[Rewind the race]最速駿馬~2014年・菊花賞~

秋の淀で行われる3冠最終章「菊花賞」。
3000メートルという誰も経験したことが無い長距離で行われることなどから「最も強い馬が勝つ」と言われることもある競走である。
三冠達成の瞬間やクラシックホースの勝利、真夏に鍛えぬいた上り馬の激走など、様々な名シーンが誕生した菊花賞。
今回は歴史ある菊花賞の中から、1頭の奇跡の駿馬が誕生した2014年の菊花賞を振り返る。

2011年という特別な年に誕生したサラブレッドによって、熱き戦いが繰り広げられた2014年のクラシック。

皐月賞はイスラボニータ、日本ダービーはワンアンドオンリーと、それぞれ別の馬が栄冠を手にしていた。
この世代はG1勝ちをしていない馬でもトゥザワールドやトーセンスターダムなど実力馬がひしめき合うような、まさに実力拮抗の世代と言えた。3冠最終戦の菊花賞にはイスラボニータが天皇賞参戦のため回避していた以外は、概ねクラシック戦線を盛り上げた優駿が集っていた。

実力拮抗の菊花賞。
実はこのレースにはタイトルホルダーの各馬に匹敵するほどファンの期待を受けた「夏の上り馬」がいた。

トーホウジャッカルである。
神戸新聞杯で3着に入線してギリギリで菊花賞出走にこぎつけた同馬は、ここまで波乱万丈な競走馬人生を送ってきた。
2011年3月11日、東日本大震災当日に誕生したこの馬は、2歳時に患った腸炎の影響でデビューが大きく遅れてしまっていたという。本来の馬体重よりも大きく減ってしまい、「デビューできるかどうか」という瀬戸際まで立たされてしまったこともあった。
ようやくデビューできたのは3歳の5月──ワンアンドオンリーが世代の頂点に立った、その前日のことであった。

デビュー戦、2戦目と苦しいレースとなりなかなか勝ちあがることが出来なかったが、3戦目に初勝利を挙げてから才能が開花。
3戦2勝2着1回という好成績でトライアル神戸新聞杯に挑み、見事菊花賞の切符を手にしたのだ。

「史上最速の菊花賞制覇」という偉業に挑む同馬にファンは期待を抱き、レース当日の単勝オッズはダービー馬ワンアンドオンリー、弥生賞馬トゥザワールドに続く3番人気に支持された。

秋晴れの京都競馬場で、レーススタート。
1週目の向こう正面での先行争いはすんなりとサングラスがハナに立ち、続いてシャンパーニュとマイネルフロストと、隊列はかたまっていった。
トーホウジャッカルはこれまでの中団でのレースではなく、先行5番手でのレースを選択。
さらに人気のトゥザワールドやワンアンドオンリーも先団に付け、やや中団が広がる形でレースが進んだ。

前半1000mは60秒9というペースで流れ、各馬が2週目に突入。
迎えた2度目の坂越えで2番手のシャンパーニュがスパートをかけ、一気に先頭に立った。
3番手はトーホウジャッカルとワンアンドオンリーらが並び横一線、そのまま直線に向いた。

直線に入るとコーナーワークで先頭に立ったマイネルフロストを交わしてトーホウジャッカルが先頭に立つ。伸び脚としては内の方がよく、最内を通ってサウンズオブアースが迫ってくる。ワンアンドオンリーは伸び脚が鈍く、変わってゴールドアクターが3番手浮上も前2頭までは迫れない。

神戸新聞杯組2頭の競り合いは、外から伸びた金色の馬体が競り勝った。

1着、トーホウジャッカル。

史上最速での菊花賞制覇を成し遂げた。
タイムは3分1秒0という破格のレコードタイム。
まさにレースにおいても「史上最速の馬」となったのだ。

ゴールを過ぎた瞬間、トーホウジャッカル鞍上酒井学騎手はスタンドに向けて大きく手を突き上げた。
鞍上にとっても会心の勝利だったのだろう。
デビューからわずか4か月余り、さらに多くの試練を乗り越えての菊花賞制覇は京都競馬場での名シーンの一つだと言っても過言ではない。

京都競馬場の歴史──そして菊花賞の歴史に名を残すため、今年も優駿が淀の坂越えに挑む。

写真:Horse Memorys

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