[ライバル達の名勝負]「世界一の馬」を破った日本ダービー・イクイノックスVSドウデュース

ライバルがいてこそ名馬は存在する。
プロスポーツ界はもちろん、経済界や芸能界、どんな世界においても「ライバル」とは貴重な存在となる。
競馬界でも同様で、「ライバル」という存在があってこそ、自身の能力も高まってくる。「あの馬に勝ちたい」「あの馬には負けたくない」という厩舎関係者の思いが自然と馬に伝わり、馬の闘志を燃やしてくれる。これぞ、競馬の究極のおもしろさである。そして、ライバルという存在がいてこそ、競馬という競技は奥深く、美しく、果てしなく広がっていくのだろう。名馬を名馬とする「ライバル」の貴重性ハイグレードなレースであるGⅠ戦において「どちらが勝つのか」、「どの馬が勝つのか」という予想ほどおもしろいものはない。こうしたファン心理をくすぐるのも「ライバル同士の熱き戦い」である。

昭和から平成、そして令和における「競馬界のライバル」を写真とともに46例掲載した『ウマ列伝 ライバル達の名勝負』。タマモクロスとオグリキャップ、メジロマックイーンとトウカイテイオー、近年ではイクイノックスとリバティアイランドなど、ファンをワクワクドキドキさせた名馬たちの熱き戦いを振り返る一冊となっている。

今回は、その『ウマ列伝ライバル達の名勝負』から、競馬ライター福嶌弘さんの振り返った『イクイノックスVSドウデュース』をご紹介する。


差し馬2頭の壮絶なマッチレース

ドウデュースとイクイノックス……令和の競馬史における最初のライバル関係とも言える2頭を比べると、同じノーザンファームで生を受けたにもかかわらず、全く違う個性を持っている。

サラブレッドらしい鹿毛で500キロを優に超える馬体を誇るドウデュースはダービー馬を2頭輩出している西の名門・友道康夫厩舎に預けられ、朝日杯FSを制して2歳王者となると、クラシック制覇を見据えて3歳緒戦は弥生賞から始動。昔ながらの王道なローテーションを進んだ。

写真:フォトチェスナット

一方、美浦の新鋭ともいえる木村哲也調教師が管理するイクイノックスは一戦必勝といわんばかりのローテーション。まるで彫刻のような青鹿毛の馬体は東京スポーツ杯2歳Sを素晴らしい末脚で制すると、暮れの2歳GⅠ戦線どころか、3歳クラシックに向けてのトライアル重賞にすら出走しなかった。レースごとのダメージが激しいという当時のイクイノックスの体質を考慮してのレース選択だが、余分なレースは使わないという臨戦過程はここ数年のトレンドにも合致する。

写真:フォトチェスナット

昔ながらの臨戦過程を踏むドウデュースと近年のトレンドを体現したイクイノックス。個性が際立つ2頭が初めて顔を合わせた皐月賞。2歳王者に輝き、秋の凱旋門賞にも登録を済ませたドウデュースが1番人気に支持された。中147日というローテーションのイクイノックスは3番人気。

2頭の一騎討ちになるかと思われたが、結果はイクイノックスのステイブルメイトであるジオグリフが乾坤一擲の激走を見せて勝利。外から脚を伸ばしたイクイノックスは1馬身届かず2着、後方からのレースを強いられたドウデュースは上がり3ハロン33秒8という末脚を見せるも3着に終わり、イクイノックスに先着を許した。

ともに敗れた2頭だが、ダービーが行われる東京競馬場は末脚を武器にする2頭にとって条件が好転する。最後の直線は2頭の舞台となった。

皐月賞とは異なり、先に動いたのはドウデュース。武豊の右鞭に応えて加速して先頭に立つと、すぐ後ろにいたイクイノックスが外からルメールとともに伸びてくる。2頭の競り合いがゴールまで続いた結果、ドウデュースがクビ差先着して第89代ダービー馬となった。

