[大狩部牧場代表・下村優樹ブログ]感謝を伝えるイベント「離乳」~大狩部だより(第8回)~

みなさん、こんにちは。

先週、ノーザンファームのミックスセールとJS繁殖馬セールが行われました。やっぱり繁殖牝馬も高かったですね。JSのセールでは昨年に続いて1億を超える馬が出ました。テイエムスパーダは税込み1億3200万円。8月に引退したばかりの重賞勝ち馬ですから、高くなるのは予想しておりましたが、それにしても高かったです(笑)。私は今年、競りで買う予定はありませんでしたが、もう一人の下村があらわれて、つい手を挙げてしまうのではないかとドキドキでした(笑)。おおよそ来年のラインアップは頭に描いており、「Life is…」にいるレオキー以外は今のところは新たに繁殖牝馬を導入する予定はございません。そうはいっても、急遽、引退して牧場に戻ってくるかもしれないので、対応できるような体制だけは整えております。

牧場ではまだ移動できていない1歳馬も残っていますが、いよいよ当歳馬の離乳がはじまっております。1歳上のリードホース「ゴルピーチ」の話は弊社の番記者さんでもある勝木さんが先日、取材してくださったので、詳しくはウマフリさんにアップされる記事をご覧いただくとして、今回は離乳についての私なりの考えをお話したいと思います。

ゴルピーチに寄り添われて新たな生活へ第一歩を踏み出した当歳馬たち

毎年、離乳の模様はYouTubeに動画をあげているので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。といってもですね、私、すべての離乳を動画で撮影しているわけではありません。私がセールにいっている間に離乳することもあります。先日の第2グループの離乳は私がノーザンファームミックスセールにいる間に行われました。これはですね、私が現場の職員に離乳のタイミングを任せているからなんです。そして、離乳は計画して実行されるわけではありません。だいたいの時期は決まっていても、離乳は当日、色々な条件がそろっていないと行われないからです。

離乳の条件はまず天候です。雨の日や雨あがりで放牧地がぬかるんでいるときは、チビちゃんたちがケガをする危険があるので、基本、見送ります。突然、ママと離されてパニックになるチビちゃんもいますし、そこは慎重になります。それからママとチビちゃんたちの心身の状態を見極めます。それもグループごとに行うので、全員の心身は入念に確認します。どこか痛いところがある馬が1頭でもいるとできません。それから心の状態も大切です。いつも活力ある子が熱もないけど、ちょっと元気がないとかですね。気持ちが少しでも沈んでいるタイミングで離乳してしまうと、かなりストレスがかかってしまうので、グループ全体の離乳を見送ることがあります。私が大狩部牧場に来てからはそういった子はいませんが、人間と一緒でちょっと今日は気分が乗らないなってことはあります。そのタイミングで、離乳というビッグイベントをやってしまうと、人間との関係が悪化してしまうこともありますので、見極めていかないといけません。それから群れの精神的な支柱になるボスの精神状態にも気を配ります。第1グループだとモーチャンゴウですね。離乳後のママの集団を落ち着かせるためにもボスの状態はポイントです。こういった目に見えない部分も含めて、私は職員にすべて任せています。事前に話し合ってはいますが、今日、離乳できるかできないかは職員が朝、収牧するときにママとチビちゃんの様子をよく観察して決めています。間違えることは一切ありません。それだけ普段から一頭一頭に丁寧に接していて、ちょっとした仕草も見逃さないようにしているからです。そこは弊社の職員を誇りに思う点でもあります。

弊社の離乳は10月に入ってからですが、もう少し早くすることも可能です。だいたい生後3か月ぐらいから可能といわれています。暑くなってくると、チビちゃんたちもほぼママのおっぱいを飲みません。生ぬるい母乳よりウォーターカップの冷たい水を飲んだ方が気持ちいいですから。寂しくてママのおっぱいを吸うときはありますが、それは精神的な部分のことで、生育上、離乳しても問題はありません。とはいえ、離乳はチビちゃんにとってもビッグイベントなので、暑いときは負担もあるので避けたいところですね。具体的な時期は1歳馬の育成牧場への移動など、馬房や放牧地のやりくりも関係していて、なかなかスムーズに進められないこともあります。生産頭数がかなり増えていて、馬運車の手配や育成牧場の馬房数など大変な面も最近は増えてきましたね。

