
■最速の血と新人騎手が挑んだスプリント重賞
競馬とは、父から子、そして孫へ競走馬としての血と、思いが脈々と受け継がれたドラマティックな側面をギャンブルと共に併せ持つものである──と、私は思う。今回取り上げるテイエムスパーダも、偉大な祖先の血を受け継ぐ競走馬として産声を上げた。
父のレッドスパーダは芝の1600mを5勝、さらにその父のタイキシャトルは歴史に残るマイラーだった。だが同時に、レッドスパーダは芝1400mを2勝、タイキシャトルはスプリンターズSを制覇と、両馬とも1200m~1400m戦でも多数の活躍を見せていた馬でもある。そのスピードを遺憾なく受け継いだか、テイエムスパーダはデビューしてから1200mを主戦場とした牝馬であった。

コツコツと勝利と経験を積み上げ、3歳の夏、古馬を相手に2勝クラスの1200m戦・皆生特別を勝利。祖先から受け継いだ才能は、スプリンターとして開花しようとしていた。
春先は重賞で2戦連続二桁着順と苦しんでいたが、この勝ち方にテイエムスパーダを見てか、五十嵐忠男調教師は次走を格上挑戦となるCBC賞に狙いを定めた。しかしそこで問題が発生。テイエムスパーダのハンデが48kgと、陣営の想定以上に軽い斤量の為、乗れる騎手が限定されてしまったのだ。当時主戦だった国分恭介騎手は、48kgへの対応が困難であった。
五十嵐調教師が、この斤量に対応出来る騎手は居ないかと模索していた所、1人の新人騎手に目をつける。それが今村聖奈騎手だ。2022年にデビューし、わずか3ヶ月で既に16勝と、勢いのある女性ジョッキー。今村騎手はこの騎乗が重賞初挑戦となるが、五十嵐調教師はテイエムスパーダを彼女に託した。
CBC賞は夏の重賞と言う事もあり、今後のステップアップを狙う競走馬が集まっていたが、そのなかでもテイエムスパーダは2番人気と高評価を受ける。
テイエム冠と若手騎手という組み合わせに、和田竜二元騎手(現:調教師)を思い起こさせ、ロマンを感じたファンも居たかも知れない。また、48kgという斤量に惹かれたファンも居たであろう。様々な思いと思惑が詰まるなか、瞬き厳禁の電撃戦が幕を開けようとしていた。
■今村聖奈騎手の決断、応えたテイエムスパーダ
ゲートが開き、各馬一斉にスタート。まず外からはファストフォースとスティクスがハナを取りに行くが、内のテイエムスパーダがハナを譲らず先頭に立つ。軽斤量を生かし、気持ち良さそうにスイスイと逃げていく。
──その600m通過タイムは、31秒7!
若さゆえのオーバーペースなのか、それとも腹を括った上での逃げなのか。答えはコーナーを越えた、その先で知ることになる。
直線に向いても、超ハイペースで飛ばしていくテイエムスパーダの脚色は鈍る気配を見せない。そして200のハロン棒を通過した時点のタイムは53秒8。あのカルストンライトオが、新潟1000mの直線で残した日本記録、53秒7とコンマ1秒しか差がない。こんなペースで走っていれば、馬はバテて垂れるのが普通なのだが、この時のテイエムスパーダにそんな気配を微塵も見せない。2番手との差が縮まるどころか、突き放していく。
これは止まらない、もう追いつける者は居ない。
ファンも、実況も、声を張り上げる。そしてテイエムスパーダは、今村騎手の英断に応え、1着でゴール坂を駆け抜けた。
この凄まじい走り、どんなタイムが出るのだろうか? 現地のファンは、胸をときめかせたであろう。その激動の結果が、電光掲示板の表示された。
電光掲示板に燦々と輝く、レコードの赤い文字で1分5秒8という数字。
そのタイムはなんと、1200mのJRAレコードを塗り替えたものであった。48kgの軽斤量だったとはいえ、新人騎手がテイエムスパーダをエスコートし、日本記録を更新。まさに衝撃の時計であった。
■最速の夢は次世代へ
その後、テイエムスパーダは、衝撃に恥じぬ走りをと走り続ける。翌年の重賞セントウルSは55キロの斤量で勝利し、スプリンターとしての実力を証明して見せた。さらに2025年のアイビスサマーダッシュでは、クビ差の2着。まだ走れるぞというアピールをし、競馬場を沸かせる。そして7歳となった翌年、アイビスサマーダッシュを最後に引退。今後は繁殖馬として、後世に子を残す第二の馬生を送る事となった。彼女の子が、最速の足でターフを駆ける日が待ち遠しい。

そして今村騎手は、テイエムスパーダから離れたあとも、コツコツと力と経験を積み上げていく。そしてG1を狙える最愛のパートナー、オルフェーヴル産駒の牝馬ジュウリョクピエロと出会い、2026年のオークスを制覇。JRAの女性騎手として、初のクラシック制覇を達成したのだ。

CBC賞を共に制し、日本レコードを叩き出しながらも、ある時を境に違う道を歩み始めた両者だが、快速馬の血を受け継ぐ牝馬と新人の女性ジョッキーがCBC賞で掴み取った最速の称号は、間違いなく今後も語り継がれていくであろう。

写真:@pfmpspsm、INONECO、ぼん(@Jordan_Jorvon)、すずメ
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