「中山ならなんでも来い!!」。マツリダゴッホのオールカマー3連覇を振り返る。

9月に入ると、いよいよ秋競馬が本格化。
秋華賞トライアルの紫苑ステークスやローズステークス、菊花賞トライアルの神戸新聞杯、セントライト記念、スプリンターズステークスの前哨戦にあたるセントウルステークスなど、秋の活躍を占うレースが続々と開催されます。

そして古馬の秋初戦として多くの名馬が駆け抜けたレースが「産経賞オールカマー」。
中山競馬場2200m戦のG2戦(86~94年まではG3、グレード制導入以前はオープン競走として実施)には、天皇賞(秋)、エリザベス女王杯、ジャパンカップ、そして有馬記念といった古馬G1競走を目指す馬たちが集結しています。

このレースの過去の勝馬の中には数多くのG1ホースがいますが、その中でも異彩を放つのがマツリダゴッホ。

2007年~2009年までのこのレース3連覇を達成し、馬券内に入った13レースの内10レースが中山競馬場という生粋の中山巧者でした。

今回は、マツリダゴッホが駆け抜けたオールカマー3勝の蹄跡と、その後の秋競馬での走りを振り返ります。

2007年 有馬記念へ勢いをつける大きな1勝。

2007年、4歳のマツリダゴッホは札幌記念で7着に敗れた後、オールカマーに初挑戦します。

前走で敗れているものの、4歳春シーズンで既にアメリカジョッキークラブカップ1着、日経賞3着という実績があったマツリダゴッホは、1番人気に支持されてレースに挑みます。2番人気はこの年の皐月賞2着馬サンツェッペリン、3番人気はこちらも中山巧者のネヴァブションでした。

スタートは各馬五分に出ると、出鞭が入ったスズノマーチ、サンツェッペリンが番手、その外から江田照男騎手が積極策でバトルブレーヴと共に逃げの手に出ます。マツリダゴッホは赤い帽子の6番枠からちょうど中段で1コーナーを迎えます。

軽快に飛ばすバトルブレーヴ。3馬身ほど後方にスズノマーチ、更に2~3馬身空いてサンツェッペリンが追いかける縦長の隊列で向こう正面に入り、マツリダゴッホは前にダイイチアトムとチェストウィングを置いて、蛯名騎手との折り合い良くマイペースで進みます。ネヴァブションはマツリダゴッホの直後に控え、3コーナーに入ります。

勝負が動き始めたのは残り600m過ぎから。逃げていたバトルブレーヴ、2番手のスズノマーチを外からシルクネクサスが交わした刹那、更にその外からダイイチアトムと併せるようにマツリダゴッホが捲ります。この動きに気付いたファンの歓声に迎えられて、残り400mでシルクネクサスとの追い比べに。

シルクネクサスが動いて進路を探した分だけマツリダゴッホが余力で勝り、手が動く北村友一騎手に比べて蛯名騎手の手綱は直線まで持ったまま。
精一杯粘り込みを狙うシルクネクサスを半馬身差差し切ったところがゴールで、3着には更に2馬身半差をつけての勝利をあげたのでした。なお、3着馬はエリモハリアー、この年に函館記念3連覇を成し遂げた馬の最後の重賞好走がこのレースでした。

オッズほどの差はないと見られていた下馬評をよそに、マツリダゴッホは一緒に上がってきたダイイチアトムを直線で突き放し、シルクネクサスにも追いついて見せる強い競馬を披露。

この勢いで参戦した天皇賞(秋)では大外枠から出負けしてしまい、終始外を回らざるを得ないレースで直線に脚を残せず15着惨敗。しかし、この結果こそが人気の盲点になったか、次走の有馬記念では対照的に内の2番枠から好発進を決めると、横山典弘騎手と逃げを打ったチョウサン、牝馬2冠とエリザベス女王杯を勝ったダイワスカーレットの後ろ3番手で先行策に出ます。

差しの競馬を展開するウオッカやメイショウサムソンが外を回り、ダイワスカーレットがチョウサンを交わしたところで空いた内を「するすると」マツリダゴッホが抜け出します。直線では内埒一杯に経済コースを突き進み、追いすがるダイワスカーレットを凌いで見事に有馬記念を制覇しました。

マツリダゴッホが通ったコースをなぞって前に出たダイワメジャーが、ダイワスカーレットに次ぐ3着。良血の兄妹をもってしても、オールカマー同様に4コーナーから余裕をもって走ったマツリダゴッホには敵いませんでした。