「痺れるような手ごたえだった」と武豊が相棒を称えれば「伸び返す形になってしまった」とルメールは肩を落とした。

写真:フォトチェスナット

ダービー後、ドウデュースは凱旋門賞を目指して世界へと羽ばたき、国内に残ったイクイノックスは秋にはGⅠを連勝。4歳になるとドバイシーマクラシック、宝塚記念を勝利してロンジンワールドベストホースランキングでは1位にランクイン。押しも押されもせぬ日本最強馬となった。

4歳の天皇賞(秋)で2頭は再び顔を揃えた。令和最初のライバル対決といっても過言ではないこの一戦は大きな注目を集めた。結果はイクイノックスが1分55秒2というレコードタイムで駆け抜けた一方、武豊の負傷で戸崎圭太へと乗り替わることになったドウデュースは伸びを欠いて7着。続くジャパンCでも4度目の対決を迎えたが、ここでもイクイノックスが突き抜け、ドウデュースは4着にとどまった。

写真:フォトチェスナット

イクイノックスの引退直後、ドウデュースは有馬記念を制し世代レベルの高さを見せつけた。「ハイレベルのマッチレース」は、今もなおファンの目に焼き付いている。

写真:フォトチェスナット

(文・福嶌弘、写真・フォトチェスナット)


昭和から平成、そして令和における「競馬界のライバル」を写真とともに46例掲載した一冊、『ウマ列伝 ライバル達の名勝負』。

製品名ウマ列伝 ライバル達の名勝負
価格定価:1,250円(税別)
ISBNISBN-10 ‏ : ‎ 4867303348、ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4867303344
判型ムック本(21 x 0.9 x 29.7 cm)
ページ数112ページ
出版社英和出版社
目次

Part I 2強対決
オグリキャップVSタマモクロス
トウカイテイオーVSメジロマックイーン
ミホノブルボンVSライスシャワー
ナリタブライアンVSマヤノトップガン
テイエムオペラオーVSメイショウドトウ
アグネスフライトVSエアシャカール
ネオユニヴァースVSゼンノロブロイ
グラスワンダーVSスペシャルウィーク
キズナVSエピファネイア
ドゥラメンテVSキタサンブラック
イクイノックスVSドウデュース
コパノリッキーVSホッコータルマエ
オジュウチョウサンVSアップトゥデイト

Part II 3強対決
オグリキャップVSスーパークリークVSイナリワン
アイネスフウジンVSメジロライアンVSハクタイセイ
ビワハヤヒデVSウイニングチケットVSナリタタイシン
スペシャルウィークVSキングヘイローVSセイウンスカイ
サイレンススズカVSエルコンドルパサーVSグラスワンダー
サクラローレルVSマヤノトップガンVSマーべラスサンデー
テイエムオペラオーVSアドマイヤベガVSナリタトップロード
ロジユニヴァースVSリーチザクラウンVSアンライバルド
アグネスタキオンVSクロフネVSジャングルポケット
エフフォーリアVSコントレイルVSグランアレグリア

Part III 三冠馬対決
ミスターシービーVSシンボリルドルフ
オルフェーヴルVSジェンティルドンナ
アーモンドアイVSコントレイルVSデアリングタクト

Part IV 牡牝対決
エアグルーヴVSバブルガムフェロー
フラワーパークVSエイシンワシントン
ロードカナロアVSカレンチャン
アーモンドアイVSダノンプレミアム
ジェンティルドンナVSゴールドシップ
イクイノックスVSリバティアイランド

Part V 牝馬2強対決
メジロドーベルVSキョウエイマーチ
メジロドーベルVSエアグルーヴ
スティルインラブVSアドマイヤグルーヴ
ウオッカVSダイワスカーレット
アパパネVSブエナビスタ
ハープスターVSレッドリヴェール
ジェンティルドンナVSヴィルシーナ
ブエナビスタVSレッドディザイア
アーモンドアイVSグランアレグリア
ソダシVSサトノレイナス

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