「もしも」を語りたくなる馬 - 突如現れた新星、リアファルが勝利した神戸新聞杯を振り返る

秋の訪れを告げる神戸新聞杯

まだ夏の暑さが残るなかにも、空気の奥底に少しずつ秋の気配が漂う阪神競馬場。9月になると、英気を養っていた3歳の強豪たちがそこに集結する。神戸新聞杯は、そんな季節の変わり目に行われる菊花賞トライアルである。

2000mで行われていた時代から2400mに延長された現代まで、菊花賞への試金石であると同時に、天皇賞(秋)やジャパンC、有馬記念といった古馬戦線を見据える馬たちの力量も浮き彫りにする。ディープインパクトやオルフェーヴル、ゴールドシップといった春のクラシックホースが通過した道を振り返れば、このレースが持つ意味合いは一層はっきりする。

一方、すい星の如く現れる上がり馬の登場も非常に楽しみなレースである。例えば春のクラシックでは伏兵に留まっていたが、神戸新聞杯でサイレンススズカを差し切り、京都新聞杯(当時は秋開催)を挟んで菊花賞まで制したマチカネフクキタルがいい例だろう。

2015年に圧巻の逃げ切りで勝利したリアファルも、まさにすい星の如く現れた上がり馬だった。

転機となった芝路線への挑戦

リアファルは2012年生まれのゼンノロブロイ産駒で、母はクリソプレーズ。ノーザンファームの生産馬で、名門・音無秀孝厩舎に所属した。2歳上にはクリソライト、1歳上にはマリアライト、3歳下にはクリソベリルがいる超良血とのちにわかるわけだが、産まれた当時は3歳上のフォルトファーレンがデビューしていただけで、GⅠ級勝ち馬の出走はなし。その実力はまだ未知数だったろう。それでも総額5000万円のクラブ馬として募集されたことから、期待は確かにあったと思われる。

そんなリアファルの歩み出しはダートでスタートする。2歳の新馬(阪神ダ1800m)を勝ち上がると、3歳春は伏竜S2着、兵庫チャンピオンシップ2着、鳳雛S3着。数字だけ見ればダート路線の世代上位の一角だが、どこか「最後のもう一押し」が利かない──。そんな評価に落ち着きかけていたのが、春までのリアファルだった。

夏になると、陣営は芝へ矛先を向ける。突然の転向にも思えたが、のちの報道によるとソエが落ち着くのを待っての芝挑戦だったとのこと。父がゴールドアリュールである兄クリソベリルと異なり、ゼンノロブロイのリアファルにはもとから芝を走らせたかったようだ。

初めての芝レースに選んだのは7月のマレーシアC(中京・芝2000m・1600万下)。馬場状態は重、古馬との混合戦で斤量は54キロだったが、相手にはこの次走、小倉記念を勝つアズマシャトルら強敵が揃っていた。Cルメール騎手を鞍上にスタートすると真っ先にハナを切る。単騎逃げとなった前半5ハロンは64.3秒で重馬場とはいえスローペース。向こう正面では楽にリードを保っていたが、3~4コーナーで他馬が一気に押し寄せ、直線に向くと横一列に。しかしそこでルメール騎手が仕掛けるとリアファルのエンジンに火が灯り、再び加速する。結局仕掛けてきた馬たちが苦しくなり最後は1馬身3/4差でゴールイン。

単調な逃げ切りではなく、“味”のあるそのレースぶりは、この先を大いに期待させるものであった。と同時に、ダートの有力馬が芝でいきなり古馬を退けたというその事実で、次の挑戦がただならぬものになることは誰の目にも明らかだった。

突如現れた新星

2015年のクラシック戦線は、皐月賞と日本ダービーを圧倒的な内容で制したドゥラメンテが主役だった。しかし日本ダービー後に骨折が判明し、秋は全休。世代の絶対的存在が離脱したことで、菊花賞路線は一気に混沌とした。代わりに注目を集めたのが、皐月賞3着馬で神戸新聞杯の前週にセントライト記念を制したキタサンブラック、京都新聞杯を制しダービー2着馬のサトノラーゼン、そして最も有力視されていたのが共同通信杯でドゥラメンテに土をつけ、皐月賞2着・日本ダービー4着だったリアルスティールだった。そのリアルスティールが神戸新聞杯で始動。注目を集めるのは当然で、単勝オッズ1.9倍の圧倒的な支持を集めていた。

逆に、リアルスティール以外の春の実績馬は、京都新聞杯3着から白百合Sを制していたアルバートドックくらいで、他は上がり馬が集結するメンバー構成。2番人気には1000万クラスを圧勝してここに臨んできたマッサビエル、そして3番人気がリアファルとなった。鞍上には前走と同じくルメール騎手が跨っており、距離が長くなるこの舞台では非常に心強いパートナーが継続騎乗となった。