2008年 59キロ最重量にも負けず。

2008年、G1ホースとなったマツリダゴッホは前年と同じく札幌記念からのローテーションでオールカマーに参戦。
札幌記念でも2着と好走していたため、斤量59キロを背負っての挑戦となりました。

戦前には逃げると思われていた国際G1馬シャドウゲイトが控えると、キングストレイルが短距離戦で培ったスピードを武器に飛び出します。マツリダゴッホは2番手でキングストレイルを追いかけて1コーナーに入っていきました。

キングストレイルの鞍上は、横山典弘騎手。向こう正面では既にペースをスローに落として先頭をキープし、その1馬身ほど後ろにマツリダゴッホが続きます。

3コーナー手前で横山典弘騎手の策に嵌るまいと先行勢が早めに仕掛ける展開に。まずはブラックアルタイルがキングストレイルに並びかけていき、さらにエアシェイディとミストラルクルーズも続きます。マツリダゴッホの後方にいたシャドウゲイトが一気に先頭を奪ってコーナーの攻防に移りますが、キングストレイルもスローペースに落とした分の余力が残っていたので、2頭が後続を引き離そうとします。

この2頭を外からただ1頭、射程圏内にとらえたのは、マツリダゴッホでした。

残り200mまで馬なりで前に追いつくと、そこから仕掛けてキングストレイルを交わし去り快勝。2馬身という着差以上の完勝で、オールカマー連覇を達成しました。

キングストレイルはあと一歩及ばず2着、しかしこのレースまで2年半ほど短距離を中心に走っていた馬とは思えないようなスタミナを感じさせる力走でした。早めに仕掛けた先行馬たちがバテたため、後方から差しに徹したトウショウシロッコが3着、後に天皇賞馬になるマイネルキッツが4着という結果になっています。

早めに動いた馬たちに動じず、4コーナーからの勝負にかける走り。まさに、昨年のこのレースや有馬記念と同様の勝ちパターンと言えます。これはコーナー4つの中山競馬場だからこその走りに見えました。

この後マツリダゴッホはジャパンカップに挑戦し、やはり逃げを打つ鞍上・横山典弘騎手とネヴァブションを追いかけて先行策でレースを進めると、残り200mで先頭に立ちますが、内から差し返してきたウオッカ、その後ろにいたスクリーンヒーローが外からマツリダゴッホを交わし、後方から追い込んできたディープスカイと4頭の直線勝負でゴールへ。ウオッカに惜しくもアタマ差届かずの4着でしたが、とても惜しい内容でした。

そしてマツリダゴッホは、連覇をかけて有馬記念に出走。再びダイワスカーレットとの勝負になりますが、前年とは異なりダイワスカーレットの逃げを邪魔する馬の姿はありませんでした。直線でダイワスカーレットをとらえるべく、ジャパンカップで敗れたスクリーンヒーローと並んで後方待機を選択します。

残り800m付近でスクリーンヒーローと共に進出を開始しますが、ダイワスカーレットの勢いは止まらず、先に仕掛けた馬から脱落する結果に。スクリーンヒーローこそ最後まで粘って5着でしたが、マツリダゴッホは12着と惨敗……。最後方で待機していたアドマイヤモナークが2着、中団から差し脚を伸ばしたエアシェイディが3着、末脚勝負のドリームジャーニーが4着だったことからも、直線での末脚比べになった様相が伺えます。
仕掛けが遅ければ差し切れず、仕掛けが早ければ潰されてしまう──緋色の女王の前に完敗という結果で、マツリダゴッホの2008年シーズンは幕を閉じました。

2009年 最後の勝利は奇策と共に。

2009年、前年のオールカマーから勝利のないマツリダゴッホは、この年の宝塚記念を勝ったドリームジャーニー、夏の上り馬シンゲンに次いで3番人気に評価を落としていました。札幌記念からのローテーションは前2年と同じですが、鞍上は横山典弘騎手にかわり、3連覇へ向けて走り出します。

