[遊駿+]歓喜までの道程 吉原寛人2021年白山大賞典からJBCクラシックまで

その騎手がデビューした2001年にJBCは始まった。
すごいの始まったなあ、と思っていた。
7年後の08年、園田競馬場でのJBCクラシックに初めてその騎手はJBCで騎乗した。
勝ち馬から5秒3離れたシンガリ負けだった。
13年後の21年、地元金沢競馬場でのJBCクラシックにその騎手は騎乗した。
史上初の地方所属馬によるJBCクラシック制覇を成し遂げた。
5年後の26年、金沢では3度目となる、JBC3競走が開催される。
その騎手、吉原寛人は金沢のダートに姿を見せるだろう。
3回目のJBC金沢を前に、あの時を吉原騎手に振り返ってもらった。


2021年11月3日の歓喜の瞬間までの道程は、同年9月22日から始まる。
この日はJBCクラシックと同じ金沢ダート2100mで行われる白山大賞典が行われた。
吉原騎手はここで初めて、ミューチャリーとコンビを組んだ。

「(管理する)矢野先生からJBCクラシックを目標に、連続騎乗を依頼していただいたんですよ」

大目標はJBCクラシック。同じ舞台のここでミューチャリーの背中を感じ、その走りから本番での参考を得ようとしていた。
しかし、当日はスタンドの水路が溢れるほどの激しい雨となり、馬場は不良。

「水が浮くくらいの馬場で、ちょっと参考にしづらいレースでしたね」

白山大賞典のミューチャリーと吉原騎手

田んぼのような馬場をメイショウカズサがすいすいとハイペースを刻んで逃げ、そのまま3馬身差をつけて優勝。
ミューチャリーは中団の前でレースを進めて、最後に2番手を追走していたスワーヴアラミスをクビ差競り落として2着となった。

「結構前につけて、どれくらい限界まで前に出した上で上がりを使えるかを意識して乗っていました」

ミューチャリーといえば後方から差す競馬で勝利を積み重ねてきたが、直線の短い金沢で勝ち切るには、ある程度前につけてレースを進めないといけない。
吉原騎手はミューチャリーにどこまでそれができるのかを試し、ミューチャリーはそれに応える走りを見せた。前哨戦としては収穫のあったレースとなった。

そして、JBC当日。吉原騎手は3競走すべてに騎乗することとなった。

まずはレディスクラシック。
金沢の女帝で、地方現役最強との呼び声も高く、誰よりも思い入れのあるハクサンアマゾネスで挑んだ「出てすぐに挟まれて、競馬にならなかった。(道中)少し前に進出して、そこで終わっちゃった。走る気をなくした」

一発勝負の怖さ。爪痕も残せずに悔しい11着(12頭中)となった。
実はこのアクシデントがなければ「2コーナー立ち上がりから内を狙って、4コーナー手前まではまだ真ん中辺りでレースを進める」という、やりたい作戦もあった。

それも幻と終わり、悔しさを抱えながら次のスプリントに騎乗。
2年前に南部杯を制した思い入れの強いパートナー、サンライズノヴァで挑んだ。
近走は掲示板にも届かない走りが続いていたが、そんなに力が落ちた感じを受けてはいなかったと言う。

ゲートの上手くないノヴァは出遅れて最後方。しかし、それも想定内ということで慌てず騒がず。
2コーナーの立ち上がりから内を狙って、4コーナー手前まではまだ真ん中辺りでレースを進め、直線に賭ける競馬。

そう。前のレースでハクサンアマゾネスでできずに悔しかった幻の作戦だった。
これでサンライズノヴァは最後の直線で弾け、勝ち馬に3馬身差をつけられるも2着に入った。

「上手くいった感じだったので、気分もよくなってクラシックにイケイケで向かえました」

思い入れのある馬で、思い入れのある馬でできなかった作戦を用いて好結果を残す。
まさに気分上々で大一番クラシックへと挑んだ。

レースが始まる前は「壁一個後ろ(中団より後ろ)になるかな」とイメージをしていたが、ゲートが開くと思わぬ展開が待っていた。

「内枠の人気馬が出遅れて、テーオーケインズも出が悪くて。JRA勢で人気を集めていた馬たちの多くが、位置取りが悪い感じになりました」

2番人気のオメガパフュームが出遅れて後方、1番人気のテーオーケインズも出が悪くて中団での競馬になった。
そこで吉原騎手はミューチャリーですかさず位置を取ろうと3番手につける。
白山大賞典で手応えを得た前の方での競馬を選択した。

「ペースをコントロールして、僕が仕掛けないとレースが動かないぞという位置が取れて、レースを支配できました」

3番手を早めに確保したミューチャリーがレースを進める。人気を集めたJRA勢は後方や馬群の中で動き出すタイミングをうかがう形となり、競馬が動かない展開となってレースが進む。
そして、最後のコーナー、後続を出し抜いて先頭に立つ。

「上がり36秒の脚を(ミューチャリーが)使えるのはわかっていたので」

満を持して先頭に立って押し切りを図るが、相手は中央の一流馬。オメガパフュームが迫ってくる。

「(オメガパフュームが)上がり35.4秒を使ってきて。36秒を切った上がりを金沢ではなかなか出せないから、ちょっとびっくりしました。とはいえ直線が1ハロンとわずかしかないので、これで負けたらって感じでしたね。それでもじりじりと来ていたので、またびっくりしましたよ。でも、何とかなると思っていました」

ミューチャリーは吉原騎手の鞭に応えて半馬身凌ぎ切ってゴール。
地方所属馬初のJBCクラシック制覇となった。

「(あの騎乗は)僕の集大成。ピークですよ」

そう言って吉原騎手は笑う。
上手くいく時は何もかもが上手くいく。まさにそんなレースだった。

白山大賞典での試行錯誤、レディスクラシックの悔しさ、スプリントで得た手応え。そのすべてがつながった先に、地方所属馬初のJBCクラシック制覇があった。
今年、金沢の舞台でどのようなレースが繰り広げられるか。
そして、吉原寛人騎手はどんな作戦で、どんな馬を駆けさせるのか。
今年の11月3日、金沢競馬場でその答えが見られる。

今年はどんなドラマが繰り広げられるか

吉原騎手によるJBC3競走の距離別解説も掲載の「遊駿+」JBC号はこちら(PDFファイル)。

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