に持ち出し進出開始、最内の空いたところからサウンズオブアース。
マイネルフロストを直線早々に競り落とし先頭へ。内からサウンズオブアースが猛追し並ばれるも、トーホウジャッカルがもうひと伸びし、一着入線。

行ってよし差してよしではないが、本番では横綱競馬をみせての菊花賞制覇。

今見るとかなり豪華な顔ぶれのなかこういったレースができるのは、ポテンシャルが相当に高いことを示しているように思う。
長年にわたり種牡馬として活躍してきた父スペシャルウィークへ、牡馬クラシックのプレゼント。
そしてデビューから最速の菊花賞制覇、ソングオブウインドのレコードを1秒7更新するレコード。
綺麗な毛色からも美しきレコードホルダーと呼ぶに相応しい馬に思う。

泥んこ馬場をものにした王者

キセキ 2017年勝ち馬

父 ルーラーシップ
母 ブリッツフィナーレ 母父ディープインパクト

父は出遅れ王の問題児であり、名牝エアグルーヴを母に持つ超良血馬のルーラーシップ。
母は快速牝馬ロンドンブリッジの娘と、こちらも良血。
兄弟からはオークス馬ダイワエルシエーロやグレーターロンドン、ビッグプラネットなどがでている日本にも馴染みのでてきた血統だ。

デビューは暮れの12月で、そこを快勝。
順調にいけばクラシック戦線に乗れるのではと思われていたものの、賞金を加算できず休養に入り、秋の大舞台での飛躍を目指すことに。

7月に条件戦、特別と連勝し、トライアル・神戸新聞杯ではメンバー中最速の末脚を繰り出して2着と、本番への権利をきっちり獲得した。

本番の菊花賞は、異例中の異例な事態。
ダービー1〜3着馬が出走しない、さらには天候不良による、近年稀にみない極悪馬場での開催に。

スタート直後から荒れてる内ラチ沿いをさける各馬。
距離のロスが大きく、馬場の悪さもあって、タフな競馬になりそうなレースとなった。

マイスタイルが主張してレースを作るも、各馬動きのない出入りが少ない展開で進んでいく。
相変わらず内は嫌われ外に進路を向ける各馬がジッとする中、動きがあったのは、向こう正面だった。
クリンチャーが動き出していき先行勢にとりつきにかかる。先行していたウインガナドルが仕掛けるとともに、一斉に馬群が動く。

直線に入るとクリンチャー、ダンビュライトの叩き合いに、内からポポカテペトル、外からミッキースワロー、更に大外からキセキが差してくる。クリンチャーがダンビュライトを競り落とすとほぼ同時に、キセキが一気に先頭へ立ち、そのままつきはなしてゴールイン。

それは、平成菊花賞史で、1番遅いタイムでの決着だった。
3F39.6という上がりタイムも、1番遅い。
そうしたタフな条件のもとで勝てる精神的な強さは、賞賛に値する。

今回、何頭かピックアップしたが、他にも黒い刺客ライスシャワー、ほぼ三冠馬(?)のエアシャカール等魅力的な馬が多く出走する菊花賞。
皆様のお気に入りの菊花賞馬や菊花賞2着馬などに思いを馳せつつ、令和の菊花賞も楽しみましょう!

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