大外15番枠で最後にゲートに収まったマツリダゴッホ。揃ったスタートで駆けだすと、横山典弘騎手がすかさず手を動かして、マツリダゴッホを先頭まで誘導します。

これまで幾度となく逃げる横山典弘騎手を追いかけたマツリダゴッホですが、今度は横山典弘騎手と共に逃げる作戦で1コーナーに入ったのでした。

向こう正面、2番手には前年の宝塚記念勝利から1年以上ぶりの参戦エイシンデピュティ、3番手にトーセンキャプテン、その後ろにマンハッタンスカイとスノークラッシャー、人気のドリームジャーニーとシンゲンは並んで8〜9番手で末脚を溜めます。

向こう正面に入って以降、12.4、12.3、12.3 、12.2 、12.1、12.0秒と淡々とラップを刻んで逃げるマツリダゴッホ。2連覇中の難敵ををとらえようと、各馬3コーナーから押し上げてきますが、横山典弘騎手の手綱は残り400mでも動かずにいました。そして直線に向いたところで追い出されると、先行馬を2馬身以上引き離してラストスパート。

先行各馬が伸びあぐねる中、ドリームジャーニーとシンゲンが33秒台の末脚を繰り出して馬群から抜け出しますが、時すでに遅し。マツリダゴッホはその2馬身先でオールカマー3連覇を果たしました。

1000m通過が61秒のスローペースに落とし、最後の600mを34.1秒でまとめたことで、ドリームジャーニーやシンゲンが33秒台前半を出さなければ差し切れないという絶妙なペース配分でした。

その後、蛯名騎手に手綱が戻ったマツリダゴッホは天皇賞(秋)に進みますが、この年は究極の末脚勝負。勝ったカンパニーと3着ウオッカが繰り出した末脚は32.9秒、オールカマーで争ったドリームジャーニーが33.4秒、シンゲンも33.7秒を繰り出し、マツリダゴッホは15着に敗れます。

国枝調教師から次走で引退することが発表され、挑んだラストラン・有馬記念。ダービー2着馬リーチザクラウンがハイペースで飛ばし、追いかける中段馬群の真ん中あたりで機を伺うマツリダゴッホ、前には皐月賞馬アンライバルド、牝馬2冠馬ブエナビスタ、菊花賞馬スリーロールスと09年クラシックを盛り上げた馬たちの姿がありました。

展開が動いたのは残り1000m標識を過ぎたあたりでスリーロールスが故障し、競走中止。ここから各馬が先頭目指して一気に追い上げる中、マツリダゴッホは外に持ち出して中山のコーナーで前の各馬を捲り切り、直線では先頭に立ちます──が、最初に動いてしまった分、終いの脚は残っていませんでした。

マツリダゴッホを再度交わして先頭に立つブエナビスタを、最後方からドリームジャーニーが差し切ってゴール。3着エアシェイディも最後方からの追込でした。

結果は7着とはいえ、マツリダゴッホより終始前にいて上位に食い込んだのは2着のブエナビスタのみ。
ブエナビスタはその後の活躍で最終的にG1競走を6勝した名牝ですから、最後の捲りはやはり中山での強さを見せた結果と言えるでしょう。

マツリダゴッホはコーナリングの巧さで勝負を仕掛け、時には最内から抜け出し、時には大外から捲って、数多くの馬たちと激闘を繰り広げました。東京競馬場での末脚比べでは分が悪かった印象ですが、それでも2008年ジャパンカップの4着がありますから、末脚比べにならない展開であれば力強く駆け抜ける馬でした。

3連覇のその後 種牡馬として、生産牧場の名馬として

引退後に種牡馬となったマツリダゴッホ。2022年9月現在、G1を勝った産駒はいませんが、代表産駒ロードクエストは唸る末脚を武器に中央で重賞3勝、地方移籍後は盛岡芝重賞2勝を挙げています。母父としても函館2歳ステークスを勝ったナムラリコリスが出ました。

また、生産牧場である岡田スタッドの岡田牧雄さんが雑誌記事のインタビューにて、「マツリダゴッホ以上だと思っている馬がいる」とデビュー前のタイトルホルダーを評したことで、再び話題に挙がりました。
タイトルホルダーは阪神競馬場開催の菊花賞、天皇賞(春)、宝塚記念でG1を3勝していますが、マツリダゴッホのように中山競馬場でも強く、ホープフルステークス4着、弥生賞1着、皐月賞2着、有馬記念5着、日経賞1着(出走順)と、逃げを打てずに崩れたセントライト記念以外は掲示板を確保しています。

