[大狩部牧場代表・下村優樹ブログ]未来をつなぐ繁殖牝馬「シーイズアピーチとアッシュケーク」~大狩部だより(第6回)~

みなさん、こんにちは。

10月です。といっても、これを書いているのは9月なんですけど、ブログが更新されるのは10月なので、「10月です」と書き出してみました。いよいよ弊社も1歳馬たちがほぼ育成牧場への移動が完了しまして、これから離乳シーズンに入ります。ついこの間までセプテンバーセールがあって、その間に育成牧場への移動があって、で、離乳ですから、なかなか落ち着くことがありません。生産牧場は馬たちが暮らしているので、365日稼働していますし、私も忙しいとは思ったことはございません!

シーイズアピーチ2025。私の心の中では“ゴルピーチ”と呼んでおります

今年の離乳で、YouTubeをご覧になっている方が注目されているのはおそらく、シーイズアピーチ2025のリードホースではないかなと思っております。私、個人的に心のなかでゴルピーチ(父ゴールドシップ)って呼んでいますが、名前はですね、この先、別の形で募集することを考えております。リードホースというと、フェノーメノやメジロドーベルが有名で、すごく年の離れたベテランが離乳した当歳馬を引っ張るという形が一般的ですが、ゴルピーチは1歳年上です。1歳馬は秋には競走馬になるために育成牧場へ行きますから、本来、生産牧場にはいない存在です。ちょっと競走馬になるには心が優しすぎるところがあり、その道は断念しましたが、そんな性格だからきっと別の生きる道がありますし、それを見つけてあげたいと考えて、まずはリードホースをやらせてみようと考えました。ほかにも彼にしかできない仕事は必ずあります。彼には周囲を幸せな気分にさせるような不思議な雰囲気を感じます。もしかすると、大狩部牧場にやってきた神様の使いかもしれませんね。

YouTubeをご覧になっていないウマフリ読者の方にゴルピーチのことを説明しないといけませんね。母シーイズアピーチの当時のオーナー様のご厚意で、YouTubeで交配相手を募集するところからスタートしました。そこでゴールドシップが選ばれまして、ゴルピーチが誕生しました。ですからYouTubeの視聴者のみなさんにとって生まれる前から携わっている馬だったわけです。

生まれてすぐ、非常にゴールドシップらしい柔軟な動きを見せていまして、私も期待しておりましたが、生後ちょうど1ヶ月で右後肢脛骨を骨折しまして、手術を行いました。スクリュー11本とプレートを埋め込むという大手術でした。約3カ月間、馬房で安静に過ごしまして、そろそろ放牧地に戻れるかなというタイミングで、今度は疝痛を発症しました。小腸重積でした。生存率が非常に低い症例でしたが、開腹手術を行い、こちらも無事に成功しました。この間も馬房での生活が続いたため、親子で放牧地に戻ってきたのは9月下旬になってしまいました。ゴルピーチも生きるために一生懸命頑張ってくれましたが、母のシーイズアピーチも本当に頑張りました。離乳前のチビちゃんの手術には母も連れ添っていきますし、そのあとも馬房で一緒に過ごすので、約4カ月間、ずーっと放牧してなかったんですね。当然、ママも運動できませんし、青草ビュッフェも堪能できません。外に出ないことはストレスにつながります。ですが、ママは脚がむくんだりすることは一切なく、問題なく馬房でゴルピーチの子育てをしてくれました。本当に頭が下がります。

「Life is…」で暮らすシーイズアピーチ。削蹄中もマイペースに食事していました。

シーイズアピーチは今でこそ、「Life is…」ですごいピッカピカで、そんな大変な子育てを経験したのを忘れたかのようにのんびり過ごしていますが、本場で子育てしていたころは結構気性が激しい繁殖でした。暴れたりはしませんが、自分の子どもをしっかり守るような面を見せて、人間が近づくと子どもの間に入って、軽く耳を絞って威厳を見せるような感じでしたね。我が子をどうぞ触ってくださいっていうタイプではなく、しっかり子どもを近くにいさせることが多かったですね。今考えると、そういった子育てをするから、ずっと馬房にいても体調が変わらなかったんじゃないかと私は考えています。今はもう、本当に心から「Life is…」での24時間放牧を満喫しています。レディと仲良くグルーミングしていますし、全身から幸せオーラがあふれ出ていますね(笑)。