YouTubeの視聴者さんにはママとチビちゃんが離される場面は、ちょっと酷に見えているかもしれません。ですが、私たち生産者は違います。離乳は感謝する場面なんですね。ママには「ここまで立派に育ててくれてありがとう」と伝えますし、チビちゃんたちには「無事に成長してくれてありがとう」と伝えます。生産牧場にはイベントが3つあります。それが誕生、離乳、巣立ちです。これらイベントのたびに私たちは馬たちに感謝を伝えます。なかには無事に誕生できないことも、離乳までに命を落としてしまうこともあります。離乳してから1歳の巣立ちまでの間も同じです。元気に生まれて、ママが育ててくれて、私たちが新しいオーナー様や預かってくれる調教師様を見つける。生産馬の馬生でみると、わずか1年半という短い時間ですが、すべてが一本の線になってつながっていかないと、サラブレッドは競馬場で走れません。その1年半のなかで、離乳は非常に大きなイベントです。慎重に運ぶのはもちろん、ここを無事に通過してくれたことへの感謝は決して忘れません。そう考えると、離乳の風景も違って見えてくるんじゃないでしょうか。離乳を迎えるのは当たり前ではありません。

秋の牧場はチビちゃんたちの嘶き声があちこちから聞こえてきますが、それも長くは続きません。今年の第1、第2グループはゴルピーチのおかげもあって、数時間で鳴くのを止めましたね。ここからはママに頼らず、自分たちで生きていくことをみんな、いち早く理解しました。離乳することで、グンと性格的に強くなる馬もいます。シンギュラチャーム2026は離乳後に非常に男らしくなりました。たぶん、ママとずっと一緒にいたら、こういった変化はなかったんじゃないでしょうか。

離乳で印象的なのはママたちの立ち振る舞いですね。何度も経験しているママは当歳たちがこれから暮らす馬房に自分の子どもと一緒に連れてこられた時点でもう別れのときをわかっています。離されてからも後ろを決して振り返りません。チビちゃんが鳴くので、答えるように鳴くこともありますが、小さな声で「さよなら」と伝えるだけです。我が子のために寂しい気持ちをぐっと我慢しているようにみえます。ママの偉大さを感じる瞬間です。もちろん、初産のママは経験したことがないので、いきなりチビちゃんと離されて、興奮することもありますが、周りのママたちがあまりに落ち着いているので、そこで悟って我に返ることが多いです。「あれ、みんな、平気なの?ああ、そういうことなの」って感じでしょうか。

半年以上にわたる子育て、ごくろうさま。そしてありがとう!

離乳してママたちだけで放牧地に戻さると、遠くから聞こえるチビちゃんたちの嘶きに小さく鳴いて反応することもありますが、どこかさっぱりした感じもあるんですね。「はい、私の仕事は終わりです」みたいな。子育てから解放されてほっとしたという気持ちもあるんでしょうか。青草ビュッフェを楽しんで、自由を謳歌しているようです(笑)。高校生のお子さんがいる勝木さんは子どもが手を離れて、少しずつ自分の時間をつくれるようになるらしく、「わかるわー」とおっしゃっていました。成長して活発に動くチビちゃんにいつまでもそばにいられても、気疲れてしまうのかもしれませんね。

また来年の春に出産を控えるママたちにはしばらく自由な時間を楽しんでほしいですね

今回は離乳についてお話してきました。次回はもう11月ですね。北海道は早くも朝、ひと桁台前半まで気温が下がっておりまして、もうすぐ冬です。馬産地はまだ雪が降ることはないと思いますが、日に日に寒さが増してきました。みなさんも体調管理、お気をつけください。次回は来年出産するママたちを紹介したいと思います。

みなさん、素晴らしい一日をお過ごしください。

それでは、また。

(取材・構成/勝木 淳)

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