記録にも記憶にも残るマツリダゴッホのオールカマー三連覇は今もなお語り継がれ、中山競馬場で好走する馬が現れるたびにその名が思い出されることでしょう。

写真:Horse Memorys、あかひろ、トポ

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「クラシックの無念はグランプリで」。有馬記念を制した3頭の「シルク」馬たち。

年末の大一番、有馬記念。
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※シルクジャスティスの章は、当時の馬齢表記に合わせて執筆いたしました。

1997年 シルクジャスティス 唸る末脚を信じて掴んだ栄光

97年の有馬記念を制覇したシルクジャスティス。
グランプリでの戴冠は4歳にしてデビューから16戦目でのことでした。

芝の1200m新馬戦、その後未勝利戦でダートの1200m戦に2度挑戦するも後方のまま勝利には程遠い位置で3歳シーズンを終え、4歳初戦のダート1800mの未勝利戦から上り最速の末脚を繰り出すようになります。
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8戦目で芝に戻ったシルクジャスティスはクラシックを目指して毎日杯に挑戦、久々の芝のレースでも追い込みを見せますが3着に終わり、次走の若草ステークスで芝での初勝利を挙げました。
なお、若草ステークスは皐月賞前日に行われたため、シルクジャスティスは皐月賞には参戦していません。

ダービーに向けた「東上最終便」京都4歳特別を勝って挑んだ大舞台、日本ダービー。
シルクジャスティスは連勝が評価されて3番人気で東京競馬場に向かいます。

迎えた本番では皐月賞を逃げ切ったにも関わらずフロック視されていたサニーブライアンが逃げを打って先行馬が軒並み崩れ、シルクジャスティス、メジロブライト、エリモダンディーの3頭が後方一気の末脚で迫りますが、あと1馬身差追いつくことは叶いませんでした。

夏休みをとって秋初戦のG2神戸新聞杯でも後方からレースを進めたシルクジャスティスですが、このレースではシルクジャスティスを更に上回る極上の末脚を繰り出したマチカネフクキタルと初対戦し8着敗戦。
次走に古馬混合のG2京都大賞典を選択すると、ここでは京都巧者ダンスパートナーとの末脚勝負に勝り菊花賞へ駒を進めます。

迎えた菊花賞ではシルクジャスティスが1番人気、日本ダービーと京都新聞杯で連続3着のメジロブライトが2番人気、神戸新聞杯、京都新聞杯を連勝して菊花賞に挑むマチカネフクキタルが3番人気でした。
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レースではシルクジャスティス、メジロブライトの両馬が後方から末脚を繰り出しますが、先行して一気に抜け出したマチカネフクキタルが上り3ハロン33.9秒を繰り出して優勝。
今となっては上り33秒台はよく見る数字になりましたが、当時としては破格のタイムですし、このタイムをシルクジャスティスよりも前で繰り出したのですから、追えども影も踏ませてもらえませんでした。

次に挑んだのはジャパンカップ、日本馬ではバブルガムフェロー、エアグルーヴに次いで4番人気でレースに挑み、ダービー同様に後方から一気の末脚を繰り出しますが、ここでは先行したエアグルーヴ、バブルガムフェローをその後ろで追いかけたピルサドスキーが上り最速タイの末脚で差し切り。
もう一頭の上り最速馬こそシルクジャスティスでしたが、勝ったピルサドスキーから0.4秒差の5着でした。

そしてシルクジャスティスは4歳の最終戦として有馬記念に挑むべく、冬の中山競馬場に向かいました。

2018年 ブラストワンピース 500キロ超級のド迫力走を見よ!!

ブラストワンピースを語る上で欠かせないのは超ド迫力の走り。
デビュー時に既に500キロ以上あった馬体重は、しっかり身の詰まった馬体によるもので、走る姿はパワフルという言葉がとても似合う馬でした。
一方で、その巨体を支える脚が丈夫では無かったため、レース間隔を空けて馬体をケアしながらG1に挑み続けた競走馬生活でした。

2歳11月の新馬戦を勝って続く1勝クラスのゆりかもめ賞も快勝、東京2400m戦を2戦目で経験したのはダービーへの布石と言えるでしょう。
3戦目でシルクジャスティスもかつて走ったG3毎日杯に挑戦。
ここでは最内枠で進めると、直線で逃げていたウォーターパルフェが空けた最内に突っ込み、後方から追ってきたギベオン、インディチャンプを相手にせず勝利。3戦3勝無敗のまま、ダービーへ挑戦します。