レースでは、リアファルがスタートから好発を決め、そのまま迷いなくハナを奪った。外から先行を主張する馬も見られたが、無理に絡む動きはなく、結果的にリアファルの単騎逃げがすんなりと成立する。序盤は鞍上も大きく手綱を動かさず、馬自身が落ち着いたリズムを刻むように向こう正面へと進んでいった。

前半1000mの通過は62.4秒で息の入るペース。最初はやや馬群がバラけていたが、スローの流れだったこともあり後方の馬が早めに馬群に取り付き比較的コンパクトな形に。2番手には武豊騎手騎乗のティルナノーグが続き、リアルスティールは中団の馬群のど真ん中でじっくり脚を溜める。アルバートドック、マッサビエルが後方に構えてレースが進んだ。

3コーナーに差しかかると後続から少しずつ動きが出始めたが、リアファルはその流れに合わせて自然にペースアップ。4コーナーをまわり、最後の直線に入るとリアファルが2馬身ほどのリードを保ちスパートを開始。内にいた先行馬たちはリアファルについていけなくなり、真ん中から伸びてきたのがバイガエシ。そしてさらに外からリアルスティールが差し脚を伸ばしてきた。

残り200mの地点で外からリアルスティールがバイガエシを交わし、リアファルをとらえに迫ってきていたが、リアファルの脚色は鈍らない。むしろ二枚腰を使うかのように加速を続け、ゴール前では2馬身の差をつけて堂々と押し切った。

勝ち時計は2分26秒7。逃げ切り勝ちというより、先頭でペースを完全にコントロールし、直線でもうひと伸びを見せる味のある競馬は相手が強くなっても変わることはなかった。芝に替わってわずか2戦目で重賞初制覇、それも菊花賞で最有力視された馬を相手に完勝である。単なる勢いではなく確かな実力で掴んだ勝利だった。

菊花賞、そして想像してしまう「もしも」

神戸新聞杯を圧巻の逃げ切りで制したリアファルは、その勢いを持って菊花賞へと向かった。世代の絶対的存在であったドゥラメンテは不在。皐月賞3着馬でセントライト記念を制したキタサンブラック、そして春の実績馬リアルスティールと並んで、リアファルは堂々の主役の一頭と目され、1番人気に支持された。

菊花賞では、スピリッツミノルがハナに立った中、リアファルはすかさずその後ろに取り付く好位の位置取りを選んだ。序盤は無理をせず、先行争いには加わるものの過熱は避ける展開。向正面、3 コーナーを通過したあたりでは、リアルスティール、キタサンブラックがリアファルを射程圏内に捉える位置を確保し、直線入り口でリアファルはスピリッツミノルを捕らえて先頭に立とうとしていた。だが最後の直線、スピリッツミノルを交わして直線半ばで先頭に立ったものの、ゴール前で脚色が鈍り、内の狭いところから抜けてきたキタサンブラックや、外から追ってきたリアルスティールに交わされて3着。

とはいえ、力のある走りは見せた。そして、逃げずとも好位番手から競馬を組み立てたという点で、「逃げ馬ではないリアファル」の能力の幅広さを印象づけた一戦だった。

だが、ここがリアファルの最後の輝きとなってしまう。続く有馬記念では故障を発症し最下位。以後は長期休養を余儀なくされ、復帰後もかつての輝きを取り戻すことはできなかった。重賞勝利は神戸新聞杯の一度きり。彼の戦績を振り返ると、あの秋の短い期間にすべての光が凝縮されていたことがわかる。

だからこそ、つい想像してしまう。もしもあのまま順調に走り続けていたら、古馬になってからも一線級で活躍していたのではないかと。リアファルは、ファンがついたらればを口にしてしまう存在であり続けている。

神戸新聞杯は、菊花賞へのトライアルである以上に、その後の競馬人生を方向づける分岐点でもある。ディープインパクトやオルフェーヴルのように大きな栄光へとつながることもあれば、リアファルのように短い時間だけ強烈に光って消えてしまうこともある。だが、その一瞬の輝きこそ、競馬の記憶を豊かにするものだ。

2015年の神戸新聞杯を振り返れば、確かにリアファルは「突如現れた新星」だった。そして今も、あの力強い逃げ切りのシーンを思い出すたびに、「もしも」と想像してしまう。神戸新聞杯は春の強い実績馬が横綱相撲をみせることがほとんどだ。しかし何年かに一度、リアファルのような存在を生み出すこともある。今年もまた、リアファルのような新星が現れるかもしれない。

@pfmpspsm、Horse Memorys、はねひろ(@hanehiro_deep)

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