オンラインサロンの会員様からご支援いただき、かなり大きくなりました(笑)

もう一頭、アッシュケークについてもお話したいと思います。この馬も以前とはまるっきり変わりました。アッシュは現役時代、中央で新馬勝ちをしまして、能力的にはオープンクラスレベルだと評価されておりましたが、重度の屈腱炎で早期に引退してしまいました。当時を知る職員が言うには、ゾウの肢のように腫れていて、繁殖入りできるかどうかというほどひどかったそうです。先代がそこをなんとか治療など工夫をして繁殖牝馬の道を切り拓いてくれました。

私が大狩部牧場の代表に就任する前から牧場におりまして、職員の話では今のハナブショウぐらい性格的にキツかったそうです。アッシュトレイルを身ごもっていたときも気持ちの強さを見せていましたが、出産後ぐらいから穏やかになっていったんです。先日、サマーセールに上場した1歳(父パレスマリス)を出産したあたりからは、子どもより自分の体を触ってほしいってリクエストするぐらいになり、最近はもう私にベッタリです。朝、馬房に挨拶にいくと、チビちゃんはルーサンを食べたりしますけど、アッシュは私にベッタリ。私がおでこを彼女の鼻先につけてもまったく動じません。とんでもなく変わりましたね。年齢もありますが、与えている食事の影響もあるのではないかと考えています。食事にこれまで以上にお金をかけて、ちゃんと栄養価のあるものを食べさせると、馬は心が落ち着くんです。明らかにお腹は満たされますし、本能的に体に必要なものを食べていると感じます。人間も同じですよね。食は体に影響しますし、良質な食事は心を豊かにしてくれます。

以前はハナブショウ並みに気が強かったアッシュケーク

アッシュはなかなか妊娠させるのが難しい馬でもありました。以前は2年に1回ぐらいしか受胎できませんでした。出産した年はほぼ絶対といっていいほど受胎しませんでしたね。不妊の原因はわからないといわれていて、私のなかではこういう理由じゃないかなって思っていて、そこにアプローチしてみました。おそらく世界ではじめて試した例なんじゃないでしょうか。論文で理論上は成立するみたいなことを生体で実際にやってみたんですね。ひとつの賭けでしたが、結果、一回で受胎したんです。アッシュは3年連続で出産してくれました。こういうことは獣医師がやりたくても、生産者はあまり協力してくれません。お金と労力がかかりますし、結果、受胎出産によってお金になるかもわかりません。だったら、受胎しやすい繁殖牝馬を連れてきた方がビジネス的にも合理的ですから。ですが、アッシュのように不妊に対してアプローチし、成功すれば、未来の受胎しにくい繁殖牝馬の命を救うことにつながっていきます。私は自分が獣医師でもありますし、昔、生産牧場から不妊の繁殖牝馬を譲ってもらって、治療して出産させて命をつないだという経験もあるので、若い獣医師にはどんどんトライしてほしいと思っています。私がよく若い獣医師に「自分で繁殖牝馬を1頭所有してみな」とアドバイスするのは、そういった自分の経験があるからです。所有してみないとわからないこと、所有するからこそできることがあります。もちろん、譲り受ける代金も預託料もかかりますが、私のように間違いなく将来にいきてきます。

アッシュは京成杯を勝ったクリスタルブラックを出してくれましたし、アシェットやヒメワカバは牧場に繁殖牝馬として戻ってきています。大狩部牧場の太い幹のような存在です。高齢になりましたし、来年、交配するか引退するかはその時の状態をみて考えますが、最近のアッシュの姿を見ていると、まだやれるって言っているような気もします。来年どうするかはよく見極めないといけませんが、あと一頭、二頭は子どもをとってあげたいなという気持ちもありますね。アッシュがすっかり甘えん坊になったのを見て、もしかしてハナブショウも将来、こうなるんじゃないかなと想像します。5年、10年先の未来かもしれませんが、ハナさんと私がじゃれあっている動画を配信したら、きっとYouTubeをずっとご覧になっている方はびっくりされるでしょうね(笑)。

みなさん、素晴らしい一日をお過ごしください。

それでは、また。

(取材・構成/勝木 淳)

あなたにおすすめの記事