迎えたダービーでは皐月賞を回避したものの弥生賞で後続を寄せ付けなかったダノンプレミアムが1番人気、ブラストワンピースは3連勝を評価されて2番人気、皐月賞を勝ったエポカドーロ(4番人気)よりも支持を集めて初の大一番へ。
逃げるエポカドーロが淡々とペースを刻む中、ブラストワンピースは先行5番手あたりから機を伺い、直線で仕掛けようとしますが、外には末脚を繰り出そうとするワグネリアン、前では粘り込みを狙うコズミックフォース、そして内には一杯になったジェネラーレウーノと最内から進路を切り替えたダノンプレミアムがいたので、残り300m付近で前の各馬から離されてしまいます。
それでも最後は前の馬群に追いつき、悲願の勝利を果たしたワグネリアンから0.2秒差の5着に健闘しました。

ブラストワンピースは菊花賞を目指すのですが、そのローテーションはこれまでにないルートで、夏競馬の新潟記念からの挑戦でした。
3着以内に入れば優先出走権が与えられるトライアル競争とは異なり、勝たなければいけないレースに挑みましたが、3歳馬かつG3を1勝のブラストワンピースは54キロのハンデで出走可能だったので、勝算があっての挑戦と言えるでしょう。
実際、新潟記念での正攻法である大外一気の末脚で後方から上り最速で差し切って楽勝、菊花賞まで英気を養います。

迎えた菊花賞は皐月賞馬エポカドーロが前哨戦で敗れ、ダービー馬ワグネリアンはジャパンカップへ向かった(その後年内休養にローテーション変更)ため、

2022年 イクイノックス 「天才少年」の未来は明るい。

2022年の有馬記念を制覇したイクイノックスは上記の2頭と異なり、キャリア僅か6戦目での有馬記念制覇でした。また、3歳にして天皇賞(秋)を制覇し、有馬記念が2度目のG1制覇だった点も先述の2頭とは異なります。

2歳8月の新潟新馬戦を勝つと、クラシックの登竜門東京スポーツ杯2歳ステークスまで約3か月間隔をとります。
東京スポーツ杯2歳ステークスでは最内枠から先行馬を行かせてほぼ最後方まで下げると、直線外に進路を切り替えてから、雄大なストライドで繰り出した上りは3ハロン32.9秒、2歳馬がデビュー2戦目で繰り出すレベルの末脚ではなく、この時点でクラシック制覇を期待される1頭として評されます。

この2戦で2歳シーズンを終えると、3歳初戦で大きな決断をします。
それは「トライアル、3歳重賞を使わずに皐月賞へ直行」するという異例のローテーションでした。
イクイノックスはキタサンブラック産駒らしい見栄えのするグッドルッキングホースですが、出走後の回復に時間がかかる体質のため、トライアルを使って本番で全力を出し切れないことを心配されたのでした。

ノーザンファーム天栄で調整されて挑んだ皐月賞ではキャリア3戦目ながら素質を評価されて3番人気でレースを迎えました。1番人気は朝日杯を制覇したドウデュース、2番人気は新馬戦、共同通信杯を連勝してこちらもキャリア3戦目のダノンベルーガ、ホープフルステークスを勝利したキラーアビリティよりも上位評価されました。

大外枠からスタートを切ったイクイノックス、向こう正面までに前に行きたい仕草を見せ、ルメール騎手がなだめながらも先行5番手あたりでレースを進めます。
直線を向いて最内枠から荒れたインを狙ったダノンベルーガ、外を回ったイクイノックスが逃げていたアスクビクターモアを捉えますが、イクイノックスが1馬身ほど抜け出した刹那、更に外から同厩舎のジオグリフが差し切ってゴール。
イクイノックスは終始外を回りながらも馬場のきれいなところを走って2着確保、「僚友」と共にダービーへ向かいます。

しかし、迎えた日本ダービーでイクイノックスが引いた枠は再びの大外枠。
1枠1番が有利とされる東京2400mの大一番で再び試練が待ち受けていました。
しかし、そこはルメール騎手が上手くスタートから1コーナーまでにインコースへエスコート。
皐月賞でも先行したデシエルトやアスクビクターモアらがペースを引っ張り、今回はジオグリフやドウデュースよりも後ろ、そして最内で折り合って、ロスなく走って直線勝負に挑みました。

迎えた直線、ジオグリフとダノンベルーガが先に仕掛けていて、ジオグリフの外を狙いに行きますが、一足先に武豊騎手と同様ドウデュースのコンビがいて抜け出せず、更にその外へ進路を切り替えてスパート。
先行策から粘るアスクビクターモアをダノンベルーガが再び内から、そしてイクイノックスが外から捉えますが、一瞬先に追い出されていたドウデュースの末脚にクビ差届かず、ここも惜しい2着で春2戦を終えます。

そして秋は菊花賞ではなく、天皇賞(秋)への直行を宣言。
ドウデュースはオーナーの悲願である凱旋門賞へ、アスクビクターモアは菊花賞に挑みましたが、ダービーで末脚を競い合ったダノンベルーガ、そして僚友ジオグリフが距離適性や体質の理由から天皇賞(秋)へ直行。
3歳の強豪3頭が古馬に挑む構図で3度目のG1、再びの府中の直線勝負に挑みました。

天皇賞(秋)ではドバイターフを制した韋駄天パンサラッサが超ハイペースで飛ばし、スタート直後は前にいたジャックドールやシャフリヤールについていきたい様子を見せたイクイノックスでしたが、ルメール騎手がジオグリフの後ろに入れて馬群の後ろで末脚を溜めます。

後続のことなどお構いなしに大逃げで駆けるパンサラッサを中段あたりで追走、前にジオグリフ、後ろにダノンベルーガの隊列で直線を迎えますが、パンサラッサの勢いが止まる気配がなく、残り200mでもまだ後続との差は詰まりません。

前で追いかけていたジオグリフが一杯になる中、最内を抜け出したダノンベルーガと、大外からイクイノックスが残り300mあたりから全力で追いかけ、一完歩ごとに確実に差を詰めます。
そしてゴール寸前、わずかに1馬身差し切ってイクイノックスが悲願のG1初制覇を達成、ダノンベルーガもパンサラッサをクビ差まで追い詰めて、3歳世代の強さをアピールした結果になりました。
この時のイクイノックスの末脚が32.7秒、ダノンベルーガも32.8秒を繰り出していますので、両者とも持てる能力はフルに発揮した結果と言えるでしょう。

ここで共に戦ったダノンベルーガはジャパンカップ、ジオグリフは香港カップへ向かい、次走が注目されたイクイノックスは、日本一の称号をかけて有馬記念への挑戦を表明。
皐月賞以来の中山競馬場、しかも相手は春G1連勝のタイトルホルダーやジャパンカップを勝ったヴェラアズール、アスクビクターモアが勝った菊花賞で2着3着に善戦したボルドグフーシュ&ジャスティンパレス、エリザベス女王杯勝馬ジェラルディーナ&アカイイト、そして昨年の覇者エフフォーリアといった豪華メンバーが揃いました。
抽選で9番枠を当てたイクイノックス、やはりスタートが良いので前の馬たちについていこうとしますが、ここもルメール騎手が我慢させて中段外を追走します。

タイトルホルダーが逃げて作ったペースは61秒台、ハイペースで後続のスタミナを削るこの馬らしくない入りで向こう正面に向かいます。
そして3コーナー入り口では既にブレークアップやディープボンドがタイトルホルダーに勝負を挑む仕掛けに入っていて、先行馬を凌ぐためにタイトルホルダーも早めにスパートします。
この瞬間を見逃さなかったのがイクイノックスとルメール騎手、追いまくるディープボンドの外から馬なりで進出すると、後ろから追い込んできたボルドグフーシュも置き去りにして一気に抜け出します。
ばてた先行集団を捲ったボルドグフーシュや外差しを選んだジェラルディーナを引き離し、2馬身半差の快勝で有馬記念制覇、2つ目のG1タイトルを手にしました。

有馬記念の勝因について、成長と共に負荷をかけたトレーニングが出来るようになったことで成長しパワーアップしたことが挙げられますが、ルメール騎手のインタビューでは「キタサンブラックの産駒ですから、成長はこれから」とのこと。
先述のシルクジャスティスやブラストワンピースは有馬記念以降G1タイトルに届かずに終わってしまいましたが、レース数を極限まで絞り、僅か6戦でチャンピオンになったイクイノックスは今後どのような活躍を見せるでしょうか。

春はドバイか、あるいは初の関西遠征で大阪杯に挑むのか、いずれにしても「天才少年」が描く成長曲線に期待を膨らませる1年になりそうですね。

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